ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
その後も、次々と敵がわき出す「コロシアム」や敵が大量発生する「
その後、上の回廊に登って更にもう一周。もう一つ上に登って更に一周する頃には、ほぼ一日が経過していた。
「そろそろ大休憩を取ろうぜ。この体で深層は初めてだしな・・・さすがに疲れたぜ」
「少し行ったところに休憩に丁度ぴったりのルームがあります。そこにしましょう」
「地図も出さないでよくわかるなぁ」
「
ニッと笑うとイサミはシャーナを促して歩き始めた。
「さて、それじゃあ壁を・・・お、ラッキー! そこの壁の中にアダマンタイトの原石がありますよ!」
「そんな事までわかるのか、おい」
"
金銀宝石を感知する呪文だが、どうもアダマンタイトの原石は貴金属扱いになるらしい。
「それじゃ壁を壊しちゃいましょう。"
石壁に手をついてイサミが呪文を発動すると、触れた部分から石壁がめりめりめり、とはがれ始めた。
モンスターは迷宮の壁から生まれるが、壁を破壊した場合、それが自動的に修復されるまで出現しない。
よって、休息を取る場合は周囲の壁を破壊するのが鉄則である。もちろん普通はハンマーなどを使うのだが・・・。
見えない手によって粘土を引きちぎるように石壁の表面が引きはがされ、壁の下部にわだかまる。
引きちぎられた跡がルームを一周して、呪文の効果は止まった。
それと共に、壁の奥からごろり、と巨大な金属の塊が転がり出てくる。
"石材変形"の効果によって奥から押し出された、1mを越える
「でけえ・・・こんなでかいの、お目にかかったことねえぜ」
自身と大差ない高さの金属の塊を見て、感心すると言うより呆れるシャーナ。
「・・・これ、分配の時にもらってもいいですか?」
「ん? ああ、おまえの分け前として持ってくなら別にいいぜ。武器でも作る気か?」
「いや、ちょっと・・・いつもお世話になってるところに贈ろうかと」
「?」
遠い目をするイサミの脳裏には、主神の働いているヘファイストス・ファミリアのバベル支店の風景がよぎっていた。
「うんまあ、これくらいじゃ驚かなくなった自分が怖いわ」
1mを超す金属塊がみるみる縮んだ後、イサミの背負い袋に放り込まれたのを目の当たりにしたシャーナが、平板な声で言った。
「何をいちびってるんです。それじゃ、入り口に"警報"をかけますから、そしたら休みましょう」
「おうよ。しかし、今頃神様やベルは何やってるかねえ」
「まあ冒険とバイトでしょうね。ベルはそろそろ上がりかも知れませんが」
「あいつもがんばってんなあ。昔を思い出すぜ」
「トシがばれますね」
「うるせえよ、小僧」
何やら昔を懐かしむようなシャーナをからかうイサミ。
まさかヘスティアがやけ酒をかっ喰らって二日酔いになったり、二人がデートしたり、ベルが女神達の胸の中で窒息死しかけたり、二人して女神達から逃げ回っていたりしようなどとは、さすがのイサミも想像の埒外であった。
「む?」
その様な事があってから丁度丸一日。
同じルームで再度大休憩を取ろうとしていたイサミとシャーナが、そろってルームの入り口に目を向けた。
僅かな明かりが入り口の向こう、廊下を照らしている。
程なくして現れたのは顔見知りの、ロキ・ファミリアの面々だった。
「おや、君たちだったか」
「最近良く会いますねえ」
「まったくだ」
腹の内を全く表に出さず、ごく自然に苦笑するフィン。もっとも、半分位は素でもある。
「みなさんも休憩ですか?」
「ああ、ご一緒していいかな?」
「もちろん。二人で使うには広すぎますからね。ついでにお茶でも一杯どうです」
「は?」
「・・・まさか、ダンジョンの中でお茶会するとは思いませんでした・・・」
「うん、私も・・・」
「私もだ。だが、美味い。もう一杯貰えるかな」
「どうぞどうぞ」
呆然と紅茶をすするのはエルフの魔導士レフィーヤと、サポーターとして連れてこられた兎人の少女、ラクタ。
一方悠然と、かつ上品に紅茶を口にするリヴェリアはさすがの貫禄である。
「何このクッキー、すごくおいしい?!」
「本当だ・・・こんなおいしいお菓子は初めて食べたよ」
一方、お茶うけとして出されたクッキーの盛り合わせに舌鼓を打つのはアマゾネス妹とシャーナ、意外にもフィン。
女の体になって以来、甘い物が好物になってしまったシャーナが、複雑な表情でクッキーをぱくついていた。
「シャーナちゃんだっけ? 美味しいよね、このクッキー」
「ね、ね、シャーナちゃん! こっち来てお話ししましょうよ!」
「シャーナちゃん、ちんまくてかわいいよねー・・・髪さわっていい?」
「そ、その、シャーナ、お兄ちゃんと話が・・・」
にこにこ顔のレフィーヤその他に呼ばれたシャーナの背中に、ぞぞぞっと冷たい物が走った。
崖っぷちに追い込まれたような顔のシャーナが、イサミの方を振り向く。
(お、おい、助けて・・・)
(因果応報)
イサミはレフィーヤと同じにこやかな笑みを浮かべ、シャーナを崖から蹴り落とした。
「ああ、構わないよ。話なら後でもできるから好きにしてくれ」
「やったー!」
「あーもう本当に綺麗! エルフっていーなー!」
「は、はは・・・」
その後しばらく、シャーナはレフィーヤ達に愛でられ、ガールズトークに付き合わされた。
30過ぎの元おっさんにとって非常に辛いものだったろう事は想像に難くない。
「・・・そういえばイサミ。このクッキー、まさかこれもおまえが作ったのかよ?」
「そうですけど?」
ようやく一時解放されたシャーナがクッキーをもりもり食べながら聞いた。
無造作に答えたイサミの肩をがしっ!とアマゾネス姉がわしづかみにする。
「お願い、レシピ教えて! 団長があんな美味しそうにお菓子食べるのなんて、初めて見たの!」
「お、教える・・・教えるから、手を・・・」
鬼気迫るティオネの表情とミシミシきしむ肩の骨に脂汗を流しながら、イサミがコクコクと頷いた。
「何これ・・・材料の指定から手順の細かさから・・・」
「お菓子ってのは難しいんだよ。材料の配分とか焼く時間と温度とか、ちょっとでも違うと別物になるんだ」
レシピの余りの細かさと長さに、今度はティオネの方が脂汗を流している。
薄力粉が袋詰めで売っていないこの世界では、材料の小麦粉を買うにも気を使わなくてはいけないのだ。
ぬ、とイサミの前に大皿が突き出された。皿を持つのはシャーナの手である。
「クッキー、もうないか? 全部食っちまったんだが」
「ありますよ。ちょっと待っててくださいね」
横に置いてあった灰緑色の外套のポケットに手を突っ込み、プレーンクッキーの入った袋を取り出す。
別のポケットに手を突っ込み、今度はチョコレートチップクッキーの袋を。
更に別のポケットからはハーブクッキーの袋が出てきた。
フェイルーンという世界固有のマジックアイテムで、寒さを防ぎ、雨を弾き、合い言葉を唱えれば一人用のテントに変化し、とどめに毎日砂糖入りの熱い紅茶(もしくは冷たい水)7.5リットルと三人が一日食いつなげる分の保存食を出してくれるという、まさに旅人にとって神のようなアイテムである。
食料は別の方法でいくらでも出せるので、イサミはこれをアレンジして、保存食三人分ではなく、三種類のクッキーを出すようにしていた。
「ゲームだったら要マスター応談案件だが、実際に技術を持っているならこれくらいのアレンジはアリらしいなー」
「誰と話してるんだおまえは」