ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-12 悪魔騎士デロラス

「やるナァ」

 

 数度の攻防を終え、にやりとアルガナが笑う。

 好敵手を見つけた戦士の笑みだ。

 笑いこそしないが、バーチェもそれに近いものを覚えている。

 

 強敵であった。

 アルガナとバーチェ、どちらか一対一では恐らく負ける。

 逆に二人がかりなら僅かに上回っているだろう。

 だがしかし、この黒い騎士甲冑をまとった堕天使はとにかく「堅」かった。

 

 心臓を狙って突き込めば、僅かに身をひねって鎧の曲線で攻撃を滑らせる。

 ならばと鎧の薄い喉を狙えば、左手の盾が動いて攻撃を僅かに――しかし打撃を与えられない十分最小限に狙いをずらす。

 黒い甲冑と騎士盾の防御力もさることながら、恐ろしく防御がうまい。

 戦いが始まって以来、どちらかといえばむしろ押しているはずなのに、二人がかりで一度も有効打を与えられていなかった。

 

 アルガナ達が知るよしもないが、エリニュスは本来種族としてそう伸びしろのある悪魔ではない。

 デヴィルとしての力を磨くだけでは早晩頭打ちになる。

 ゆえにそれをよしとしないこのエリニュスは剣の道に活路を求めた。

 

 秩序にして悪、黒き騎士道の神なるヘクストアに帰依し、騎士(ナイト)の道を歩んだ。

 より力のあるデヴィルに仕えて偵察兵や従者、あるいは愛人として身を立てる同族を横目に、黙々と剣の腕を磨いた。

 今や彼女はピット・フィーンドすら打ち倒す地獄の騎士として名を馳せている。

 次元を越えて巡り会った好敵手たちに、兜の下の口元が緩んだ。

 

「?」

 

 エリニュスが背中の翼を広げて数歩分を飛び退る。

 いぶかしげに足を止めた姉妹の視線の先で、甲冑の堕天使は右手の剣を顔の前に垂直に構えた。

 

『異界の好敵手よ。仕える陣営を異にすると言えども同じ武の道に生きる同胞たちよ――汝らを我が敵と認めよう』

「喋っタ!?」

 

 流暢な共通語に目を丸くするアルガナとバーチェ。

 僅かに笑みをこぼし、堕天使は挑戦の口上を述べる。

 

『我は九層地獄の騎士、"地獄の旗手"に仕えるもの、"不壊"のデロラス! 

 これよりは全身全霊で貴公らを打ち倒す。貴公らもまた、全身全霊をもって打ち掛かって来るがよい!』

 

 挑戦の言葉と共に心地よい高揚感がデロラスの全身を包む。

 策も搦め手もなし、正々堂々の戦い。敵がそれらを使うとしても自分は使わない。

 ゆえに自分に一切の非はない。自分が正しいという確信が心と体に力を与える。

 

 これこそ名誉に生きる騎士の強さ。そこに善悪は関係ない。

 白であろうと黒であろうと、名誉を守り、秩序を奉じ、誇りに命をかける者が騎士。背負うもの、守るものがあるからこその強さだ。

 

「・・・・・・・・・・・・ハッ」

 

 アルガナが獰猛な笑みを浮かべる。

 流儀は違っても、同じ戦士の名誉に生きる闘国の戦士。

 オラリオに来て僅かに変化したとはいえ、幼い頃から叩き込まれてきたその魂はそうそう変わりはしない。

 

「我こそは闘国(テルスキュラ)最強ノ戦士! 【女神の化身(カーリマー)】アルガナ!

 覚えておくがイイ、これより貴様の喉笛を食いちぎる者の名ダッ!」

「同じくカーリー様に仕える【紅の女闘士(レッドソニア)】バーチェ。姉共々相手となろう」

 

 かすかに笑みを浮かべるバーチェ。

 ニヤリ、とデロラスもまた笑った。

 三者三様の獰猛な笑み。

 本気の激突が再開する。

 

 

 

「・・・ええい、うぜえっ! その図体は見かけ倒しか! 斧槍は飾りか! かかって来やがれ!」

「落ち着け【凶狼】。しかしこれでは埒が明かんな」

 

 デロラスとアルガナ達とは対照的に、ある意味「盛上がらない」展開になっているのがベート・椿とロゴクロンの組み合わせだった。

 3mのたくましい巨体に四本の腕、二本の斧槍を同時に操りながら、当初からロゴクロンは防御に徹している。

 

『Xenshenasha-prietokana’hazhulakhan!』

「ぐっ!?」

 

 人の腕ほどもある舌がうごめき、ベート達には全く意味不明の言葉を発する。

 すると肌が内側から裂け、血が吹き出す。傷は重くないが、治療しない限り出血が続くとなれば放ってはおけない。

 それがいくつも重なるとなれば尚更だ。

 

 あるいは他の魔将達に対して何らかの魔力が飛ぶ。

 そして自分からは決してベート達に仕掛けない。

 つまり、いかにも武闘派な外見に反しこの魔将はバッファー、そして長期戦を得意とするスリップダメージ使いであるのだった。

 

 "真言の術(トゥルースピーク)"。

 あらゆる存在が持つ「真の名前」を看破し、それに影響を与える「真の言葉」を用いて他者に影響を与える術だ。

 その最大の特徴は、魔力や精神力を消費しないこと。

 「真の言葉」を正確に発することが出来るかどうかという発動率の問題はあるが、ただ言葉を発するだけであるので集中力と喉が耐えうる限り、術を連発できる。

 

 一方で欠点は三つ。

 全般的に術の効果が低いこと、先に挙げた術自体に失敗の確率があること、そして対象が敵でも味方でも、高レベルの存在であるほどに発動が難しくなることだ。

 真の言葉を用いて世界を改変するのがこの術の要点だが、レベルの高い存在はつまりそれだけ存在の密度が高い。

 つまりそれだけ言葉を正確に、かつ強い意志を込めなければならないのだ。

 

 もっともベートや椿、それどころか他の魔将を相手に安定して術の効果を発現できているあたり、この個体にとって後者二つは実質弱点にはなっていない。

 効果の低さも同じだ。

 仲間へのバフとベート達への攻撃を両立させ、傷を回復しつつベート達を引きつけているとなれば、バッファー兼タンクとしては十分な仕事をしていると言えよう。

 

「うぜえうぜえうぜえうぜえうぜえーっ!」

 

 嵐のようなベートの乱撃がロゴクロンに襲いかかる。

 しかし術をメインにするとはいえ、この悪魔も決して見かけ倒しではない。

 ベートの攻撃の大半、椿の斬撃のほとんどを二丁斧槍と重甲冑で防ぎ止めている。

 

(くそっ、まるであの虎縞野郎だぜ!)

 

 「豊穣の女主人」の前の大通りでイサミと初めて戦った時の事を思い返す。

 あの時はカウンター狙いに徹されてひたすらうざい弱者の戦術と思ったものだったが、後で本質的には術者だったと聞かされて愕然としたのを覚えている。

 

 手加減されていた!

 舐められていた!

 何よりもロキ・ファミリア最速にして一番槍を任じる俺が、術者如きにあそこまで追い込まれた!

 

 そして戦争遊戯での再戦と、圧倒的な敗北。

 名誉挽回どころではない。遊ばれた上に、瞬殺された。

 死にたくなるほどの屈辱。

 今でも、思い出しては視界が真っ赤になる。

 

 視界の中で、真言の悪魔とあの時のイサミが重なった。

 殺す。こいつは殺す。絶対に殺すとベートは決めた。

 

 

 

『わたくしの人生は開かれた本のようなもの。この腹の底の底までお見せしましょう。

 わたくしグラシア様にお仕えします、ファルズゴンのファール。

 "睦言の"ファールなどと呼ばれております。

 あちらにおわす名高き"不壊"のデロラス殿の如く、互いに正々堂々と雌雄を決しようではありませんか』

 

 礼服を着たデヴィルがリヴェリア達に向かって深々と一礼した。

 

「丁寧な挨拶痛み入る。私はロキ・ファミリア副首領リヴェリア・リヨス・アールヴ。だが戦場ゆえ挨拶はこれまでとさせて頂こう」

 

 口上をそうそうに切り上げて、リヴェリアは詠唱を再開する。

 もちろん戦闘中と言うこともあるが、相手のぬたりとした語り口に、このまま会話を続けていては絡め取られると、そう言う直感が働いたせいでもあった。

 

『しかりしかり。誠に残念なことに、我々が敵同士なのは揺るがぬ事実。

 とは言えお美しいレディ、そしてお美しいお嬢さんがた。わたくしめがどうしてあなたがたと戦えましょうか。

 叶いますならば我々同士では戦わず、武器を取って戦う者達の勝負如何で――』

「レフィーヤ!」

「はいっ!」

 

 大げさな身振りと共に滔々と語り続けるファールを遮り、リヴェリアの指示が響く。

 いち早く詠唱を終えたレフィーヤが必中の光線魔法を放とうとして――

 

「どうした、レフィーヤ!」

「わ、わかりません・・・! 撃とうとしても、撃てないんです!」

 

 杖を構え、呪文の詠唱を終えていながらその最後のプロセス・・・力を解き放つことができない。

 素早くリヴェリアが振り返り、控えていたエルフのサポーターに命令する。

 

「アリシア! 弓であいつを撃て!」

「は、はい!」

 

 戸惑いながらも即座に反応する。

 手に持っていたポーションをしまい、素早く弓に矢をつがえて引き絞り・・・

 やはりそのままのポーズで停止した。

 

「どうした、アリシア!」

「わかりません! 撃てないんです! 本当です!」

「むう・・・?」

 

 再びこうべを巡らせたリヴェリアがファールを睨む。

 整った顔立ちに上品な笑みを浮かべ、悪魔紳士が一礼した。

 

『だから申し上げたのですよ。わたくし本来は人間の方々と契約を結ぶ商人にして代書人でございます。

 悪魔と見ると切りかかってくる方もいらっしゃいますが、我々が人と契約を結ぶことは、原初の契約によって神々も認めたもうた権利。

 よってわたくしどもは、神の力により自ら暴力を振るわない限り他者の暴力から守られているのです』

 

 教師のように、あるいは親切なセールスマンのようにファールが説明する。

 

「か、神がそんな事を認めるわけが・・・認めちゃいそうですね、その場のノリで」

「・・・」

『あ、そこ納得されるんですか。常命の方々はこの話をいたしますと大体反発を覚えられるようなのですが』

 

 眉を寄せるレフィーヤに、それに反論する言葉が思いつかないリヴェリア。

 サポーターの面々も似たようなものだ。

 ファールが意外そうな顔で首をかしげた。

 

 

 

『ともあれ、そういうわけでございます。

 私が手を出さない限りあなたがたが私に手を出すことは出来ません。

 我々が戦う必要はございませんし、前衛達の戦いが終わるまでは互いに不干渉と言うことでどうでございましょう?』

「・・・いいだろう」

 

 苦虫を噛みつぶしたような顔でリヴェリアが同意した。

 主戦場の方に向き直り、ファールがいなくなったかのように詠唱を再開する。

 悪魔紳士が微笑んで再度一礼した。

 

 ――実はファルズゴンのまとう不戦の結界は、意志力次第で打ち破ることができる。

 Lv.4どまりのレフィーヤたちでは抗うべくもないが、リヴェリアであればそれなり以上の確率で攻撃行為を行うことも出来ただろう。

 その疑問を感じさせなかったのは二人が不戦の結界の存在を実証してしまったこと、そしてそこを素早く突いたファールの話術の賜物だ。

 

 元よりファルズゴンは"魂を収穫するもの(ハーヴェスター・デヴィル)"の異名の通り、人間を甘言で惑わし契約を結ばせて魂を地獄に連れていく、ある意味最も悪魔らしい悪魔だ。

 当然話術には極めて長けている。

 

 加えてファールは盗賊系クラス"欺く者(ビガイラー)"の達人でもある。

 エリニュスと同じく種族的に伸びしろの低いファルズゴンは、しばしば盗賊系のクラスを習得して力を磨く。

 ビガイラーは虚言を弄して人を欺く専門家であり、ファールは中でも有数の達人だ。

 武力でもなく魔力でもなく磨き上げた言葉の力がリヴェリアを操り、オラリオ最強の魔導師をしてその力を自ら封じさせたのだ。




デロラスみたいなのも好きですが、ファール君みたいなキャラも割と好きです。
TRPGで出したらめっちゃヘイト集めると思いますがw

インファーナルはエピックハンドブック出典。シャイニーラは魔族サプリ「フィーンド・フォリオ」出典のネームド。
デロラスも名前だけそこから。(オリジナルのデロラスはシャイニーラと同じフィーンド・オブ・コラプションなので差別化)
ファルズゴンとロゴクロンの名前はオリジナルです。
どうでもいいですがデロラスってデラロスとしょっちゅう打ち間違います。本当にどうでもいいですが。

クラス構成等は以下の通り。
脅威度は大体の強さの目安(D&DPCのレベルと概ね対応、ダンまちでは3で割った数字が大体のレベルになる)ですが、フィーンド・オブ・コラプションは人間を堕落させるためのクラスなので、同じ脅威度でも純戦闘力はちょっと落ちたりします。ビガイラーも同様。
まあビガイラーは盗賊系のくせに限定的ながら最高レベルまでの秘術呪文が使える、ちょっとしたチートクラスなのでそこまで弱くもありませんけど。

インファーナル 脅威度26
鉄槌のベルシャザール 強大化ピット・フィーンド/フィーンド・オブ・ポゼッション3 脅威度23 ※死亡
水蜜桃のシャイニーラ パエリリオン/フィーンド・オブ・コラプション2 脅威度22
不壊のデロラス エリニュス/ナイト13 脅威度21
睦言のファール ファルズゴン/ビガイラー14 脅威度21
沈黙のベリオク ロゴクロン 強大化 脅威度20

グレートワーム・レッドドラゴン 脅威度26 ※死亡
グレートワーム・ブルードラゴン 脅威度25
グレートワーム・グリーンドラゴン 脅威度24
グレートワーム・ブラックドラゴン 脅威度22
グレートワーム・ホワイトドラゴン 脅威度21
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