ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「どうやら、あちらは僕たちを敵と認めたようだね」
「そのようじゃの」
小人族の勇者が頷き、ドワーフの大戦士が大戦斧を握り直す。双方、少なくともその外見からは怯えも動揺も感じられない。
「ううっ、どうせなら見逃して欲しかったっすよー・・・別働隊の指揮をアキじゃなくて俺に任せてくれればなー・・・」
一方でぼそぼそと情けないことを呟くのが【
現在ロキ・ファミリアの別働隊を指揮している同僚を羨む発言が小物度を倍増させているが、いつものことなので誰も気にしない。
「アイズ! お前は一人で戦っているのではない! それを忘れるなよ!」
「・・・わかってる」
リヴェリアに答えを返しつつも、アイズは黒竜の瞳から目をそらさない。
黒い炎、白銀の剣、怒りに燃える黄金の瞳。
ティオネ、ティオナ、ベート、レフィーヤ、アルガナ、バーチェ、そしてアリシアたちサポーター。
それらの面々も黒き魔獣と黒炎の復讐姫を畏怖の目で、あるいは不安の目で見ている。
「来るぞ、よけろ!」
フィンの号令を皮切りに、戦いは始まった。
黒竜の右前足が城壁の上を薙ぎ払った。
矢を射るためのでこぼこの矢狭間壁が10mはある指に削り取られる。
ロキ・ファミリアとカーリー・ファミリアの精鋭達は一斉に跳躍して、あるいは後方の一段低い城壁に飛び降りてそれをかわす。
本来は射手や術者を上下に並べ、迷宮から溢れてきた怪物に火力を集中させて撃破するためのすり鉢状の城壁だが、それが今は逆の意味で役に立っている。
「【
「アイズ?!」
いや、黒炎をまとったアイズのみが踏み込んだ。
黒く尾を引く流星が城壁を蹴って黒竜に肉薄する。
薙ぎ払った右前足の肘のあたりを蹴り、狙うは黒竜の喉元。
だが黒竜もそのような攻撃をいきなり通すほど鈍くはない。
巨体とはいえその反応速度は、むしろLv.6にすぎないアイズを遥かに上回る。
黒竜からすれば文字通り豆粒のような敵を、無造作に左前足で払う。空中にあるアイズはこれをかわせない。
辛うじて体をひねり、手のひらに「着地」するような形で衝撃を緩和する。
そのまま払われた勢いに逆らわず、アイズははじき飛ばされた。
「アイズさん!」
後方の城壁に退避していたレフィーヤが思わず詠唱を中断し、悲鳴を上げる。
「っ!」
風がアイズの下方に向かって吹き出した。黒炎もそれに伴って下方に長く尾を引く。
風の強烈な推進力によってアイズの体が上昇し、吹き飛ばされた側――ロキファミリア側から左方向、離れた城壁の上に着地する。
何人かが思わず安堵のため息を漏らした。
「よし、アイズはそのまま跳躍して攻撃を続けろ! 飛び道具を持っているものは目を狙って撃て! その他のものは攻撃してきたところをカウンター!」
「「「「「了解!」」」」」
「リヴェリアは適宜支援、レフィーヤは"
「うむ」
「りょ、了解しました!」
全員が頷く。
つまるところフィンが取ったのは、アイズを囮にしての時間稼ぎである。
城壁外の黒竜には基本前衛の攻撃が届かず、踏み込んで攻撃できるのは風で短時間なら飛行できるアイズだけ。
加えて、黒竜の敵意がアイズに集中しているのも何とはなしにフィンは察している。
(正直現時点ではこれしかない、か。まさか勝てない戦いを強要されるとはね)
ちらりと【バベル】のほうを見る。そこでは現在、あの大男が神々を集めて何やら儀式を行っているはずだった。
「これで勝ちに繋がるものじゃなかったら承知しないぞ、イサミ・クラネル」
「何か言ったかよ、フィン?」
「何でもないさ――ロキ・ファミリア、攻撃開始!」
「「「「「おおっ!」」」」」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』
それは戦いと言うには余りにも圧倒的すぎた。
相手は生物ではない。最早天災だ。竜巻や地震を相手に戦うようなものだ。
体高100mを越すというのは、30階建ての超高層ビルに手足が生えてこちらを殴りつけてきているにも等しい、そういうサイズだ。
城壁が砕け、石材が飛び散る。それは散弾のように前衛達を襲い、下の城壁にいる後衛やサポーターにも大量の石の雨を降らせる。
一抱えほどもある石が、矢のような速度で、無数に飛んでくる。
上から前足を叩き付ければ、十数mに渡って城壁が崩壊する。
横に薙ぎ払えばやはり足場である城壁を数十mに渡って削りとる。
ただ前足を振り回しているだけでそれ。
人間の太刀打ち出来ない、絶対的な力。
幸いなのは黒竜の攻撃が徹底してアイズ狙いで、城壁に攻撃が着弾することは少ないと言うことだ。アイズもそれを理解しているから城壁への着地は最小限にとどめてはいるが、それでも限界はある。
跳躍したアイズを、人間の感覚で言えば2、3cmしかない文字通り羽虫のような相手を、巨大な手で正確に、鋭く迎撃し続ける黒竜。
空中を飛ぶ蠅を箸でつまんでみせたという、極東の伝説の剣豪の如き絶技。
アイズからすれば音速の数倍で迫る五階建てのビルに何度も叩き付けられているようなもの。いかに受け身を取ってはいても、いかにLv.6かつ【エアリアル】の保護があろうとも、蓄積するダメージは馬鹿にはできない。
叩き付けられる前足による前衛の、飛散する瓦礫による後衛への
都市最強魔道士であるリヴェリアをして、防御と回復への専念を強要するだけの攻撃力。
しかもブレスを使わず、アイズが囮になって主たる攻撃目標を一身に引き受けていてのこの結果だ。
「のわーっ!?」
「ラウル!」
弓を撃っていたラウルが黒竜の爪の先に引っかけられた。
必死ながらどこか間延びした悲鳴を上げて吹っ飛ばされ、二段下の城壁に落ちて100mほど先までゴロゴロ転がってから止まる。
モゾモゾと動いているのを見て、アリシアが胸をなで下ろした。
「あぐっ!」
一段下の城壁では飛来した大きめの瓦礫が、リヴェリアの防護魔法を貫いてレフィーヤのこめかみを打った。
回復魔法の詠唱を続けながらリヴェリアがそちらに視線を向ける。こめかみから頬に血を一筋垂らしながらも、エルフの娘は気丈に頷く。
その瞳に闘志は途切れない。待機していた魔法もしっかり保持し続けている。
ふっとリヴェリアが笑みを浮かべた。そのまま、よし、と言う風に頷いてリヴェリアは再び視線を大魔獣と、その周囲を跳ね回る黒い流れ星――アイズに戻す。
アイズが黒竜に向けて跳躍する。
黒竜が手でそれを払う。
アイズが城壁に着地する。
黒竜がそこを叩きつぶし、あるいは薙ぎ払う。
回避したアイズが再び跳躍する。
その繰り返しだ。
時折ガレスの大戦斧やベートの魔力をまとった蹴り、アマゾネス姉妹の攻撃がその前足を傷つけるが、いずれも骨を断つには至らない。
指一本を半ばまで、骨までえぐる程度のダメージは与えられても、次の攻撃のチャンスまでには、ほぼ修復されてしまう。
「ちっ、こっちにもっと殴りかかってこいってんだ。アイズにばかり色目を使いやがって」
「舐められてるみたいでむかつくわよね、正直」
普段は反目するベートとティオネが、今ばかりは一致して舌打ちする。
「くそ、毒を流し込んでやれれば・・・」
「馬鹿メ、相手が悪イ」
歯ぎしりするカーリー・ファミリアの団長姉妹の妹、バーチェの右腕は白煙を上げ、ひどく焼けただれていた。
毒を体内に流し込もうと傷口に腕を突き込んだ瞬間、強酸性の血に右腕を肘まで溶かされたのだ。
Lv.6の耐久力と、即座にエリクサーを振りかけたアルガナの対応がなければ、骨までまとめて溶け落ちていただろう。
アルガナがもう一本、エリクサーをバーチェの右腕に注ぐ。
かつての姉なら決してしないだろう行為に、妹は僅かに眼を細めた。
「・・・」
「ガレス? どしたの、腰が痛いの?」
「馬鹿言え、まだそんなトシじゃないわい!」
無言になったガレスの顔を、ティオナが覗き込む。
それを一喝して、ガレスは再び不壊属性の大戦斧を握りしめた。
(無茶はするなよ、アイズ・・・)
黒竜の前足が降ってこない限り、前衛の彼らに出来ることはない。
今の黒竜にとって、彼らは敵ですらないのだ。
その目に映るのは黒き炎を上げる少女のみ。
彼らの周囲は既に城壁としての体を成していない。ひどいでこぼこの、ひょっとしたら山の中腹ではないかと思うほどに崩れた瓦礫の上。
そこに踏ん張りつつ、彼らは黒い流星と巨大な黒竜との"空中戦"を見上げている。
ちなみにサンシャイン60が237m、新宿のビル群が100~200mくらいだそうです。
というか、大体「シン・ゴジラ(118m)くらい」で話が済みますねw
黒竜の腕が音速の数倍というのは、人間でプロボクサーのパンチが時速30キロ、黒竜のサイズが人間の60倍ほどなので時速1800キロ。
音速が大体時速1100~1200キロほどなので大体マッハ1.5という勘定です。
そこに魔石の力を加えれば二倍か三倍くらいにはなるだろうと。