ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
迷宮37階層。
「《
最後のリザードマン・エリートが火柱に焼き尽くされて倒れた。
ふう、と息をつく。そのイサミにシャーナが心なしかいぶかしさの含まれた視線を向けた。
「・・・何か?」
「いや、何でもねえ。先に行こうぜ」
それからも数度、シャーナとイサミはモンスターの群れを倒し、そのたびにシャーナのいぶかしげな表情は濃くなっていき、そして10ほどの群れを倒した後、ついにシャーナが口を開いた。
「なあ、何か、調子でも悪いのか?」
「え?」
「いや、な・・・なんかこう、戦い方に戸惑いっていうか・・・俺に合わせて何かいつもと違う戦い方をしてるか?」
ああ、とその言葉で気づく。
普段は敵の群れの中に飛び込んで、わざと攻撃を受けながら呪文を発動しているイサミである。
今日はシャーナと一緒と言う事もあり、アウトレンジで呪文を打ち込むスタイルに徹していたのだが・・・その違和感を、シャーナは鋭く感じたようだった。
「アホだろおまえ」
イサミから説明を受けたシャーナは、彼の努力を一言で切って捨てた。
たじろぎながらもイサミは反論を試みる。
「いや、だからそうしないとステイタスが・・・」
「たかが数点の熟練度稼ぐために、そンな手間のかかることしててどうするよ。そんなことしなくても魔力は伸びるんだろう? だったら、ガシガシ効率よく
「・・・まあそれは・・・」
実際、そういう戦い方を半月以上続けても、ようやく耐久力が最低ランクから一段階上がっただけなので、イサミとしては反論がしにくい。
「しかしですね、レベルが上がれば上がるほどステイタスは上がりにくくなるわけで、それだったら今のうちに上げておかないと・・・」
「それで上がらないんだからやっても無駄だろ。苦手なところを伸ばすより、得意なところを伸ばせ。苦手を補うのがパーティってもんじゃねえか」
「まあそうですけど・・・」
イサミだって、痛いし面倒だし、できればやりたくはないのだ。
だが上昇できるはずのステイタスを上昇させないのは、いかにももったいなく思えるのである。
無意識のうちに、かつての世界でのゲーマーとしての癖が出ていたのかもしれない。
「ふぐぉっ!?」
そんな事を考えていたイサミの口から、突然奇声が漏れた。
見下ろすと、にやりと笑ったシャーナが、イサミの股間をわしづかみにしている。
「おら、覚悟決めろや? おめーはな、今結構重要な所に立ってるんだぜ」
「じゅ、重要な所って・・・?」
震えながら問い返す。
「そりゃあもちろん、仲間に命預ける覚悟よ。
前衛は筋力や耐久が伸びるが魔法が苦手だし、魔導士は肉体的ステイタスは伸びないが、火力がある。
前衛は後衛の魔法が敵を倒すことを信じて体張ってるし、後衛は前衛が自分の所に敵を届かせないことを信じて詠唱するんだ・・・そうでなきゃ回らねぇのよ」
言いつつ、股間から手を離すシャーナ。
「まあ今すぐ切り替えろってのも難しいだろうが、とりあえず、俺と潜ってる間は俺を信じろ。
俺と一緒に潜るってんならな」
「・・・わかりました」
にやっと笑いながら振り向いて歩き出すシャーナ。
フラフラと心なしかよろけながら、イサミはそれについていった。
それから更に十数回の交戦を経て、シャーナとイサミは37階層の中央の広大な「ルーム」に来ていた。
38階層への階段に続くこの場所こそ、階層主「ウダイオス」の出現ポイントである。
「まだ、出現してないみたいですね」
「前回出たのはいつだっけ? 確かロキ・ファミリアが討伐したんだよな」
「明後日で丁度三ヶ月目ですね。やっぱり三ヶ月経たないと出てこないのかな」
「みてぇだな。17階層のゴライアスもきっちり二週間で出てくるって話だし。つーかウダイオスの前にそっちなり、27階層の・・・」
はた、とシャーナの言葉が途切れる。
沈黙が落ちた。
「・・・試したのか」
「駄目でした」
言いつつ、イサミがルームの中央に進み出て、何やら呪文を唱える。
「ゴライアスはまだしもアンフィスバエナをソロでなあ・・・ん、何したんだ?」
「"
「他の冒険者やモンスターが通ったらどうなんだよ?」
「そのたびに"
「本当に便利だな、おまえ・・・」
「
幸い、37階層はこのルームを中心にすり鉢状の同心円を描く、円形劇場ないし闘技場のような作りになっている。
ただし座席の代わりに五重の巨大な城壁と迷宮が存在するが。
ともあれ周囲を囲む迷路をぐるぐる回っていれば、"警報"の効果範囲から出ずに探索ができるわけであった。
「ま、出てくるまでただ暇をつぶすのも馬鹿らしいしな」
「いざとなれば、城壁を乗り越えて、直接飛んでいけるわけですしね」
そういうこったな、と頷いてシャーナは歩き始めた。
イサミもそれに続く。
それからは比較的単調な戦いの連続だった。
イサミの圧倒的な感知能力により先に怪物を発見すると、遠距離から"
相手によってはこれだけで片がつく。
生き残ったモンスター達も、大概は最早満身創痍。
立ちはだかるシャーナの大剣に切り刻まれ、イサミの《
時折、ルームなどで乱戦になることもあったが、怪物に囲まれながら呪文を発動するのは今までイサミがさんざんやってきたことである。問題にはならなかった。
そもそも"
敵が固まっている場合はもちろん、周囲を囲まれれば輪形に炎の間欠泉を配置し。
「グォォォォォ!」
広いルームに敵の群れがばらけていれば、点在するそれぞれの足下から炎を吹き出させ。
「ギィィィッ!」
狭い通路で出会えば一直線に炎の柱を並べる。
「ガァァァァァァァァアッッ!!!」
その気になれば空中からも吹き出させることができる(その場合周囲360度に噴出するので、およそ直径3mの炎の球形になる)ので、対空能力も高い。
もっとも、この階層で空を飛ぶモンスターは出現しないが。
ちなみに"灼熱の光線"はおよそ50m以内の敵に数本の火炎光線を放つ呪文である(射程や火線の数は術者の術力に依存する)。
しかし《連鎖化》の呪文修正を施すと、命中した一匹の周囲9mの敵にもその攻撃が「飛び火」するようにできる。
"炎の泉"と違って高価な触媒を使わないので、イサミは《連鎖化》を施した"灼熱の光線"をとどめによく使っていた。
ただ、魔法に対する強い抵抗力を持つオブシディアン・ソルジャーだけは楽勝とは行かない。
だからイサミも策を弄する。
「《
イサミが呪文を発動した瞬間、押し寄せて来ていたオブシディアン・ソルジャー達の足がふわりと地上から浮遊する。
否、彼らは空中に向けて「落下」を始めたのだ。
天井まで真っ逆さまに落下するかと思われた彼らは、しかしいったん宙の一点を行きすぎた後今度は正常に落下し、上空6mほどで何かが釣り合ったかのように静止した。
"重力逆転"。
モンスターに直接作用するのではなく、名前の通り範囲内の重力を逆転させる効果であるゆえに、重力に逆らう能力を持たない対象にはあらがう術はない。
魔法に対する高い抵抗力も、回避力も耐久力も、この呪文の前では意味を持たない。
「壮観だな・・・で、ここからどうするんだ? 魔法は効きにくいだろ?」
「こうします。《
赤銅色の光線がイサミの指先から飛び出した。
光線はじたばたするオブシディアン・ソルジャーの一体に命中してそれをこっぱみじんに砕いた後、他のオブシディアン・ソルジャー達にも「飛び火」して、それぞれの体にひびを入れる。
苦悶の声こそ漏らさないものの、明らかに大ダメージを負った黒曜石の人型達が苦痛に耐えるようにうごめいた。
「おお? 何だ、全然効いてるじゃねえか!」
「あのたぐいの怪物は普通の呪文は至極効きにくいですけど、今のはそういうモンスターを内部崩壊させるための呪文なんですよ・・・《最大化》《威力強化》《二重化》《光線分枝化》《連鎖化》"
もう一度イサミが放った呪文を受け、もう一体のオブシディアン・ソルジャーが砕け散り、残りのひび割れも更に大きくなる。
最後にもう一度放った呪文で、今度こそ全てのオブシディアン・ソルジャー達はこっぱみじんに砕け散った。