ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

234 / 270
22-03 激闘みたび

 全身が燃えるようだ。

 背中の【恩恵】、【憧憬一途】と刻まれたそれがまばゆい光を放っている。

 そんな事を正確に把握しているわけではなかったが、黒竜と戦っていたときと同じ位、あるいはそれ以上の力がみなぎっているのがベル自身判った。

 

 突進するモンスターたちを軽々と追い越し、喜色満面のレーテーの前に着地する。

 城壁からここまで飛びながら意識もせずに鳴らしていた鈴の音、チャージを目一杯詰め込んだそれを、躊躇なく全力で解き放つ。

 

「"コーン・オブ・コールド"!」

 

 冷気の地獄が顕現した。

 ベルの手から円錐状(コーン)に放たれた冷気、本来なら18mほどの射程しか持たないそれが100m以上に渡って世界を凍てつかせる。

 疾走していたモンスターたちが瞬時に芯まで凍りつく。

 だが慣性の法則で動き続けるその肉体はそれでも前に進もうとして、大地の抵抗でその身を傾かせた。

 足が砕ける。体が落ちる。街路に落ちたモンスターの体が次々に砕けちり、大通りはモンスターだった無数の氷塊で埋め尽くされる。

 50m程先で金属の看板が付け根から折れ、街路に落ちて粉々に砕け散った。

 

『!?!?』

 

 街路の端を走っていたため、僅かに効果範囲からそれたフォモールが何が起きたか判らないと言うように周囲を見渡す。

 倒れた冒険者たちを巻き込まないために運良く効果範囲から外れた個体であったが、その幸運も二度は続かない。

 次の瞬間、神速で踏み込んだベルの魔力剣がその体を両断した。

 

 

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「やったぁぁぁっぁぁあ!」

「イヤッホォォォォ!」

「【三月兎(マーチラビット)】!」

「ベル・クラネル!」

 

 一瞬沈黙した冒険者たちが、歓声を爆発させた。ベルの名前と二つ名を連呼する。

 

「んきゃーっ! 凄いよベルちゃん! ・・・ベルちゃん?」

 

 その連呼の中、状況も考えずハグとキスをしようとしたレーテーだったが、荒く息をつくベルを見て険しい顔になる。

 

「ゲドちゃん! マジックポーション沢山! それとエリクサー! ベルちゃん精神疲弊(マインドダウン)しかけてる!」

「大丈夫です・・・っ。僕は、アイズさんを・・・兄さんに、探してもらって・・・」

「だめだよ! そんなんじゃ・・・きょわわっ?!」

 

 レーテーの腕の中で暴れるベル。

 Lv.6のレーテーが抑えきれないほどに、その力は強い。

 

「うっそー!?」

「あの馬鹿・・・アイシャ、手を貸すぞ!」

「あいよっ!」

 

 回復したシャーナとアイシャも加わり、ようやっとベルは取り押さえられた。

 無理矢理開いた口の中にゲドがエリクサーとマジックポーションと、ついでに状態異常を解除するイサミ謹製の魔法薬を放り込む。

 それでようやく白髪の少年は大人しくなった。

 

「・・・どうしたの、ベルちゃん?」

 

 兜のひさしを上げて心配そうに覗き込むレーテーに、ベルが口を開こうとした瞬間。

 

「悪いが話は後だ。敵さんまだ隠し玉を持ってたらしいや」

「!」

 

 シャーナの声に含まれた真剣なものに、二人が振り向く。

 未だに冷気のもやが漂う街路を、かつて仲間だった氷塊を踏みしだきながら歩いてくるものがある。

 牙、角、コウモリの羽根、体を覆う赤い鱗。人間の二倍はあろうかという巨体。

 二足歩行のドラゴンのようなそれは九層地獄の将軍、ピット・フィーンド。

 ()()L()v().()7()

 

 Lv.6でも一対一では苦戦するであろうそれが七体、一直線に横に並んで大通りを歩いてくる。その後ろに続くのは、先ほどに勝るとも劣らぬ地獄の軍団の精鋭達。

 

「・・・・・・っ!」

「何かあったんだろうが、今はこらえろ。ここでお前に抜けられたら守りきれねえ」

 

 ベルが歯を食いしばり、それでも無言で神のナイフを構える。

 それを確認して、だが厳しい表情は崩さずにシャーナが前に向き直った。

 

 

 

「「「「「「「「!」」」」」」」」

 

 同じ頃、ベル達とバベルを挟んで反対側。

 フレイヤ・ファミリアが支える戦場でも同じ動揺が起こっていた。

 

「馬鹿な、私の魔法が・・・」

「お、俺の魔法なんか最初から効かない・・・」

 

 フレイヤ・ファミリアでもトップに位置する白黒妖精の魔法剣士たちが僅かながらも動揺を隠しきれない。

 白妖精が最大火力で放った雷撃魔法がことごとく無効化されたからだ。

 地獄の将軍と称されるだけあって、ピット・フィーンドの呪文抵抗(スペルレジスタンス)は最高級のもの。

 Lv.6である彼の術でさえ7割から8割は無効化されてしまう。

 そして黒妖精の魔法は火炎系なので、彼らの種族的に全く効かない。地獄の炎の中で生まれた悪魔が、炎によって傷つくだろうか?

 

「「「「・・・・・・・」」」」

 

 常日頃悪態の絶えないガリバー四兄弟や"女神の戦車"アレン・フローメルなども、この状況では一言もない。

 もっともそれは並び歩む魔将たちの前を、まるで彼らを率いるように悠然と歩いてくる黒い剣士の存在もあるだろう。

 

「いようオッタル殿、半月ぶり。どうだ、そろそろ決着をつけねえか? ・・・ここで決着をつけねえと、もうチャンスは無さそうだしな」

 

 黒剣を肩に担ぎ、からりと笑うロビラー。オッタルは無言。

 イサミの打った不壊属性剣、ここまで無数の敵を切り裂きながら刃こぼれも曇りもないそれを、だが改めて青眼に構える。

 ロビラーの笑みが獰猛なものに変わり、担いでいた剣をこちらも中段に構える。

 

「・・・ロビラー殿。一つだけ聞きたい」

「ん? なんだ?」

 

 この期に及んで言葉を交わすような相手とは思わなかったのか、きょとんとした表情でロビラーが聞き返す。オッタルは無表情のまま。

 

「イサミ・クラネルから聞いた。貴殿は様々な勢力に属してはそれを裏切り続けたと聞く・・・真実そうなのか? そうであれば貴殿ほどの戦士が何故」

 

 ああ、と納得したように頷くロビラー。左手でぼりぼりと頬ひげをかく。

 

「まあなんだ。連中の所にいるのがつまらんと思っちまった・・・とどのつまりはそっちの方が面白いと思ったからだな。

 それなりに義理は尽くして離れたつもりだが、裏切り続けたと言われれば返す言葉はねえなあ」

「魔神の女王に忠を尽くすのもそれ故か」

「一宿一飯の恩義って奴だ。義理は果たさなきゃなるめえよ。これで満足か?」

「十分だ」

 

 オッタルが頷いた次の瞬間、斬撃が来た。ロビラーもまた斬撃で応じる。

 黒い魔剣と鋼色の不壊剣がぶつかり合い、オラリオごと震わせるような、高密度の重低音が周囲に響く。

 

「Gwooooooooooooo!!!」

 

 それが合図だったかのように、地獄の軍団は怒濤の進撃を開始した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。