ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
朝、廃教会の地上部分。
「たぁぁぁぁーっ!」
「甘めぇっ!」
「ぐほぉっ!?」
突っ込んでいったところにカウンターで綺麗な回し蹴りをもらい、ベルが吹っ飛んだ。
吹っ飛ばした張本人は片足を上げた姿勢のまま、倒れたベルを叱咤する。
「おら、すぐ起きろ! 怪物どもは待っちゃくんねえぞ!」
「は、はいっ! やああっ!」
「おっしゃ、いいガッツだ! だが動きが単調なんだよ!」
「ぐっ!?」
身を低くして突っ込んでくるベルの攻撃をほとんど動かずにかわし、今度は左フックをほおげたに叩き込む。
軽い脳しんとうを起こしたベルは、短い悲鳴と共に崩れ落ちた。
「急転換して死角を狙ったのはいい! だがその前にもう一つフェイントを掛けろ!
型は綺麗だがスピードだけじゃいずれ限界が来るぞ!
とにかく動け! ナイフは相手の虚を突いてなんぼ、急所を突いてなんぼの武器だ!」
「は、はい・・・っ!」
仁王立ちしてベルを見下ろすのは年端もいかぬエルフの少女。
だが、彼より圧倒的に強いレベル4の冒険者。
徒手空拳でありながら武装した彼を歯牙にも掛けない、本物の「冒険者」だった。
次の日の朝、起きてきたベルにハシャーナ改めシャーナを紹介すると、イサミは彼女に弟の特訓を依頼した。
彼女の二つ名は『剛拳闘士』。
《拳打》アビリティ持ちで格闘戦に長け、ナイフの扱いにもそれなりに長じる。ベルの訓練にはうってつけの人材と言えた。
ナイフの基本的な型はイサミが叩き込むことができたが、実戦的な立ち回りまでは手が及ばない。
たとえ"
大ファミリアで無数の実戦をくぐり抜け、経験を積んできたハシャーナからは、イサミ、ベルともに学ぶところ大なはずであった。
一時間後。
隠し扉を開けて、イサミが上がってきた。
巨体に付けたエプロンが、冗談のように小さく見える。
「おーい、そろそろ飯の時間・・・うわ、こりゃまた手ひどくやられたな」
「ワリいな、手加減は苦手でよ」
「だ、大丈夫です、これくらい・・・」
ボロボロになって倒れていたベルが震えながら立ち上がる。
顔は腫れ上がり体中アザだらけというありさまではあったが、目は死んでいなかった。
「よしよし、男はそうでねえとな。ホレた女のために強くならなくっちゃいけねぇんだろう?
出会いを求めてダンジョンに来たとか言ってたが、出会いはきっちりあったわけだ!」
「ちょ、兄さん?!」
腫れとアザの上からでもわかるくらい顔を赤くして、ベルが兄に向き直る。
うむうむ、と訳知り顔で頷くシャーナ。
「いやいや、恥ずかしがる事はねえぞ? 男だったらこう、女を落としてナンボだろう?」
「と、異性を口説けた事の無い人がおっしゃってます」
「ち、ちげーし! 俺モテてたし?!」
いきなり挙動不審になるシャーナをスルーしてイサミがベルの前に立つ。
「ほれ、動くな。今治療してやるからな」
「聞けよ!」
「うめえ!? 何だこりゃ!」
「ふふん、驚いたろう。ウチのファミリアは零細だけど、食事は最高なのさ!」
今日の朝食はシャーナにあわせてインド風。こちらの世界にインドはないが。
白蒸しパンと甘いバナナミルク、ナンのようなもっちりさっくりパンに、ひよこ豆のカレー。
バナナミルクと白蒸しパンを口の中で混ぜて飲み込み、ナンをちぎってカレーをすくって食べる。
食後は甘めのミルクティーで口の中を洗い流す。
少し不安ではあったが、シャーナには大好評のようであった。
「いやー、うまかった! 毎日これが食えるならずっとここに居続けようかな!」
「ふっふっふ、またしてもイサミ君の料理のトリコが一人・・・本当に罪深い男さ、君って奴は」
安物のカップを掲げて意味もなくポーズを取るヘスティア。
大人の女ごっこでもしているのだろうかと考えつつ、褒められるのはやはり嬉しいイサミである。
「そういえばベル、今日の予定はあるか? シャーナさんに迷宮での立ち回りを教えてもらおうかと思うんだが」
「さんづけはいいよ。見た目がこれだしな。シャーナでいい」
「ごめん兄さん、ちょっとエイナさんと約束が・・・」
洗い物をしながら済まなそうに言ってくるベルに、んじゃ明日にでも、と声を掛けると、イサミはシャーナの方に向き直った。
「それじゃどうしましょう。二人で軽く潜ります?」
「そうだな・・・」
考える二人。
そこでヘスティアが口を挟んでくる。
「それならシャーナくんの身の回りのものでも買いに行きなよ。服もろくにないんだろう?」
「へ? まあ、そうですがそれならその辺の古着屋で適当に・・・」
そういうシャーナの服装は、着た切り雀の戦闘衣である。
「いかーんっ!」
「うおっ!?」
突然ヘスティアが両手でテーブルを叩き、大声を出す。
「いいかい! 君は女の子なんだ! ちゃんと服は揃えないといけないし、アクセサリーだってそれなりにいる!
ボクなんてイサミ君がお金出してくれないから、パーティに行く服にすら事欠いてたんだぞ!」
「あの後ちゃんと仕立ててもらったじゃないですか」
眉を寄せたイサミが反論しようとするが、ヘスティアは取り合わない。
「しゃーらーっぷ! ホームだって君がお金を出してくれればそれなりの所に住めるのに、頑固に穴を広げるから未だに地下室暮らしじゃないか!」
「冒険者やってたらお金はいくらあっても足りないって言ったでしょうに」
「俺も、別に女っぽい服はなあ・・・」
「いいから! とにかくイサミ君はシャーナ君に付き合って服を一通り買ってくること! いいね!」
そういうことになった。
「服かぁ。近くの古着屋で適当に揃えてたからなあ」
「俺は田舎暮らしでしたから、基本着たきりでしたね・・・面倒ですねえ、女って」
「面倒だよなあ」
野郎二人――もとい片方は元野郎――が愚痴りながら北のメインストリートを歩いている。
「なー、適当に古着買って、おまえにサイズ調整してもらうとか駄目かねえ」
「駄目じゃないっすかねー。なにか神様へそ曲げてましたし」
ちなみに、装備関係については既にイサミの手によってサイズ調整済みである。
武器も後で装飾を追加して、ハシャーナ・ドルリアの物とは見えないように加工する予定だ。
「どうよ、うっかり予算飲んじまったから安物しか買えませんでしたってのは」
「そこらで飲むくらいなら、いい肉と野菜とお酒買い付けて料理奮発しますよ。
でもやったら絶対烈火のごとく怒るだろうなあ」
はーっ、とため息をつく両人。
「めんどくさいなあ」
「めんどくさいですねえ」
いずこの世界でも、女のこだわりは男には理解されない物のようであった。
もちろん、逆もまたしかりであるのだが。
「ってーか、おまえが服を買ってやらねえからすねたんじゃねえのか? つまり、おまえが悪いんだろうがこの状況」
「いやー、シャーナがこだわらなすぎなのが悪いんじゃないかなあ・・・。あそこでそれなりに揃えようとしてたら、あそこまでヒートアップしなかったですよ、絶対」
ぴたり、と二人の足が止まる。
「おうなんだ、俺が悪いってか?」
「いえいえそんな事は。ただ、可愛いエルフのお嬢さんはフリルのついたゴスロリドレスでも着た方がいいんじゃないですか? 似合いますよ、きっと」
「・・・ふっふっふ」
「・・・はっはっは」
メインストリートの真ん中でにらみ合う二人を、周囲の通行人達が遠巻きによけて足早に歩き去っていった。