ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-04 呪われし者たち

 短くも熾烈な戦闘の後、双方の戦線は脆くも突破された。

 全力で戻ってきたロキ・ファミリアも僅かに間に合わない。

 今まで以上の数と質を揃えた大群に加え、Lv.7相当であるピット・フィーンドが10体以上。単純にそれを止められるだけの高位冒険者が足りなかった。

 最強戦力であるオッタルはロビラーに抑えられ、最後の頼みの綱であるベルも大鐘音を立て続けに二度も鳴らしてその肉体が既に限界。アイズをさらわれた事による狂奔も収まった今、ピット・フィーンド一体を抑えるのがせいぜいだ。

 

「GDAY-GOHA!」

「OOOOOOOOOORRRRRRRRRRRRRRRR!」

「GYYYYYYYYYYYYY!」

「Wooooooooooooooooooo!」

 

 うなり声と吠え声の混合にしか聞こえない言語――デヴィルの使う地獄語でピット・フィーンドの一体が命令を下す。先ほどのホーンド・デヴィルやアイス・デヴィル、エネルギーで形成された象ほどもある獅子のような怪物ヘルキャットが一斉に吠え声で応える。

 堰を切った濁流のようなモンスターの群れは、前衛の高レベル冒険者たちとバリケードを貫き、バベル目指して一直線に突き進む。後ろに控えていた三級冒険者たちでは止めるべくもない。

 

 ベル達の護る東とほぼ同時に西のフレイヤ・ファミリアも抜かれていた。いかに最強を誇ろうと、その身は一つ、腕は二本。せき止められる数にはおよそ限界がある。

 ピット・フィーンド数体に率いられた異形の軍勢が東西から塔に迫る。

 世界を救うために儀式を続けるイサミを殺し、神々を天界に送還するために。

 

 だがそれでもイサミは儀式を成功させるだろう。多大な犠牲と共に。

 そしてその犠牲で空いた隙間にするりと彼らの勢力が入り込む。

 

 万が一イサミが死に、儀式が失敗してしまってもそれはそれでかまわない。

 彼らの主は状況がどう転んでも勝ち筋が繋がるように策を練っている。

 賽の目に関わらず彼らの勝ちは揺るがない。

 それでもどうせなら人間どもを踏みにじり、疎ましき神々の血で喉を潤したい――

 

 だが心せよ邪悪な者ども。

 神であろうと魔王であろうと、世界全てを読み切ることなど土台出来ぬ相談。

 神々の求める「未知」がこの世には満ち満ちているがゆえに。

 

 刮目せよ地獄の魔神。

 これなるは夜の使徒、死につばを吐く冒涜者、悪魔にも劣らぬ邪悪の化身。

 闇に魅入られし魔人たち、人界の最後の守りが今顕現する。

 

「!」

「Goa!?」

 

 不意に日がかげった。

 中天目指して空を駆けのぼっていた太陽が、唐突にその形を失う。

 真円に輝いていた太陽がその縁から欠損を始め、またたく間に三日月に、そして金環をまとう黒き円となる。

 

 オラリオ市街が闇に覆われ、そこにいる全ての存在が一瞬空に気を取られたその瞬間。バベルの根元、東西に分かれて黒い闇がわだかまっていた。

 それと同時にバベル全て――高さ数百mは下らないこの巨塔全てを――不可視の障壁(ウォール・オブ・フォース)が覆う。

 

「Ga・・・・・・!?」

 

 東側の先頭を駆けていたピット・フィーンドの一体が、そのドラゴンの如き顔でもはっきり判る、驚愕の表情を浮かべた。

 東の正面にわだかまっていた闇――漆黒の礼服を身にまとい、宝杖を構える生ける死者が、干からびた歯ぐきをむき出しにして笑う。

 

『ククク・・・』

「フフフフ・・・」

「はははは・・・」

 

 その傍らに控える影どもに、さざ波のように笑いは伝染していく。

 姿はいかにも冒険者といった風情だが、その目は赤く、肌は青白く、口元には牙。

 

『九層地獄の木っ端悪魔どもが。元よりこの世界に未練なぞないが、貴様らにやりたいほうだいやらせるのも業腹よ。

 何よりタリズダンの復活により我が畢生の大作(クノッソス)を損なったこと、貴様らに怒りをぶつけてやらでは気が晴れるものか!』

「Gy・・・・・・・・・・・!」

『我が名はダイダロス。死霊王ダイダロス! 我が怒りを魂に刻んで塵に帰れ!』

 

 "(エクリプス)"。日食を起こし世界を闇に閉ざす伝説級呪文(エピックスペル)

 太陽のもとでは活動できない吸血鬼たちをそのくびきから解き放つ死霊王の切り札。

 そしてあらかじめ用意していた"力場の壁(ウォール・オブ・フォース)"の魔杖をしもべたちに使わせて、地上のみならず空中からの進攻も封じた。

 

 高度の魔術を使えない限り、これを貫くことは出来ない――もしくはそれを維持する死霊王たちを全員排除するか。

 そしてデヴィル達のほとんどはわざわざ魔術を学ぶなどと言うことはしない。できない。技術ではなく、おのれに備わる力こそ地獄の支配者たるデヴィルの誇りであるから。

 

「タカガ干からびた死体(リッチ)風情ガ! 呪文ニ自信があルノなら、我らもソノ呪文で止めてみヨ! GDAY-GOHA!」

「「「VE-DA!」」」

 

 聞きづらい共通語でピット・フィーンドが吼え、再び地獄語で突撃命令を下す。

 配下がそれに応えて唱和するのを、死霊王が鼻で笑う。

 

『残念じゃが、わしは呪文はさほど得手ではなくての・・・構え!』

「「「はっ!」」」

 

 周囲に控えていた吸血鬼達の全て――東側だけでなく西側でも――が、ライフル銃を「捧げ(つつ)」するように魔杖を構え、怒濤の進撃を再開したデヴィル達の群れに向ける。

 

『撃てい!』

 

 剣林ならぬ杖林から、無数の白い光球が放たれた。

 集中的にピット・フィーンドを狙ったそれは着弾すると巨大な白い爆発を巻き起こす。

 熱も衝撃ももたらさないそれは、だが恐るべき冷気を周囲半径12mにまき散らし、その範囲内のあらゆるものを凍てつかせた。先ほどベルが作り出したそれに勝るとも劣らぬ氷の地獄が顕現する。

 一本の杖から放たれた光球が四つ、それが数十人分。数発なら耐えられたであろうピット・フィーンドたちも、それぞれが集中砲火で数十発を喰らっては敢えなく凍てつくより他はない。地獄の精鋭とは言え、それに劣る周囲の者達は言うまでもない。

 

『言ったであろう。わしは呪文はさほど得手ではなくてな・・・得意なのは作る方よ』

 

 ぐっぐっぐ、と喉で笑う死霊王。

 そう、彼こそは工匠ダイダロス。バベルを築き、オラリオを作り上げ、数多のマジックアイテムをこの世界にもたらし、そしてダンジョンのエネルギーを利用する超巨大魔法装置さえ作り上げた唯一無二の匠。

 相手が判っていれば、それに対抗しうる装備を作り上げるくらいは児戯にも等しい。

 

『惜しむらくは実用一辺倒のつまらん作品だと言うことだがな・・・続けて放てい!』

「HA-VE-BOYA!」

 

 死霊王の号令と、後方にいて生き残ったピット・フィーンドの咆哮が交錯する。

 再び放たれた数百の光球、だがその大半が屹立した氷の壁によって阻まれる。

 アイス・デヴィルなどが持つ"氷の壁(アイスウォール)"の魔力(呪文とはまた違う)だ。

 

『ふん、であろうな』

 

 だがそれをまたしても鼻で笑う死霊王。

 突撃してくればこそ脅威だが、壁を作って籠もるなら願ったり叶ったり。

 彼の仕事は時間稼ぎ。

 儀式が完成するまでいくらでもお見合いをしていればいい。

 

(さて、あの小僧め。やってくれるかの・・・)

 

 デヴィル達が築いた即席の氷の陣地を油断無く見やりつつ、死霊王はちらりとバベルの中段、神会(デナトゥス)の間があるあたりを見上げた。

 

 

 

 オラリオという盤面の上で繰り広げられるそれら全てを、無貌の巨人――狂える神タリズダンは無感情に見下ろしていた。この神に感情などと言うものがあればの話だが。

 小さきものの動向などそれにとっては興味の外。長らく封印された事に対してすら思う所はない。彼はただ、彼の存在意義を果たすために完全に力を取り戻そうとしているだけ。

 

 そのために必要な二つの鍵は揃った。神の力を秘めた、導線となるべき精霊の肉体と、かつて自らの魂の一部を封じた神器。その二つを繋げて儀式を行えば、眠れる天界の神々の本体から力を奪い、封印による磨耗で失われた分の力を取り戻せる。

 そしてまったき力を取り戻し、今度こそ世界をあるべき姿に・・・

 

 

 

 ナ ン ダ ?

 

 

 

 不意に無貌の巨人が顔を上げた。

 超存在の強大な意志の波動が、僅かに外部に漏れる。

 

 見上げた先、神にしか判らない波動が空間の一点から発せられているのが判る。

 空間が歪み、切り裂かれ、次元の壁が開いていく。

 

 

 

 オ 、 オ オ オ オ オ オ オ 

 

 

 

 歓喜の波動が洩れた。

 壁がスライドして隠し通路が現れるように、彼を閉じ込め続けた次元の檻、封印世界を外部から遮断していた障壁が開いていく。

 力を取り戻しても次元障壁、あるいは世界そのものを破壊するには大きく消耗せざるを得ない。それだけにタリズダンの喜びは望外のものであった。

 

 もう少し、後もう少しで彼の霊体、存在全てを通せるだけの穴が開く。

 そうすれば――

 次の瞬間、再びタリズダンは人間で言う驚愕に近いものを味わうこととなった。

 

 

 

「なんだ?」

「GGYO!?」

 

 タリズダンが最初に空を見上げ、不審の波動が洩れたところで、先ほどの日食ほどではないにしろ両軍で上空を見上げるものがある程度出た。

 だが彼らの目には何も映らない。すぐに戦いは再開される。

 タリズダンの歓喜の波動が洩れてもなお、彼らには何も感じ取れない。

 

 人類はもちろん、高位の悪魔ですら存在の尺度としては人族ら有限生命体(モータル)とそこまで差はない。

 一つの世界、あるいは一部とは言え次元世界の物理法則すら支配できる神やアスモデウスとはそこが違う。

 そして三度目にタリズダンが放った驚愕の意志の波動。

 そこで死すべき人の子らは、ようやく何が起きているのかを理解した。

 




死霊王が作ったのはエピックハンドブックに載っている「スタッフ・オブ・コスモス」の廉価版のイメージです。
本来は《最強化》(エピック呪文修正特技。期待値3.5のダメージが固定値12になる)したチェイン・ライトニング、メテオ・スウォーム、サンバーストを発射するスタッフですが、作中では《最強化》メテオ・スウォームのみ、かつエネルギータイプを冷気に変換しております。
(デヴィルの大半は火炎無効ですので)
一発の氷球のダメージは直撃すれば96点、魔石付きピットフィーンドのHPは1000くらいなので、冷気抵抗を抜いても十数発当たれば大体沈みますな。
なおヴァンパイア連中はウィザード呪文は使えませんので、全員〈魔法装置使用〉技能で無理矢理使ってます。
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