ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第五話「高レベル冒険者は大体財産の九割以上が装備品」
5-1 青の薬補


 

 

 

 

 

『わかるまい! 戦争を遊びにしているシロッコには、この俺の体を通して出る力が!』

 

   ――『機動戦士Zガンダム』 ――

 

 

 

 

 

 翌朝。

 イサミ達は三人そろって迷宮に向かう準備をしていた。

 ベルは上層でシャーナの「授業」を受け、イサミは普通に深層に潜る予定である。

 

 ベルは新品の軽装鎧《兎鎧(ピョンキチ)Mk-II》とエイナから贈られた緑色のアームガード。

 シャーナは上質の皮鎧の上から鉄色の兜と分厚い胴鎧、それに籠手とすね当てをつけている。いずれもデザインは無骨でシンプルだが、一目見て一流の品と知れる。

 イサミは戦闘衣の上から外套、それに剣帯を提げただけの軽装であった。腰のベルトに多数のポーチがついているのが目立つ程度である。

 

「いいな、その軽装鎧。魔力は籠もっていないが、バランスがいい。これで一万はかなりのお買い得だ――名前はどうかと思うが」

「うん。一目見てビビッと来たんだ! ・・・まあ名前はどうかと思うけど」

 

 どこかの鍛冶師が聞いたらぐぬぬと歯ぎしりそうな感想を漏らしつつ談笑する兄弟。

 笑みを浮かべてそれを聞きつつ、ふとシャーナが口を開いた。

 

「そういえばおまえ、ソロで潜ってるんだろう? そんな格好で大丈夫か、おい」

魔道具(マジックアイテム)で防御力稼いでますんでね。それに俺の場合、防具つけてると呪文発動の邪魔になるんですよ」

 

 ふーん、と頷くシャーナ。

 実際D&Dの高レベル冒険者の例に漏れず、今のイサミもマジックアイテムの塊である。

 

 "変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)"の偽装を解けば、派手な帽子に金色のレンズのゴーグル、同じく金色の羽根で覆われたマント、奇怪な目の紋様のローブ、金地の錦の胴着、頑丈そうな腕甲、何となくぼやけているように見える黒いブーツなど、統一性のない数々のアイテムで全身を覆う、世にも怪しい何かが現れるだろう。

 もちろんオラリオに、こんな怪しい格好をしている冒険者はイサミの知る限り一人もいない。

 

(チンドン屋か、良く言って傾奇者だよなあ・・・目立ちたくないってのに・・・)

 

 自分で作ってるんだからデザインを変更すればいいだろうと思われる向きもあろうが、金色のレンズやマントの羽根、目の紋様などにも魔術的な意味がちゃんとあるので、実際問題デザインの自由度はあまりないのである。

 

「それじゃ俺はミアハ様の所に行ってから潜るから、先に出るな。シャーナ、ベルのことよろしく」

「おう、まかせとけ」

「今日も無事帰ってこいよ、イサミくん!」

「それより神様、そろそろ出ないと間に合いませんよ」

 

 一人増えて賑やかになった会話に目を細めつつ、イサミはホームを出た。

 

 

 

 ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

 第五話「高レベル冒険者は大体財産の九割以上が装備品」

 

 

 

 ミアハ・ファミリアのホーム、「青の薬舗」。

 廃教会から更に奥の寂れた路地裏にあるこの店をイサミは訪れていた。

 

「おはようございまーす」

「おー・・・来たか・・・できてるよ」

 

 眠そうな顔の女性犬人、ナァーザ・エリスィス。

 店番にして、ミアハ・ファミリア唯一の構成員でもある。

 その彼女が取り出したのは、ファミリアの主力商品であるポーションの入った試験管ではなく、栓をした大きめの陶器の瓶であった。現代世界で言えば二合徳利、あるいは500mlのペットボトルほどか。

 

「それじゃ、確かめさせてもらいますよ」

「ん・・・」

 

 どことなく緊張した面持ちのナァーザを前に、イサミが慎重に瓶の栓を抜く。

 とたん、瓶の口から炎が吹き出した。イサミが冷静に再び栓をすると、空気の供給を絶たれた炎が瓶の中で消える。

 ナァーザに向かってイサミが頷く。

 

「確かに」

「良かった・・・正直初めてだったしね」

 

 瓶の中身は「錬金術師の火」。またの名を「大オイル」。空気に触れると炎を上げて敵にダメージを与える化学物質であるが、イサミにとっては"炎の泉(ファイアーブランド)"呪文の触媒として重要なアイテムである。

 今までは"願い(ウィッシュ)"の疑似呪文能力で補給していたのだが、なるべく使用回数は節約したいのと、金に余裕ができたので半月ほど前から製作を依頼していたのだ。

 「錬金術師の火」は名前の通り錬金術で作られるアイテムではあるが、ポーションを作るミアハ・ファミリアの設備であれば、これも作成できるのではないかと踏んでのことであった。

 

「設備の購入費まで持ってもらったからね・・・それに、腕のこともあるし」

 

 そう言うナァーザの右手は先日までの銀の義手ではない。

 生身の、美しい腕だ。

 

 彼女の腕の話を聞いたイサミが、試しに"再生(リジェネレイト)"の呪文をかけてみたところ、見事に失われた腕が回復したのである。

 イサミの魔法は単純な負傷回復量ではこの世界の魔法に遠く及ばないが、技術的にはこの世界の回復魔法を凌駕しているらしい。

 質に優れるD&D魔法、量に優れるこの世界の魔法と言ったところか。

 

 ちなみに報酬は不要になった銀の義手だ。

 D&D世界には存在しない技術なので、マジックアイテム好きのイサミの興味をいたくそそったのである。

 

「そうそう・・・これ、私の調合アビリティが有効みたい」

「それはよかった。それじゃ、今あるだけ下さい」

「はい・・・200本完成してるから、280万ヴァリス。もらった前金から引いておくね・・・でも、こんな物によく一本一万四千も出すね」

「前に説明したとおり、魔法の触媒でしてね。なくても使えるけど、あるとないとじゃ全然違うんですよ」

 

「錬金術師の火」は単純に投擲武器として使った場合、せいぜい上層4階層位でしか通用しない。

 その割にこの値段では、ナァーザがいぶかしむのも無理からぬ所ではある。

 

 イサミもできればこんな金食い虫の呪文を使いたくはないのだが、下層より下だと一度に出現する怪物の数が段違いに増える。

 敵を最大限速やかに倒さねばならないソロ冒険者としては、高価な触媒の代わりに破格の攻撃範囲を持つ"炎の泉(ファイアーブランド)"はほとんど唯一の選択肢なのである。

 

 実のところ"炎の泉"の呪文を使っていると下層辺りでも赤字になりかねないのだが・・・そこは天から授かった"願い(ウィッシュ)"の力で補っていた。

 この魔法は大抵の願いを叶えるが、金品を望んだ場合、金貨で二万五千枚。ヴァリスに換算して二千五百万までの品物を出すことができる。

 その膨大な資金を消費財につぎ込み、突っ走ってきたからこそ、イサミの急激なレベルアップ(D&D的な)があった。

 

「まぁ・・・もうけさせてもらってるからいいけどさ・・・」

 

 肩をすくめるナァーザ。

 原材料費7000ヴァリスのものが14000で引き取ってもらえる上に大口注文なので、彼女としては万々歳である。

 もっとも、イサミの方も大口注文を盾に3割引にさせているのだからおあいこだ。

 

「それじゃ、また明日。作ったら作っただけ買いますから、お願いしますよ」

「今のままだと、ミアハ様に手伝ってもらっても限界があるから・・・余り期待には応えられないかも」

「まあ、それは人を雇うなりファミリアの構成員を増やすなり。設備投資のしどきですよ」

 

 イサミの軽口に、ナァーザがにやっと笑う。

 

「そのためにも無事に帰ってきて欲しいね。たくさん作って、引き取り手がいないってのは勘弁だよ」

「大丈夫ですよ、当分死ぬ予定はありませんから。じゃ」

「毎度あり・・・」

 

 受け取った「錬金術師の火」を背負い袋と魔法の隠しポケットに収め、イサミは薄暗い店内を出た。

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