ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
宙の一点に光がまたたく。
そこを中心として巨大な――タリズダンにも匹敵するような人型の
タリズダンが復活したときとは逆にあっという間にそれは実体を備え、確固たる質量を持った巨人として大地に降り立つ。
「お・・・」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
翼を持つ白銀の兜。同色の輝くチェインメイル。胸には銀の雷の紋章。黄金のバトルアックスを掲げ、そは高らかにおのれの名を謳う。
『我は無敵のハイローニアス! 全次元界のため、そこに住まう全てのもののため、義によって汝を討つ! 無貌の邪神よ、再びとこしえの封印の中に戻るがいい!』
雷声が天地に轟いた。
"無敵なるもの"。"神々の騎士"。"大パラディン"。
フェリスの出身世界であるオアースにおける武勇と名誉の神、ハイローニアス。
邪悪や混沌と闘う、秩序や善の神々の先鋒たる勇士の神。
それが今、次元の壁を越えて封印世界に姿を現していた。
『兄者はいつもずるいのう。我とて一番乗りの名乗り上げをしたかったものを』
続けて実体化した姿がある。
全身を覆う黒い騎士甲冑。フルフェイスの兜で顔は見えない。六本の手には剣。胸には六本の赤い矢の紋章。腕の数を除けば「黒騎士」という単語をそのまま具現したかのような巨神。
それと対を成すかのような白銀の巨神戦士が振り向き、快活に笑う。
『ははは、許せ、弟よ! 次があればお前に譲ろう!』
『前の時も同じような事を言っていたと思うがな』
兜の下で、黒き殺戮の神がにやりと笑った。
"戦もたらすもの"、"悪の勇者"、"地獄の旗手"。
ハイローニアスの弟にして宿敵、悪の騎士道、黒き名誉を司る専制の神、ヘクストア。
それが一歩踏み出し、兄の横に並ぶ。
『だが許そう。いくら憎んでも飽きたらぬ兄ではあるが、共に戦うとなればそれでも心が高鳴るのを抑えきれぬ』
『うむ。私も同じ気持ちだ、弟よ』
たがいに不倶戴天の仇敵である兄弟神が武器を構えて並び立つ。
全次元世界の危機に際し、今この時だけは手を取り合って共通の敵に挑む。
それはまさしく神話のひとこま。
だが見よ、死すべき人の子よ。
その場に立つのは果たしてこの兄弟神だけであろうか?
正視するのも叶わないほどまばゆき光に包まれた白い老人こそは至光なる太陽神ペイロア。あらゆる神の中でも最上位に位置する一人である、善と恵みを与え邪悪を滅ぼす神。
黒さび色のローブに青さび色の髪を流す赤い骸骨、手には赤く輝くエネルギーの大鎌。『死神』以外に言い表す言葉もない、死の具現にして全ての生を憎むもの、死の大神ネルル。
ピンク色の肌に巨大な角、ルビーの錫杖に豪奢なローブ。九層地獄の全てを統べるもの、魔神の王。アスモデウス。
トカゲの下半身を持った巨大な双頭の猿、しかしその腕があるべき場所からは四本の触手が生えた異形。圧倒的な破壊と混沌のオーラを振りまくそれこそはデヴィルと相対する混沌の悪魔デーモンの頂点、
甲冑に鎚矛を持った白髭の戦士は正義の護り手聖カスバート。
粋に帽子を傾けた吟遊詩人風の男は狂える大魔道師、笑いとユーモアの神、かつて人間だったもの、ザギグ。
青黒い馬にまたがり、オレンジで裏打ちされた黒いローブをまとう漆黒の騎手は苦痛と疫病の神インキャビュロス。
平和の神ラオ。死の魔王オルクス。エルフの創造神コアロン・ラレシアン。ドワーフの守護神モラディン。白金の竜王バハムート。五色五つ首の邪竜神ティアマト。
英雄神コード。大自然の具現オーバド・ハイ。片目のオーク神グルームシュ。黄昏の貴婦人ザン・ヤイ。盾の乙女マイアヘン。終わりなき旅人ファラングン。
善悪を問わないあまたの大神小神に魔神、魔王。
オアースそのものである世界の女神ベイオリーを除けば、ほとんど全てのオアースの超越存在がここに肩を並べていた。
そして魔術の大神ボカブが神々の中から一歩踏み出す。
『今ここに約定は果たされた。我らの力、かつてのおおいくさには及ばねど、それでも力を封じられた今のお主であれば勝目もあろう。再び封印されるがよい、タリズダン』
オ 、 オ 、 オ 、 オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ !
タリズダンの怒りの波動が封印世界を揺るがした。
「・・・あー、何とか間に合ったか」
これこそイサミの仕組んだ最後の切り札、世界を越えた神々の
もちろん封印世界の神々が総力を上げて作り上げた次元障壁を貫通して神々を呼び寄せることなど、人間の魔術師に過ぎないイサミには手に余る仕事だ。
神のような巨大な存在が通れる程の穴を、それも力ずくで開けるとなれば、本物の神々ですらその力の大半を消耗してしまうだろう。
そこでイサミは、障壁を作る神々に自ら穴を開けさせることを思いついたのだ。
地上にある全ての神々を集め、加えて天上にいる神々とも交信し、彼らの力の方向を制御誘導してやることで、積層的に作られている次元障壁のパーツを少しずつ「ずらし」て、障壁の薄い部分を人為的に作り出す。
加えてオアースの神々とも交信し、タイミングを合わせて外から力を加えることで本来起こりえない巨大な隙間を発生させたのだ。
その後に起こった神々の来訪は向こう側が自発的に移動してきたものであり、イサミの呪文とは関係ない。タイミングを見計らってこちらに攻め込むよう神々と魔王たちを説得し、束ね上げたボカブとモルデンカイネンの功績である。
とは言え神々の力を律し、精密に組み上げられた次元障壁を限定的とは言え解析して間隙を作り出すのもまた、なまなかの大魔術師に成せる業ではない。
「よくやったぞ、イサミ。お前が孫でわしも鼻が高いわい」
イサミの腕をポンポンと叩くのはゼウス。
「あの場に立って、タリズダンと再び打ち合えないのは残念じゃがの」
「もう歳なんだ、そう言うのは若い連中に任せておいたらどうだい?」
「ぬかせ、小僧ッ子めが!」
呵々と笑い、今度は孫の背中をバシンと叩く。
にやりと笑ってイサミが拳を作る。ゼウスもまた。
互いの拳を軽く打ち合わせ、祖父と孫は気持ちよさそうに笑い合った。
「さて、それじゃ行ってくる。じいちゃんたちはここで待っててくれ」
「例の黒い剣士か」
儀式に乱入してきたロビラーを思い出しつつ、ゼウス。
イサミは頷いて更に言葉を続ける。
「それもあるけど、アイズ・ヴァレンシュタインってロキ・ファミリアの冒険者がね。
多分だけど放っておいたらヤバいことになる。それに・・・」
「それに?」
「彼女、ベルの想い人でね。見捨てる訳にもいかないだろ」
一瞬目を丸くした後、吼えるようにゼウスが笑った。
「ハハハハハハハハ! そうか、ベルも目覚めたか! 善きかな善きかな! これで後四、五人も引っかければ一人前じゃな!」
「現状それに結構近い状況ではあるんだけど・・・結局そんな器用な真似が出来るやつじゃあないんだよなあ」
イサミが肩をすくめるのとほぼ同時に、祖父と孫の間に割って入ってきた者がいる。
仏頂面のロキだ。
「・・・神ロキ、何か?」
「あー、ひょっとしたらウチの子らだけでは厳しいかもしれんし、オノレらがアイズたん救出に手を貸す分にはまあ大目に見といたる。けど、成功したからってアイズたんはやらんからな! アイズたんはウチの嫁や!」
忌々しそうに吐き捨てるロキに、祖父と孫が顔を見合わせる。
「との事ですが、解説のゼウスさん。これは一体どう解釈すべきでしょうか?」
「そうですな実況のイサミさん。お気に入りの娘を助けに行きたいけど、ロキ・ファミリアの戦力ですら難しそうなので出来れば手を貸してほしい、ということを言いたかったのではないでしょうか。ロキちゃんってば素直じゃないんじゃからもうぉ~」
ビキッ、とロキのこめかみに血管が浮かぶ。
貧乳神が何かを言い出そうとするより一瞬早く、表情を柔らかくしたゼウスがロキに語りかけた。
「じゃがお主とフレイヤには感謝しておるぞ、ロキ。よくぞオラリオを支えてくれた」
「・・・ハァー? 何のことかいなー? そんな約束なんて全然知らんのやけどぉー?」
一瞬言葉に詰まるが、次の瞬間ことさらにいやみったらしい表情を作ってゼウスとイサミをねめつけるロキ。
「ねえねえこれがツンデレって奴かな、じいちゃん。俺初めて見たよ」
「うむ。だが愛嬌も乳もない性悪の年増がやっても全く効果はないがの。やっぱこう言うのは青春真っ盛りのピチピチした美少女じゃないといかんの!
後わし約束とか一言も言ってないんじゃけど。語るに落ちてるんじゃけど」
「マジでブッ殺すぞオドレら!?」
わざとらしくひそひそ話のポーズを取る二人に、がーっとロキが吼えた。
神魔の軍団とタリズダンが対峙する。
オアースの神々と魔王が武器を構え、無貌の巨人が大きく両手を広げた。
超越者同士の戦いが始まるのだと誰もが思った瞬間、それらの姿が一斉に消え失せる。
一体何がと人々が戸惑う中、暗闇に覆われた天空に一筋、銀の光がきらめいた。
それが合図だったかのように、赤、黄色、青、金、銀、黒、紫、橙、緑などの無数の、色とりどりの光が天空に次々とまたたく。
闇の中で音もなく静かにきらめく光の洪水は、それが封印世界の運命を賭けた超越者達の死闘であることを知らなければ、たとえようもないほどに美しかった。
ハイローニアスはマイティ・ソー、ヘクストアはロキを脳筋にしたような感じで書いてます。
後スパロボWのテッカマンブレードとエビル。