ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「ほら! ほら! ほらほらほらほらほらほらほらほらぁっ!」
「・・・! っ! ・・・!」
嵐の如く、グラシアの鉄条鞭が荒れ狂う。
亀のように身を縮こまらせ、ベルがひたすらにそれを耐える。
黄金の剣は魔力を失い、兄に作ってもらった数々の魔道具も今は頼りにできない。
神のナイフと紫の魔力剣のみを頼りに、グラシアの攻撃をひたすらに切り払う。
幸いにもグラシアの鉄条鞭はアーティファクトではなかったが、だとしても地獄の匠が鍛えた業物であり、それを振るうのは魔王たるグラシアだ。
ロビラーに匹敵、あるいは凌駕するスペックで振り回しているだけで、ベルにはほとんど為すすべがない。
避ければアイズに当たるようなギリギリの間合いで右に左に振り回される鉄条鞭。
フットワークを封じられ、ベルは自分の身を盾とするしかない。
それがまたグラシアの嗜虐心をうずかせる。
ベルの鎧、そして肉体に見る見るうちに傷が増えていく。
時折紫の光をまとったナイフの一閃が鉄条鞭の先端のひとつを切り飛ばすが、元よりグラシアの鞭には九つの頭がある。短くなったらなったで一歩踏み込めばいい。
どちらにせよ、間合いが違いすぎてベルのナイフは到底届かない。
ミノタウロスに使った"
鎧の肩当てがはじけ飛ぶ。
鞭の一本をまともに受けた草摺が半ばで引き裂かれ、血しぶきと共に二つに分かれて腰からゆらゆらとぶら下がる。
咄嗟に身をかがめたこめかみを鉄の棘がかすり、ぱっと血をまき散らす。
それでもベルは耐える。
背中で燃え立つ【憧憬一途】の神聖文字が、先ほどまでよりも更に強大な力をその四肢に与え、攻撃に耐える耐久力をその肉体に与えている。
「そうよ! いい! いいわベル! あなたって本当に素敵!」
だがそれでも人の生命力は無限ではなく、思いの丈の全てをくべても魔王の力には及ばない。
右足のすね当てが肉ごと切り裂かれ、ちぎれ飛ぶ。
右足の肉をごっそりと持って行かれ、ついにベルが膝をついた。
「ぐ、ぐぐ・・・!」
ゆっくりと、見せつけるようにグラシアが歩み寄る。
太陽剣を杖代わりにして無理矢理立ち上がるベル。
だが右足の足首から下は、もうほとんど動かない。
右足以外もズタズタで、ヴェルフの打った鎧はもうほとんど鎧の体を成していない。
数歩手前でグラシアが止まる。
笑みをたたえた赤銅の瞳と、未だ折れない赤い瞳が正面からぶつかる。
「・・・・・・・・!」
ぞくぞくと、グラシアの背筋を快感が駆けのぼる。
圧倒的な格上に蹂躙されながら、なおくじけない鉄の意志。
愛する少女を守ろうとする少年の強き心。
そうした美しさを、グラシアは心底愛している。
騎士の気高き忠節、純粋無垢な愛、身も知らぬ他人のために身を投げ出す無償の献身、そうしたものに心から敬意を抱いている。
だが同時に、愛すれば愛するほどそれを砕きたくなる。
忠誠の誓いが破られる無惨を、通わせた心が裏切られる悲劇を、献身が報われずにむなしく散っていく様を、見たくてしょうがないと思ってしまう。
それが悪魔としてのグラシアの邪悪さなのだろう。
"
かつては天使であった第一世代のデヴィルが持っていた善なるものへの敬意。
あるいはそれを受け継ぎ、歪ませてしまったのが彼女の業であったのかもしれない。
ベルの意志と勇気に感じる美しさ。
それを今から砕く破壊の衝動。
矛盾した二つの快感がグラシアの背筋を駆けのぼり、また駆け下りて子宮をとろかす。
何度も繰り返したそれだが、今回のそれは過去にもそう覚えがないほどの大きな波。
前兆だけでもそれなのだから、「その瞬間」にはどれほどの快感を味わえてしまうのだろうか。
「ああ・・・本当に残念だわ、ベル。あなたはとても・・・とても美しかった」
「・・・・・・・・・・」
陶酔した目を向けてくるグラシアを、ベルが必死ににらみ返す。
ベルがどんなアクションを取ろうとも、それよりグラシアの一振りの方が早い。
アンティマジックフィールドを解除するにも、呪文を発動するのと同じ手間が掛かる。
ましてや今は右足を傷つけられ、最大の武器である機動力を殺されていた。
(なにか・・・何かあるはず・・・!)
「さよなら、ベル。愛して・・・っ!?」
右手の鉄条鞭を薙ぎ払おうとするその寸前、グラシアが飛び退いた。
ほとんど同時に立っていた場所を巨大な金属の拳が粉砕し、それと共に巨大な震動がピラミッドを震わせる。
「あ・・・・・・・あ?」
「ベル・クラネル。反魔法力場を解除するのだ! 気合いを入れて魔法に抵抗しろ!」
「あ、はい!」
上から振ってきた声。それに反射的に答えて、ベルはアンティマジックフィールドを解除する。
「"
視界の端に見えたのは、巨大な金属の柱が二本と、今のベルでは扱いきれない超高度な魔術師呪文の術式構成。
それと同時にベルとアイズを圧倒的な魔力が包む。
あらゆる魔力とマジックアイテムを分解する、暴力的なまでの解呪。
全身にしみこんでバラバラにしてくるような魔力に、ベルは辛うじて抗した。
「そうだ、アイズさん・・・!」
はっと気がついて、グラシアから視線を逸らさないままに後ろに意識を飛ばす。
「・・・・・・!」
祭壇の魔力が復活していた。
あらゆる魔力を分解消滅させる呪文に吹き飛ばされたかに見えた毒々しい魔力は、泉がわき出るように祭壇から溢れ、その上のアイズを再び濃密に犯していく。
「まさか"
ここで初めてベルが上を見上げた。
二本の金属の柱と、その上に繋がる構造体。
聞き慣れない声はその構造体の一番上から響いている。
構造体は、ひどく大雑把な人の姿をしていた。
「はじめましてだね、【
身長10mを越える金属製の人型・・・ウォーフォージド・タイタンの頭部に下半身を埋めたウォーフォージドのアーティフィサーは、どこか自嘲するように自己紹介をした。