ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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23-04 「夢幻の財布」

 バイト帰りの紐女神がトボトボと北のメインストリートを歩いている。

 

「ちぇー、確かにボクが悪かったけどさー。主犯はゲドくんだよなー。

 イサミ君もなー。もうちょっと手心を加えてくれてもいいと思うんだけどなー」

 

 頬を膨らませてふてくされたようにぶつぶつと呟くが、流石にその語気は強くない。

 先だっての入団募集で大ポカをやらかしたせいで、今月はお小遣いを全カットされてしまったのだ。

 封印外世界に飛ばされる少し前くらいからは買い食いするくらいの余裕もあったのに。

 

 「ひもじい、寒い、もう死にたい」不幸はこの順番でやってくると言ったのは誰だったか。

 激動の一年が終わり、年も明けて今は真冬。さすがに食事抜きと言うことはないものの、ヘスティアの懐具合は凍えて死にそうであった。

 

「・・・ん?」

 

 何か声が聞こえたような気がしてヘスティアは道ばたに視線を落とした。

 

 

 

「何か最近神様が羽振り良くないか?」

「イサミ君もやっぱりそう思います?」

 

 幹部用談話室。ヘスティア以外いつもの面子が揃っているそこで、そんな会話が交わされている。

 

「ヴェルフから聞いたけど、北のメインストリートで揚げ菓子をかじりながら歩いてたって」

「新人団員がジャガ丸くんおごってもらったって言ってましたよ」

「高い喫茶店から出てくるの見たって話も」

「うーん」

 

 腕を組んで唸るイサミ。

 

「アスフィさん、リリ。神様にお小遣いの前借りとか許してないよな?」

「いいえ」

「許すわけないじゃないですか」

 

 アスフィが首を振り、例の件をまだ怒っているのかリリがむすっとして答える。

 

「ここにいる面子が神様にお金貸してるって事もないよな?」

 

 ベルやレーテー、春姫など食い下がられたら危うそうな連中の方を見るが、揃って首を振る。

 

「新入団員にそれとなく話を聞いてみたが、さすがにあいつらから借りてるって事もないみたいだしなあ」

 

 現在ヘスティア・ファミリアの新人団員は200人ほど。

 30ほどのパーティを組ませ、ここにいる面子と、数人だが入団してくれた上級冒険者とでローテーションで面倒を見ている。

 そもそもイサミ達のバックアップや装備・ポーション等の支援があるとは言え、冒険者を始めて半月足らずの人間が、他人に金を貸せるほど懐に余裕があるとも思えない。

 

「まあそういう事する人でもないだろ。・・・しかし、だとするとどっから金をひねり出してるんだ?」

「神様は悪い事なんかしませんよ!」

 

 そこは流石に譲れなかったのか、ベルが珍しく強い口調で口を出す。

 それを見ながらイサミが溜息をつく。

 

「まあそうだな。だが悪い事に巻き込まれてそうな気はするんだよなあ・・・」

「・・・」

 

 今度はベルも反論しなかった。

 

 

 

「うふ」

 

 翌朝。

 ぱちりと目を覚ましたヘスティアは、枕の下をゴソゴソと探る。

 

「うふふ」

 

 引っ張り出した革の小さなポーチの中には、ぴかぴかの1000ヴァリス金貨が25枚。

 合わせて25000ヴァリス。ジャガ丸くんが一個30ヴァリス、概ね1ヴァリス=10円くらいの感覚であるから結構な額だ。

 

「うふふふふふふふふふ」

 

 にまにまにまと、金貨を眺める紐神。

 サイドテーブルから取った自分の財布の中にも、同じ金貨がぎっしり詰まっている。

 

「うははははははは! 我が世の春が来たぁ!」

 

 どこかの月の御大将のようなことを言いつつ破顔するヘスティア。あの日道ばたでこの革ポーチを手に入れてから、ヘスティアには一足早い春がやってきていた。

 

『へへへ、どうです。あっしはお役に立ったでしょう』

 

 どこからともなく聞こえる声。

 かなりの広さがあるヘスティアの部屋だが、見渡してみても声の主の姿はない。

 

「うんうん、ありがとうティルくん! 何もかも君のおかげだよ!」

 

 満面の笑顔で手に持つ革のポーチに語りかけるヘスティア。どこから声が聞こえているかはともかく、紐神に語りかけているのはこのポーチであった。

 

 あの日「ティル」と名乗る革のポーチに話しかけられたヘスティアはそれを拾ってホームに戻り、ポーチの言うことを信じて取って置きの金貨をその中に入れて眠りについた。

 すると翌朝、中の金貨は25枚に増えていたのだ。

 

 中の金貨をいくら使っても、1枚残っていれば次の朝には25枚に戻っている。

 文字通り無限の財布を手に入れたヘスティアは毎日豪遊(買い食い)していた。

 

「いやー、ボカぁ幸せだなあ!」

『お役に立てて幸いですよご主人様』

 

 屋台の買い食いで幸せを感じる安い女神をヨイショしつつ、ティルはほくそ笑む。

 

(くっくっく、分体とは言え流石に神。欲望の波動は薄いが僅かながらに洩れる神気。これならば力を蓄えて現世に復活するのもそう遠いことではあるまい。

 そして復活した暁には今度こそ――!)

 

「そして復活した暁には今度こそこの地上を我がものとしてくれる、か。やっぱ変なのに絡まれてたな」

『!?』

「い、イサミ君!?」

 

 いつの間にかイサミがベッド脇に立っていた。手にはティルの宿った革ポーチ。

 

「いつの間に入って・・・いや、そのポーチを返したまえよ! ボクのだぞ!」

「お金に目がくらんでそのポーチにいいように操られかけてたのは誰ですか」

「う"っ。で、でもティルはそう悪い奴じゃ・・・」

「悪い奴なんですよ」

 

 "精神探査(プロウヴ・ソウツ)"呪文でティルの正体を知ったイサミが溜息をつく。

 

「そいつの正体はドラゴンの幽霊でしてね。他のドラゴンの体を乗っ取ってモンスター軍団を操って一つの町を滅ぼしかけた極悪人ですよ。最終的に肉体を失って逃走しましたが、このポーチに憑依して力を取り戻そうとしてたんでしょう」

 

 この革ポーチの本当の名前は"無限の財布(エヴァーフル・パース)"。なんと伝説級(エピック)超魔道具(アーティファクト)だ。

 文字通り伝説級の宝ではあるが効果は前述の通り毎日一枚の金貨を25枚に増やすだけという、伝説級(エピック)の冒険者にとっては実質何の役にも立たない代物だ。

 この財布が生み出す一年分の金貨より、イサミ達が30分で稼ぐ金額のほうが多い。

 

 そして「ティル」の本当の名前はティランスラサクス。トリル(フォーゴトン・レルム)のフランという町でイサミの言ったとおりのことをしていたドラゴンの幽霊。

 AD&Dのコンピューターゲーム「プール・オブ・レイディアンス」で事件の黒幕だった存在だ。

 

(恐らくはエルミンスターやグラシア達みたいにこの世界に干渉した奴がいたんだろうな。そのついでに、何億分の一って偶然でここにたどり着いたか。

 あるいは隻眼の黒竜と何か関係があったのかも知れないな)

 

 そんな事を考えているイサミをよそに、ヘスティアが愕然とした顔になる。

 

「そ・・・そうなのかいティル? ボクを騙していたのか?!」

『そ、そんな事はありませんよ! あっしは・・・』

「ええい、往生際が悪いぞこのクソ幽霊! ウチの神様をたぶらかしたことも許せんが、かつてのラスボスがここまで落ちぶれてるたぁ、とうちゃん情けなくて涙が出てくらぁ!」

『い、意味がわからんぞ人間! それに儂は誇り高き死龍王(ドラコリッチ)ティランスラサクス! 貴様如きにそこまで言われる筋合いは・・・』

 

 かつて何周もするほどはまったゲームのラスボスの情けない姿に怒りを示すイサミ。

 あっさり化けの皮が剥がれて地を露わにするティルことティランスラサクス。

 

「うるせえ! リング・オブ・ウィッシュ一発であっさりブッ殺された奴がえらそうに!」

『うわああああ! 言うな! それを言うなぁぁぁあ!』

 

 本人も気にしていたのか、うろたえるティランスラサクス。

 冷静、というよりは冷酷な目になってイサミは手の中の革財布を見る。

 

「まあいい。二度とこんなたわけた事をやらかさないよう、念入りにあの世に送ってやる。今の俺ならぶっ飛ばせるだろ」

『ひいいいいいいいい!?』

 

 自身も魔術に長けていた(過去形)だけあってそれが脅しでないことを理解したのか、ティランスラサクスが震え上がった。

 通常幽霊の類はその妄念を晴らすことでしか成仏させることは出来ないが、今のイサミには無理を通すだけの術力と手段(ウィッシュ)がある。

 無理矢理あの世に送り込むことも不可能ではなかった。

 

「それじゃ行くぞ。お前の罪を数えながらあの世に行け!」

『いやだぁぁぁぁ! まだ消えたくないぃぃぃ!』

 

 泣き声で命乞いをするティランスラサクス。

 そして、目の前でそんな真似をされて平気でいられるヘスティアではなかった。

 

「あーそのさ、イサミくん。命だけは何とか助けてやれないかな? 流石にちょっとかわいそうだしさ・・・」

「・・・放っておいたら誰かに憑依して使い潰しかねないやつですよ?」

「そうかもしれないけど、イサミ君なら何とかできるんじゃないかなーって・・・」

『姐御・・・!』

 

 上目遣いで嘆願するヘスティアに、イサミが溜息をついた。

 

「わかりましたよ。その辺含めて何とかしてみましょう」

「ありがとう、イサミ君!」

『ありがとうございやす、姐御と兄貴!』

「誰が兄貴だ」

 

 

 

『儂は偉大な死龍王(ドラコリッチ)じゃぞ? せめてなー、もうちょっとなー』

「まあいいじゃないかティルくん。その格好も悪くないよ?」

『・・・まあヘスティア様がそうおっしゃるならいいですがのう』

 

 バイト帰り、北のメインストリートを歩くヘスティア。

 溜息をつくのは、その肩に止まるカラスほどの金属の鳥、いや竜だ。

 リアルなそれではなく、丸くデフォルメしたぬいぐるみのような造形。端的に言ってデブったオウムのようにも見える。

 その中に宿っているのがかつてのドラコリッチ、ティランスラサクスだった。

 

 スパーク・ガーディアンと呼ばれる、人造使い魔の一種。デザインをやや変更した以外はオリジナルと変わらない。

 そこにティランスラサクスの霊体を宿らせ、同時に憑依などが出来ないよう封印したのがこれだ。

 今のティランスラサクスはイサミの使い魔であり、術者の能力に応じて強くなる。

 ことに打たれ強さに関しては術者のそれに正比例するので、今のティランスラサクスはオラリオで二番目の打たれ強さを誇る。

 

 そうした事があるのでヘスティアのボディガード兼見張り役兼連絡役として採用されたというわけだった。

 ジャガ丸くんの屋台では新たなマスコットとして子供達の人気者になっている。

 

「これであの財布も返して貰っていれば良かったんだけどなあ」

『それに関しては全面的にヘスティア様が悪いと、儂も思いますぞ』

「はあ・・・」

 

 例の財布については何だかんだ大ファミリアになったことでもあるしヘスティアの交際費にあてると言うことで話はついたが、それはそれとして一ヶ月はペナルティ期間と言うことで取り上げられてしまっている。

 つい数日前までの寒い懐具合に戻ったヘスティアと、不本意にも愛嬌のあるボディに押し込められてしまった元死龍王は、愚痴を言い合いつつ家路を辿っていった。

 




ティランスラサクスは作中で述べたとおりAD&Dコンピューターゲーム「プール・オブ・レイディアンス」のラスボス。
元が黒竜なので初期案では隻眼の黒竜の正体でしたが、流石に低レベルキャラ向け冒険のラスボスがあの大怪獣と同一というのはな・・・ってことでお蔵入りしました。


「ひもじい、寒い、もう死にたい、不幸はこの順番でやってきますのや」はじゃりン子チエのおバァはんの名セリフ。
これはほんと人生の真理だと思います。落ち込んでても取りあえずメシ食って部屋を暖かくしないとね。



>リング・オブ・ウィッシュ一発で~
小説版だとそれで肉体を破壊されて幽霊としてさまようことになってますw
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