ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「ふー、終わった終わった・・・」
「お疲れさまでしたー」
夕食後、ステイタスの更新を終えて談話室にやってきたヘスティアをイサミがねぎらった。
200人近い数になったヘスティア・ファミリアであるから、全員のステイタスを毎日更新するというわけにもいかない。
新人たちについては一週間に一回としていたのだが、それでも一日三十人近い人数を更新しなくてはならず、更新にはヘスティアの「
結果としてヘスティアが貧血を起こしてしまい、現在は月一回に落ち着いていた。
「まさかこんな落とし穴があったとはねえ・・・他のでかいファミリアとかはどうしてるんだろうなあ」
「アポロン様のとこは遠征の後にまとめてやってましたねえ。後は申告制」
「
「
ダフネと、例によって遠征帰りでだべっているヴェルフ、ゲド。ヴェルフなどはあんまり良いことではないかなあと思うのだが、それでもうまいメシと酒、風呂の誘惑には勝てない。
「シャーナくん、レーテーくん、サポーターくん、君たちの所は?」
「ガネーシャさまのとこは何しろ千人以上の大所帯でしょう。月一で何とか回してますよ。
遠征前には駆け込みで更新したがるのも多いですから、ポーションガブ飲みしながら必死に更新作業してましたわ」
「イシュタルさまのところは戦う団員は結構頻繁に更新してたかなぁ。そう言う所は結構マメだったよぉ、あのひと」
「ソーマ様の所は・・・今はわかりませんが、定期的な更新はありませんでした。100人くらいいたのもありますが、ほぼ申告制でしたね・・・」
「え、ちょっとリリ!?」
「こら、何をやってるんだサポーターくん!」
ヘスティアの質問に答えつつ、ヒューマンになった体をベルに寄せるリリ。
「豊満な年上の金髪お姉さん」というドラゴンスレイヤーならぬベルスレイヤーと化した容姿を早くも使いこなしつつある。
イサミがそれを見て色々な意味で溜息をついた。
「まあガネーシャ様の所は都市最大派閥なのは伊達じゃないしな。イシュタルはあれ、フレイヤ・・・様にどれだけ敵意抱いてたんだって話だ」
一瞬迷ってからフレイヤに敬称をつけるイサミ。
色々思う所はあるが、彼女のおかげで弟が強くなり、何度か命を拾っているのも事実なので無碍には出来ない。
「まあ、これのおかげで凄く楽にはなったけどね。更新のたびに指を切らなくてもいいのが凄いよ」
「開発には結構苦労しましたけどね。喜んで頂ければ幸いです」
嬉しそうに人差し指を振るヘスティアの、その指の先には白い指サックのようなもの。
イサミの開発した"
ぶっそうな名前とは裏腹にその効果は「指を傷つけずに指の先端から血を流す」だけのもの。ステイタスの更新以外では、アスフィの作った血をインクに出来る携帯用羽根ペンを使うときや、血判を押すときくらいにしか役に立つまい。
「何だかんだで痛いし汚れるしねえ。これ、もの凄い画期的なアイテムなんじゃないかな?
そうでなくてもヘファイストスとかタケたちにプレゼントしたいんだけどどうかな」
「あー、いいですね。問題ないですよ、片手間で作れるレベルのものですし」
実のところ「
当然魔道具にしたときの基本コストも安い。
イサミが苦労した部分も手触りとか不快感軽減とかの部分であって、指から血を出すだけなら2秒で再現できる程度のものだ。
なお"
風呂の代わりに体を綺麗にすることも出来るし、火打ち石や料理道具や化粧品や掃除機や洗濯機や乾燥機や筆記用具や調味料のかわりになるし、蚊やネズミを捕らえられるし、小さな花を咲かせられるし、魚を三枚にさばいて鱗を取ることも出来る。
この呪文一つ使えるだけで、使用者の日常は随分と便利なものになるだろう。
「でもさー、そもそも【恩恵】って何なの? 他の世界を渡った人の話を聞いたこともあるけど、こんなとんでもない上にお手軽な
Lv.1の【恩恵】でも、他の世界なら
発言したのは珍しくまじめな顔のフェリス。
「確かにな。他の世界でこんなのがあったら世界征服も夢じゃない」
「えぇ・・・」
「そんなすげえもんか・・・?」
頷いてるのはイサミだけで、他の面子はぴんと来ない顔。
彼らにとってはあって当然のものなので、このギャップも仕方あるまい。
「神様、【恩恵】について何か知ってます?」
「いやー、知らないなあ。ボクも知ったのは地上に降りてからだし」
「ふーむ」
「と言うわけでじいちゃん、何か知ってる?」
「うわああああああああああああああああああああああ!?」
大陸某所。
いきなり目の前に孫が現れたゼウスが絶叫した。
「お、脅かすな! びっくりして死んだらどうすんじゃ!」
「・・・神も心臓発作とか起こすの?」
「起こすわ! 本体ならともかく、この
「うーむ」
確かにウチの神様とかびっくりしすぎたら死にそうだよなあと思いつつ、イサミは質問を繰り返した。
「で、どうなのじいちゃん?」
言いつつ"
「便利な奴じゃのうお前・・・」
「ウィザードだからね」
ともかく茶をすすってクッキーをかじるとゼウスも落ち着いたようで、ぽつぽつ話し出す。
「そもそもわしらが何故地上に降りたかは聞いているか?」
「はっきりとは聞いてないけど、タリズダンの封印が緩んだからだよね?」
「まあそんなとこじゃな。降りるに際して問題だったのはわしら自身は地上では大した力を振るえないということじゃった。封印に支障が出るからの。
なのでウラノスを中心にヘカテ、トート、オーディン、テスカトリポカ、オモイカネ、ナフー、その他の魔術に長けた神々を集めて、【恩恵】というシステムを作り出したんじゃ。
それである程度形ができたところでわしらの分体として精霊達を地上に派遣し、システムが完成したところでわしら自身が地上に降りたという訳じゃ」
あー、とイサミが手を打って納得した。
「そうか、精霊の加護ってのも今の恩恵と変わらない訳か」
「原理的にはの。神の分体が同じシステムを使って人間を強化するんじゃから」
「種族固有の魔術が使えなくなるのはなんで? もったいないと思うんだけど」
「詳しくは知らんが、単純に【恩恵】に魔術を組み込むときの交換条件じゃな。魔力の高い種族や個体はやはり術を発現しやすくなってるはずじゃよ。素のままだとエルフ以外はろくに術を使えんからの」
「それなんだけど、【恩恵】の魔法って俺の知ってる魔法と随分違うんだけど。
どっちかというと"
「それは偶然というか苦肉の策じゃな。【恩恵】による魔法は原理的には
ただ、魔法の素養のないものにも術を使わせたり、ステイタスの伸長になるべく影響を与えずに魔法能力を付与したりする都合上、スロットが最大でも3つと言うことになってしまってな。
通常の魔法のように扱いやすいかわり効果に上限があるものではなく、効果が精神力次第で無限大になるように設定したと」
「なるほど」
頷くイサミ。
「それでじいちゃん・・・」
「まだあるのか! 勘弁してくれ!」
ゼウスに悲鳴を上げさせつつ、イサミの質問は更に続いた。
「んじゃ今晩はこのくらいにしておこうか」
「もう今晩じゃないわい! 東の空がうっすらと白んでおるぞ!」
「孫の疑問に答えるのは祖父の仕事だろ。まあ手土産置いてくから勘弁してよ」
残りのクッキーを詰めた袋と出る前に買ってきた
ゼウス・ファミリアの生き残りから聞き出してきた、かつての好物だ。
「むむむ、そつないやつめ」
「じいちゃんの薫陶の結果さ」
にやっと笑うイサミにゼウスも苦笑するしかない。
「んじゃ帰るけど、ベルに何か伝言ある?」
「元気でやってるならそれでええわい――いや待て。『アレ』は今どこにおるかわかるか?」
「ここから5000kmは離れた所をウロウロしてるし、当分大丈夫じゃない?」
「そ、そうか」
露骨にほっとした顔になるゼウス。今度はイサミが苦笑する番だ。
「んじゃまた。今度はベルも連れてくるよ」
「うむ」
ゼウスが頷くと同時にイサミが姿を消した。
イサミの座っていた椅子を見ながらゼウスが独りごちる。
「【恩恵】についてお前に言っていない事が一つある――いや、お前なら気付いているかの?」
【恩恵】最大の秘密。それは神への道。
D&D世界において、神と人との間の壁は絶対的なものではない。
神を滅ぼしてその権能を奪うこともあれば、神によって低位の神に引き上げられるもの、修行の末にそこにたどり着くこともある。
【恩恵】とは神によって用意された神へ至る道。
「この世界もわしらだけではいずれ維持していけなくなるだろう。
少しでも神を増やし、この世界を維持発展させていかねばならん。
さて、イサミよ、ベルよ。お前達はわしらと共にそれをやってくれるかの・・・?」
微笑むと、ゼウスは蜂蜜酒をコップに注ぎ、ぐいっと一口にあおった。
念のためお断りしておきますが、今回の内容はダンドラにおける独自設定です。