ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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23-03 「新人さんいらっしゃい」

 

「うははははー! 何人来るかな! 楽しみだなー!」

「神様が壊れた・・・」

 

 あれから一週間。

 ゴブニュ・ファミリアに依頼した改装も済み、家具も揃えた新ホーム「竈火の館」。

 その広い大食堂で朝食をとりながら、ヘスティアが高笑いしていた。

 

 この一週間、アルバイトとダンジョン探索の合間を縫ってギルドの掲示板やヘファイストスの店、その他あちこちに張り出した新団員募集の張り紙。

 その日時がこの後、今日の朝九時だった。

 

「何人くらい来るかねえ。あ、ヴェルフ。そっちのショーユ取ってくれよ」

「ほいよ。まああれだけ大暴れしたうえに新興の派閥、しかも団長と副団長が両方ヒューマンだからな。あちこちのファミリアで断られがちなヒューマンの冒険者志望がドッと来る可能性もあるんじゃねえか」

 

 昨日の深層遠征が長引いたので、夕食を食べてついでに泊まっていったゲドとヴェルフがそんな会話を交わす。

 ちなみにランクでLv.5、四番手か五番手に過ぎないベルが何故副団長かと言えば結成当初からのメンバーであることに加え、実力は既にレーテーと互角以上であること、シャーナ、フェリスと言ったあたりが面倒くさがって押しつけたという事情もある。

 もっとも実質的な副団長はアスフィと言うことで全員の認識はほぼ一致していたが。

 それはさておきシャーナが溜息をついた。

 

「そう言う連中は大体ガネーシャで引き受けてたんだけどな。今後はそのへんもウチに来るかもしれないわけか。いや、悪いこっちゃないんだが・・・おい、やめろって」

「えー」

 

 いい子いい子と頭を撫でるレーテーの手をシャーナが振り払った。

 生暖かい目でそれを見ていたイサミだが、ふとカサンドラがゲドとヴェルフのほうをチラチラ見ている事に気付く。

 

「どうした、カサンドラ。何か不安そうだが・・・気になる事でも?」

「えっ、は、はいその・・・予知夢(ゆめ)を見たんです」

「夢?」

「はい、ヘスティア様が真っ青になって固まり、ベルさんが倒れて、入団しようとやって来た皆様が冷たい目をして帰っていくっていう・・・」

「あー、はいはい、いつもの悪夢ね」

 

 ダフネがうんざりした顔でカサンドラの言葉を遮った。ベルが首をかしげる。

 

「悪夢?ってなんですか?」

「いつもの事よ。悪い夢を見たって騒ぐの。団長もベルも気にしなくていいよ」

「ダフネちゃん! ほんとなんだってば!」

「うーん・・・」

 

 周囲を見渡してみると、他の面々もまともに取り合ってはいない。

 ヘスティアやレーテー、春姫あたりは困ったような顔をしているが、これは無碍にするのが気の毒だと思っているだけで、信じているわけでは無さそうだ。

 

「まあそう言う事もあるもんよ。マリッジブルーみたいなもんね!」

「あんた結婚した事あるの?」

「ない!」

 

 アイシャのツッコミにけらけら笑うフェリス。

 

(・・・ん?)

 

 少し違和感があった。

 好奇心の塊のような「あの」フェリスが、予知夢などと言う面白そうな話をてんから取り合わないと言うことがあるだろうか?

 兄と目が合う。二人が頷きあった。

 

「カサンドラ、もう少し詳しく話してくれるか?」

「し、信じてくれるんですか?」

「物好きやねえ、団長も」

「気になる事は確かめないと気が済まないタチでね――どうした、ベル?」

「ん? いや、背中のこの辺がちょっと」

 

 ちらり、とベルに目をやる。

 

(やっぱりステイタスの『幸運』アビリティか? カサンドラって名前も満更偶然じゃないみたいだな)

 

 神の呪いによって予言を信じて貰えなくなった悲劇の巫女。

 恐らくはそれに近い能力が発現しているのだろう。

 ベルは『幸運』アビリティ、イサミは山のような《特技》による桁外れの抵抗(セーブ)能力でそれを回避したに違いない。

 

 余談だがD&Dには抵抗(セーブ)を上昇させる《特技》が種類だけは山のようにある。

 もっとも一つ一つは例えば「技能一つとセーブ一つを+2」程度の貧弱な効果しかなく、"願い(ウィッシュ)"呪文で無制限に《特技》を取得できるイサミでもなければ、まあ滅多に取る物ではない。

 閑話休題(それはさておき)

 

「ええとその、大体それで全部です。後は重荷を背負うヘスティア様のイメージと、それを救うのが黄金の噴水と宝石の樹であると・・・それとその、服を着てないゲドさんが・・・」

「やーん、カサンドラさんのエッチー」

「そ、そんなんじゃ・・・!」

 

 真っ赤になったカサンドラを、同じく顔の赤いゲドがからかう。

 

「こいつ朝から飲んでやがる・・・」

「しかし随分豪華な話だな。どうだ、ため池(プール)も作った事だしついでに噴水も作るか?」

 

 からからと笑うシャーナ。

 

「うーん」

 

 一方でイサミとベルは首をひねったが、どうにも要領を得ない。

 とにかく気を付けると言うことで、入団希望者を迎える準備をする事にした。

 

 

 

「くぁーっ、たまんねえなあこれ・・・」

 

 かぽーん、と音が響きそうな総ヒノキ風呂。ちなみにもう一方の風呂は総大理石のローマ風で、日替わりで男風呂女風呂が入れ替わる。

 ここのところ連続での深層遠征であったが、流石に今日はお休みと言うことで、ゲドは飯ついでに朝から風呂を堪能していた。

 しかも風呂に酒を持ち込んで朝から飲んだくれている。

 

「やっぱり朝寝朝酒朝風呂は最高だぜ・・・!」

 

 ダメ人間一直線のセリフをほざき、くはあと酒臭い息を吐く。

 昨夜も風呂には入ったが、他人と一緒に入るのが苦手なゲドにとって、こうやって一人で広い風呂を独占できるのは滅多に出来ない贅沢であった。

 窓を開けて冬の冷たい空気を楽しみながら、温かい湯に浸かって酒を飲む。

 確かに好きな人間にとってはこたえられない快楽だろう。

 

「・・・ん?」

 

 その時、開いた窓からひらりひらりと一枚の紙が入り込んできた。

 近くに降りてきた紙切れを素早くキャッチし、酔眼を走らせる。

 

「ブフォォォォォッ!?」

 

 ゲドが口に含んでいた酒を盛大に吹き出した。

 

 

 

「うわあ・・・・!」

「おおう」

 

 ベルが感嘆の声を上げ、イサミも軽い驚きの声を漏らす。

 ふふん、と胸を張る紐神。

 九時の鐘が鳴るころには、ホームの前庭には200を超える人数が集まっていた。

 冒険者らしき姿、サポーターらしき姿、まだ冒険者になっていないであろう旅人姿の人々もいる。

 先ほどの予想通り、半分はヒューマンだった。

 嬉しいけどでもこれ以上ベルくんに色目を使う輩を増やすわけには・・・とかぶつぶつ呟く紐神の背中を軽く叩く。

 

「ほれ、神様。みんな神様のお言葉を待っていますよ。それとも俺が挨拶しますか?」

「馬鹿を言うなよ。こればかりはボクの仕事さ!」

「ではよろしく」

 

 にやっと笑顔を交わすと、ヘスティアが玄関の石段の最上段に登る。

 大きく息を吸って入団式の刻限を告げようとしたとき、後ろの玄関の扉が大きく開かれる。

 そこに立っていたのは全裸の、右手に何やら紙を手にしたゲド。

 

「おおおおおおおおい何だこりゃあ!? 借金二億ヴァリスの契約書だとぉーっ!?」

 

 その瞬間、時が止まった。

 

 

 

「うーん・・・」

「ベル様ーっ!?」

 

 ヘスティアが石化したように動きを止め、ベルが卒倒し、その他の面々も固まる。

 玄関の中では、全裸(ゲド)を止めようと追いかけて来たらしいヴェルフが呆然と立ち尽くしていた。

 前庭には阿鼻叫喚が響き、やがてそれが収まると共にきびすを返す者達が現れる。

 

(・・・やばい!)

 

「"力場の壁(ウォール・オブ・フォース)"!」

「なっ!?」

「なんだこれ、見えない壁があるぞ!?」

 

 Uターンしようとした入団希望者たちが門の前で騒ぎ出す。その彼らに向かってイサミが声を上げた。

 

「諸君! 俺がヘスティア・ファミリア団長、【驚天動地(アスタウンディング)】イサミ・クラネルだ!

 二億ヴァリスの借金など、我が派閥にとっては物の数ではない!

 しかしこの契約は我が神ヘスティアが神友たる神ヘファイストスと『自分の力だけで稼いだ金で返す』という約束の下に結ばれたもの!

 返せないのではない、敢えて返さないのだ!」

 

 イサミの対人能力は、演説一つで狂信者を生み出せるほどに高い。

 実際、帰ろうとしていた人々も取りあえず話は聞くかという雰囲気にはなっている。

 

 だがそれでも200人という人数と二億というインパクトを覆すのは困難事だ。

 そこでイサミの脳裏によぎったのは「黄金の噴水と宝石の樹」というフレーズ。

 

「今その証拠を見せよう――"限られた望み(リミテッド・ウィッシュ)"!」

「???」

「!」

 

 疑似呪文能力を解放すると、玄関の脇に現れたのは10を越す穴。

 だが、前列にいたものはその中に何があるか気付いて絶句する。

 

「"限られた望み(リミテッド・ウィッシュ)"!」

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」」」」」

 

 再度の魔力発動に続いて、絶叫が前庭を満たした。

 穴から吹き出したのは無数の金貨、白金貨。

 一枚一枚が千ヴァリス、一万ヴァリスあるそれがざっと数十万枚、庭に積もる。

 

「"限られた望み(リミテッド・ウィッシュ)"!」

 

 更に前庭に現れたのは24階層の木竜が守っていた宝石樹。

 文字通り宝石の成る木だ。

 

「見たか! これが証拠だ! その気になれば二億などいつでも稼げる!

 それが我がヘスティア・ファミリアなのだ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 雄叫びが響き、入団希望者たちが拳を突き上げる。

 帰ろうとするものはもういなかった。

 

 

 

 その後、入団面接を経て小数の不合格者をはじき、200人近い大所帯としてヘスティア・ファミリアは新たに出発することになった。階下が新入団員で賑わうのを感じつつ、幹部用の談話室にヴェルフを含めたいつもの面子が集まる。

 

「やれやれ、どうなることかと思いましたよ・・・」

「うちのロゴがあるから誰の作かと思ってたが、まさかヘファイストス様のものとは」

「ごめん、出しっぱなしにしておいて、窓も開けっ放しにしてしまったから・・・」

「しかし今回はカサンドラがいなかったらやばかった。ありがとうな」

「本当だよ。ありがとう、カサンドラさん!」

「い、いえ・・・!」

「後神様は一ヶ月お小遣いカット」

「のぉぉぉぉぉ!」

 

 嬉しそうな顔のカサンドラ。ムンクになる駄女神。ダフネは複雑な顔だ。

 ――"限られた望み(リミテッド・ウィッシュ)"で呼び出したのは現金を収めた魔道具、携帯穴(ポータブル・ホール)であった。

 穴一つごとに硬貨が八万枚入るそれを12個。百万枚近い金貨・白金貨の総額は数十億ヴァリスに達する。宝石樹と並んで二億という額を覆すだけのインパクトがあった。

 そんな事を話していると、部屋の隅からか細い声が聞こえてきた。

 

「あの・・・申し訳ありませんでした。反省してますからほどいて頂けませんか・・・へっくしょい!」

 

 裸のまま簀巻きにされたゲドが、部屋の隅からてるてる坊主のように吊されていた。

 布で巻いているので見苦しいものは見えないが、寒さを防いでくれるほどではない。

 

「聞こえんな。しばらく反省してろ。夕方になったら下ろしてやる」

「そんなぁ!」

 

 哀れっぽい声を出すゲドに同情するものは、ベルや春姫を含めて誰もいなかった。

 なおこの一件はオラリオの伝説となり、後年Lv.3にランクアップしたゲドが【全裸大悟(ヘウレーカ)】なる二つ名を新たに授かるのは余談である。




ガネーシャ・ファミリアはオラリオのハッフルパフ。
真のガネーシャ団員もいるし、しょうがないから入った人もいる。
でも最後にはみんなガネーシャに染められる(ぉ


現時点のLv.5ベルくんはスペック的には力と耐久もレーテーより上、敏捷度で圧倒的に上回ってるくらいです。
スペックだけ見るなら完全に勝ってますが、経験でまだ互角という感じですね。
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