ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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明けましておめでとうございます。
この話ももうすぐ完結。
よろしくお付き合いのほどをお願い申し上げます。



22-10 九層地獄の魔将達

「JE-ZhoG! Fo-GHa…」

「RE-Di! DeM-Vho-Li!」

「!」

 

 兄弟に対する反応は対照的だった。

 即座に反応してベルを迎撃しようとする魔将達を、グラシアが一喝。

 飛び上がった、あるいは飛び上がろうとしていた魔将達は視線を前に向け、上空を通過するベルを素通しする。

 彼らの視線の先には、全力で疾走しつつも戦闘陣形を整えて挑みかかるロキ・ファミリア。

 

『『『『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』』』』

 

 一方で四匹の巨竜たちは、一切の躊躇なくイサミに襲いかかった。

 残った中では青竜と並んで最大の体躯を誇る緑竜が正面上から、白竜がその下から、青竜と黒竜はそれぞれ直線状の雷撃と酸のブレスを吐きつける。

 

『!?』

 

 だが届かない。

 緑竜と白竜の牙、爪、翼、尾の全力攻撃(フルアタック)を全て流れるような飛行機動でかわし、拡散していないとは言え数mの直径と正確無比な狙いを兼ね備えた青竜と黒竜のブレスをも完全に回避する。

 四匹の巨竜をすり抜け、目の前にあるのは五首の魔竜ただ一匹。

 

「てやーっ!」

『VOA!?』

 

 身を翻してそれを追おうとした四匹。それをかすめるように回転する何かが二つ、鋭く飛来する。

 散開して飛来物をかわすものの、その時にはイサミとの距離は大きく離れてしまっていた。

 

「イサミちゃんの邪魔は・・・させないよっ!」

 

 回転する飛来物・・・レーテーの二丁大戦斧が軌道を変え、駆けつけた真紅の甲冑のアマゾネスの手元に戻る。

 

「ちっ、美味しいところ持って行きやがって」

「とにもかくにも、まずはこいつらを先に行かせないことです。みなさん、よろしいですね?」

「「「「応!」」」」

 

 アスフィの音頭に、ヘスティア・ファミリアの精鋭達が声を揃えて応じた。

 

 

 

「行くぞ! ロキ・ファミリア突撃っ!」

「「「「「おおおおーっ!」」」」」

「おーっ・・・」

 

 楔型の陣形で接敵するロキ・ファミリア。

 珍しく陣頭で吶喊する団長の号令に、息も絶え絶えの約一名を除いて喚声で返す。

 横に立つリヴェリアが、肩で息をする弟子を何とも言いがたい顔で見下ろしていた。

 なおヘスティア・ファミリアの低レベル組は別口で移動手段を持っているため、レフィーヤのような無様はさらしていない。

 

 そんな無様さとは無関係に、ロキ・ファミリア(+アルガナ、バーチェ、椿)対魔将五体、ヘスティア・ファミリア(+リュー、ゲド)対グレートワーム・ドラゴン四匹、そしてベル対グラシア、イサミ対ティアマトの構図が完成する。

 全ての戦線で、ほぼ同時に激突が起きた。

 

 

 

 ロキ・ファミリアの前に立ちはだかるのは"名有り"の魔将五体。

 見ようによってはベルとグラシアの間に邪魔が入らないようにしているようにも見える。

 

 3mほどの巨躯。四本の腕に鮮血のしたたり続ける二本のハルバード。角に牙、漆黒の甲冑に身を固め、口からだらりと垂らした腕ほどもある舌には無数の秘術的シンボルが刺青されている。真言の悪魔ロゴクロン。

 

 青白い肌に赤い翼、黒い騎士甲冑に剣と盾を携えた身長2mの美女。堕天使という言葉がぴったりくるそれはかつてのエンジェルを祖先に持つ種族、エリニュス。

 

 山羊髭を蓄え、上等な服を着た壮年の人間の紳士に見える何か。ただし小さな角、赤い尻尾、足には蹄。人を誘惑し堕落させる詐欺師にして策士、ファルズゴン。またの名を"魂を収穫するもの(ハーヴェスター・デヴィル)"。

 居並ぶ同族達と違い、今この時でも微笑みを絶やさず、ちょっと見にはただの人型生物でしかないその姿が、この大空洞の底においては逆に不気味さをかもしだしている。

 

 一方でこちらは完全に人間の女性にしか見えない何かもいる。

 グラシアに比しても遜色ない美しい顔立ちに、背中に流れる栗色の長髪。貴族のような服を着た男装の麗人だ。

 ファルズゴンと違うのは、吹き出す妖気を隠そうともしないところ。姿は完全に人間だが、どんな鈍い人間でも目の前の美女がただの人間だとは思うまい。

 

 そして最後の一匹。

 身長5m、つるりとした黒い皮膚で全身を覆い、背中に竜の翼を生やした人間型悪魔。

 シンプルでいかにもなその姿からは、しかし周囲の魔将達と比較してすら圧倒的なプレッシャーが放たれている。

 あのロビラーにも匹敵するほどの。

 

 神と悪魔の血を引く忌み子。

 魔界に追放され、その出自ゆえに同族の悪魔達にも忌み嫌われ、魔界の魔王たちの座すら脅かしかねないほどの強さを持つ"忌まわしきもの(アボミネーション)"。

 個体名すら持たないそれはただこう呼ばれる。"地獄なるもの(インファーナル)"と。

 

 

 

『vado-lug-nhoza!』

 

 インファーナルの繰り出した一発の呪文が戦闘の火ぶたを切った。

 突き出した両手から放たれた光球が宙を飛び、吶喊するロキ・ファミリア前衛達の中央で炸裂し、直径50m近い爆発が彼らを包み込んだ。

 

「あちっ!」

「冷たい!?」

「シビれる!」

「鎧が腐食するじゃと?!」

 

 いくつかの、全く矛盾する叫びが上がる。

 伝説級呪文"地獄の火球(ヘルボール)"。

 イサミが火・冷気・電撃・酸の各属性を呪文に付与するのに似ているが、こちらは最初からその様に構築された呪文だ。

 互いに相殺し合うはずの四つの属性が同時に犠牲者を責めさいなむ、地獄の炎。

 イサミの呪文ほどではないにしろ、魔石の力を乗せたそれはリヴェリアの防御呪文があってすら、相応のダメージを冒険者たちに与えていた。

 加えて他の魔将達の放つ"流星雨(メテオ・スウォーム)"や"邪気の雲(アンホーリィ・ブライト)"も降り注ぐ。

 

 だがそれで冒険者たちの足が止まることはない。

 くすぶる煙をたなびかせ、まとわりついた氷を払い落とし、痺れる手足に活を入れ、武具や皮膚から異臭が立ち上ってもなお、その勢いは止まらない。

 

「ロキ・ファミリア続け!」

 

 もはや悠長に後方で指揮を執れる相手ではない、最初から全力。

 突進する巌の如きドワーフ重戦士と共に、その刃の向かう先は相手の最強戦力たるインファーナル・・・ではない。

 男装の麗人にしか見えない謎の女悪魔だ。インファーナルにはガレスが単身向かっている。

 

 最強のコマに最強のコマを当てるのではなく、最強のコマを敵方で二番目に強いコマに、二番目に強いコマを敵方の三番目に・・・そうして局所的に有利を作り出す。

 それがフィンの策だった。

 その策を支えるのがオラリオ最強の耐久力を持つ超重戦士、ガレス・ランドロック。

 味方が敵の一角を崩すまで、恐らくは最強のドラゴンをも上回るその猛攻をたった一人で凌がねばならない。

 

「何、無茶は慣れておるわ」

 

 にやりと不敵な笑み。

 大戦斧と大盾を構え、魔王にも比すべき悪魔に単身向き合う。

 "忌まわしきもの"が天に向かって咆哮した。

 

 

 

 フィンと共に謎の女に向かうのはティオネティオナのアマゾネス姉妹。

 ティオナはいつも通り、愛しき雄と共に戦えるティオネの士気はうなぎ登りだ。

 

 それを忌々しげに横目で見て舌打ちするアルガナはエリニュスに。

 その頭の中にはもう、女堕天使の喉を一刻も早く食いちぎってフィンに合流することしかない。何となく察したバーチェがこっそり溜息をついた。

 

 四本の腕で二本の斧槍を構えるロゴクロンにはベートと椿。この状況では椿ですらやや力不足だが、Lv.5の冒険者を遊ばせておく余裕はない。

 悪魔紳士ファルズゴン、そしてリヴェリアとレフィーヤ、ラウルらサポーター達は一歩下がって後方支援。

 九層地獄の魔将達と、迷宮都市最強の一角が正面からぶつかり合う。

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