ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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21-18 邪神復活

 光の爆発は当然ながら神会(デナトゥス)の間からも見えていた。

 それと同時に『バベル』の周囲が黒い閃光に包まれる。

 

「な、なんだあっ!」

「なんやあらぁ?!」

『集中を乱すな!』

 

 慌てふためくロイマンや、思わず振り向く――半数くらいは面白いものを見つけた時の顔をしている――神どもをウラノスが一喝する。

 同じく神々で一杯になった祈祷の間から飛ばした大喝は、ギルド職員は元より浮つく神々をも鎮めるだけの威厳があった。

 

『~~~~~~~』

 

 イサミの詠唱だけが神会(デナトゥス)の間に響く。

 動揺していたものたちも、状況を面白がっていたものたちも、自然ときびすを返し、イサミの方を向いて集中を再開する。

 儀式の終わりはすぐそこだ。

 

 

 

 永遠と思われた数秒。

 光の爆発が途切れ、白い闇が晴れる。

 ようやく目を開いた冒険者たちが見たのは、徐々に細まる黒き閃光の奔流。

 そして。

 

「【白き風よ(テンペスト)】!」

「アイズ・・・」

「アイズッ!」

「アイズさん!」

 

 肩当てやブーツの端を焦がしながらも健在なる少女。

 ほとんど尽き欠けた白き風を再び呼び起こす超短文詠唱。

 再び白き翼が広がると共に、仲間達とベルの歓声が上がった。

 

 アイズは無事だった。

 そして『バベル』も。

 黒竜が閃光の吐息を放ったとき、アイズはそれに真っ向から切り込んだ。

 正確に言えば、風と炎をまとわせた両手の剣をブレスに()()()()()

 切り裂かれた黒き閃光はそれぞれ僅かに左右にずれ、数キロ先の『バベル』の位置においては左右に数百mもの距離を作っていた。

 ゆえに『バベル』も、巨塔の中程を狙って撃ったがゆえに街も無傷。

 

 もし黒竜が1km、せめて2kmの距離から範囲型の円錐形ブレスを吐いていればアイズにも打つ手はなかったろう。

 直線状のブレスを選択したゆえに、それをせざるを得なかった距離でロキ・ファミリアに足止めを喰らっていたがゆえに、黒竜の渾身の一撃は無力化されたのだ。

 そして、ピンチの後にはチャンスが来る。

 

 ゴォン・・・ゴォォン・・・

 

 ようやく黒竜は気付く。先ほどから鳴っていた巨大な大鐘楼(グランドベル)の鐘の音に。

 人間側にとっては勝利の鐘の音、彼にとっては葬送を意味する哀しみの鐘の音に。

 

 ベルが順手に握っていた【神のナイフ】を走る白い閃光。その芯になるのは【神のナイフ】を通して形成された紫の魔力剣。

 圧縮された紫の魔力によって強化されているがゆえに、本来耐えられないフルチャージの【英雄願望(アルゴノゥト)】にすら今の【神のナイフ】は耐えることが出来る。

 

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

「"スコーチング・レイ"ッ!」

 

 ありったけの魔力を込めた、火炎光線呪文の連打。

 それらの全てが白い光の剣に吸い込まれ、業火の刃を成していく。

 

『■■■■―――――!』

 

 焦る黒竜。だがもう遅い。その巨大さゆえに最強最大の名を欲しいままにしてきた三大魔獣。だが巨大であるがゆえに、最強であるがゆえに彼らに回避という選択肢は与えられていない。

 それでも黒竜が無敵だったのはその防御を貫ける攻撃が存在しなかったがゆえ。

 

 だがここにそれを越えるものが存在する。

 かつての最強の英雄をも越える、若き英雄。

 人間の可能性を、地上における未知を体現する奇跡の冒険者が。

 今や炎を上げる光の巨剣と化した【神のナイフ】を両手で掲げるその名はベル・クラネル。

 

 先ほど言った通り、黒竜に身をかわす軽やかさはない。せめてもの抵抗に右前足で白き少年を狙うのと、ベルが巨剣を振り下ろすのが同時。

 

「【聖火の大英斬(アルゴ・ウェスタ・ペルグランデ)】!」

 

 全てを切り裂く光と炎の剣が、一瞬にして巨竜の右前足を蒸発させ、次の瞬間爆発が起きる。その爆発の中、冒険者たちは黒竜の頭部が紅蓮の炎の中に消え去るのを見た。

 

 

 

 光が収まり、目が慣れた冒険者たちの視界に飛び込んできたのは、頭部と首を根元から失い、先ほどのそれと合わせて両前足をも失った黒竜の姿だった。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

「やったぁぁぁあ!」

 

 歓声が上がる。

 隣の仲間と抱き合って飛び跳ねるサポーターもいる。

 だがそれを遮って、鋭い叱咤が飛んだ。

 

「気を抜くな! 本当に死んだなら、何故あいつは宙に浮いている!」

 

 あっ、と声が漏れた。

 確かに、頭部を失ったというのに機械的に黒竜の翼は羽ばたき続けていた。

 うじゅる、と失った首の付け根が盛上がる。

 

「!」

 

 次の瞬間、緑の触手が無数に、爆発的に首の傷痕から吹き上がる。

 蒸発させられた右前足、切り飛ばされた左前足の傷口からも。

 頭部を失い、自我を失った黒竜の中の、黒竜の意志に押さえつけられていた緑の触手の意志が復活したのだ。

 

 

 

 ソ ノ ム ス メ ヲ ワ ガ テ ニ

 

 

 

 禍々しき意志の波動が今度こそ黒竜だったものの肉体に響く。

 腹の傷口を埋め尽くした緑の体組織に、一斉に無数の瞳がぎょろりと開いた。

 

「う・・・!?」

「ぐえっ・・・」

 

 それをまともに見てしまった、レベルの低い幾人かが膝を突いて倒れ、えずく。

 G(ジャイアント)・ガネーシャとの戦いでも、一瞬とは言えシャクティたち一級冒険者を犯した妖気。原初の混沌、彼方の神が孕む狂気。それは容易く心弱き人間の精神を破壊する。

 

 見開く瞳が見上げるは白き風の少女。

 首と両腕から吹き出す緑の触手は、本来の頭部や両前足とは似ても似つかない、強いて言えばイソギンチャクの触手や枝を広げた木々のような形を形成していく。

 大きく広がるそれは、敵を破壊するためではなく獲物を捕獲するための形。

 だがそれが使われることはない。

 先ほどのように両手の剣を天高く掲げる少女。

 双剣と少女を芯として渦巻く三つの風と炎は融合して、さながら白き竜巻。その頂点には白銀のオリハルコンの輝きを放つ双剣の鋭い切っ先。

 

「リル――」

 

 白き渦巻きが天に飛んだ。

 頭部と両前足の触手はまだ形成途中。仮に形成が完了していたとしても、【デスペレート】と【デュランダル】、そして少女自身のまとう炎と風を一点に集中したこの攻撃の前には、捕獲用のやわい触手など薄紙のようなもの。

 

 そして怪物、その中でも竜、さらに言えば黒竜ただ一匹を屠るために発現したのがアイズのスキル【復讐姫(アヴェンジャー)】。

 たとえベルのくれた光がその黒き炎を白に変えたとしても、その本質は変わらない。こと黒竜相手に限って言えばその攻撃力は、フルチャージしたベルの【聖火の大英斬(アルゴ・ウェスタ・ペルグランデ)】すら遥かに凌駕する。

 

 頂点に達した白き竜巻が方向を変え、一直線に降下する。

 かつて黒竜だったものに、これを防ぐ手立ては最早ない。

 

「ラファーガッ!」

 

 黒竜の胸中央を尾を引く白い竜巻が貫く。

 次の瞬間、魔石を砕かれた黒竜の肉体は塵となって消えた。

 後に残ったのは、黒竜の肉体にそってワイヤーフレームのように形を作っていた緑の触手。

 頭と両前足、腹部だけにまとまった塊がある。

 

 同時に触手の塊が落下し始める。

 翼はあくまでも黒竜の体に備わった機能。寄生生物に過ぎない触手集合体には飛行する機能はない。

 最後のあがきとばかりにオラリオに向けて数十本の触手が飛んだ。それは城壁や土台に突き刺さるが、あっという間に飛行する冒険者たちに切り払われていく。

 半数以上を切り払われた時点で自重を支えきれなくなり、残った触手もちぎれた。緑色の塊がゆっくりと落ちていく。

 スローモーションのようにゆっくりと、塊がオラリオから離れていく。

 20秒ほど経って、地表に巨大な土煙が立つ。

 

「お・・・」

「おおお・・・」

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」

 

 大歓声が上がった。

 ティオナやティオネは元より、フィンやガレスまでもが拳を突き上げて吼えていた。

 落下した緑の触手を見ていたベルが顔を上げる。ふと、同様に顔を上げたアイズと視線があった。

 

「あ――」

 

 頬を染めるベル。

 にっこりとアイズが微笑む。

 この微笑みを、きっと生涯忘れることがないだろうとベルは思った。

 そしてゆっくりとアイズがベルに近づき――

 

「!?」

 

 その姿が消えた。

 ベルの目をもってしても、影しか捉えられないほど速く。

 その他の冒険者たちの目も、一斉に空の一点を凝視した。

 その視線の先にいるのはあかがね色の髪の女。その腕の中には気を失ったアイズ。

 

「・・・グラシアさん!」

「悪いわね、ぼうや。この娘は貰っていくわよ。"我願う、我を彼方へ"」

 

 グラシアが指にはめた金の指輪の赤い宝石が一つ砕ける。

 次の瞬間、二人の姿は消えていた。

 

 

 

 迷宮都市が飛び立った後の巨大なクレーター。

 その中に位置する巨大な構造物。ダンジョン。

 微細な稲妻を帯びていたそれは、今や極太の雷電を無数に発していた。

 赤。青。紫。緑。白。黒。茶。

 無数の色を帯びたそれは何故か美しくはなく、見ているものを不安にさせ、恐怖を抱かせる光彩を放っている。

 

 ぱちん、と音がした。

 

 決して大きくないその音は、だがオラリオでも、その周辺の町や村でも、あまつさえ大陸の全ての場所で、全ての種族、全ての動物、全てのモンスターの耳に届いた。

 すうっ、とダンジョンの構造物が色と存在感を失っていく。

 希薄に、希薄に、限りなく希薄に。

 

 やがてダンジョンは空気に溶け込むように消えた。

 後に残るのは底なしの大穴と、その周囲に存在していたダイダロスの人造迷宮。

 

 それと同時に出現したものがある。

 ダンジョンとは逆に空気中から溶け出すように、うっすらと空中に色彩がにじみ出す。

 最初おぼろげな影だったものが、急速に濃度を増し、はっきりとした形を取っていく。

 いや、はっきりとした形というのは語弊がある。空気と、「それ」との境界線が何度見ても認識できない。

 シルエットとしては判るのに、世界と「それ」との境界線がわからない。

 

 真っ黒なのっぺらぼうの巨人。

 真っ黒なのにあらゆる色の渦がその中に見える。

 のっぺらぼうなのに、あらゆる造形がその中に見える。

 あらゆる感情、あらゆる事象、あらゆる生命、あらゆる世界が見える。

 それが大地を足に付け、高度2000mを浮遊する迷宮都市を見下ろしている。

 

 

 

 ワ レ

 

 

 

 意志の波動が響いた。

 激しくもなく、轟きもせず、だがそれは全世界に響いた。

 

 

 

 ワ レ ト キ ハ ナ タ レ タ リ

 

 

 

 原初の混沌が、エントロピーの化身タリズダンが復活した。

 

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