ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
その後のことを少し話そう。
タリズダンが再封印され、オラリオは無事地上に帰還した。
可能な限り元の位置に近づけはしたが、人造迷宮の破断部を修理するのが大変だと死霊王には文句を言われた。
世界中から集まった神と助っ人たちは、イサミの手によって再びそれぞれの場所に帰った。
ポセイドン・ファミリア首領クリュサオルはオッタルと酒を酌み交わすことを楽しみにしていたようだが、陽気な彼が普段にも似ずオッタルとは差しつ差されつで静かに飲んでいた、とガネーシャ・ファミリア首領シャクティの言である。
ゼウスは兄弟との再会を約して逃げた。
メンヘラ女神の相手はギルドに押しつけたので、兄弟は(多分祖父も)今のところ平和に過ごせている。
正義の女神アストレアはオラリオに残留し、アストレア・ファミリアが復活した。
新たな正義の派閥としてガネーシャ・ファミリア、赤外套達と共に悪と戦っている。
今重点的に追っているのは姿を消した吸血鬼、ディックス一派だ。
復帰したリューが団長を務めてはいるが、時々『豊饒の女主人』亭にも顔を出しているらしい。
タリズダンの再封印と迷宮都市の地上への帰還は【神の鏡】とイサミが送っていった各地の神によってすかさず大陸中に伝えられ、文字通り全ての人類が胸をなで下ろした。
流通への混乱は少ないものではなかったが、損を取り戻そうとする商人たちとギルドの豚の熱意は凄まじく、それほど間を置かずに回復するだろうと考えられている。
デメテル・ファミリアを初めとする、オラリオ周囲に農地や牧草地を持っていた農林系派閥の眷族たちが盛大に愚痴をこぼす光景がしばらくは良く見られたが、それもいずれは消えていくはずだ。
一番頭を抱えたのはギルドの探索関係の部署だった。
ダンジョンの入口を再工事する程度ならまだ良かったのだがタリズダンの再封印、そしてそれに伴うダンジョンの再構築によって、ダンジョンの内部構造がまるっきり変わってしまっていたのだ。
これまで蓄えたダンジョンの情報、下手をするとモンスターの情報までもが全く無意味になってしまい、愕然とする探索支援部。
構造を再確認して、入り口をまた作り直さなければならない死霊王一派。
今まで利用していたダンジョン内部の隠れ家が使えなくなり、いっそ全員で地上に出るかと額を寄せ合って相談するリドたち。
その一方で一部の冒険者、特にマッパーを擁するヘルメス・ファミリアのような――は大いに盛上がっていた。
何せギルドは新領域の地図に少なからざる報償金をかけている。
これまでは最深層に降りられる極一握りにしか関係のない話だったが、中層までなら進出できる派閥はいくらでもいる。
今なら濡れ手に粟の大もうけ、まさに世は大マッピング時代!とばかりに、上級冒険者を擁するほとんど全ての派閥が競い合うようにダンジョンの隅から隅まで探索の手を伸ばしていた。
18階層まではあっという間に踏破され、前と変わらず安全階層であると判明した。リヴィラに代わる新しい街を作ろうという話が早くもボールスなどを中心に動いているらしい。
むろん上位派閥も積極的にダンジョンに潜り、情報を集めると同時に新しい環境に自らを慣らそうとしている。
今までからは考えられない事に、その中にはフレイヤ・ファミリアの一級冒険者たちの姿もあった。
これについては一連の事件の中で犠牲も多かったものの多くのランクアップ者が生まれ、これまでの派閥間のバランスが崩れたことが一因とされている。
端的に言えば黒竜と戦い、これを打ち倒したロキ・ファミリアの三首領とアイズがLv.7にランクアップし、単独最強派閥にのし上がったのだ。
最強の双璧から明白な第二位に転落して、下手をすれば三番手につけるヘスティア・ファミリアに追いつかれかねない状況。
フレイヤ・ファミリアの一級冒険者たち、特にLv.6の面々が必死に遠征を繰り返す様がたびたび目撃されている。
一方でオッタルはイサミの打った剣を封印し、元の装備でダンジョンに挑んでいる。いつか、幾千幾万の確率を超えて再び剣を交える日のために。
主神であるフレイヤはそれらの様子を見て微笑むのみだ。
またヘファイストスの椿、ガネーシャのシャクティ他数名がLv.6に。
ロキ・ファミリアのラウルたち数名がLv.5に。
その他にも無数の冒険者たちがランクアップを達成し、ギルドは嬉しい悲鳴を上げている。
なお晴れて一級冒険者になったラウルには、やはりスキルも魔法も発現しなかった。
【超凡夫】の二つ名返上は遠そうである。
無論ヘスティア・ファミリアでもランクアップの嵐が吹き荒れていた。
リリがLv.1から2に。
ダフネとカサンドラがLv.2から3に。
フェリスがLv.5から6に。
ベルがLv.4から5に。
そしてイサミが――Lv.1++からLv.1+++へ。
「またかよぉ!?」
「今でももう十分に強いんだし、いーんじゃないのぉ?」
「まあそうだけどさあ・・・」
頭を抱えるイサミがレーテーにいい子いい子と頭を撫でられていた。
「ようし、それじゃみんな準備はいいな!」
おう、と一斉に答えが返ってくる。
連日繰り返されているヘスティア・ファミリア総出+2の深層への遠征だ。
イサミ、ベル、アスフィ、シャーナ、レーテー、フェリス、アイシャ。
サポーターにリリ、ヴェルフ、春姫、ダフネ、カサンドラ、ゲド。
「なんかこーズブズブと付き合いが続いてて・・・いっそ改宗しようかなあ・・・」
「付き合わねえぞ。俺はあくまでヘファイストス様一筋だからな」
ぼやくゲドとそれを相手してやるヴェルフが意外にいいコンビである。
あれから後、さすがに大所帯になったこともあって新たに購入した豪邸のホーム。
その玄関先でそれを見渡してうん、とヘスティアが頷く。
「それじゃみんな気を付けて、全員無事に帰ってきておくれよ!」
はい、と返事して一行はホームを出た。
朝のメインストリートは人で賑わっており、その中には彼らと同じダンジョンを目指す冒険者たちも少なくない。
ぞろぞろと一塊になって歩く一行の先頭をイサミとベルが並んで歩いている。
時々注目を浴びて照れくさそうに反応する弟に、イサミが眼を細めた。
「なあ、ベル」
「ん。なに、兄さん?」
「思えば遠くへ来たもんだな」
笑う兄、はにかむように笑って返す弟。その弟が、ルビーの一つはまった金のリングを首から下げていることをイサミは知っている。
諸行無常、生々流転。変わらぬものなど何もなく、終わらないものもまたない。
だがこの「今」が出来る限り長く続いてくれるよう、イサミは祈っていた。
やがて一行の前に巨大な塔――バベルが姿を現す。
それを見上げてイサミは両手で頬を叩いた。
「さて、今日も潜りますか!」
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
― 完 ―
完結っ!
閲覧感想評価、もろもろありがとうございました!
いやあ、実はこれ書き始めたのアニメ第一期が始まった頃ですので、ほぼ八年がかりですね。
最終話以外を書き終えたくらいで投下を開始して、それでも投下が八ヶ月。
感想にへこんだり展開しくじったり色々ありましたが、それでも何とか完結に持って行けました。
全ては読者の皆様のおかげでございます。
改めてありがとうございました(深々)。
後はいくつか本編の没ネタを投下する予定。
さて、最終話書き終えた後にちびちび書きためていた新作を投下いたしましたので、よろしければそちらもご笑覧下さい。
ファンタジー世界でスーパーマンが活躍する話です。
毎日戦隊エブリンガー
https://syosetu.org/novel/307464/