ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-15 フィルヴィス・シャリア

 

 ――実のところ、フィルヴィスは最初からロキ・ファミリアの奮戦を見ていた。

 かつての恩人である【疾風】の如くフードで素性を隠しつつはぐれた悪魔や怪物を狩り、いざというときには助太刀に入れるように黒竜との戦いもつぶさに観察していた。

 そしてエネルギーの盾の魔法【ディオ・グレイル】をグライダーのように扱い、Lv.7にも匹敵するその身体能力で無理矢理にそれを制御してこの場に落ちてきたのだ。

 

「いいのか、フィルヴィス」

 

 リヴェリアの問いに、今度は体ごと振り向いて胸に手を当て、王族に対する礼を取る。

 

「オラリオに危機が迫る今、我が身一人の安寧を願って何になりましょう。

 ましてや誇り高き同族が命を賭けて戦っているのに、隠れ潜むことなど・・・たとえこの身が汚れていようとも、そこを踏み外せば、私は本当に人ならざる者になってしまうでしょう」

「うむ」

 

 真剣な顔でその言葉を受け止め、ふっとリヴェリアは相好を崩した。

 

「お前が来てくれて私も嬉しいぞ、誇り高き同胞よ。美しく気高き森の戦士よ」

「・・・はいっ!」

 

 ひときわ深く腰を折り、フィルヴィスはこのハイ・エルフの王女にさっと背を向けた。

 その目に光るものがあったことに、リヴェリアは何も言わない。

 

 

 

 戦況が大きく傾いた。

 Lv.7に匹敵するフィルヴィスの戦闘力が、拮抗していた破壊と再生のバランスを崩す。

 

 その様は華麗にして神速。

 "都市を破壊する者(エニュオ)"アポロンのかつての腹心であり、レヴィス達と同じく胸に魔石を持つ【怪人】である彼女は、だがしかし美しかった。

 ロキ・ファミリアの面々との連携も完璧にこなし、魔王の攻撃を軽やかに回避する。

 超短文詠唱の魔法のバリアが自他を護る。

 そして細身の短剣にもかかわらず、その攻撃はガレスの大戦斧にも劣らぬ痛撃を与えていた。

 

「ここが・・・使いどころだね! 【魔槍よ、我が額を穿て! ヘル・フィネガス!】」

 

 続けてフィンが切り札を切った。

 真紅に染まるその双眸。

 魔王の外皮を貫く鋭鋒がまた一つ増える。

 

 フィルヴィスが加わって少しずつ増していた魔王の傷が、見る見るうちに増えていく。

 下半身に集中するその傷は、僅かずつではあるが魔王の機動力をも奪っていく。

 

『oyo-ris leud-io!』

 

 恐らくはののしり言葉であろう何かを叫び、魔王がフィンに向かって右手の爪を突き下ろした。

 

「おおおおおっ!」

 

 鋭く、一直線に、正確に突き下ろされる貫手。

 それに合わせて一直線に突き出される黄金の長槍。

 血しぶきが上がった。

 

『Whooooooooooooooooo!?』

 

 絶叫が響く。

 魔王の右手、中指と薬指の間から長槍の黄金の柄が生えていた。

 槍は魔王の手と前腕部を一直線に貫き、肘から切っ先が飛び出ている。

 魔王の爪は、フィンの目の前15cmで止まっていた。

 

 狂戦士化したフィンの膂力と突き下ろす魔王の力、そして狂戦士化してなお正確無比に相手の攻撃と軌道を一直線に合わせて正確にその一点を穿った戦闘技術。

 それがこの絶技を可能とした。

 

 フィンの手を振り払い、魔王が右腕を引っ込める。

 黄金の長槍に貫かれた手と前腕部は固定され、手首が動かない。

 フィンはそれに逆らわず、手を離して後方に飛ぶ。

 

「団長!」

 

 クルスの声と共に白銀の、不壊属性の長槍が飛んでくる。

 振り返りもせず、フィンが右手でそれをつかみ取った。

 

 

 

『ward-nrut onero!』

 

 魔王が右腕の長槍を抜こうとして、次の瞬間左の翼を薙ぎ払い、左腕を突き下ろした。

 打ち合わせも何も無しにタイミングを完璧に合わせて突撃したのは、左前方からガレス、左後方からフィルヴィス。

 その他の面々もほとんど同時に動いている。

 

 コウモリのような翼の先端のかぎ爪が、見てもいないのにフィルヴィスに対して正確に振り下ろされる。

 一瞬フィルヴィスが足を止めた。

 

「ふっ!」

 

 鋭く振り抜いた妖精の剣が、かぎ爪の付いた翼指をすり抜ける。

 次の瞬間、暗緑色の血しぶきとともに、翼指が根元から切り飛ばされた。

 

 骨の隙間を、しかもLv.9相当の攻撃の先端を見切って正確に刃を通す神技。

 今のフィルヴィスのステイタスと技術をもってしてもまさしく離れ業だ。

 一瞬で恐ろしいほどの集中力を発揮したエルフの娘が、僅かによろめいた。

 

「もう一度やれと言われても無理だなこれは・・・」

 

 会心の笑みとともに、フィルヴィスが額の汗をぬぐった。

 

 

 

 同時に仕掛けたガレスはそのような速度を持ってはいない。

 それどころか穴の開いた大盾を捨てて、両手で大戦斧を握る捨て身の構え。

 一撃喰らうのと引き替えに相手の足を断ち割る、必殺の覚悟。

 

『ag-madnug-onihsataw!』

「ウオオオオオオオッ!」

 

 ドワーフと思えぬ、タイミングを完全に支配した神速の踏み込み。

 不埒な小生物を貫かんとする魔王の爪。

 双方全くの同時。

 

 骨を砕く音が響いた。

 分厚い最硬金属(アダマンタイト)を引き裂く音がした。

 

 ガレスの大戦斧は魔王の左足、膝のすぐ上にめり込んでいた。

 骨にまで達したのか、魔王がたまらず膝を突く。

 そして魔王の爪はガレスの鎧の背中の部分を切り裂いていた。

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 あの一瞬、ガレスは全力で斧を振り下ろした。

 当然姿勢は前屈みになり、爪は当初の攻撃目標からずれる。

 魔王の想像を超える踏み込みを見せたことにより、更に爪はずれる。

 そしてガレスの鎧の前面には無数の傷が付いていたが、鎧の背中は全くの無傷だった。

 

 つまり、ガレスは攻撃すると同時に敵の攻撃を背中の鎧で「滑らせた」のだ。

 滑らせ切れずに鎧の装甲板は裂かれたが、内部のガレスの肉体はかすり傷程度。

 

「ふんっ!」

 

 力を込めて、ドワーフの大戦士はめり込んだ斧を引っこ抜いた。

 

 

 

 ガレスが斧を引き抜くのと同時に、魔王が左腕の爪を戻す。

 

「ガレス、肩借りるよ!」

「応っ!」

 

 一瞬遅れてやって来たティオナがガレスの肩を踏み台に跳んだ。

 跳んだ先は片膝を突いて低くなったインファーナルの目の前。

 

「ふんぬぁっ!」

 

 渾身の大双刃の一撃がガードしようとした魔王の左腕の、手首から先を切り飛ばす。

 だが首には僅かに届かない。

 

「なんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ティオナが竹とんぼのように空中で更に半回転する。

 大双刃のもう片方が、先ほどと全く同じ軌跡で魔王の首に迫る。

 

「seye-eulb・・・agutoknob!?」

 

 手首から先を失った左腕でそれでも防ごうとして、魔王の体が硬直した。

 右翼の攻撃をかわして吶喊したティオネの大剣の切っ先が脇腹にめり込み、跳んだアルガナがドロップキックでその柄を押し込んだのだ。

 黒竜戦でのティオネとティオナのコンビネーションの再現。

 半ばまで脇腹に突き刺さった大剣に、さすがの魔王も一瞬動きが止まった。

 

 僅かに下がった左腕のガード、その手首のすぐ上をティオナの大双刃が疾り抜ける。

 アマゾネスの全身全霊を込めた巨大な刃が、魔王の首を切り飛ばした。

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