ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
22-01 クリスタル・オブ・エボンフレイム
『敵は多いな、滝……いや……たいしたことはないか……今夜はお前と俺でダブルライダーだからな』
―― 『仮面ライダーSPIRITS』 ――
タリズダンが復活したその瞬間、
「「「「タリズダンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! 」」」」
「世界オワタ\(^o^)/」
「もう駄目ぽ」
「静まれ・・・俺の右腕よ・・・怒りを静めろ・・・」
「QTK(急にタリズダンが来たので)」
「二人は幸せなホモキッスをして世界は終了」
「ああ、機関が気付く前に逃亡を開始する。ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
「すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。風・・・なんだろう吹いてきてる確実に(ry」
「ぬるぽ」
「ガッ」
(こ・い・つ・ら・はぁぁぁぁぁぁ!)
まじめに儀式を続けていた一部の神、そしてイサミが額に青筋を浮かべたとしても無理からぬところではあろう。
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
第二十二話「邪悪寺院、再び」
「っ!」
「うぐっ?!」
イサミが詠唱を中断して馬鹿神どもを怒鳴りつけようかと思ったその瞬間、
ロイマンやエイナなど、ギルド職員の中には口元を抑えてうずくまるものもいる。
イサミもまた、今までに感じたことのない異質な感覚を味わっていた。
(・・・見られている)
根拠はないが確信があった。
恐らく今までイサミが出会ったいかなる神や魔王にも勝る巨大な存在感が
(儀式に・・・気付かれたかっ!)
汗が大量に噴き出す。
今イサミ達が行っている儀式こそは、復活したタリズダンに対する唯一の対抗手段。それを潰されると言うことは、即ちイサミ達の敗北に等しい。
全次元世界の超越者たちが再び結集すれば、あるいはもう一度タリズダンを封印することも可能かも知れない。だがその時にはこのオラリオと、オラリオを含む封印世界は砂粒一つも残ってはいないだろう。
(あと少し、後ほんのもう少しなんだ・・・何か、何か手が・・・)
儀式のためにブーストされた知性を最大限回転させ、この窮地を乗り切る一手を探る。
だがない。知恵の神さえ越える知性も、この状況を打開することは出来ない。
苦し紛れに発動した"
(なにか・・・なにか・・・・・!?)
それでも頭を回転させていたイサミの耳に、僅かな異音が飛び込んできた。
一瞬遅れてそれが人が倒れた音ではないかと気付いた時、扉がガチャリと開く。
「よう、みなさんおそろいで。しばらくぶりだなあ、小僧」
「・・・・・・・・・・!」
馴染みの店に入るような気安さで入って来たのは黒の剣士、ロビラー卿だった。
沈黙が広がる。
空気を読むスキルが決定的に欠けている神々や、あれで傑物の部類に入るロイマンですら一言も発せない、そうした雰囲気が
それも剣も抜いていない、たった一人の男によってだ。
進むロビラー、割れる神の群れ。詠唱を止めたイサミの手前で黒の剣士が立ち止まる。
「・・・今更何の用だ、おっさん」
「だからおっさんはやめろって」
顔をしかめてひげをもさもさといじるロビラー。
一見隙だらけではあるが、完全に弛緩しきった状況からでも致死の一刀を放てるのがこのレベルに達した戦士だ。
儀式のために「直列」の強化を施しているとはいえ、軽々しくは動けない。
「まああれだ。持ってるんだろ? 例の像。お前らの元のアジトにもこの塔の部屋にも、ギルドの本部にもなかったらしいしな」
「・・・!」
かつてデヴィル達が根城にしていたある商人の別宅で見つけ出した、黒いオリハルコンの塑像。
渦巻くうねりのようにも、放射状にうねくる触手のようにも、風にふくらむローブを纏った何かのようにも見える、ただ見ているだけで不安になるような造形。
「やはり、あれは・・・」
「ああ。タリズダンの像らしい。趣味が悪いよな」
肩をすくめてやれやれという風に首を振るロビラー。
対するイサミは目の前の剣士と天空高くから覗き込むエントロピーの神の視線と、双方のプレッシャーで一筋汗を垂らす。
「と言うわけだ。よこしな」
無造作に左手を差し出すロビラー。
イサミの視線はその顔から離れない。
「そして渡した途端、俺達はこの世から消滅する訳か」
ん? とロビラーが首をかしげた。
一瞬遅れてああ、と頷く。
「一ついいことを教えてやろう。俺は『像を取り返してこい』と言われただけで、『儀式をぶち壊せ』とは言われてないんだぜ?」
「? どういうことだ?」
イサミの片眉が怪訝そうに上がる。
どこか愉快そうにロビラーが笑った。
「どういう事も何もそういうことさ。そいつはタリズダンに必要なものだ。そしてそれがなくなりゃ、『あれ』はおまえたちには何の興味も示さない。
何も言われなかったって事は、多分
「・・・あんたはいいのか、それで」
「いいも何も、そう言われただけだからなあ。言われた事をちゃんとこなしてりゃあ不義理にはなるめえよ」
ひっひっひ、と楽しそうに笑う黒の剣士。
少し考えた後、イサミは短く呪文を口ずさみ、腰のベルトに大量にくくりつけられた小型ポーチに手をやった。
差し渡し5cmほどの小さな革のポーチにイサミのラージサイズの手が手首、いや、肘の半ばまで埋まる。ずるりと引き出したのは、差し渡し30cmはありそうな麻の袋。
口を閉じた鉛の封印に指で触れ、再び呪文を口ずさむ。
パキン、と硝子の割れるような澄んだ音がして、鉛の封印が砕け散った。
中に手を突っ込み、例の彫像を取り出す。そのまま放ると、ロビラーが突き出したままの左手で器用にキャッチした。
「おう、確かに。さてと」
「!?」
ロビラーが像を軽く宙に放り上げた次の瞬間、閃光と鋭い金属音が走った。
少なくとも、その場にいたほとんどの者にはそうとしか見えなかったに違いない。
像を放り投げたのとほぼ同時、ロビラーが腰の剣を抜き、五回閃かせた。
そうと確かに見て取れたのはイサミただ一人。
後はタケミカヅチら、武神と呼ばれるたぐいの神々が僅かに影を追えた程度。
手加減をしたのか、切れ込みを五つ入れられた像が再びロビラーの手に落ちる。剣は既に鞘の中。
不壊属性ではないとは言え
改めてイサミの背に冷や汗が流れた瞬間、像の切れ込みからひび割れが広がり、ロビラーの手の中でぴしりと砕けた。
その中から現れたのは――
「おうわっ!?」
「きゃっ!」
「それ」から走った閃光が一瞬周囲を照らす。
それを浴びた神達は驚きはしたものの、何も起こらなかった。
イサミはちらりとエイナのほうを見てギルド職員たちの無事を確かめると、鋭さを増した瞳をロビラーの手の上の「それ」に戻す。
「・・・"
「お、さすがだな。一目見て正体を見抜くか」
黒い破片が白い大理石の床に落ち、ちりんちりんと鈴のような音を立てる。
覆っていた外殻が砕けて出て来たものは、ブリリアントカットのような複雑なカッティングを施された、漆黒の鉱物質の物体であった。幾何学的な直線で構成されているにもかかわらず、歪んでいるようにも、曲線で構成されているようにも見える。
そして間違いなく漆黒であるにもかかわらず、イサミの目にはその中でゆらめき踊る、やはり黒い炎のようなものが見える。
"
人の魂を喰らい、心を操るアーティファクト。
最初の閃光を浴びたのが精神攻撃に耐性のあるイサミと神々だからこそ何も起きなかったが、ただの人間であるエイナ達は神々の人垣、もとい神垣の影に隠れていなかったら、ロビラーの思い通りに動く操り人形となっていただろう。
とは言えそれは副次的な効果で、これの真価はむしろ深淵を覗き込む超知覚力と異界の知識を与えるところにある。
「で、それをどうする。まさかギルドのボスをいいように操ろうっていうんじゃないだろう」
「そりゃそうだ。今更そいつを操ってどうする。実際もう役目は果たしてくれたしな」
「な、なんだとっ!?」
ロイマンが何事かわめき散らすが、誰もそれを聞いていない。
「まあ実際俺もどう使うかは聞いていない。聞いても理解出来ないだろうしな」
「・・・そりゃそうか」
やや拍子抜けしたように肩を落とす。
そう言えばタリズダンと関係あるアーティファクトのような設定もあったか?と脳裏をちらりとかすめるが、極限に強化した記憶力でもそれ以上は思い出せない。
「ああ、そう言えば【剣姫】のお嬢ちゃんがどうこうって話をしてたような気はするな? 俺には判らんことだがよ」
「・・・あんた、わかってないふりして全部わかった上で行動してないか?」
イサミが呆れたように呟いた。
「さて、何の事やら。俺は面白ければそれでいいんでな」
「・・・」
かかかと笑うロビラーをよそに、イサミは沈思黙考する。
タリズダンに関係あるらしきアーティファクト、それに恐らくは特別な何かを持つアイズ。その二つをタリズダンが必要としていると言うことは・・・。
と、イサミがそこまで考えたとき、ロビラーがくるりときびすを返した。イサミの方を振り向かずに右手を上げる。
「それじゃあな。もう会うこともあるまいが達者で暮らせよ」
「・・・おっさんもな」
「だからおっさんはやめろって」
振り向かないまま、ロビラーがヒラヒラと手を振る。
それが、二人の交わした最後の会話になった。
「邪悪寺院再び」はD&Dのシナリオの一つ。
タリズダンを祀る元素邪霊寺院に関する冒険です。
クリスタル・オブ・エボンフレイムは「武器防具ガイド」出典。
タリズダン云々はフレーバーレベルの話ですが、人を洗脳したり結構それっぽい能力があります。