ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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21-17 黒竜の吐息(ドラゴンブレス)

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 黒竜が怒りの咆哮を上げる。

 遥かな古代、羽虫の如き小さき者どもに左目を潰された屈辱。

 十数年前、同じく小さき者どもにいくつもの傷を負わされた怒り。

 それを今、再び味わわされている。

 

 竜から見れば人間たちは一寸法師にしか過ぎない。

 持ってる武器もせいぜいが針の刀だ。

 だが針でも刺されば痛い。僅かとは言え血も流す。

 そしてその苦痛が最も危険な敵への集中を乱す。

 

「――――――!」

 

 白き風、白き炎、白銀の双剣、黄金の瞳の剣姫。

 黒竜の本能が警告している。

 こいつと、今は後ろで控えている白い光のやつだけは危険だと。

 だから、残った右前足と牙で、全力で対応する。しなくては死ぬ。

 それが全身を刺してくる羽虫たちに対する手段を奪い、その羽虫たちが与える痛みが主敵に対する集中力を削ぐ。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 ままならない怒りに吼える。理不尽さを憎む。

 最強の大魔獣である自分が小さき者どもに翻弄されている現実。

 それを認められない。

 

『!』

 

 その脳裏に閃くものがあった。

 戦闘生物としての本能か、緑の触手の細胞に刻まれていた指令か、あるいはただ単に憂さ晴らしがしたいと思ったのか。

 その右目が冒険者たちとオラリオの市街をすり抜け、都市の中心に立つ塔を見た。

 

「あ――」

「やばっ!」

 

 ひゅごう。

 黒竜の胸郭がハトのように膨らんだ。

 一万立方mの空気がその肺を満たす。

 

 黒き閃光の吐息。

 石像神(Gガネーシャ)を屠り、古城を一撃で消し飛ばした黒竜最大最強の切り札。

 狙うは数キロ先の白亜の巨塔。

 喉を絞る。必要なのは放射状(コーン)の広範囲攻撃ではなく、射程に優れた直線(ライン)のブレス。

 

 今『バベル』でイサミと多くの神々が行っているのは、この窮地をひっくり返すための回天の大儀式。そこには彼らの主神であるヘスティア、ロキ、カーリーもいる。都市の事実上の運営者であるギルドのトップも。

 最悪の状況を察し、これまでにも増して前衛達の攻撃が激しさを極めるが、彼らの攻撃は元より針の一刺しに過ぎない。皮を斬り、肉に届くとしても骨を断つことはできない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 それが出来るはずの二人のうちの一人、アイズは攻撃の手を止めていた。

 黒竜の顔の前に立ち、剣を垂らして黒竜と視線をぶつけあっている。

 

「くっ!」

「動くな、ベル・クラネル! チャージに集中しろ!」

 

 一撃を加えようとしたベルの動きを止めたのはフィンの声。

 振り向いて叫ぶ。

 

「ですが!」

「アイズを信じてくれ! ヤツがブレスを吐き終わったときにこそ、チャンスは来る!」

「・・・!」

 

 フィンの親指がもたらす直感。

 それを知っているわけではなかったが、歯を噛みしめてベルは黒竜に向き直る。

 

「!」

 

 チリン…チリィン…と鳴っていた鈴の音が変わった。

 ゴォン・・・ゴォォン・・・と大きく雄大になったそれは、先ほども聞いた大鐘音。

 憧憬の人を助けるべく発動したそれが、兄の危機に再び鳴り響く。

 

 たっぷり三秒をかけて、黒竜が限界まで空気を吸い込んだ。

 高速化した戦場では決して短くないが、それでも冒険者たちが黒竜を屠るには余りにも足りない時間。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 黒竜が改めて前方に意識を集中する。石の巨塔と自分を結ぶ一直線の上にいる白の剣姫。白銀の剣を両手に垂らし、黄金の瞳は真っ直ぐに自分を見つめている。

 先ほどまでのような憎悪ではなく、純粋な何かをぶつけてくるその視線がたまらなく苛立たしい。

 長らく自分の目に埋め込まれていた白銀の金属片の輝きもその怒りを増幅させる。

 

 邪魔だ。消え失せろ。

 

 憎悪に満ちた視線がアイズを貫通して白亜の巨塔にロックオンされる。

 体中に取り付く羽虫が与える苦痛も最早心地よい。

 奴らが守る白亜の巨塔は一秒後に消え失せる。

 その後叩き殺してやることを思い、黒竜の目が愉悦に歪む。

 

 ヤ メ ヨ

 

 禍々しい意志の波動が黒竜の脳裏に響く。

 その意志は怒りの圧力に満ちていたが、もはや黒竜の中に【バベル】とアイズを消滅させる事以外の思念はない。

 

 ソ ノ ム ス メ ヲ ・ ・ ・

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 再び響いた禍々しい波動を、咆哮と共に放たれた黒き閃光が霧散させた。

 

 

 

 黒竜の口が大きく開き、大量の空気を吸い込むのをアイズは見ていた。

 閃光の吐息の前準備だというのはすぐに判った。『バベル』を狙っていることも。

 心は自然と決まっていた。

 

「【白き風よ(テンペスト)】」

 

 これまでの攻防で消耗した風をもう一度まとい直す。

 

「【白き風よ(テンペスト)】」

 

 右手の【デスペレート】に風が渦を巻く。

 白き炎が流れて翼・・・あるいは旗のように刀身から吹き出し、なびく。

 

「【白き風よ(テンペスト)】!」

 

 左手の白銀の長剣が風を帯びる。右手の【デスペレート】同様、吹き出した風が白き炎をなびかせて広がる。

 白銀の剣士ヴァルトシュテインの伝説に謳われしその剣、【強き炎】、【不朽の刃】、あるいは【岩を(こぼ)すもの】の意味を持つその名こそ【デュランダル】。

 最初の不壊属性武器にして、その種の武器全ての総称として冠されるに至った、歴史にその名をとどめし剣。

 

 言わば【デスペレート】もその娘。父なる剣と娘なる剣は今アイズの手の中で白き光の双翼となる。

 白鳥を演じるプリマが両手を高く掲げるように、双翼の剣尖がアイズの頭上で合一する。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 黒き閃光が放たれた。

 一筋の閃光が人類の希望を打ち砕かんと白亜の巨塔を目がけて飛ぶ。

 それを阻むのは白き剣の天使。

 合わされた光の双翼が今、一つの刃として黒き閃光の束に振り下ろされる。

 

 次の瞬間アイズの姿が黒い閃光に飲み込まれ、同時に光の爆発が起きた。

 爆音も衝撃波もないそれではあるが、それは確かに爆発だった。

 目を開けていられない、余りにもまぶしすぎて何も見えない白き闇。

 冒険者たちが一斉に腕で目を覆う。

 

「――――――!」

「っっっ!」

 

 そんな中、フィン、ガレス、リヴェリア、そしてベルだけが冷静に次にくるであろうことを待っていた。

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