ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
ベルが頭上を見上げてはっとした顔になる。
「フェルズ・・・あっ、兄さんが言っていたウラノス様の部下の怪しい人?!」
「・・・ああうん、否定はしないよ」
ベルがフェルズの事を聞いたのは封印外世界に行くよりも前、ベルがパエリリオンに襲われてオッタルに助けて貰ったあの夜のことで、それ以降の動向や協力については全く聞いていない。ので、こう言う反応になる。
フェルズは諦めたように溜息をついた。
「・・・・・・・・・!」
一方で一瞬の驚愕からさめたグラシアは爆発寸前の火山のようだった。
怒りと憎悪と破壊衝動が渾然一体となった悪魔の顔。
この世の悪性を煮詰めたかのような、生理的嫌悪感と恐怖を誘う顔だ。
「これまで随分邪魔されてきたけど・・・今回はとびきりよ、アーロン・ド・カニス!」
「その名前で呼ばないで貰えるかな。私はフェルズだよ」
怒りと憎悪の眼差しは変わらぬまま、グラシアの唇が高くつり上がる。
紛れもない悪魔の笑み。だがそれでも美しいと、ベルは思った。
「いいわ、"
「さて、収支が君の思い通りであるならいいのだけどね。
【
「は、はいっ!」
こくこく頷いて試験管を口に運ぶベルを見やると、フェルズはウォーフォージド・タイタンを一歩前進させた。
人型と言うよりは二足歩行する甲殻類に近い、ずんぐりべったりとしたフォルムの一種のゴーレムだ。足は短く、肩と背は広く、長い両腕には右にハンマーのような不自然に巨大な拳、左には斧のような刃物。
フェルズの故郷であるエベロンにおいて、極々初期の意志を持つ破壊兵器として作られた、
あたかも人の前に存在した
だがそんな巨大兵器をも、美しき魔姫は鼻で笑い飛ばす。
「私をそんな不格好な人形で相手どるつもり? たかが魔道具で? まだベルのほうが歯ごたえのある敵よ!」
「舐めないで頂きたいね。私は君を知った上でこれを出しているのだ。ただの人形だと思ったら大間違いだぞ」
それも鼻で笑って、グラシアは鞭を鳴らした。
二歩、三歩。
巨体ならではの歩幅でウォーフォージド・タイタンがあっという間に距離を詰める。
その動きは意外なほどに素早い――ただし、魔石の力を持たない存在としてはだ。
「ふんっ!」
ウォーフォージド・タイタンの足が間合いに入った瞬間、鉄条鞭が振るわれた。
直径1m程の金属柱のような足に、無数の棘が当たって火花を散らす。
恐らくは
「えっ?」
思わず声が漏れた。
呆然とした一瞬にタイミングをあわせたかのように、左手の斧が頭上から降ってくる。
反射的に横っ飛びに避けたが、驚愕の表情は張り付いたままだった。
視線をもう一度タイタンの足――今自分が薙ぎ払った部分――に向けてから遥か上方、その頭部に向ける。
口から出て来た声は僅かに震えていた。
「あなた――まさかこの人形全部――」
「ああ、そうだとも。この巨体の全てが
ウォーフォージドの金属製の顔でもわかる、見事なドヤ顔でフェルズが言い放った。
「ばっ・・・馬鹿じゃないの?! この10mを越す巨体を全部オリハルコンで作る? どれだけ、いや、何百年つぎ込んだのよ?!」
「ざっと五百年以上だな。こちらに来てそれほど間もない時期に作り始めて、完成したのがようやっと数十年前だ」
先ほどまでの余裕のあるそれではない、心底驚愕した声でグラシアが叫ぶ。
魔姫のその顔がよほどに痛快だったのか、それとも秘めに秘めていた秘密兵器をお披露目した喜びからか、フェルズの声はいつもの淡々とした調子ではなく、傍から聞いていてわかるほどに弾んでいた。
グラシアがウォーフォージド・タイタンの金属の足をもう一度見る。
魔王たる自分が武器を全力で振ったにもかかわらず、やはりそこには傷一つ付いていない。
「五百年? 人造とは言え
「いかにも」
「いつ使うかしれない、使い道があるかもわからないこんなものを? 五百年かけて?」
「いかにも」
「
「いかにも!」
フェルズが鼻息荒く胸を張る。
グラシアががっくりとうなだれた。
「・・・・・・・・・・・・・・あなたは馬鹿よ。筋金入りの馬鹿だわ」
「お褒めにあずかり恐悦至極」
フェルズが恭しく礼をする。
(この人兄さんと気が合いそうだな)
などと、ベルがこっそり考えていたりするのは知らぬが花であろう。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コントめいた一幕が終わり、沈黙が降りる。
気の抜けた空気が急速に闘争のそれへと置き換わっていく。
漆黒のピラミッド頂上の広い空間。
その中央の祭壇に寄り添うベル、その前に立ちはだかるように立つフェルズとウォーフォージド・タイタン、上り階段から数歩の位置にグラシア。
不壊属性の巨躯を駆る伝説の
「"
エリクサーとマジックポーションで回復を終え、ベルが反魔法力場を張り直す。
「!」
「っ!」
「!」
それが合図だったかのように、巨人と魔姫が動いた。
巨人の拳が打ち下ろされ、魔姫の立っていた場所の石組みを粉砕した。
だが砕けたのは石だけ。
グラシアは一瞬早く跳躍し、巨人の頭部、銀色のウォーフォージドが半身を埋めているその部位を狙う。
巨人のガードは間に合わない。
間合いに入った瞬間、右手の鉄条鞭を振り下ろす。
「!」
フェルズの手前1mほど、何もない空間で鉄条鞭の棘が滑った。
弾かれた鉄条鞭が巨人の胸の装甲に当たって火花を散らす。
巨人が左腕の斧の、刃ではなく腹の部分で魔姫を狙う。
ハエたたきのように使われたそれを空中を蹴ってかわし、グラシアが舌打ちした。
「"
「もちろんだとも。折角無敵の巨人を作り上げたのに、弱点が丸出しでは意味がない」
通常のそれと違い一見しては存在がわからないが、巨人の頭部、フェルズの周囲に半球型の力場の壁が展開されていた。
イメージ的には戦闘機の風防、あるいは巨大ロボットのコクピットに近いだろうか。
ウォーフォージド・タイタンの体内にコクピットを設置しなかったのは、【神の鏡】のような安全かつ確実に外部を知覚する手段がなかったからだと、イサミなら見当をつけただろう。
そうした用途に使える魔道具がなくはないが、機体表面にそれらを設置して破壊されるリスクと、自らを露出させて不壊属性の装甲ではなく力場の壁で守るリスクを考えて後者を選んだ、ということだ。
グラシアが着地する。巨人の右の拳が再び打ち込まれる。
かわして、巨人の脇の下を打つ。巨人は無傷。
横薙ぎの左の斧。
これもかわして今度は膝の裏を打つ。これも無傷。
その様な打ち合いが更に十数合続いた。
巨人の腕は回避され、グラシアの鞭は巨人を傷つけられない。
巨人も身のこなしこそ鈍いが腕の振りは意外なほどに早く、それなりの頻度で武器での防御を強いている。
言ってみれば巨人は歩く
そして砲撃の命中率に本体の機動力は関係ない。
正確な砲撃と攻撃を弾く装甲があれば仕事は出来る。
フェルズの生まれたエベロンという世界は擬似的な産業革命を成し遂げた、D&Dの背景世界の中でも極めて異質な世界だ。
そこにはトーチカがあり、塹壕があり、鉄道があり、飛行船と爆撃があり、火力戦という概念があり、大量殺戮兵器があり、使い捨てに出来る人造兵士があり、善と悪ではなく人間同士が争い合う、「戦争からきらめきと魔術的な美が奪い取られてしまった」世界。
そしてその世界で最高の兵器製作者の一人として名を馳せたのがフェルズだ。
どれほど戦争を忌み嫌おうとも彼女には間違いなく兵器製作者としての天才的なセンスがあり、そのセンスは今グラシアに対して遺憾なく発揮されていた。
本来はドラゴンや階層主などの大型種、それこそ隻眼の黒竜のような巨大怪物に対する備えとして作っていたものだが、10mという「小さな」体ゆえに人間大のグラシアに対しても何とか通用している。
そして史上最高の天才
TRPGの方のウォーフォージド・タイタンは体高5mくらいですので、この話で出て来たのはそれを元にフェルズが作った新規設計品という扱いです。
オリジナルの右腕は手じゃなくてハンマーだかモールだかみたいなブツですし。
デザインに関してはアイアン・ジャイアントとデストロイド・モンスターのあいのこみたいな感じでイメージして下さい。もしくはMAモードのデストロイガンダム(ぉ