ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-16 不死身の魔王

 ずしん、と。

 揺るがぬ山、荒れ狂う嵐のごとくだった魔王の巨体が地に伏した。

 一瞬遅れてはね飛ばされた首が、青黒い鮮血と共に地面に落ちる。

 

「「「「うおおおおおーっ!」」」」

 

 歓声が上がった。

 前衛は武器を掲げ、サポーター達は拳を突き上げる。

 小人族とドワーフの首領二人が軽く拳を打ち合わせ、リヴェリアは詠唱を中断してふうっと深呼吸する。

 喜色満面のレフィーヤがフィルヴィスの首根っこに飛びつき、微笑んだフィルヴィスがそっと頭を撫でてやった。

 支援呪文を飛ばしていた"睦言の"ファールは肩をすくめて姿を消した。恐らくは透明化の呪文を使ったのであろうが、リヴェリア達も最早追撃する気はない。

 

「のんびりしている暇はないぞ! 全員傷を治せ! 術者はマジックポーションもだ!

 武装も出来る限り新しいものに取り替えておけ!」

 

 それらを一通り見回した後、表情を改めたフィンの鋭い声が響いた。

 団員たちも厳しい表情を甦らせ、てきぱきと動き始める。

 その様子を一瞥し、視線を周囲に走らせる。

 

 ベルは祭壇の頂上でグラシアと対峙し、イサミはティアマトの周囲を飛び回りつつ攻撃をかけ、四匹の竜に囲まれたヘスティア・ファミリアの面々は辛うじてそれらの攻撃を凌いでいる。

 

(【リトル・ルーキー】・・・いや【三月兎(マーチ・ラビット)】だったか。こちらはにらみ合い・・・兄の方は互角、かな。

 ヘスティア・ファミリアはやや押され気味。いや、階層主クラス四体を相手に、Lv.6一人でよくやるというべきか)

 

 素早く戦況を見て取り、思考を走らせる。

 当然最優先はアイズの救出だが、ヘスティア・ファミリアが全滅してしまった場合はかなりまずい状況になりうる。

 とは言え優先順位は明確だ。そう割切って命令を出そうとしたとき。

 

「ひ、ひえええええええええ!?」

 

 情けなく響いたのはラウルの悲鳴だった。

 振り向いたフィンの視界の端で、巨大なものがゆっくりと起き上がる。

 治療を終えて胸の魔石を砕こうとしていたのだろう、大双刃(ウルガ)を構えたティオナが心底驚いた表情で後ずさった。

 

 首のない魔王が立ち上がる。

 いつの間にか接合した左手にはティオナが先ほど落とした自らの首。

 右腕の筋肉が人間ではあり得ない動きでモゾモゾと痙攣し、深く刺さった黄金の長槍が吐き出される。

 手に掴まれた首が、ぎょろりと目玉をこちらに向けた。

 

 

 

 ――確かに階層主クラスだと、首をはねても魔石を砕かなければ死なないということはある。

 しかしさすがに首をはねられて、なお平然と動き続ける怪物はオラリオにはいない。

 

 "再生(リジェネレーション)"。

 腕を落とされてもすぐくっつくトロール、首を落とされてもまた新たな首が生えてくるヒュドラなど、極めて生命力の強い一部のモンスターが持つ能力だ。

 

 例えばこの二体であれば、炎や雷で傷口を焼かれない限り決して再生は止まらない。

 あるいは"物質分解(ディスインテグレイト)"呪文などの分子レベルで肉体を破壊する手段でもなければ、たとえ肉片からでもいつか再生する無限の生命力。

 

 そして魔王の再生を阻害し、とどめを刺しうる唯一のものは――「聖なる武器」、つまり善属性を帯びた攻撃であった。

 この時不運だったのはイサミとベルがこちらに注意を向けられる状況ではなかったことだろう。

 イサミは本来僧侶魔法の領分である善属性の攻撃を擬似的に再現も出来れば武器への善属性付与もできたし、ベルのナイフは善神たるヘスティアの力を帯びている。

 

 ただ地上にいたピット・フィーンドなどもこうした再生能力を持ってはいたが、それでも彼らはベル達やロキ、フレイヤの冒険者たちによって魔石を砕かれ倒されている。

 魔石は怪物に強大な力を与えるが、同時に本来存在しない致死の弱点ともなる。

 ゆえにインファーナルの再生を阻む手段が無くともさほど問題にはならない――はずだった。

 

 

 

 ばさり、と魔王が翼を広げる。空中に舞い上がったその姿が唐突に消えた。

 

「なんだ?!」

「透明化の魔法というやつだ! リヴェリア、レフィーヤ、精神力は最小でいいから火炎範囲魔法を! 指示をしたら一人ずつ撃て!」

「! わかった!」

「了解です!」

 

 フィンが素早く指示を飛ばす。

 主要ギルドの中核メンバーは、ごく大雑把にではあるが、イサミからギルドを通じて封印外世界の魔法のレクチャーを受けていた。

 

 つまり範囲攻撃が避けて通る空間があれば、そこに透明な何かがいるということ。

 イサミやフェリスのような専門家がいないこの場では最適解と言えた。

 

 リヴェリアとレフィーヤの詠唱が響く。

 空中の魔王が発しているのだろう、時折小さな火の玉が降ってきて直径12mの爆発が起きるが、まともに巻き込まれてもエリクサー一本程度の威力でしかない。

 ほとんど影響を受けないままに二人の詠唱が完成する。

 

「よし、まずはリヴェリア!」

「応! 【レア・ラーヴァテイン!】」

 

 魔王がちまちまと撃ってきた火球のお返しとばかりに、直径100mを越す巨大な炎の嵐が周辺に巻き起こる。

 

「いたよ! そこ!」

 

 真っ先に見つけたのはエルフたちに次いで鋭い目を持つアマゾネスのティオナ。

 

「ディオ・テュルソス!」

 

 指さした僅かな炎のよどみと羽音を目がけて、フィルヴィスの雷撃呪文とラウル達の矢が放たれる。

 どれほどのダメージを与えたかは判らないが、矢と雷撃が空中で弾かれ、命中したことが判る。

 

「む?」

 

 ずしん、と地響き。

 主力メンバーがその音のした地点に一斉に眼を向けた。

 続けて、間を置かずに魔王が再び姿を現した。

 げっ、とティオナが年頃の娘の上げてはいけないたぐいのうめき声を上げる。

 

「見て! あいつ傷がほとんど治ってる!」

「!」

 

 ティオナの言う通り、魔王の全身に刻まれていた傷痕はほとんど消えていた。

 フィルヴィスが切り飛ばしたはずの、左の翼のかぎ爪も元通りに生えている。

 そして、魔王が立つのはロキ・ファミリアと祭壇を遮る位置。

 

「こいつ・・・回復の時間稼ぎをしていた!?」

「クッソせこい真似をしやがって・・・!」

 

 びきり、とベートのこめかみに血管が浮かぶ。

 アイズはともかくベルにいいところを持って行かれた黒竜との戦いといい、結局まともに戦わなかった真言の悪魔といい、どうやら彼にとって今日は神経を逆なでする出来事ばかりのようだった。

 

 

 

「【ディオ・テュルソス】!」

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

「【アルクス・レイ】!」

 

 戦闘は泥仕合となった。

 互いに全力を尽くした、再びの命の削り合い。

 負傷が重なり、またしても空に逃げた魔王に対し、フィルヴィスと待機していたリヴェリア、レフィーヤの呪文が飛ぶ。

 

「よし!」

「いけます!」

 

 リヴェリアとフィルヴィスが会心の手応えを感じて拳を握る。

 はたして、レフィーヤの放った光線は手前で打ち消されたものの、極寒の冷気の束と一条の雷撃は魔王の体をしかと捉えた。

 

「!」

「なに!?」

 

 魔王の左半身を巻き込んだ冷気の束は表面を凍結させ、左腕を凍りつかせた。

 しかし右半身に命中した雷撃は、完全に通ったにもかかわらずその体に吸い込まれ、なんらダメージを与えていないように見えた。

 

「呪文抵抗で防がれた?!」

「いや、消え方が違う! 呪文抵抗で止められるなら、レフィーヤの呪文みたいに手前で雲散霧消するはず!」

 

 ざわめく冒険者達を見下ろし、悠然と宙に浮かぶ魔王。

 その口元には嘲笑が浮かんでいるようにも見えた。

 

 "呪文学習耐性(ラーンド・スペル・イミュニティ)"。

 インファーナルのみが持つ能力の一つ。その効果は一度受けた呪文に対する完全耐性。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔王は空中で羽ばたき続ける。

 左半身を覆う氷が見る見るうちに融解していき、左腕が再び動き始める。

 ラウルたちの弓が飛ぶが、Lv.6の前衛でも苦戦した表皮の前には無駄弾でしかない。

 

 左半身の氷が溶けきり、再び魔王が大地に降り立つ。

 無論、冒険者たちと祭壇を遮る位置にだ。

 

「・・・・・・」

 

 それを見ていたフィンの眉がぴくりと動いた。




富士見の魔王・・・!(GA文庫です)
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