ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
なんだろう、ハシャーナとガネーシャ様の会話、書いてて妙に楽しい。
「さて」
今にも自殺しそうなハシャーナをとりあえず落ち着かせた後、イサミが真剣な表情になる。
「今回の件、ガネーシャ様には何かお心当たりがありますか?」
「うむ、わからん! そして俺がガネーシャだ!」
「はい、ありがとうございました」
予想通りの答えを軽くいなす。
確かにすぐ慣れるようであった。
「まあ気になる事はないでもないが、今回の件にはおそらく無関係だ。やはりその宝玉の関係と考えていいだろうな。
それとその黒ローブは詳しくは言えんが、悪人ではない。これは間違いないだろう」
「教えてくださる気はないと」
「残念だが約束しているのでな。ガネーシャ誠実!」
ガネーシャが何度目かの妙なポーズを決めたところでぴくり、とハシャーナが再起動する。
「それで・・・俺はこれからどうすりゃいいんだ? 元に戻っていいのか?」
「難しいところですね」
「うむ、その赤毛の女はおまえの顔は知っているのだろう? 何かの拍子に知られてしまったら、今度こそ殺されてしまうかもしれん」
「ましてやハシャーナさんはレベル4ですしね。
赤毛の女があの黒ローブ並みの情報網を持っていた場合、既に素性を知られている可能性だってないとは言えません。
やはりハシャーナ・ドルリアは死んだか行方不明ということにしておいた方がいいのでは」
ふむ、と顎に手を当てて考えるガネーシャ。
イサミが言葉を継ぐ。
「リヴィラでは身元不明者という扱いでしょうから問題なさそうですが・・・神様は眷属が死ぬとわかるんでしたっけ?」
「うむ、恩恵によって神と子らはつながっている。・・・こればかりは何度経験しても慣れないものだ・・・」
宙を見据え、遠い目になる神。
イサミもハシャーナもあえて言葉を挟もうとはしない。
ややあってガネーシャが視線を戻した。
「よし、イサミ・クラネル。ヘスティアと会える場を設けてはくれないか。ハシャーナの処遇についてはそこで話したい」
「ああ、なるほど。わかりました。それならひとっ走り行ってきます。うまくいけばまだ起きてるでしょう」
「頼むぞ。ハシャーナは最低限の荷物をまとめておくのだ」
「はぁ・・・?」
ハテナマークを浮かべるハシャーナを置き去りにして、二人は何やら通じ合ったようであった。
そしてガネーシャが雰囲気をやや真剣なものに改め、イサミを見る。
「それとだ、イサミ・クラネル。俺がおまえを信じたのは、ヘスティアがおまえを信じているからだ。それを忘れるな」
「? それはどういう?」
「それは・・・いや、やめておこう。俺から言えるのは、ヘスティアの信を裏切るような真似はしないでくれと言う事だけだ」
「それは言われるまでもなく。それに、あんな神様を裏切ったら、良心の呵責が半端じゃないですよ」
肩をすくめておどけるイサミに、にやり、とガネーシャが笑みを浮かべる。
ハシャーナとよく似た、好漢の笑みだった。
「その言や良し! そして最後に一つだけ言っておこう――俺が、ガネーシャだ!」
「それじゃ失礼しますね。すぐ迎えに来ますから、ハシャーナさんは荷物をまとめて置いてください」
「お、おう」
この短時間で完全に慣れきってしまったイサミに、ハシャーナが僅かにたじろぐ。
次の瞬間、イサミの姿は部屋の中から消えていた。
案の定夜更かししていた主神をひっぱりだし、イサミは幻馬で再び「アイアム・ガネーシャ」に向かっていた。
「まったく、そろそろ寝ようと思ってたんだぜ? 明日も朝からシフト入ってるのに・・・」
「大丈夫ですよ。さっきかけた呪文で、二十四時間は睡眠も休息も必要ありませんから」
「なにそれこわい」
「副作用はありませんから安心してください」
「余計不安だよ!」
顔が引きつるヘスティアだが、実際副作用や悪影響のたぐいはない。
単純に対象を元気にするだけの効果である。
「"
「誰と話してるんだい君は」
「しかし、不気味な宝玉に謎の女に黒ローブ・・・またやっかいごとに巻き込まれたもんだね」
「すいません」
「責めてやしないさ。君のやったことは正しいよ、イサミ君。それにしても死者の蘇生? また無茶苦茶な・・・」
頭を抱えるヘスティアに返事をする前に「アイアム・ガネーシャ」が見えてくる。
なめらかな軌道で減速し、幻馬は再びバルコニーに降り立った。
中に入るとガネーシャと、何とも言えない表情のハシャーナがいた。
装備一式といくつかのずだ袋が無造作に足下に放り出してある。
「ただいま戻りました」
「俺がガネーシャだ!」
「どういたしまして。ハシャーナさんはどうしたんです?」
微妙に渋い表情のまま、ハシャーナが足下を見下ろす。
「そこに重そうな袋があるだろ? 例の仕事の後金、俺の部屋の机の上に置いてあった」
「・・・」
義理堅いのか、それとも皮肉か。
思わずイサミもハシャーナと同じような表情になって眉間をもむ。
(そういえば、ルルネへの報酬も、ちゃんと置いていったなあ・・・)
金袋に飛びついて、これは私のものだと主張するルルネを思い出し、イサミが更に渋い顔になった。
ハシャーナとイサミが微妙な表情になっている間に、ヘスティアがガネーシャの前に立つ。
「久しぶりだね、ガネーシャ」
「うむ、夜分にすまんな、ヘスティア! 事情は聞いているか?」
「大体の所は」
腕を組んだガネーシャが一つ頷く。
「ならば話が早い。単刀直入に言うが、ハシャーナを"改宗"させておまえのファミリアに移籍させてはくれないか?」
「はぁーっ!?」
驚愕の声を上げたのは、ヘスティアではなくハシャーナであった。
「ちょ、そりゃないでしょうぜガネーシャ様! まさか二人で遊郭に行ったとき、俺が取った女の方が好みだったのをまだ根に持ってるんですかい?! ありゃコイントスで俺が勝ったからでしょうが!」
「何を言うか! あれは確かにむかついたが、その様な事でおまえを追い出したりはせん! 俺はガネーシャだぞ!」
「何をやってるんだ君たちは・・・というか、処女神たるボクの前でそういう話をしないでくれるかな」
視線の温度が急低下したヘスティアをイサミがまあまあとなだめている間、もう一方ではガネーシャがハシャーナに丁寧に説明していた。
「つまりだな、ハシャーナ。おまえが我がファミリアでハシャーナ・ドルリアとして活動することは――少なくとも当分は――できん。
その女が現れたら、我がファミリアの誇る一級冒険者たちでもおまえを守れるかどうか」
「そりゃ、まあ」
不承不承ハシャーナが頷く。
我が意を得たりとガネーシャも大きく頷いた。
「ならばいっそ、よそに移籍した方がよかろうと思ったのだ」
「新しくガネーシャ・ファミリアに加わった冒険者ということにしても、知り合いの多いここではボロが出る可能性も高いでしょうし、そこへ行くとウチは名前すらまだ知られてない眷属二名の零細です。
それに冒険者稼業を続けるならステイタス更新が必要でしょうが、いちいちこちらに戻っていたらばれる可能性が高くなります。
"改宗"は必須でしょう。そう言う事ですよね、ガネーシャ様?」
説明を追加するイサミがちらりとガネーシャの方を見る。
象頭の神は動揺しつつも頷いた。
「う、うむ・・・俺がガネーシャだ」
「この野郎! そこまで考えてなかったな!? 絶対に思いつきだろう!」
「そ、そんな事は無いぞ! おまえは自分の神を疑うのか! 俺も考えてたぞ・・・半分位」
「嘘つけ! いつも思いつきとノリで行動するくせに! このろくでもないホームだってそうじゃねえか!」
主神に食ってかかる眷属という珍しいものを見つつ、イサミが背後のヘスティアを振り返る。
「そうなんですか、神様?」
「・・・まぁ大体ね」
「あんたやっぱり天界でもそんなんだったんだな?!」
「ヘスティアーっ?!」
絶叫するガネーシャに何度目かの胡乱げな視線を向けて、ふとイサミは奇妙なことに気づいた。
部屋の柱や梁などにびっしりと描かれ刻まれている紋様が、【神の恩恵】で刻まれるそれと妙に似ているのだ。
神界の意匠か何かなのかなと興味深げに見守るイサミであったが。
「このちゃらんぽらん脳みそ風船神がぁーっ!」
「ヘルプ! ヘスティアヘルプ!」
「たまには君も痛い目に・・・いや、それでどうにかなるようなら君じゃないか」
「そのとおり! 俺はガネーシャゆえにガネーシャなのだ!」
「そう言う所がだなあーっ!」
目の前で行われるスラップスティックな騒動がイサミを物思いから引き戻した。いい加減呪文も勿体ないしそろそろ殴って止めるかとイサミが思い始めた頃、ようやっとハシャーナの追求が止まる。
「はーっ・・・まあいいですよ、もう。ここでどれだけ言ったところで治りゃしねぇんだろうし」
「うむ、俺がガネーシャだ!」
「少しは反省とか学習とかしろよ、あんたは!?」
胸を張るガネーシャにハシャーナが突っ込むが、今はそれもむなしい。
「まあともかく、ここにいられないのはしょうがねえが、やっぱり俺はガネーシャ・ファミリアのハシャーナ・ドルリアなんだ。
わがままだとわかっちゃいるしヘスティア様にも申しわけねぇが、よそに世話になるにしても、俺はこの神の眷属でいたい」
拳を握るハシャーナに、ヘスティアが優しげな笑みを浮かべる。
一方ガネーシャは困りながらもうれしそうに言葉を重ねた。
「おまえの気持ちにガネーシャ超感激! だがな、これはおまえの命に関わることなのだ。
冒険者にとってステイタスの更新ができないのはかなり致命的ではないのか?」
「まあそりゃあ・・・それでもねえ」
困ったようにぼりぼりと頭をかくハシャーナ。
らちがあかないと見たか、イサミが口を挟む。
「俺としても、ハシャーナさんが改宗して俺とパーティを組んでくれると非常にありがたい・・・」
「よしわかった! おまえに頼まれたんじゃ嫌とは言えねえ! 何せ命の恩人だからな!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
イサミの言葉を遮り、あっさり手のひらを返すハシャーナ。
「どうしようヘスティア。ガネーシャなんだかとっても切ない」
「ま、まぁ、子供達の決めたことだし・・・ね?」
どこか寂しそうなガネーシャの腕をぽんぽんと叩き、慰めるヘスティアであった。