ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-08 水晶の繭

「それで? 策はあるんだろうね?」

 

 槍を担いで、この状況でのんびりとすら思える口調でイサミを見上げるフィン。

 

「無論ですとも。まず全力でぶっ放して、生き残った連中を皆殺しにして、そちらのお嬢さんを助け出してオラリオに帰るんですよ」

「なるほどわかりやすいね」

 

 フィンをはじめ、何人かの口元に苦笑が浮かんだ。

 もっとも、レーテーやティオナなど「そーだね!」といきり立つ者も中にはいる。

 

 くすくす、と涼やかな忍び笑いが聞こえた。

 ふわり、と花の匂いがする。

 地の底の地獄には似つかわしくない、野に咲く可憐な花の香り。

 

「・・・・グラシア!」

 

 その場の全員の目が数km先の巨大な祭壇の上に集中する。

 不思議な事に低レベルのリリたちにすらその姿ははっきり見えたし、鈴のような声は明瞭に響いた。

 

「こんにちは勇者たち。タリズダン完全復活の場へようこそ。

 来てくれなかったら寂しくて泣いてしまうところだったわ」

 

 艶やかな笑みと共に投げつけられる挑戦的な言葉。

 イサミもそれに軽口で返す。

 

「来て欲しいならちゃんと招待状を出してくれないとな。

 そうでなかったらもう少しわかりやすく目印を出しておいてくれ」

「あら、あれだけあれば十分だと思ったんだけどね。実際来てくれたわけだし?

 それに、ロビラーも使いに出しておいたでしょう?」

 

(・・・色々と漏らしたのはロビラーの意図だと思っていたが、グラシアの意志も働いていたと言うことか?)

 

 イサミが一瞬思考を走らせたその合間、ベルが叫んだ。

 

「そんなことはどうでもいいんです! アイズさんを返してくださいグラシアさん! 大体アイズさんをさらってどうするつもりですか!」

 

 くすり、とグラシアが再び微笑む。

 イサミなどに向けるのとは別種の、ほほえましさを含んだ笑みだ。

 

「馬鹿ねえ、悪いことに決まっているでしょう。私は悪人なんだもの!」

「・・・・・・・・・・け、けど」

 

 かつて自身が否定したその言葉を、今のベルは否定しきれない。

 それを楽しそうに見やりながらグラシアは言葉を続ける。

 

「私がここにいるのはタリズダンの完全復活のため。

 今のタリズダンは封印から解放はされたけれども、完全に力を取り戻した訳じゃない。だから、たかが一世界の神や魔王たちにすら押さえ込まれている。

 けど、タリズダンの魂を分けたこの"黒き炎の水晶(クリスタル・オブ・エボンフレイム)"と、原初の精霊の肉体があれば、眠れるこの世界の神々との導線が出来る。

 世界の維持に全力を注ぐ無力な神々から【神の力】を吸い取ってかつてのタリズダンが甦る!

 そうなれば、もはやオアースの神々だけでは抑えきれない!

 全次元世界を揺るがす大戦が再び始まるのよ!」

「「!!」」

「どうしてそれを!」

 

 フィン、リヴェリア、ガレスの顔色が一斉に変わった。

 怒りを含んだリヴェリアの声が地底に響く。

 その怒りを心地よさげに受け止め、グラシアは艶然と――そして邪悪に微笑む。

 

「馬鹿ねえ。私たちだってこの世界で百年以上は活動してるのよ? それなりの情報網は当然あるし――何より彼女は暴れすぎたわ。精霊の力を使いすぎた。

 これほどまでに純粋な精霊の力を持つ存在なんて――()()()()()()()()()()()()()()()なんて、よほどの馬鹿でもなければ正体は一目瞭然よ」

「「「・・・・・・・」」」

 

 黙り込むリヴェリア。唇を噛みしめるフィン。唸るガレス。

 一転して戸惑った表情になったベルが、兄と、三首領と、グラシアの顔を交互に見る。

 

「ど・・・どういうこと?」

「それは・・・」

 

 イサミの脳が高速回転し、59階層の堕ちた精霊の言葉から、答えを推測する。

 言いよどむフィンにかぶせて、イサミの言葉が続いた。

 

「恐らく彼女の母親――アリアが精霊だったということだろう。精霊は神の写し身。本来なら人との間に子供は生まれないはずだが、多分彼女の母親は自分の体を半分『ちぎって』アイズの体にしたんだ」

 

「だからアイズの体には極めて純粋な精霊の血が流れている・・・ほとんど精霊そのものと言っても過言ではないかも知れない。

 原初の精霊というのは今のその辺の街中の精霊のように肉体を持った、物質に縛られた存在ではなく。より霊的な、神に近い存在だ」

 

「そして神が似姿として自ら作った存在だとするなら、その性質はかなりの所まで神に似ている・・・恐らくは分体(アスペクト)に極めて近しい存在。

 だとするなら、その存在そのものが神とのリンクとして意味を持つ」

 

「恐らくタリズダンは、端末、あるいは分体である緑の触手が精霊を取り込んだときにそれに気づいたんだ。恐らくは堕ちた精霊がそのテストベッド。緑色の胎児はその副産物。

 確立した技術で今度こそタリズダンを完全再臨させる――そんなところか?」

 

 ぱち、ぱちとまばらな拍手が響いた。

 

「まあ大体正解ね。85点は上げてもいいわ」

「また85点か。答え合わせはしてくれないんだな」

 

 苦笑しながら見上げるイサミに、グラシアは楽しげな笑みで返す。

 

「甘ったれるんじゃないの。弟くんならともかく、あなたを甘やかして上げる理由はどこにもないわね」

「やれやれ、好かれたことだ」

 

 苦笑の度を深めながら肩をすくめる。

 その表情をふと変えて、イサミはフィン達を見やった。

 

「・・・まあ、抜けた所を自分なりに考えるとすれば、なぜ神の代理である原初の精霊などと言うものが神々の降臨する前はいざ知らず、この時代に存在しているのかという所ですが」

「・・・・・・」

「・・・」

 

 無言のリヴェリアとガレス。

 僅かに間を置いて口を開いたのはフィンだった。

 

「彼女は・・・ゼウスからロキが預かった子供なんだ」

「じいちゃんが?」

 

 ん? といぶかしげにフィンの眉がひそめられる。

 

「じいちゃん?」

「それは後で。それで、どういうことですか?」

「僕も詳しく知っている訳じゃあないが・・・彼女は千年前からやって来たんだ」

「千年!?」

 

 ゼウスがロキに語ったところによれば、アイズの父親は英雄譚に語られる大英雄アルバート。

 あの黒竜の片目を奪った銀の剣士その人だ。

 そして母はともに英雄譚に語られる原初の大精霊アリア。

 いかにして人間と精霊との間に子供が出来たかと言うことについては、ほぼイサミの推測通り。

 

 片目と引き替えに黒竜がアルバートのパーティを全滅させた時、アイズとその母アリアは黒竜に『食われた』。

 しかし精霊であるアリアは自らをアイズを守る為の「場」と変えた。

 その後千年間アイズは幼子のまま黒竜の腹の中で眠り続け、ゼウス、ヘラ両ファミリアが黒竜に挑んだときに『吐き出された』。

 ゼウス・ファミリアの生き残りがそれを見つけたとき、彼女は透き通った卵のような水晶の繭の中で昏々と眠り続けていたと言う。

 

 幸運だったのはそれを見つけた団員が「巫女」とも呼ぶべき体質の持ち主で、繭に触れたときに断片的ながらアリアの思念と記憶を読み取ることができたことだ。

 彼女はそれをゼウスに伝え、「繭」を残して死んだ。

 直後ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアに「追放」されたゼウスはそれらのいきさつと共に「繭」をロキに託し、そして数年後「繭」は開いてアイズは目を覚ました――

 

 

 

「うそっ! それじゃアイズって千歳のおばあちゃんなの!?」

「ティオナさん、問題はそこじゃないです!」

 

 話を聞いたティオナのはなはだズレた第一声に、自身も動揺しながらしっかりツッコミを入れるレフィーヤ。

 イサミと三首領を除くその他の面々は、驚きの余り声も出ない様子だった。

 ぱちぱちぱち、とグラシアの、今度は切れ間ない拍手が響く。

 

「大正解。百点を上げましょう。まあその辺を知ったのは私たちもごく最近のことだけれどもね」

「黒竜を手に入れて、か」

「そういうこと」

 

 恐らくは黒竜に直に何らかの占術を使い、そのへんの情報を引き出したのだろう。

 黒竜の体内に精霊の力を発する何らかの残留物が存在していたのかもしれない。

 そこまで考えて、グラシアを見上げるイサミの視線が厳しい物に変わる。

 

「それで? ご親切に種明かしをしてくださったお姫様は何をお考えなのかな?」

「簡単な事よ。想い人や仲間を取り戻すために戦うのもそれはそれで戦う理由としては十分だけど、いきさつを知っていた方がもっと戦いに身が入るでしょう?

 だから全力で戦って――美しく散りなさい」

 

 これまでで最高に艶っぽい笑みを浮かべ、グラシアは右手をさっと振り下ろした。

 

「■■■■■■■――――!」

 

 ドラゴンの咆哮が響き渡る。

 五色の邪竜たちが一斉に空に舞い上がった。

 

「GDAY-GOHA!」

「「「「「「VE-DA!」」」」」」

 

 地獄語の号令に、一斉に雄叫びを返す悪魔の戦士たち。

 槍を構えた魔性の騎兵が、槍衾を作る異形の歩兵たちが整然と、だが怒濤のように突撃してくる。

 鋼鉄の規律と血の秩序によって統制された地獄の軍団。

 秩序の悪魔たるデヴィルにしか成し得ない人外の統帥。

 それは、あたかも地平線が津波となって襲いかかって来たようにも見えた。

 

 圧倒的な物量。覆しようのない数の暴力。

 それも雑兵ではない、一体一体がLv.4からLv.5相当の力を持つ悪魔の精兵たち。

 いかに質が量を上回るのがこの世界の常識とは言え、数倍数十倍ならまだしも数千倍の差を覆せるだろうか?

 

 できる。

 悪魔に圧倒的な物量があるならば、それを上回る圧倒的な火力で押しつぶせる存在がいる。

 その男イサミがその圧倒的な火力を、ただの一言で発動させる。

 

「"神罰のまなざし(ヴェンジフル・ゲイズ・オブ・ゴッド)"」

 

 その一言で、地底の大空洞に滅びがもたらされた。

 目に見えない破壊の波動。

 それがイサミを、正確に言えばその双眸を中心に同心円状に広がっていく。

 

 その波動に触れたものは、ことごとくが消滅した。

 分子レベルで分解され、目に見えないほどの微細な塵しか残らない。

 さしわたし数kmに渡って密集布陣していた地獄の軍団が、半円状に広がる波動と共に消滅していく。

 

 それは空中でも変わらない。

 空に舞う五色の邪竜たちが次々と、抵抗すら叶わずに分解消滅していく。

 怪物の王でさえ、この滅びからは逃れられない。

 無慈悲に。淡々と。そして圧倒的に。

 

 滅びの波動が地底の地獄を覆い尽くしたとき、イサミ達以外でそこに残っていたのは、ピラミッドとアイズ、グラシアとティアマト、竜達の中でもひときわ巨大だった赤白黒青緑の五匹の竜と数体の悪魔だけだった。




"神罰のまなざし(ヴェンジフル・ゲイズ・オブ・ゴッド)"の威力は、味方側のネームドだとオッタルとクリュサオル、ガレスなら運が良ければ生き残れるかな?くらいです。他の連中だとセーブに成功しても無理。
死霊王とフェルズ? あいつら後衛職なので・・・
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