ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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22-29 帰還

 バベル西側。

 オッタルとロビラーの二人も天空の光が収まったのは気付いていた。

 どちらからともなく距離を取り、剣戟を中断する。

 

「・・・終わったようだな」

「そうだな。だが、こっちはまだ終わっちゃいない。違うか、オッタル殿?」

 

 にかっ、と人好きのする笑顔を見せるロビラー。

 頷こうとして、オッタルは目をしばたたかせた。

 

「どうした、オッタル殿?」

「いや・・・貴殿、足が薄れているように見えるのだが」

「あん?」

 

 きょとんとして黒の戦士が自らの足元に目をやる。

 先ほどタリズダンや神々が現れた時の逆のように、ブーツのつま先から徐々にロビラーの体は薄れてきていた。

 しばし考えた後、得心したように頷く。

 

「そうか、そう言う事か。悪いなオッタル殿。今ここにいるのは俺本人じゃなくて、どうやら俺の無念だったらしい」

「・・・?」

「まあ簡単に言えばいいようにされた俺の心が生み出した幻影、分身ってところだろうさ。本当の俺は一体どうなってんのやら」

 

 溜息をついて空を見上げる。

 そこにはもう星以外に輝くものはない。

 その間にもロビラーの体は足、腰、胸とどんどん希薄になっていく。

 

「それでは」

「ああ。済まないがオッタル殿、勝負なしだ。だがもしも、もしももう一度会うことが出来たならその時は――」

 

 最後まで言うことができず、男は空気に溶けて消えた。

 

「―――――」

 

 オッタルが剣を地面に突き立て、好敵手を悼むように瞑目する。

 ストリートに日の光が射すまで、彼はしばらくそうしていた。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 黄金の三叉戟が宙を切り裂いて飛ぶ。

 渾身の一投が足を切り裂かれて擱座した強化種ガルガトゥラの胸中央を貫き、巨大な魔石をうがつ。

 階層主以上の巨躯を持つ巨大な悪魔のティラノサウルスがチリとなり、周囲から歓声が上がった。

 それを成した戦士は大きく息をつき、額の汗をぬぐう。

 

「ふう・・・やれやれ、手こずっちまったな。手助けにはいけなかったか。

 お前さんたちが来てくれなかったらやばいところだったぜ、ありがとうよ」

 

 駆けつけたフレイヤ・ファミリアの一級冒険者たちに礼を言うクリュサオル。

 彼らがいなければ、残りのピット・フィーンドと上位悪魔たちは押しきれなかった可能性も高い。

 が、礼を言われた当の本人たちは揃って仏頂面だった。

 副団長のアレンが代表するように口を開く。

 

「当然だ【海神の三叉矛(トリアイナ)】。我らフレイヤ様の従者は最強。助けを要する道理などない」

「はっはっは、変わらんな、おまえらは!」

 

 笑顔でばしばしと肩を叩いてくる大海の勇者に、不愉快そうに顔をしかめはするが振り払いはしない【女神の戦車】アレン。

 余人がそんなことをしたら、下手をすれば首が飛ぶだろう。言葉とは裏腹にこの男もクリュサオルの強さに一定の敬意と、そして嫉妬を抱いているらしかった。

 恐らくは仏頂面をしている他の面々もそうなのだろう。

 

「いやあ、どうやら色々片付いたようだし、これが終わったら宴会だな! どうだ、一献! 勇士と酒を酌み交わすのはいつでも誰とでも楽しいものだ!」

「ええい、馴れ馴れしい! いい加減肩を叩くのをやめろ!」

 

 とはいえ、それでも限界はあるようだったが。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 黒い祭壇の頂上。

 アイズを安置した祭壇から、再び魔力が吹き上がっている。

 冒険者たちが周囲を囲む中、イサミが膝をついてアイズと祭壇、その上に浮かぶ黒い多面結晶を調べていた。

 懐からルーペを取りだし、サファイアを削りだして作ったレンズを通して魔力の性質とその流れを精査する。

 

「・・・・」

「・・・・・・・・」

 

 それが三分ほど続き、気の短いものがじれてきたあたりでイサミが立ち上がり、ルーペを懐に戻す。

 呪文を詠唱しようとしてアイズの腰に下がった剣に気付き、指をつい、と動かす。

 アイズの腰から離れた剣が鞘ごとイサミの手に収まり、ベルが受け取った。

 

「"モルデンカイネンの魔法解体(モルデンカイネンズ・ディスジャンクション)"」

 

 宙に浮いていた黒い水晶、"クリスタル・オブ・エボンフレイム"が静かに砕け散った。

 同時に黒曜石の祭壇に幾筋かのひびが入り、吹き出す魔力が途切れる。

 

「む」

 

 魔力視覚は持たないながらそれを感じ取ったのだろう、リヴェリアを始め魔導に長じた幾人かが表情を変えた。

 

「アイズ!」

「これで大丈夫なんですか、クラネルさん!?」

 

 駆け寄ろうとしたティオナたちをイサミが制する。

 

「もうちょっと待て。儀式は中断できたと思うが、魔力による悪影響が・・・」

 

 言いつつ、再びルーペを取りだしてアイズの体を検分する。

 目立った異常がないことを確認し、"大治癒(ヒール)"と念のために"奇跡(ミラクル)"呪文をかけるとアイズが目を開けた。

 

「アイズさん!」

「アイズ!」

 

 レフィーヤやティオナ、ティオネが今度こそわっとアイズの周囲に群がる。

 フィン達が感謝の籠もった視線を投げ、イサミは笑みを浮かべて目礼した。

 

「・・・」

 

 上半身を起こし、アイズはぼんやりと周囲を見渡す。

 レフィーヤが涙を浮かべて抱きついてくる。ティオナとティオネが口々に声を上げるが耳に入ってこない。

 三人の後ろに顔が見えた。フィン、リヴェリア、ガレス、ベートに椿、アルガナ、バーチェ。そしてイサミを初めとするヘスティア・ファミリアの面々。

 どれも程度の差はあれ笑顔を浮かべている。

 

 最後にアイズはベルを見た。

 今まで視線を合わせれば、常に赤面して下を向いていた少年は、真っ直ぐにその視線を見返してくる。

 その視線に今までにないものを感じ、アイズの胸がざわつく。

 今まで感じたことのないその感覚に戸惑いつつ、アイズはふと、先ほど聞いた言葉を思い出した。

 夢うつつの中、それだけははっきりと聞こえて来た少年の声。

 頭がどこかまだぼんやりしたまま、アイズは口を開く。

 

「ベル・・・」

「は、はい!」

「私、君にえーと・・・力づくで奪われちゃったの?」

 

 その場の全員が吹き出した。

 

 

 

「クソ白髪貴様ぁーーーーーっ!?」

「殺す! 私の命と引き替えにしてでもあなたは殺します!」

「ベル様不潔です!」

「ああそんな・・・ベル様が・・・」

「ご、誤解! 誤解です!」

 

 ベルがまたたく間に周囲を囲まれ、詰め寄られる。

 頬を染めるもの、きゃーきゃー騒ぐもの、頭を抱えるもの、呆れた顔をするもの、ゲラゲラ笑うもの・・・その他の反応は様々だ。

 ゲラゲラ笑っている連中の筆頭が実兄だったのはさておく。

 

「ひー、ひー、腹が痛ぇ・・・」

「ひどいですね、イサミ君。お兄さんでしょうに」

「兄だから大笑いできるんですよ・・・ん?」

 

 言葉を途切れさせ、イサミが上を向く。

 つられて何人かが上を向いた。

 その視線の先にあるのは暗い闇の天井の中ぽつんと一点、間違いようのない青い空。

 

「わ、夜が明けてる!」

「日食と言うんだ、ティオナ。しかし術を解除したって事は・・・あっ!」

「え、どしたの? ・・・え?」

 

 遥か上方から差し込む日の光がにわかにかげった。

 慌てたようにイサミが高速化した"願い(ウィッシュ)"呪文を発動する。

 次の瞬間冒険者たちは地上、オラリオが飛び立った直径数キロの穴の縁にいた。巨大なガラクタと化したフェルズのウォーフォージド・タイタンもちゃっかり持って来ている。

 

「ここは・・・地上か」

「ねえみんな、あれ見て!」

 

 レーテーの声に一同が一斉に穴の中心部に目をやる。

 ダンジョンが消失して大穴が空いているはずの箇所に、おぼろげながら影のようなものが生まれつつあった。影は見る間に濃くなっていき、あっという間に実体を備えてドーム状の何かになる。

 それはタリズダンとしての姿を取り戻して消失したはずのダンジョンそのものだった。

 

「ダンジョンが・・・」

「戻った! ってことは勝ったって事だよね、【美丈夫(アキレウス)】くん!」

「ああ、そういうことだ。懐かしのダンジョン攻略の日々よ再びってわけさ」

 

 危なかった、と胸をなで下ろす。

 タリズダンが封印され、再び生成されたダンジョンに潰される危険性に気付いて急いで転移したが、どうにもギリギリだったようだ。

 ちらりと弟の方に目をやる。

 

「構えろクソ白髪! 体中の肉を切り刻んでついでに骨を踏み砕いてやらぁ!」

「待って下さいベートさん! こればかりは譲れませんよ!」

「やっちゃったんですか! どうなんですベル様!」

「そんな、わたくしがベル様のお世話をしなかったばかりに・・・!」

「助けてにいさーん!」

 

 悲鳴を上げる弟と、あれ?と首をかしげる少女を生暖かい目で見守りつつ、イサミは空高く浮かぶオラリオに視線をやり、そして再びダンジョンに向けた。

 またダンジョンにもぐり続ける日々が始まる。

 しかし、もうタリズダンの復活は、少なくともイサミが生きている間にはあるまい。

 何かに追われて必死に自分を鍛えるためではなく、純粋にダンジョンの攻略を楽しめるようになる。

 

 それを「楽しい」と思える感性がまだ自分に残っていた事に少し驚き、少し笑う。

 傍にいた水色の髪の女性が首をかしげて見上げてきたので、肩を抱いて抱き寄せた。

 彼女は少し驚いたようだったが、すぐに目を閉じて、体を預けてきた。

 

「にーさーーーーーーーーーん!」

 

 少年の悲鳴とその周囲で騒ぎ立てる声が荒野に響く。

 日常が戻ってきたことを感じながら、イサミはダンジョンを見つめていた。




 第三版のロビラーは裏切者としてレアリーにくっついたりまた離反しそうになったりしてるのですが、その後の版上げであれは偽物だったと言うことになった模様。
 なのでこう言う形で整合性を取りました。
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