ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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21-16 針の剣

 ごう、と空気を引き裂いて黒竜の腕が唸る。

 冒険者たちが一斉に散った。

 地上で重力に縛られていた時と違い、今の彼らは立体的に機動出来る。

 それは回避もまたしかり。いかに黒竜の振りが早かろうと、左右にしか避けられないのと前後左右上下に自在に機動出来るのではまるで違う。

 

「ヒャハハハハ、スッとろいぜ!」

「オラァ、いい声で鳴かせてやるよぉ!」

 

 そして黒竜の攻撃にも先ほどまでのキレがない。

 ベルの斬撃で片腕を失ったことによって体のバランスを著しく崩しているためだ。

 いかに黒竜に野性の戦闘本能があろうとも、この短時間で対応できる問題ではない。

 

 ましてや空中戦なのだ。

 ただ飛んでいるだけでも常にバランスを崩さないよう意識して飛行に集中する必要がある。

 その僅かの集中の強要が、更に大きく攻撃の鋭さを減じていた。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

「・・・・・・・・!」

 

 最初の一撃をかわし、一直線に顔面を狙って突っ込んでいくアイズ。不壊属性(デュランダル)斧槍(ハルバード)を構えたティオネと大剣を担いだティオナがそれに追随するが、飛行と加速の呪文を重ねがけした程度では真の力を発揮したアイズの風には到底及ばない。

 白き風と炎をまとう流星となった剣の姫を目がけて、竜の右腕が跳ね上がる。

 

「!?」

『■■■■■―――――!?』

 

 避けた。

 全力の速度はそのまま、優美とさえ言えそうな曲線を描いて白い流星が黒い鉄槌の軌道からそれる。

 転進で全くスピードを落とすことなく、それでいて次の瞬間にはS字を描いて元の軌道――黒竜の顔面を狙う軌道に復帰する。

 跳ね上げた右腕は、既にそれを止められる位置にない。

 白炎の風姫を止められるものは、もうない。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

「!」

 

 いや、あった。

 白き流星の目標、黒竜の頭部が、がばりと裂ける。

 G(ジャイアント)・ガネーシャの肩をも噛み砕いた竜のあぎと。

 最高純度の超硬金属(アダマンタイト)を凌ぐ硬度と人の背丈を超える長さを持つ無数の牙が、三重に列を成す。

 

 しなやかに動く長い首が生み出す速度と正確さ。

 意表を突かれたこともあり、アイズも完全にはかわしきれない。

 攻撃を諦める全力回避行動は取らず、腕一本、足一本はくれてやる覚悟で、ギリギリ交差する軌道を取る。

 

『■■■■■―――――!?』

「!?」

 

 がくん、と黒竜の頭部が高度を下げた。そのタイムラグがアイズに余裕を与え、先ほどの両手叩きにも勝る速度で閉じた竜のあぎとを回避させる。

 上下の顎で圧搾された空気が噴出し、軽く吹き飛ばされたのを一回転して体勢を整え再度加速。

 ちらりと視界の端に映ったのは自分を救ったであろうそれ。

 黒竜の巨大な翼に、一見してそれと判るほどの大きな穴が空いている。

 

「オラァ! 決めてやったぜ!」

 

 快哉を叫ぶのはロキ・ファミリア最速の男ベート・ローガ。

 銀の金属靴フロスヴィルトに込められた風の力を飛行呪文の速度に加え、一瞬だけだがアイズを上回る速度を発揮した彼はそのまま黒竜の翼に吶喊し、突き破ったのだ。

 

「・・・しかし、まーた、椿のヤツがうるせえな・・・」

 

 ただしその代償として、全力以上を発揮させられた上に酸性の体液が流れる黒竜の体組織を突き破ったフロスヴィルトは暴走と損傷により完全に使い物にならなくなっていた。

 

 数mほどの穴であれば黒竜はさほど時間も置かずに回復するだろう。武器も残るは不壊属性の双剣のみ。

 しかしそれによって得られた機会こそが値千金。

 

「いっけぇー、アイズ!」

「そのまま!」

「・・・・!」

 

 アイズの後方から追うアマゾネス姉妹が声を張り上げる。

 黒竜の眉間を目がけて飛ぶ白き流星。

 生きあがこうと、首を振って僅かでも急所をそらそうとする黒竜。

 アイズの剣は黒竜の眉間を僅かにそれて左目を眼窩ごと破砕し、黒い血が盛大に降り注いだ。

 

「うぉっ!」

「あちっ!」

 

 吹き出す黒い血をアイズの白い風がはじく。

 はじかれた血は周囲に広くまき散らされ、何滴かは周囲を飛行していた冒険者たちにも降りかかった。怪我と言うほどの怪我ではないが、それでも酸が皮膚を焼くのは痛い。

 

「!」

 

 そして何人かは、宙に舞う白銀のきらめきに気付いていた。

 光を反射してくるくると回転するそれを、一撃離脱で黒竜から離れていたアイズがキャッチする。

 

「・・・・・・・・・・・・!」

 

 アイズの左手に光るのは白銀の剣。

 愛用のサーベル《デスペレート》に比べるとやや長く、太い、ごく普通の片手長剣(ロングソード)

 不壊属性武器なのかオリハルコンの輝きを放つそれはどこか《デスペレート》に似ていた。

 だがアイズにはそれ以上に見慣れた、懐かしい武器。

 思い出の中であの人はこの剣をいつも手にしていた。黄金の髪の女性はそれを微笑んで見ていた。

 

「おとう、さん・・・」

 

 風にひとしずく、水滴が飛んだ。

 

 

 

 アイズが動きを止めたのは一瞬のみ。だがその一瞬の間にも戦局は動いている。

 散開した前衛達がそれぞれにランダムな軌道を取り、ベートの一撃で体勢を崩した黒竜に次々と襲いかかる。

 最高の指揮官が動かす最強の前衛達は、さながら鬼に挑む一寸法師の集団の如く。

 

 

 

「どっせいっっっっっっっっ!」

『GOAAAAAAAAA!?』

 

 ベート、アイズに続いたのは全身を超硬金属の塊でよろった超重量級のドワーフ。

 黒竜の腕を上昇して避けた後、全力で降下。落下の勢いも加味しての全力の斬り下ろしで、黒竜の胸元からへそ下までを一気に切り裂いた。

 G(ジャイアント)・ガネーシャの空けた腹の穴を埋めた緑色の触手。当然そこには黒竜の絶対的防御力を担っていた黒い鱗はない。

 生体組織として異物であっても既に融合しているのか、黒竜が苦痛の悲鳴を上げた。

 

 

 

「りゃああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 ティオナの雄叫びが尾を引く。二人一組でアマゾネス姉妹が突貫する。

 腰だめに構えたティオナの大剣が、僅かにではあるが黒竜の鱗を貫いてその肌に突き刺さった。

 

「やっ!」

 

 斧槍を構えていたティオネが膝を抱えてくるりと回転する。妹が握りしめたままの大剣の柄頭に、ドロップキックの要領で思い切り叩き付けられるかかと。

 

『GOA!?』

 

 大剣がほとんど柄元まで黒竜の脇腹に埋まった。

 

 

 

「ハハハ・・・ははははははははっ!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 不壊属性武器を持たないアルガナとバーチェが攻撃するのは黒竜の翼を包帯のように補強する緑の触手。

 妹の血を舐め、狂乱しているかと思われるほどに高揚した表情で、素手で緑色の触手を切り裂き、引きちぎるのは姉のアルガナ。

 彼女をして闘国(テルスキュラ)最強たらしめているのは、肉体以上にその精神。

 たとえ男を知り、恋を知っても、一皮剥けばそこにあるのはひたすらに戦いを求める闘鬼の顔だ。

 

 一方で全身に毒魔法をまとい、次々と緑の触手の体組織を腐らせていくのは妹のバーチェ。

 姉のそれには劣るものの、緑色の触手を切り裂いていく手刀や足刀。傷口はあっという間に黒ずみ、壊死した組織が広がっていく。

 再生力が強いと言うことは生命の流れが強いと言うこと。つまりそれは、毒を運ぶ流れも強いと言うこと。ならば後は生命力と毒のどちらが強いかの勝負。

 広がり続ける黒ずんだ部分が、どちらが強いかを如実に示していた。

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