ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「おお、久しぶりだなシャーナ・・・しばらく会わないうちにメスの顔になったなー」
「!?」
ギルド本部前。シャーナとばったり出くわしたガネーシャが開口一番言い放ったのがこの言葉であった。
「ふざけんなこのスットコ神ぃぃぃ!?」
「ぬおおおおおっ!? ギブギブ!」
流れるような動きで足を払い、一回転してうつぶせに倒れたところに
武神でも防げない技の入りに、武芸は素人のガネーシャが対応できるわけがない。
苦痛の悲鳴を上げつつ地面を叩いて降参の意を示す馬鹿神。
なお。
「ガネーシャ様がまた死んでおられるぞ!」
「死んでへん死んでへん」
「今度は何やらかしたんじゃろな」
「また失言かましたんだろ」
「いや、女絡みと見たね」
「かわいいけど
「おうちょっとお前表に出ろ」
「ここ表だよ」
周囲の人垣の反応はこのようなもので、オラリオでも一番人通りの多い場所にもかかわらず、誰も助けに入ろうとするものはいない。
ガネーシャがいかに人々に愛されているか、この一事をもっても察せられよう。
ガネーシャの従者であろう、ガタイのいい中年男と若い女性の冒険者が、揃って頭痛をこらえるような顔で溜息をついた。
彼らも手を出そうとしないのがガネーシャの人望のほどを良く表している。
もっとも彼らの実力ではシャーナを止められないと判断しての事でもあるだろうが。
中年男の方が腰をかがめて視線を合わせ、なだめるように話しかける。
「あーその、なんだ、お嬢さん。うちの神様の失言については謝るよ。
けどさ、ここは人通りも多いしその辺で勘弁してやってくんないかなあ。
本神も反省してるみたいだし・・・」
「反省ぃ~?」
もっとも、振り向いたシャーナの表情はひどく疑わしげなものだった。
「こいつがこの程度で反省するなら、俺もお前らもこんな苦労してねえだろ」
「当然だ! ガネーシャ真実! 暴力で俺の信念を覆すことはあぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
シャーナが思いっきり背をそらし、ガネーシャの背骨がミシミシと軋む。
中年男がやるせない表情で天を仰いだ。
ギルド本部の少し先にある、オラリオでもトップクラスのホテル。
その一階の酒場兼喫茶店、ボックス席にシャーナとガネーシャ一行の姿があった。
『豊穣の女主人亭』のそれにも劣らない見事なケーキをぱくつきながら、シャーナがこぼす。
「ったく、相変わらずだなあんたは。久しぶりに会った・・・あー、昔馴染みに開口一番言うセリフじゃねえだろ」
「何を言うか! 人の口に戸は立てられぬ! まして俺の口には!」
必殺するめ固め寸前だったにも関わらず、ガネーシャは元気に胸を張る。
馬鹿は無駄に回復が早い。
「大体俺のどこがメスだってんだよ、外見以外」
溜息をつくシャーナに、従者二人はちらりと視線を交わす。
ガネーシャはやれやれという風に首を振り、びしりとケーキの皿を指した。
「取りあえず、酒とつまみではなくケーキセットを頼んだところ」
「!?」
愕然とした顔になるシャーナ。
「こ、これは女の体だと糖分が必要になるからであって・・・」
「にしては美味そうに食べていたではないか?」
「美味く感じるんだからしょうがないだろ!」
「とは言えごく自然にノンアルコールの方のメニューを手に取るあたり、女らしくなってきたと言わざるをえまいな。昔のお前なら昼間から蒸留酒と揚げ物でも頼んでいたはずだ」
「うぐぐぐぐぐ・・・」
愉快に顔を引きつらせるシャーナ。従者二人がひそひそと囁き交わす。
(・・・どう見ても子供だよな?)
(昼間からお酒を、それも蒸留酒って・・・エルフでもそういう子いるんですね・・・)
(いやヒューマンでも滅多にいねえよ。ドワーフは知らんが)
「それに戦闘衣でも着た切り雀でもないし、髪飾りもつけていて、随分と女らしくなってるではないか?」
ガネーシャの言葉に従者二人がうんうん、と頷く。
今のシャーナの格好は前にレフィーヤに買って貰ったワンピースと髪留め。
着こなしはややラフだが、元が上品な仕立てなのでエルフのお嬢様と言っても違和感がない。
「こ、これはお節介な女がプレゼントしてきて・・・今の派閥でも神様が結構うるさくて・・・」
「でもかわいいわよ、シャーナちゃん。素敵!」
「うぐっ」
女従者の悪意なき
呻いて突っ伏すシャーナ。男の方が苦笑しながら割って入った。
「まあまあ、ガネーシャ様もトゥルティもその辺に。本人辛いみたいだし」
「うむまあ、そうするか」
憐れみの表情でシャーナを見下ろすガネーシャ。女従者の方は残念そうな顔だが何も言わない。
後は雑談になった。お互いのファミリアの近況とか「アイアム・ガネーシャ」の再建計画とか。
「止めろよ!? つっても止められたら苦労はしねえわなあ・・・」
「そうなのよねえ・・・」
「わかってくれるか・・・」
「ぬう、従者たちが何か意気投合している! ガネーシャ寂しい!」
それから更にしばらく雑談が続き、ケーキとお茶が無くなったあたりで四人は席を立った。
勘定を済ませて外に出ると、ガネーシャがシャーナの方を向く。
「まあ何にせよお前が元気そうで何よりだ。向こうの水もあっているようだしな」
「そうですねえ。どうにも居心地が良くなっちまいまして」
頬をかいて苦笑するシャーナ。
うむ、とガネーシャが頷く。
「しかし・・・だ。お前がその姿になったのは赤毛の女の襲撃を警戒したからであったな?
一連の事件で赤毛の女が討ち取られた今、元に戻る気はないのか?」
「!?」
ガネーシャ達がギルド本部に向かって歩み去った後も、シャーナはその場に立ち尽くしていた。
「あ、シャーナちゃんだ!」
「久しぶり、シャーナちゃん!」
「?!」
しばらくして我に返ったシャーナに声をかけてきたのは、レフィーヤ達ロキ・ファミリアの四人娘であった。
「あ・・・あ・・・」
「シャーナちゃん?」
様子がおかしいのに気付いたか、レフィーヤがいぶかしげに声をかける。
「お・・・俺に近づくなぁぁぁぁぁ! 俺は、俺はぁぁぁぁぁ!」
「え!?」
身を翻して駆け出すシャーナ。
「・・・」
四人に出来たのは、それを呆然と見送ることだけであった。
「・・・で、その勢いで歓楽街に突入して、一晩弄ばれて帰ってきたと」
「お、俺汚れちまったよ・・・」
しくしく泣きながらシーツにくるまるシャーナ。
朝帰りした上部屋から出てこないので心配して来てみればこれである。イサミならずとも呆れようというものだ。
「前から思ってたけど、あんたアホだろ」
「うるせえっ! 意地があるんだよ、男には!」
がばっと起き上がって吼えるシャーナ。
ちんちんついてないくせにと言おうとしたが、さすがにそれは自重した。
故意ではないにしろ、蘇生させた時に姿を変えてしまったイサミにも責任はある。
「それじゃ元に戻ります? レヴィスもオリヴァスもいなくなりましたし、もう障害はありませんよ。万が一レヴィス並みのがまだいたとしても、今ならハシャーナさんを守れますし」
「ハシャーナ、か・・・」
舌の上でその名前を転がす。
かつての自分の名前。
体感時間で三ヶ月ほど前までは当然のものとして馴染んでいた名前。
目の前に立つまぬけ面の大男を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ハシャーナさん?」
「いや、いいわ。今の俺はシャーナだ。それでいいよ」
「・・・いいんですか?」
「いいんだよ! イサミのくせに生意気言ってんじゃねえ!」
「はいはい」
ベッドの上に立ち上がり、苦笑するイサミの頭を脇に抱えて拳でグリグリとやるシャーナ。
その顔はどこか晴れ晴れとしていた。
「おにまい」いいですよね。
毎回実に笑えるwww