ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
背中を晒してソファに寝そべったハシャーナの背中に、ガネーシャが指から一滴血を落とす。
白無垢のきめ細やかな肌に指を滑らせ、血の軌跡を走らせる。
すると、今まで何もなかった背中の皮膚に、碑文のような紋様と文字の集合体が浮かび上がった。
「うーん、やっぱりどこも『
「当然だろう。ステイタスの隠蔽はきわめて重要だからな」
先日その存在をイサミに教えられ、神友から教授されたばかりのヘスティアが納得したように頷く。
更にガネーシャが指を滑らせると、背中の文字群が明滅し始める。
場所を替わったヘスティアがそこにおのれの血を一滴垂らして指で炎の紋様とハシャーナの真名を記し、"改宗"は完了した。
「これで俺もヘスティアの眷属か・・・お世話になります、ヘスティア様」
「うん。どれだけの間かわからないけど、これで君はガネーシャの家族であると同時にボクの家族だ。仲良くやろうじゃないか」
「ありがたいお言葉、痛み入ります」
頭を下げるハシャーナを、にこやかに見下ろすヘスティア。
なお、この二人の背丈が大体同じくらいである。
体のボリュームには圧倒的な戦力差があるが、今のハシャーナはエルフなのでしょうがない。
「案ずることはない、ハシャーナ! ヘスティアはお前達に笑みを与えてやれる、良き神だ! 俺は彼女に全幅の信を置いている!」
「そう聞くとちょっと不安になるんですがねえ」
「元眷属からの信頼がストップ安! ガネーシャ大ショック!」
大してショックを受けてない風にポーズを決める元主神ににやりと笑いつつ、ハシャーナが振り向く。
「まあ、これで俺も同じファミリアのお仲間ってわけだ。よろしくな。
なんだかんだこの方がそういうって事は、ヘスティア様も信頼できる神なんだろうしな」
「信頼はできないけど信用はできるって感じですかね? まあやるときはやる方ですよ」
「イサミくぅ~ん、前から思っていたけど君には神に対する敬意ってものが足りないんじゃないかな? ベル君を見習いたまえよキミィ」
ジト目で腕組みしつつ、うねうね動くツインテールでイサミをぺしぺしと叩くヘスティア。
くるりと振り向くイサミの顔には型にはめたような笑みが張り付いている。
「そんなことはありませんとも。ヘスティア様には日頃より感謝しておりますよ、ええ」
「だからその笑みが嘘くさいんだよっ!」
がー! と吠えるロリ神。
ニヤッと笑ってイサミが顔の笑みを自然なものに戻した、
「いや、本当に感謝はしてますよ? ベルに贈ってくれたあのナイフ、どんな手を使ったかまあ想像はつきますけど、高かったんでしょう?
最低でも、何千万ヴァリスかはしたはずだ」
「ま、まあね・・・」
いきなりの不意打ちに、照れたようにそっぽを向くヘスティア。
その顔が僅かに赤い。
「俺はあなたの眷属で良かったと思ってますよ。ハシャーナさんも、多分そう思ってくれるはずです」
「ああ。早くもあんたが好きになりかけてきたぜ、神様」
ハモる二人に更に赤くなったヘスティアが手をぶんぶんと振り回す。
「もう、恥ずかしい事を言わないでくれよ! それから、今の話はベル君には秘密だぜ? 知ったら間違いなく気に病むからね?」
「わかってますよ。伊達にあれの兄貴をやってませんって」
ハシャーナがガネーシャに向き直った。
「それじゃガネーシャ様。ちょいと行ってきます」
「うむ。おまえには遠くに使いを頼んだことにしておく。その気になればいつでも帰って来るがいい! 部屋はそのままにしておくからな!」
「はっ! お世話になりました!」
かつての主神に別れを告げ、ハシャーナは新たな主神と共に幻馬にまたがった。
見送るガネーシャにイサミが一礼し、三人と馬の姿が消える。
ガネーシャはしばしバルコニーにたたずみ、彼らの去ったであろう夜空を見つめていた。
「それじゃ、今からハシャーナさんの部屋を作りますので、ちょっと待っててください」
「おまえマジで便利だな・・・」
「
ヘスティア・ファミリアホームの地下室。
イサミは新しい廊下とハシャーナの部屋を作る作業をしながら、自分の魔法のことを説明する。
同じファミリア、同じパーティである以上、隠せるものでもない。
ハシャーナは感心と呆れが半々くらいのていであった。
「で、これだけできて、なんでまだレベル1なんだよおまえ」
「こっちが知りたいですよ、っと、終わりましたよ」
"
ベルが移ったことで余っていた二段ベッドの上側を"
先日の余りの材木にもう一度"
この間僅か五分。
「絨毯とか壁紙とかは明日買ってきましょう。とりあえず今日はこれで」
「お、おう」
数日前は自分もこんな表情を浮かべていたんだろうなあと思いつつ、ヘスティアは生暖かいまなざしをハシャーナに送っていた。
「そういえば、名前も変えた方がいいですよね。ハシャーナって呼んでたら、どこでばれるかわからないし」
「確かにそうだなあ。でもエルフの名前なんかわからねえぞ?」
「訳があって人間の里で育てられた、ってことにするのはどうだい? そう言う事が実際にあるのかどうかは知らないけど、それなら人間の名前で通るだろう」
おお、と手を叩くイサミとハシャーナ。感心された神はふふん、と胸を張る。
「それに、いきなり別の名前に変えると戸惑うだろうし、元の名前とある程度似たものがいいんじゃないかな?」
「なるほど・・・じゃあ、ドシャーナ・ハルリアとかどうです」
「ブン殴るぞ、コラ」
「君、ネーミングセンスはないねえ・・・」
「ええっ?!」
紆余曲折の末、彼女の名前は「シャーナ・ダーサ」に決定した。
夢を見ていた。
神と邪神、悪魔と魔神、人と亜人とモンスター、全てが手を組んで一つの敵と戦う夢を。
かつて、あらゆる世界、あらゆる宇宙のあらゆる神々、悪魔、知恵持つ人と魔物のたぐい全てが、立場、恩讐、善悪秩序混沌の属性すら越えて手を組み、戦ったことがあった。
全ての世界と宇宙を破壊しようとする絶対の反存在。
その名は・・・
イサミは静かに目を開いた。
時計の針は朝の四時を示している。
「・・・・」
ベッドに横たわったまま、再び目を閉じる。
これほど明白な夢は初めてだった。
あるいはいつもヴィジョンを送ってくるあの赤いローブの老人とは別口なのかも知れないが、それはわからない。
ただ、この世界に送られた使命に関係しているのであろう事は確信できた。