ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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21-15 白き翼、白き勇者

「・・・おい、クソウサギ! いつまでアイズを汚い手で触ってやがんだ!」

「は、はい・・・っ!?」

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――!』

 

 目つきが先ほど以上に凶悪になったベートが吼えるのと、今更ながらに状況を理解して真っ赤になったベルがあたふたするのと、下方から凶暴な咆哮が響くのがほぼ同時。

 ベルの【英雄の一文字剣(アルゴ・ストラッシュ)】によって深手を負い、落ちていった黒竜が態勢を立て直した事を知らせる非常警報。

 

「と、とにかく下ろします!」

「――うん」

 

 真顔に戻り――それでも顔は赤いままだが――アイズを抱いたまま城壁の上に降下するベル。

 アイズも真顔に戻りはしたもののどこか茫洋と、そして残念そうに頷いた。

 

 降りた途端フィンを含むロキ・ファミリアの前衛達が、わっとその周囲に集まる。

 ティオネとティオナが同時にアイズに抱きつき、腕を組んだベートが鼻を鳴らす。

 下の城壁、と言ってもあちこち崩壊して高度差はもうあってないようなものだが、とにかくそこにいたリヴェリアをはじめとする後衛達も安堵の溜息をつく。エルフの少女だけは複雑な顔をしていたが。

 

「―――」

「・・・」

 

 そんなアイズをベルが見つめる。アイズもベルを見つめ返す。

 アイズが何かを言おうとしたとき、笑顔のガレスがベルの腰を思いっきり叩き、彼を軽くつんのめらせた。

 

「ワハハハハ、大したもんじゃ小僧! アイズをよく助けてくれた、礼を言うぞ!」

「あ、いえそんな・・・」

 

 戸惑っているところに槍を片手にフィンも歩み寄る。

 

「僕からも礼を言いたいところだけど、その時間は無さそうだね。やれるかい?」

「・・・はいっ!」

 

 右手の【神のナイフ】を強く握り直し、ベルが頷く。頼もしげに笑みを浮かべ、フィンも頷き返した。

 視線をアイズに向ける。

 

「アイズもやれるね?」

「ん」

 

 言葉少なに頷いたアイズが一歩踏み出す。

 その前にはベルの顔。

 

「え、ええっ?!」

「・・・」

 

 再び赤くなる少年に構わず、剣を左手に持って、右手で少年の左手を握る。

 

「ファッ!?」

「え!?」

 

 頭から湯気を噴く少年とざわつく周囲は気にも止めず、少女はただ一言呟いた。

 

「【白き風よ(テンペスト)】」

「!」

 

 アイズの体から風が吹き上がる。

 さっきまで体を覆っていた黒い炎ではなく、白い炎を巻き込んだ、白い風。

 それは衣のように、翼のようにアイズを包み込む。

 

 スキル【復讐姫(アヴェンジャー)】。

 アイズの復讐心が産みだした、アイズの心を反映するスキル。

 復讐の黒い炎が産み出す究極の破壊の力にして、竜殺しの剣。

 

 だが今アイズは変わった。永遠に変わってしまった。

 白い少年がアイズの心に打ち込んだくさびが、復讐心よりもなお強く、なおまばゆく光り輝く。

 だからこその白い風、白い炎、白い翼。

 

 少年と手を繋いだ少女の背に、純白の翼が開く。

 少年の中に消えない憧憬があるように、少女の中に宿った永遠の光輝。

 父親の剣、母親の風、少年の心。それらが一つになった少女の新たなる力。

 

「行こう――ベル」

「・・・はいっ!」

 

 手を繋いだまま、二人は宙に飛ぶ。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 遥か下方の空間から再び駆け上がってきたのは、怒りに燃える黒い竜。

 左腕と胸の傷口は既に塞がっているが、黒竜が主導権を得ているからか、緑の触手もそれ以上の修復は出来ていない。

 大いなる石像神との戦いでもなかった、生まれて初めての体の欠損に怒り狂う。

 黒き怒りの波動を前に輝くのは白き翼。そして白き少年。

 それは神話の一場面のようにも見えた。

 

 

 

 

「"秘術の枠(アーケイン・フレイム)"! "飛行(フライ)"!」

「"飛行(フライ)"!」

「"飛行(フライ)"!」

「"飛行(フライ)"!」

「"飛行(フライ)"!」

「"飛行(フライ)"!」

「"飛行(フライ)"!」

「"加速(ヘイスト)"!」

「"集団猫の敏捷(マス・キャッツ・グレイス)"!」

「"集団雄牛の力(マス・ブルズ・ストレンクス)"!」

「"集団熊の耐久(マス・ベアズ・エンデュアランス)"!」

 

 手を取り合った少年少女が黒竜に挑みかかり――と思いきや、ベルの補助呪文から戦いは再開した。

 無詠唱呪文の本領発揮。兄の使う高速化呪文よりなお早い、一息に放たれる十を越える呪文。

 

 魔術師(ウィザード)とはパーティの中で最も多くの手札を持つもの。その判断一つがしばしば戦局を左右する――魔術師呪文が使えるようになって以来、リリと共に兄に叩き込まれた数々のレクチャー。

 

(魔法使いの武器は二つ! 呪文! そして呪文を使いこなす知恵だ!)

 

 何度も言われた兄の言葉。初手に攻撃呪文ではなく、防御呪文でもなく、補助呪文。その結果がどうなったか。

 

「うわー、すごい! すごい! 飛んでるよ! ねえティオネ、見て見て飛んでる!」

「見れば判るわよバカティオナ! ・・・すごい、本当に飛んでる」

「ちっ、微妙にすっとろいじゃねえか。まあねえよりはマシだな!」

「これはありがたいね。取れる作戦の幅が随分と広がる」

「ああ。今までの鬱憤、存分に返させて貰おうか!」

「行クゾバーチェ! わが良人(オス)にわが価値を存分ニあぴーるスルのだ!」

「・・・ああうん、わかった、アルガナ」

 

 フィン。ガレス。ティオネ。ティオナ。ベート。アルガナ。バーチェ。

 最強の前衛達が舞台に上がる。

 相手が空にいたゆえに遊兵と化していた戦力の有効化。

 たったそれだけで、自軍の戦力は五倍にも十倍にもなる。

 

「効果は十分くらいです! 切れたらかけ直しますので各自気を付けてください!」

「了解だ」

 

 Lv.6冒険者たちの全力疾走には劣るが、それでもLv.5のトップクラスに匹敵する空中での移動能力。

 加えてそれぞれ四段階分の筋力・耐久・敏捷・器用への強化。"加速(ヘイスト)"呪文の効果とも合わせて、普段の彼らより一段上の戦闘力がその体にみなぎっている。

 

 ちらり、とベルがアイズと視線を見交わす。

 にっこりと少女が微笑み、少年が再び僅かに頬を染めた。

 少年のような指揮官の声が再び、戦場に響き渡る。

 

「後衛はそのまま、前衛はアイズを中心として黒竜を攻める! 手すきのものは翼を狙え! ベル・クラネルは後方に待機してチャージしつつ適宜補助呪文! ロキ・ファミリア、攻撃開始っ!」

「「「「「「「了解ッ!」」」」」」」

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