ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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4-6 バードの知識(バルディック・ナレッジ)

「おおー」

 

 先ほどの店からほど近い喫茶店の店内。買い物を終えたシャーナを見て、イサミが感嘆のため息を漏らした。

 イサミも途中までは付き合っていたものの、二人が下着売り場へ向かおうとしたところでシャーナを見捨てて逃げたのである。

 

「裏切者め・・・」

 

 恨みがましげにイサミを睨むシャーナ。

 レフィーヤとおそろいのように、白いブラウスと淡いピンク系統のスカートで固め、同系色のカーディガンを上に着ている。

 上品ながらもかわいらしい仕立てで、先ほどイサミが言った「エルフのお嬢様」そのものの姿であった。

 

「しょうがないだろ。さすがに下着売り場に着いてく根性はない。けど本当にかわいいよ。すごい」

「でしょう? でしょう? シャーナちゃん、もう本当に何を着ても似合ってて・・・どれを選ぶか迷っちゃいましたよ!」

「勘弁してくれ・・・」

 

 この数時間でどっと疲れたシャーナの頭が、ため息と共にかくん、と落ちた。

 

 

 

「畜生、甘い物なんて好きでもなかったのに、ケーキがうめぇ・・・」

「まぁ女の子だからねえ・・・」

 

 仏頂面でケーキをぱくつくシャーナと、にこにこしながらそれを見るレフィーヤ。

 時々口元のクリームをぬぐってやったりしている。

 

 女性だからと言って味蕾が変わるわけではないだろうが、女性の体は出産の栄養をため込むように出来ている。

 甘いものを美味しいと感じるように脳ができているのだ。

 言ったらシャーナがますますへこむだろうなあ、とイサミは考えたりもする。

 

「なんというかこうな、下着の感触が・・・違和感がひどいんだ・・・」

「そういうものなのよ、シャーナちゃん。下着が違うと、気分も違うの。

 あと、男の人みたいな言葉遣いはだめよ? ちゃんと女の子っぽくしないと」

「うう・・・」

 

 助けてくれ、というアイサインを送るシャーナだが、イサミは肩をすくめるだけ。

 実際彼にはいかんともしがたい。

 結局、シャーナは夕方になるまでレフィーヤに存分に愛でられたのであった。

 

 

 

 堪能して満足したレフィーヤと別れ、二人はホームへの帰り道を歩いていた。

 イサミの背中には家具屋で購入した衣装ダンスと壁紙、絨毯。手には本日の夕食の材料とシャーナの服。

 シャーナは先ほどのままの格好で、こちらも今日買い込んだ衣服を両手に提げている。

 

「はーっ・・・・」

「疲れましたか?」

「ああ・・・【自慢のツーハンデッドソード】なくした時以上に、自分が女なんだなって実感したよ・・・」

 

 うつろなまなざしのシャーナ。

 妙に生々しいたとえにイサミが苦笑する。

 

「すいませんね、俺のせいで」

「恨む筋合いじゃねえよ。生き返らせてもらったんだしな。とは言えあのお嬢ちゃんも善意だから断りづらいんだよなあ・・・」

「地獄への道は善意で舗装されている、なんて言う人もいますけどね」

「おう、そりゃ確かだ。今日は間違いなく地獄を見たからな」

 

 わはは、とシャーナとイサミが笑いあう。

 気の置けない野郎同士の会話であった。外見さえ気にしなければ。

 

 

 

「ぬう、うめぇ・・・!」

 

 大皿から羊肉のビリヤニを取ってがつがつと口に運ぶシャーナ。

 ビリヤニとはインディカ米、カレーソース、様々な具を層状に重ねて長時間弱火で蒸し炊きにする、インド版カレー炊き込みご飯である。

 今回は刻んだリンゴ入りのヨーグルト飲料、野菜の香草揚げが付く。

 

「うぬぬぬ、この野菜のしゃきしゃきしたのとぱりっとした衣の取り合わせが・・・!」

「くそう、羊肉なのに臭みが全然ねえ・・・いくらでも腹に入る・・・!」

 

 悔しがってるのか堪能してるのか分からない事を口にしつつ、競うように料理を腹に収めていくロリ神とエルフ娘。料理人冥利に尽きる瞬間である。

 

「ん、ベル、どうした? 香辛料がきつかったか?」

「あ、うん、おいしいよ? えーと、その、今日新しい鎧を買ったんだけど、エイナさんに防具をプレゼントされちゃって・・・」

「何ぃっ!? ギルド職員め、やっぱりボクのベル君に不埒な真似を・・・あうっ?!」

 

 ぺしっ、と頭をはたかれてヘスティアが沈黙する。

 

「別に神様の物じゃないでしょーが。しかし、またお世話になっちゃったなあ・・・いよいよ頭が上がらんわ」

「エイナってのは?」

「俺とベルの担当アドバイザーさんです。ベルが毎度お世話になってまして・・・

 ああ、それより、明日はベルの立ち回りを見てやって貰えませんか。正直その辺も俺じゃ教えられなくて」

「OKOK。明日の晩飯も豪勢に頼むぜ」

「はいはい」

 

 言いつつ、ベルが話題をそらしたのが少し気になるイサミである。

 

(・・・まあ、もう子供じゃないし隠したいことの一つや二つあるんだろうが・・・)

 

 ただベルがああいう、一人で抱え込むような隠し事をするときは余りろくな事が無いのである。兄の経験的に。

 

 

 

 しばしの後。食事を終えたイサミが席を立った。

 

「ん? どうしたんだい?」

「ちょっと情報収集に。遅くなると思いますので先に寝ていてください」

「・・・わかった。気をつけてくれよ、イサミ君」

「なに、逃げ足だったら誰にも負けませんよ」

 

 軽口を叩いて外套を羽織ると、イサミは地下室を出た。

 地上部分に出た時点で、小さくコマンド・ワードをつぶやく。

 街路に出た時には、その姿は中肉中背の、吟遊詩人風のヒューマンになっていた。

 

 魔道具「"変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)"」の力である。

 幻影で外見をごまかせるアイテムだ。

 D&Dでは低級のアイテムではあるが、使い勝手がいいので高レベルのキャラクターが使っていることも珍しくない。

 

 

 

 変身したイサミは夜の街を歩き回り、酒場をはしごする。

 時に酒をおごって話を聞き、時に芸を披露して喝采を浴び、時にはただ酒を飲みつつ周囲の話に耳を傾ける。

 そんな事を数時間ほど続け、イサミはホームに戻った。

 

 一週間程前、イサミが新たに取得したクラスが"吟遊詩人(バード)"であった。

 このクラスの取得は、戦力的にはほぼ利点はない。

 剣も魔法も技能も何でもある程度こなせるが、器用貧乏というクラスである。

 

 しかしただ一点、情報収集においては他のクラスの追随を許さない。

 "バードの知識(バルディック・ナレッジ)"と呼ばれるそれは、うわさ話を聞き取り、整理し、さらには推論によって望む答えにたどり着く、現代で言えば諜報組織の情報分析官そのものの能力である。

 

 もっとも、さすがの"バードの知識"も噂にならない事柄について知る事はできないが、神託系呪文を封じられたイサミとしてはこうした地道な聞き込みに頼るか、さもなくば自前で諜報組織を立ち上げるくらいしか情報収集の手はない。

 つくづくD&Dの占術呪文は反則だった、と思いつつイサミは廃教会の扉を開けた。

 

 

 

 既に日付の変わった後であったから、さすがに誰も起きていない。

 イサミは荷物を置きもせず、数日前にこっそり作っていた隠し部屋に入った。

 6m四方ほどの空間には広い机と戸棚、書棚、隅には炉と金床、ハンマーがあり、机の上には魔石コンロとビーカーなどいくつかの容器、箱に入った筆記用具に薬草師や細工師の使うような器具もある。

 

 ここはマジック・アイテムの作成室であった。

 イサミが呪文の力を再充填するには八時間の休息が必要だが、"ヒューワードの(ヒューワーズ・)元気の出る携帯用寝具(フォーティファイイング・ベッドロール)"と言うアイテムを使えばそれを一時間に短縮できる。

 

 "願い(ウィッシュ)"の疑似呪文能力とは別に、浮いた時間を利用して手作業でマジックアイテムを作成するのが、ここしばらくのイサミの日課であった。

 "元気の出る携帯寝具"は連続しては使えないため、二日に一度であるが。

 

 夜っぴてマジックアイテムの製作を続け、五時を回ったあたりで魔法の寝袋に潜り込む。

 ちなみに作っていたのは彼自身使用している"ヒューワードの便利な背負い袋"。シャーナの分だ。

 

(この分なら明日には完成しそうだな)

 

 そう考えつつ、イサミは眠りについた。

 

 

 

「うーん、旅の空も良いけど、やっぱり我が家は落ち着くねえ」

 

 ヘルメス・ファミリア、神ヘルメスの執務室。

 帰って来たばかりの部屋の主人が椅子に体を預けて大きく伸びをしていた。

 机の前でアスフィがいぶかしげに主神を見やっている。

 

「今回はお早いお帰りでしたね?」

「まあちょっとあってね。それよりどうだい、例の虎縞の大男くんの件は。

 結構楽しみにしてたんだけど」

 

 笑みを浮かべて話を向ける主神に、眼鏡の位置を直してアスフィが頷いた。

 

「はい、ある程度は調べが付いています。

 名前はイサミ・クラネル。ヘスティア・ファミリアの冒険者です」

「ああ、そう言えば彼女も地上に降りてきてたんだっけね。眷属見つけられたんだ」

「はい。現在ヘスティア・ファミリアの眷属は彼と弟、それにシャーナ・ダーサというエルフの少女の三人。

 神ヘスティアは彼の弟に随分ご執心のようですね」

「ふーん・・・あのヘスティアがねえ。そっちも興味はあるけど、とりあえずイサミ君か、彼のことを話してくれ」

 

 頷いてアスフィが先を続ける。

 オラリオに来たのは約一月前。にもかかわらず、その半月ほど後には既に深層に、それもソロで到達していたこと。

 ベート・ローガとの壮絶な殴り合い。怪物祭での活躍。魔道具製作者としての技量。ルルネ・ルーイと共にリヴィラの街での殺人劇に関わっていたこと。

 ヘルメスは机の上に足を投げ出したまま、瞑目してそれらの説明を聞いていた。

 

 

 

「・・・今のところわかっていることは以上になります」

「ふむ・・・一つ聞きたいんだけど」

「なんでしょう」

「惚れた?」

「惚れてませんっ!」

 

 ばんっ! とアスフィが両手を机に叩き付ける。

 顔は見事に真っ赤だ。

 

「え~、でも彼のこと楽しそうに話してたじゃない? それにそんな真っ赤な顔して、説得力がないなあ」

「それ以上言うとシメますよ・・・!」

 

 アスフィの手がプルプル震え始めたのを見て、降参降参、とばかりに両手を挙げるヘルメス。

 アスフィは深呼吸をして眼鏡の位置を整える。

 その頬はまだ僅かに赤い。

 

「彼は、魔道具製作者として尊敬しているだけです・・・大体あなたは神なんですから見ればわかるでしょう!」

「まぁね」

 

 へらへら笑う主神を忌々しげに睨み付け、がっくりと肩を落としてため息をつく。

 そんなアスフィを見やり、ヘルメスは楽しげに笑った。

 

「まあ、本当に惚れちゃったとしても、彼に近づくのはお勧めしないけどね。

 あれは多分、火種になるよ」

 

 力なくうなだれていたアスフィが怪訝な顔になる。

 

「それは、どういう・・・?」

 

 眷属の質問に対して、だがヘルメスは答えず。

 ただ、底冷えのするような笑みを浮かべた。

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