ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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みなさま、よいお年を。


22-09 クラネル兄弟、奔る

 ごぼり、とイサミの喉が鳴った。

 口元から血が吹きこぼれると同時に目、耳、鼻からも冗談のように大量の血が流れる。

 体中で毛細血管が破裂し、少なくない量の血が指先からしたたり落ちた。

 

「イサミちゃん!?」

「ゲド、エリクサーだ!」

「ははははいっ!」

 

 慌ててイサミの頭からエリクサーをかけ、また飲ませようとするレーテーとシャーナ。

 ダフネ、カサンドラ、リリ、ゲドが四人がかりでエリクサーを供給する。

 されるがままのイサミが、大丈夫だと言うように一本、親指を立てた。

 

 伝説級呪文"神罰のまなざし(ヴェンジフル・ゲイズ・オブ・ゴッド)"。

 正確に言えば、今イサミが使ったのはそれを範囲型――視界内の任意の対象に効果を及ぼせるようにした改良版だ。

 純粋な破壊の波動を放つそれは"物質分解(ディスインテグレイト)"の呪文にも似て、破壊の波動に耐えきれなかった全てを分子レベルにまで分解する。

 血を吐いたのは強力すぎる呪文の反動だが、イサミの馬鹿馬鹿しい耐久力からすればさほど致命的なものではない。

 

 

 

「やって・・・くれたわね」

 

 こらえはしたものの、さすがに効いたのかグラシアが苦悶の表情で身を折った。

 その横では五つ首の魔竜が手負いの獣めいた怒りの咆哮を上げている。

 

「"我願う! 回復を!"」

 

 グラシアの指の願いの指輪(リング・オブ・ウィッシュ)の二つめのルビーが光り、砕ける。

 生き残っていたグラシア達全員のダメージが見る見るうちに回復していった。

 

 

 

 ぱちん、とイサミが指を鳴らす。

 それとともに顔や服に付いていた血糊がすっと消えた。

 すうっ、と深呼吸して気息を整える。

 

「それじゃあ向こうさんも準備が出来たことだし、行きますか。

 ベル、グラシアは任せる。お姫様を助ける役目は譲ってやるよ」

 

 にやりと笑いかけるイサミに対して、顔をやや赤らめながらも真剣な表情でベルが頷いた。

 その背中で何かが猛烈に発光していたが、フィンとイサミ以外は誰もそれに気づかない。

 

「じゃあ兄さんは・・・」

「当然ティアマト、あの五つ首の竜のほうだな――死ぬなよ」

「うん」

 

 視線は前に向けたまま、イサミが右拳を横に突き出す。

 同じく視線を前に向け、ベルが左拳を同様に突き出す。

 二つの拳がコツン、と。空中でぶつかり合った。

 

 

 

「おい、俺達は置いてけぼりかよ?」

「アイズは僕たちの仲間なんだけどね?」

 

 にやにや笑うシャーナ。軽い口調ながらも僅かに挑発的なフィン。

 レーテーはぷっと頬を膨らませ、レフィーヤは何やらわめいているが無視。

 

「なぁに、冒険者の鉄則はご存じでしょう?」

「つまり――」

 

 隣のベルと視線を交わし、互いにニヤッと笑う。

 

「「早い者勝ち!」」

「あっ!」

 

 誰かが叫ぶ暇もあらばこそ、兄弟は同時に駆け出した。

 

 

 

 兄弟が駆ける。駆ける。駆ける。

 そのスピードはロキファミリア最速の【凶狼】も、オラリオ最速を謳われる【女神の戦車】も、【エアリアル】を発動したアイズすら凌駕している。

 おっとり刀で追いかけるヘスティア、ロキ両ファミリアの誰もがそれに追いつけない。

 

 その二人に前方から迫るものがある。

 ベルに迫るのはピット・フィーンド。だがオラリオで戦った同族と比べてその体躯は二回り以上も上回る。目測で1.5倍、5m近くにも達するか。

 加えて並の同族に比べ圧倒的に発達した筋肉と、禍々しく巨大化した角。

 右手にはその巨躯に相応しい巨大な戦棍(モール)が握られている。

 恐らくは"名有り(ネームド)"。オラリオの一級冒険者に匹敵するような、悪魔の英雄。それも先のイサミの伝説級呪文すら耐えた強靱な意志と肉体の持ち主。

 

 イサミ目がけて一直線に降下してくるのは、ティアマトには及ばぬものの30mの巨躯を誇る赤い竜。

 "偉大なる竜(グレートワーム)"と呼ばれる最強クラスの竜、それも竜族の中でゴールド・ドラゴンと並び最強を誇るレッド・ドラゴンの雄。

 恐らくはティアマトの愛人である赤白黒青緑の五匹の巨竜の一匹、あるいはその分体(アスペクト)

 急降下してくるそれは勢いも相まって城、あるいは山が降ってくるようにしか思えない。

 

 "名有り"のピット・フィーンドが3mの戦槌を振り下ろす。

 その速度はLv.6のフィンの目をもってして辛うじて捉えられるレベル。

 

 赤き巨竜(グレートワーム)が大きく口を開ける。

 グレートソードよりも長く太い牙がずらりと並ぶ上下のあぎとは一直線にイサミを狙っている。

 

 閃光が煌めいた。

 

 

 

 《ヘスティア・ナイフ》から迸った紫の閃光は巨魔を袈裟に切り上げ、その体を両断していた。

 頭部と胸の半分、左腕を失った体がどうと倒れ、次の瞬間砕かれた魔石と共に塵になる。

 "英雄の一文字剣(アルゴ・ストラッシュ)"の一閃が5mの巨大悪魔をただの一撃で屠った。

 

 イサミの手から迸ったのは四条の白銀の輝き。

 それはグレートワーム・レッドドラゴンの巨躯にかわしようもなく吸い込まれると、瞬時に全身を凍結させた。

 《元素体得:冷気》を施した《最強化(インテンシファイ)》《高速化(クイッケン)》《分枝化(スプリット)》《二重化(ツイン)》《エネルギー(エナジー)上乗せ(アドミクスチャー)(ファイア)(エレクトリシティ)冷気(コールド)(アシッド)》《極天の光線(ポーラー・レイ)》呪文。

 最強の光線呪文にありったけの増強を乗せた絶対零度の青白き閃光。

 

 凍結した赤い鱗が真っ白な霜に覆われる。

 浮力を失ったその体がイサミの手前の地面に落下し、煌めくダイヤモンドダストを残して砕け散り、消滅した。

 そのきらめきの中、兄弟は再び走り始める。

 

 

 

 イサミがいきなり笑いだした。

 どうしたのかと驚く弟に、イサミはベルの記憶にもちょっとないような楽しそうな笑顔で笑いかける。

 

「どうしたのって、お前、考えてもみろ! 今俺達は初めて、兄弟揃って冒険をしてるんだぞ! しかも敵は異界の魔王と邪竜神!

 とらわれのお姫様を助け出すために先頭切って駆け出している!

 英雄譚にもそうそうないような、素晴らしいシチュエーションじゃないか、ベル!」

「・・・・・・・・・・うん!」

 

 ベルもまた、破顔一笑する。

 走る二人の前には五体の"名有り"の魔将達と青緑白黒四体のグレートワーム・ドラゴン。

 いずれも一撃で屠られた同族を目の当たりにして、最早油断の欠片もない。

 二人との接敵を待ち構え、それぞれが強化(バフ)を自らや仲間に施している。

 

 だがそれは二人も同じ事。

 高速化した呪文を、あるいは無詠唱の速射呪文を走りながら自らに施している。

 これまでの戦いで疲労と負傷を蓄積していたベルも、イサミのウィッシュで完全に癒され何も残っていない。

 

「待て待て待て待てー!」

「俺達を忘れんな!」

「!?」

 

 後ろからの声に、兄弟が思わず振り向く。

 見ればいつのまにか、ヘスティア、ロキ両ファミリアの冒険者たちが少し間を置いて追随してきていた。

 高レベルの走者たちについて行けないのかリリとアスフィは空を飛び、春姫やダフネたちはイサミの与えたアイテムで出した幻馬(ファントム・スティード)にまたがっている。

 

(あ、そういえば"加速(ヘイスト)"を忘れていたな)

 

 恐らくフェリスの"加速(ヘイスト)"呪文で移動速度を上げて追いついて来たのだろう。

 ピットフィーンドと赤竜を屠るために数秒立ち止まったさいに距離を詰められたのだ。

 

 取りあえず"加速(ヘイスト)"呪文を自分とベルにもかけ、再度振り向く。

 大剣を肩に担いで疾走するシャーナが、代表するかのように口を開く。

 

「よう、それでどうすんだ!」

「俺はあの五つ首のドラゴン、ベルはもちろん祭壇最上層のグラシアとアイズだな」

「じゃあレーテー達はあのドラゴンだね! ロキ・ファミリアの人たちはあの悪魔?」

 

 面頬を上げたレーテーが満面の笑みを浮かべる。

 実際レーテーとシャーナには『竜の壺』攻略用にイサミが作った対竜装備があるため、ヘスティア・ファミリアがドラゴンたちに当たるのは間違っていない。

 が、それで収まらないのがロキ・ファミリア(の一部)だ。

 

「ザッケんなコラァ! 俺達を差し置いて、てめえがアイズを助けるだとぉ?!」

 

 後続の中でもひときわイサミ達に肉薄するベートが吼える。【戦争遊戯】以来、クラネル兄弟への敵意が増したように見えるのは気のせいではあるまい。

 

「そう・・・です・・・! アイズ・・さん、は、私、たちが・・・!」

 

 一方でティオナに手を引かれて息も絶え絶えで追随しているレフィーヤ。

 レベルと敏捷度の差で、ほとんど空中に浮かぶ吹き流しのようになっている。

 槍を担いでベートに続くフィンが、これは流石に余裕を見せていた。

 

「まあ、そうだね。何と言ってもアイズは僕たちの仲間なんだから。とは言え・・・」

 

 と、走りながら器用に肩をすくめるロキ・ファミリア団長。

 にやっ、とイサミが笑った。

 

「冒険者は早い者勝ち、違いますか?」

「なんだよねえ」

 

 フィンが苦笑で返す。

 笑みを深くしたイサミの、視線が(ベル)に向く。

 

「だとさ」

「うん・・・ごめんなさい、フィンさん! "飛行(フライ)"!」

 

 謝罪を受けて更に苦笑を深めるフィンの目の前でベルが大地を蹴り、矢のように彼方へ飛び去る。

 同時にこちらは笑いながらも無言でイサミが黒曜石の大地を蹴る。

 

 通常の"飛行"の呪文ながら、背中でまばゆく光るスキルの力によってあり得ない速度を叩き出す弟と、無数の強化と"不死鳥の外套"の力によってこれもあり得ない速度で飛翔する兄。

 見る見るうちに離れていく二人を見て、狼人が歯がみをした。




モール持ちのピット・フィーンドの元ネタは悪魔系サプリ「Fiend Folio」のサンプルネームドモンスター、「BELSHAZAR(ベルシャザール)」です。
元データでは2.4mの通常サイズ(ぉのモール・オブ・ティタンを持っていましたが、強大化して大きくなったので、武器も巨大化させています。
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