ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
その美しい光景の下で、人と悪魔の死闘が続く。
バベルの周辺にわだかまった吸血鬼達の群れを悪魔達は突破できず、冒険者側もバリケードを突破されてしまったために自然その周囲で乱戦になっていた。
上位冒険者たちが手当たり次第に数を減らし、大多数を占めるLv.2の三級冒険者たちが槍ぶすまや臨時のバリケードで、なんとかモンスターたちを食い止めようとしている。
一方もう一つの主戦場になっている北西のストリート、ギルド本部。
ここを護っているのはガネーシャ・ファミリアとその他のオラリオ外から来たファミリアの精鋭達(と、言ってもレベルの高い者でせいぜい3だが)。
そしてかつてゼウス・ヘラに続く大ファミリアであった大海原の守護者、ポセイドン・ファミリア。
首領はいかにも海の漢と言った日に灼けた肌、たくましい体躯に短い髭を刈り込んだ壮年に見える男。
その二つ名も【
実力でオッタルに匹敵し、経験では上回る大戦士の振るう黄金の三叉戟の前に、無限に続くかと思われるデヴィルやモンスターたちも突破口を見いだせない。
ピット・フィーンド達でさえ、この場で生き残った六匹全員が集まってようやく勝負になる有様だ。
ポセイドン・ファミリアはさらに四人のLv.6に加え、十人を超えるLv.5。
それに"
『鏡』越しにその様子を見てロイマンが喜び、この様子ならギルド前の敵を殲滅してバベルに援軍を出せるかと思われたあたりで「それ」がやって来た。
「・・・なんだ?」
目の前の角悪魔の頭を砕き、僅かに息をついたシャクティが、かすかな震動を感じて周囲を見渡す。
「どうした、お姉さま・・・お?」
彼女と義姉妹のちぎりを(無理矢理)結んだアマゾネス、イルタがアイス・デヴィルの胴体をぶった切り、同様に怪訝な顔をした。
震動。また震動。
周囲の戦闘の喧騒が収まりつつあるのに反比例して、地面を揺らす震動は徐々に大きくなっていく。
二人は周囲を見渡すが、この近辺はギルド本部やヘファイストス・ファミリア本店をはじめとして10mを越すような高い建物が多く、視界が悪い。
「え・・・?」
「お、おい・・・嘘だろ」
次第に大きくなる震動に、二人以外にも気付く者が増え始める。
「おい、あそこ!?」
冒険者の一人が、通りの両側に立ち並ぶ高層建築の向こう側を指さす。
ずしん、と。
六階建てのヘファイストス・ファミリア本店より高く、姿を現したものがある。
「・・・・・・・・・・!」
指さした者をはじめ、上を見上げる余裕のあったほとんどの者が絶句した。
「それ」が大通りに出てくるときに肩をぶつけられ、ヘファイストスの店が半ばから崩れ落ちる。幅8mほどの「狭い」通りから大通りに出てきたのは生ける肉の城の如き怪物。
ぶくぶくに太った人間とティラノサウルスを掛け合わせ、巨大な口しかない頭を据えて尻尾の先に毒針を追加し、腹にも巨大な口をつければこのような感じになるだろうか。
ざっと20mは軽く越える体躯。本来の三倍近い大きさに巨大化したそれは、当然相応の強大化を施されている。
デヴィルの生体兵器、生ける城。強化種ガルガトゥラ(Ghargatula)。
「ちっ」
舌打ちしながらもどこか不敵な表情を崩さないクリュサオル。
大地を揺らしながら、大通りの中央を歩いてくる強化種ガルガトゥラとクリュサオルとの間の空間がさっと開いた。悪魔も人も踏みつぶされないように左右に分かれる中、クリュサオルただ一人のみがその前に立ちふさがる。
「悪いな、オッタル、フィン・・・援軍はちょいと遅れそうだ」
大海の勇者が黄金の三叉戟を握りなおした。
戦いは続く。
バベル西側は変わらず乱戦状態。
その中でロビラーとオッタルが誰も――同じフレイヤ・ファミリアの一級冒険者ですら――介入できない超絶の戦場を作り出している。剣戟のそれとは思えない重低音が、周囲に何者をもよせつけない。
その周囲では"女神の戦車"アレン・フローメルをはじめとする他の一級冒険者がピット・フィーンドを抑え、
ヴァンパイア達の砲撃で足が止まったデヴィル達は、フレイヤ・ファミリアとそれ以外の中級冒険者たちに甚大な被害を出しながらも、戦力をすり減らしていった。
一方でバベル東側の戦闘は急激に収束しはじめていた。
ロキ・ファミリアの到着である。
レヴィスとの決着をつけたリューも一緒だ。
「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃーっ! 」
「くたばれクソ悪魔ども! こっちゃあ頭に来てんだ!」
「しゃっ!」
「ウオオオオオッ!」
「壁よ!」
「「ウィン・フィンブルヴェトル!」」
ティオネのナイフが数本、別のピット・フィーンドの鱗を貫いて突き立ったところで、フィンの黄金の槍がその喉をえぐる。
それでも踏みとどまって怒りの叫びを上げる魔将であったが、次の瞬間、同時に響いた厳冬の呪文が少なくないデヴィルやモンスターを氷像に変えたのを見て僅かに怯んだ。
「へっへー。やっぱり壁は火力呪文と併用してこそよね」
ニヤリと笑うのは、そろそろ三本目のワンドを使い切ろうかというフェリス。
氷の壁で敵と味方を分断し、大火力を叩き込むことで最大限の戦果を叩き出す。
派手ではないが重要なサポートを果たし、大通り南側の屋根に並び立つエルフの師弟にウィンクを送る。
リヴェリアが微笑みと共に一瞥を返した。
「あっ、貴様ベート! それがしの作ったフロスヴィルトをまたしてもぶっ壊しおったな!」
「相手はあの黒竜だぞ! 武器の一つや二つ壊れねえわけがねえだろうが!」
「おのれぇぇぇえ! 次は特別料金ふんだくるぞ!」
まあ、こんなやり取りも交わされてはいたが。
もちろんヘスティア・ファミリアの面々も奮戦を続けている。
ベルが単身相手取っていたピット・フィーンドが、ダメージの蓄積に耐えられずについに倒れた。
レーテーとシャーナが二人がかりで押さえ込んでいたピット・フィーンドも、シャーナの大盾に爪が刺さって抜けなくなったところをレーテーの大戦斧で片腕を落とされ、かなりの所まで押し込まれている。
ロキ・ファミリアと共に合流したリューも前衛として駆け回りつつ、並行詠唱の大火力呪文を叩き付けて八面六臂の大立ち回りを演じている。
指揮をするアスフィやリリ、支援をするゲドや春姫、雑魚(と言ってもLv.5相当が大半だが)を何とか食い止めるアイシャも、デヴィルの軍団に押されつつ、何とか生き残っていた。
「しかし俺オグマ様のところの団員なんだけど、なんかここんとこヘスティア・ファミリア扱いされてない?」
「言ってる場合か! 暇なら魔剣でも振れ!」
割と本気で頭に血を昇らせてシャーナがゲドを怒鳴りつけた。
「・・・おかしいな」
最後のピット・フィーンドの魔石を砕いた後、フィンがぼそりと呟いた。
レーテーとシャーナが相手取っていた個体もベルによって倒されており、周囲は掃討戦に移行しつつある。
「何がですか、団長?」
「彼らの目的はイサミ・クラネルが進めている儀式の妨害だったはずだ。恐らくあの巨神たちの召喚がそれだったと思うんだが、だとしたら何故彼らは戦いをやめない?
まだ儀式は終わっていないのか、それとも悪魔達には他の目的があるのか?」
「えーと・・・」
「まあ、今考えても仕方がないか」
答えに窮するティオネから目をそらし、溜息をつく。
再び槍を構え、自らも掃討戦に加わろうとしたところで、周囲に白い炎の柱が数十本立った。
生き残りのデヴィル、モンスターたちを的確に捉えたそれは本日何度目かの極寒の地獄を生み出し、生き残っていた敵をほぼ一掃した。
「なるほど、どうやら儀式が終わってないという線はなくなったか」
見上げるフィンの視線の先、
バベルの北側、30階の高さに浮遊しながらイサミは周辺の戦況を素早く確認する。
東西共に雑兵はほぼ片付けた。東側はもう生き残りはいない。西側はピット・フィーンドと一部の高位デヴィルが残っているだけ。この分であればさほどの時間もかからず掃討できるだろう。
こちらの視線にめざとく気付いてニヤリと笑う黒ひげの中年は無視。
北西のギルド本部周辺は巨大な悪魔と黄金の三叉戟を振りかざす戦士の壮絶な一騎打ちが繰り広げられている。周囲の戦況もさほど悪くはない。
さすがに数km先ではイサミの術も・・・届かないではないが、巻き添えを出さずに敵だけ打ち倒すのは難しい。そもそもあのレベルのモンスターでは、イサミの術をもってしても倒すのにそれなりの時間がかかるだろう。
加勢すべきかどうか僅かに悩み、イサミは決断した。
クリュサオルはあれだ、アクアマンと思えば大体間違ってない(ぉ