ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-02 何でも屋(ファクトタム)の戦い方

 ばたん、と音を立てて扉が閉じる。

 恐らくドアの向こうにはもうロビラーの影も形もあるまい。

 

「・・・・・・」

 

 僅かな時間、イサミは物思いにふけった。

 神々もまだロビラーのショックから抜け切れていない。

 

『儀式を再開するのだ! ここが運命の分かれ道ぞ!』

「!」

 

 そこに響き渡った雷声はウラノスのものだった。

 【神の鏡】を通して見える顔はいつも通りにいかめしい。

 

「すまん、ウラノス。気が抜けておったわ」

 

 苦笑して謝罪するゼウス。頷くウラノスはイサミに視線を移す。

 

『できるな、イサミ・クラネル?』

「無論です。さあ、クソッタレな神様ども、儀式を再開しますよ! 集中して!」

 

 へっ何をえらそうにとロキなどはぶーたれるが、それでも神達は素直にイサミの言葉に従う。腹に響く詠唱が再び始まった。

 

 

 

 オラリオの街全体がざわめいていた。

 戦場になっているバベル周辺はもちろんだが、その他の人々もタリズダンの異様な姿、そうでなくてもタリズダンの発する異質な神気を感じている。

 

 もっとも、それはオラリオに限ったことでもなかった。

 不思議な事に、タリズダンの黒い巨大なシルエットは大陸のあらゆる場所から見えた。

 巨大とは言え、たかが3000mほどの高さしかないのにだ。

 それを見上げる誰もが不安を抱き、多くの者はひざまずいて神に祈った。

 だがこの世界に、本来の意味での神は既に存在しない。

 

 イサミ達への「視線」は既に外れていた。

 ロビラーの言った通り、タリズダンの興味は本当にあの像、その中の黒き炎の水晶(クリスタル・オブ・エボンフレイム)にしかなかったらしい。

 

(恐らく何かの儀式に使う、それもタリズダンの完全復活に繋がる何かだ。こうなれば時間との勝負――)

 

「なにぃ? 【剣姫】が!?」

「!?」

 

 ようやくそこに飛び込んできたのは、黒竜撃破とアイズがさらわれたという報せ。

 タリズダン復活の余波で神の鏡が打ち消され、更には向けられた「視線」やロビラーの登場で復旧が遅れたせいだ。

 

「・・・」

 

 弟のことを思う。

 それを振り切り詠唱に集中する。

 まずはとりあえずでも世界を救う。考えるのはその後だ。

 

 

 

 詠唱は続く。儀式が続く。

 バベル周辺の攻防戦が激しさを増す。

 城壁で飛行モンスターを食い止めていた射手、魔導師達が戦線に加わってはいたが、ベルの抜けた穴を塞ぐには至らない。

 

「壁よ!」

「壁よ!」

「壁よ!」

 

 コマンドワードを唱えながら、手が痛くなるほど、何度も何度も"氷の壁(ウォール・オブ・アイス)"呪文の短杖(ワンド)を振るのはフェリス。

 湧き立つ氷の壁によって氷の迷路が形作られ、モンスターたちは分断され、足が止まる。各個撃破や飛び道具、魔法のいい的になるモンスターたちだが、それでも後続が次々と現れる。

 生み出された氷の壁も攻撃の巻き添えを受けて砕けたり、あるいは上位モンスターに一撃の下に粉砕されたりして、次々と砕けていく。

 

「壁よ!」

「壁よ!」

「壁よ!」

 

 それでもフェリスはワンドを振り続ける。魔力を使い尽くして「燃え尽きた」ワンドを放り出し、新たな"氷の壁"のワンドを引き抜いて再び振り始める。

 Lv.5の上級冒険者ではあるが、"何でも屋(ファクトタム)"であるフェリスは、万能ゆえに術者としても戦士としても中途半端。ゆえにモンスターの進行速度を遅らせ、味方に余裕を生み出すのが現状で出来る最大の貢献であると認識している。

 

「壁よ!」

「壁よ!」

「壁よ!」

 

 だから、フェリスは杖を振る。たとえ手が痺れても。たとえ喉がかれても。

 

「てやーっ!」

「どりゃあっ!」

「おらおらぁっ!」

 

 一方でレーテー、シャーナ、アイシャの前衛組はやる事は変わらない。

 ひたすらに武器を叩き付け、モンスターを打ち砕く。

 

「ゲドちゃん、エリクサーかけて!」

「ゲド、替えの大剣だ!」

「ゲド、マジックポーションよこしなっ!」

「はははいただいまーっ!」

 

 その回りをチョロチョロ走り回って何故か彼女らの補給と治療をして回るゲド。

 【戦争遊戯】で使っていたサポート装備一式がその後のごたごたで放置されていたため、丁度良いとばかりに臨時のサポーターを仰せつかったのだ。

 復活した"戦いの影"と共に、三面六臂ならぬ二面四臂の大活躍である。

 

 Lv.2が何人いようと戦力としては当然計算外だが、この二人いるという特性がサポーターとしては非常に役に立った。文字通り手数が倍になるのだ、それは効率的に決まっている。

 同様にダフネとカサンドラもサポーターとして走り回っている。サポートが必要なのがレーテー達だけではないので、魔剣を振る暇すらないのが誤算と言えば誤算か。

 

 一方で本職のサポーターであるリリは、アスフィと共に空にあった。

 透明化で姿を隠し、魔法「リレハァ・ヴィフルゥ」によって空から指揮を執るアスフィの声を的確に各所に届け、デヴィル側の指揮を混乱させる。手が空いたときには魔剣も用い、アスフィの"爆炸薬(バースト・オイル)"と共に上から援護攻撃を仕掛ける。

 早期警戒管制機と爆撃機を組み合わせたような、恐るべき見えない脅威であった。

 

「・・・」

 

 無言で集中を続けるのは春姫。

 全員に霧を見通す手段を配れない以上「タマテバコ」はデメリットが大きすぎるので、「ハナサキノオキナ」で前衛の生命力を賦活することに集中している。

 この妖術の効果は生命力の操作。生命力の強化によって耐久力を底上げし、疲労を打ち消す。間接的に身体能力を上昇させる事もできた。

 

 ただし、この術は発動している間中精神力を消費し続ける。

 ヘスティアファミリアの前衛陣とその他何人かの上級冒険者、限界に近いところまで術を発動し続けている春姫の額には、精神集中の負荷か、玉のような汗がびっしり浮いている。

 最上級のマジックポーションをひっきりなしに飲み下し、時折疲労回復のヒールポーションも口にする。ただ立っているだけではあるが、これが春姫の戦いだった。

 

 

 

「壁よ・・・」

 

 もう百回は振ったであろうワンドをまたしても振ろうとして、腹に響く爆発音がフェリスの手を止めた。

 

「エッ!?」

 

 直径18mの大きな爆発。

 それが立て続けに街路で起きた。

 フェリスが何度もワンドを振って維持していた氷の迷路やバリケードが丸ごと吹っ飛び、大通り脇の建物もかなり損傷している。

 建物の屋根に並んでいた魔導師や射手、前線で肉の壁になっていた前衛達。巻き込まれた冒険者たちも多くはピクリとも動かない。

 

「なんだ!?」

「くたばったモンスターが爆発したみたいだ!」

「・・・ぐげっ」

 

 およそ年頃の乙女らしくない唸り声がフェリスの喉から洩れた。

 倒したモンスターが爆発する。

 そのシチュエーションと目の前で起きた現象に心当たりがあったからだ。

 

「"断末魔の爆発(デス・スロース)"とか、正気かいっ!?」

 

 思わず叫んでしまった彼女を、少なくともイサミは責めるまい。

 "断末魔の爆発(デス・スロース)"。

 「倒されたら自爆する」という特撮怪人のような能力を自分に付与する呪文だ。

 

 洒落にならないのは僧侶系なら死者蘇生、魔術師系なら瞬間転移を行えるほどの高位術者の命と引き替えにしてでないと発動しないこと、そしてその威力と範囲。

 至近距離で巻き込まれてはよほどのタフネス、最低Lv.3クラスでなくては生き延びるのも難しい。

 ましてや激しい戦闘のさなかで大なり小なり負傷している者が大半だ。バリケードと氷の壁がまとめて粉砕されたのもふくめ、こちらの前線は崩壊したと言っていい。

 

(特攻とかシャレにならないわよコンチクショー!)

 

 デヴィルの中でも貴重であろう高位術者を少なくとも二匹、使い潰して得た守りの穴。

 そこにデヴィルとモンスターたちが殺到する。

 

「来るぞっ!」

「今はレーテーが防ぐから! 二人は回復を!」

「す、すまねえ」

「ダフネ、早くエリクサーよこしな・・・っ!」

「は、はいっ!」

 

 大戦斧を両手に構え、レーテーがモンスターたちの怒濤の前に単身立ちふさがる。

 真紅の甲冑は大きく傷つき、隙間からは血がしたたり落ちている。

 それでも動けないアイシャや、大剣を支えに辛うじて立つシャーナよりはまし。

 

「壁よ!」

 

 フェリスが生み出す氷の壁も、生き残っていた射手による射撃もモンスターたちの蹂躙を止めるには至らない。

 

(あ、こりゃあかんわね)

 

 あっという間に砕かれた氷の壁を見つつ、フェリスは頭の片隅で冷静に判断する。

 温存していたのだろう、恐らくモンスターの大半はLv.5クラス。最深層のフォモールやブラッドサウルス・タイラントなどの姿すら見える。

 氷の壁をもう一枚張っても、恐らく一瞬もたせるのがせいぜい。

 それでもその一瞬を稼ごうとワンドを振りかざして・・・

 ちりんちりん、と鈴の音が聞こえた。

 

「!」

 

 フェリス、シャーナ、レーテー、アイシャ、春姫、ゲド。そして生き残った射手や魔導師、後ろに控えていた上級冒険者たちが一斉に空を仰ぐ。

 

「あ・・・・」

 

 そしてアスフィと共に空にあったリリは、正面から「それ」と目を合わせて破顔する。

 

「ベル様ーっ!」

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