ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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5-5 取引(ディール)

「あー、美味しかったー!」

 

 ティオナの言葉にアイズがコクコクと頷く。

 三人の三食分、つまり九食分のクッキーの山を九人で分けたので丁度一食分になった。

 ちなみに一番食べていたのはティオナとシャーナである。

 

「そういえば皆さんはどこまで? ファミリアの遠征とかじゃないんでしょう?」

「ああ、たまには気ままに冒険をしてみたくてね。まあ借金に追われてる子達もいるんだけど」

 

 言いつつ、フィンは笑みを含んだ視線をティオナとアイズに投げる。

 ティオナは「いやぁ」と頭をかいて照れ、アイズは暗い表情でうつむく。

 借金に追われているだけにしては少し深刻すぎるようなとイサミはいぶかしんだが、口には出さなかった。

 

「借金? 武器でも壊したんですか?」

「そーなのー。この前の遠征で、変な芋虫に会っちゃってさー。斬りつけると体液で武器が溶けちゃったのよ」

「うへぇ。深層にはそんなのもいるのかよ」

 

 うんざりしたような顔でシャーナ。純前衛である彼女にとっては人ごとではない。

 

「ギルドに報告は提出したから、興味があるなら閲覧するといい」

「魔法か不壊属性武器(デュランダル)なら大丈夫なんだけどねー」

 

 ティオナの言葉にイサミが首をかしげる。

 

「あれ? アイズの武器って見た感じ不壊属性だよな。じゃあ彼女のは別口?」

「そーなのよー。この子、剣を手入れに出してる間の代剣を乱暴に扱って壊しちゃってさー。四千万ヴァリスだよ四千万ヴァリス!」

「一億二千万の武器をツケで作らせたあんたが言えることでもないでしょうが」

 

 自分の事を棚に上げる妹に、姉が突っ込む。

 レフィーヤが遠慮がちに口を挟んだ。

 

「で、でも、放っておいたら一般の人たちが襲われてましたし・・・」

「というとあれか、怪物祭のときの人食い植物?」

「そうそう。そういえば《美丈夫(アキレウス)》くんも怪物祭で大活躍だったらしいじゃん? 空飛ぶ馬に乗ってさ!」

 

 ティオナの言葉におもわず苦笑する。

 

「まぁね。でも《美丈夫》はあだ名にしてもどうかねえ。俺はそこまでハンサムじゃないぜ?」

「だーって、ものすごいかっこいいじゃん。虎っぽいし。女がほっとかないよー?」

「だったら、おまえさんが頬を染めてないと理屈に合わないわけだが」

「わたし、そういうの興味ないからねー」

 

 だと思った、とイサミとティオナが声を揃えて笑った。

 

「そういう君たちはどこまで? ソロという話だったが、パーティメンバーを見つけられたらしいな」

「ええ、組んで出るのは今回が初めてなんで、慣らしと・・・後は、前回から三ヶ月経ってますから」

 

 ぴくり、とアイズが反応した。

 

「三ヶ月・・・ああ、ウダイオスか。まさか、二人で討伐を?」

「無茶だよそれ! あたしたちが総出で討伐した相手だよ?! 本気でやれる気?」

「ソロで43階層というのはすごいですけど、だからといって・・・」

 

 口々に引き留める面々の中、アイズは無言。フィンもだ。

 それに気づいたリヴェリアが、フィンと素早く目配せを交わす。

 

(・・・彼らを試すつもりか?)

(悪人とは思えないけど、色々と気になるのは確かだ。ここは一つ、手の内を見せてもらおう)

 

 首脳陣がこっそりと意見を一致させている間にも、ロキ・ファミリアの面々によるイサミ達の説得は続く。

 

「あれ、ホントにやばいんだよ? すごい魔導士で神秘アビリティ持ちってのは聞いたけど、それにしたって二人きりで? 無理無理!」

「いや、色々アイテムとか用意はしてきたし・・・」

「それなりの用意はしてあるとは思うけど・・・見てみるだけならともかく、二人で戦うのは私もかなり無茶だと思うわ」

「そうですよ。アイズさんも何か言って上げてください!」

 

 レフィーヤに呼ばれて、アイズが顔を上げた。

 

「・・・・・・あの」

「・・・」

 

 場違いなほど真剣な表情で、アイズがイサミを見つめる。

 無言のまま、イサミが先を促した。

 

「ウダイオスを、私に譲っては貰えませんか」

「は?」

「「はぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」」

 

 レフィーヤとシャーナの声が綺麗にハモった。

 

 

 

「オイオイ、譲ってくれって、そりゃ没義道(もぎどう)ってもんだろう。欲しいなら早い者勝ちってのが冒険者の決まりだぜ?」

 

 諭すようなシャーナの言葉に、アイズは無言。

 

「彼女の言うとおりだ、アイズ。団長としてそれを許すわけにはいかない。それに・・・まさか、一人で挑むつもりなのかい?」

「・・・・・・」

 

 同じく諭すようなフィンに対し、リヴェリアはアイズと同じく無言のまま。

 そして、アイズの顔をじっと見ていたイサミが、ティオナ達より一瞬早く口を開いた。

 

「いや・・・アイズが譲ってくれって言うなら譲ってもいい」

「「「「え」」」」

 

 あっけにとられた顔で、ティオナ達がいっせいにイサミの顔を見た。

 フィンがどこか探るような目でやんわりとそれを断ろうとする。

 

「いや、気持ちはありがたいけれども、余り甘やかしてもらっては・・・」

「彼女は弟の命の恩人ですからね。借りがあります」

「む・・・」

 

 黙り込むフィンの代わりに、今度はシャーナが尋ねる。

 

「いいのか?」

「良くはないけど・・・しょうがないでしょ」

「まあ、おまえがいいって言うならそれでいいがな」

 

 肩をすくめるシャーナに、イサミが頭を下げる。

 

「すいません」

「気にすんな。今回はおまえのために出てきたんだからな。それにまあ、三ヶ月経てばまた出てくるわけだしよ」

 

 からからと明るく笑うシャーナにもう一度、イサミが頭を下げた。

 

 

 

 一方、ロキ・ファミリアの方ではほとんど総掛かりでアイズを翻意させようと説得している。

 

「ウダイオスに一人で挑もうって言うの?! さっきも言ったけど無茶だよ!」

「そうです! いくらアイズさんでも・・・!」

 

 アイズは無言でうつむくばかり。と、今まで同じく無言だったリヴェリアが手を挙げてティオナ達を制止した。

 

「まあ、待て、みんな・・・フィン、アイズの行動を許してやってはくれないか?」

「ンー?」

「?!」

 

 いぶかしげにリヴェリアの顔を見上げるフィン、そして無言ながらも驚きの表情を浮かべるアイズ。

 

「この子が滅多に言わないわがままだ。その意思を尊重してやってほしい」

「そんな母親みたいな事を言われてもね・・・」

「はいはいはい! 私たちが後ろで待機してて、危なくなったら割って入るのは?」

 

 ティオナの提案に、だがフィンは首を振る。

 

「残念だが物資が足りない。ウダイオスが再出現するまで、早くてもあと半日。全員で待機していたら、帰りの食料がなくなる可能性がある。手持ちのポーション等ももう少ない」

「うーっ・・・」

 

 悔しそうに唸るティオナ。それを見て済まなそうな顔になるアイズ。

 意志を翻そうとはしないものの、心苦しくは思っているらしい。

 苦笑して、イサミは助け船を出してやることにした。

 

「取引しませんか、"勇者(ブレイバー)"」

「取引?」

「俺たちはこの階層にいる間の、あなた方の食料と水を負担する。

 その代わりアイズは戦闘不能になるか、倒れて10数える間立ち上がれないかした場合、階層主と戦う権利を俺たちに戻す。

 その場合あなた方はそのままそこにとどまって、俺たちが危なくなったら助けの手をさしのべる。どうです?」

 

 思わずフィンは苦笑していた。

 確かにイサミ達の得になる条件でもあるが、アイズがウダイオスを倒してしまえば物資は丸損だ。

 

「いいのかい、そんな条件で?」

「ロキ・ファミリアの保険が掛けられるんです、お得な取引ですよ」

「その割に、アイズが勝つのを疑ってないようだけどね・・・まぁ一応、礼は言っておくよ」

「それこそ彼女が勝ってからにしたらどうです?」

 

 ごもっとも、と再び苦笑するフィンである。

 そして今度はリヴェリアが口を開いた。

 

「すまないな、イサミ・クラネル。私からも礼を言わせてもらう。

 差し支えなければ聞かせて欲しいが、どうしてそこまでアイズに良くしてくれる?」

「まあ、借りの一部というところでしょうか。それに・・・ランクアップするために無茶をしたくなる気持ちはよくわかりますから」

「ふむ・・・」

 

 リヴェリアがアイズとイサミを見比べる。

 アイズは何とはなしに居心地の悪さを感じて縮こまり、イサミは肩をすくめた。

 

「そうそう、後ひとつ。どうやら俺は年下には甘いたちらしいので」

 

 その言葉にん? と首をかしげるティオナ。

 先に述べた通り、イサミの外見年齢は15歳の時から変化していない。

 体躯はたくましいが、どこか少年らしさが残っている。

 

「あれ? 《美丈夫(アキレウス)》くん、アイズより年上? 15、6くらいかなって思ってたんだけど」

「だからそのあだ名は・・・まあいい。四十八だよ」

 

 ティオナの鋭さに舌を巻きつつ、イサミが答える。

 アマゾネスの少女が目を丸くした。

 

「・・・ほんと?」

「嘘に決まってるだろ。十八だ」

 

 まあ前世を足せば嘘じゃないがな、と、これは心の中でつぶやくにとどめて置く。

 

「うそー! 私たちより年上?!」

「さん付けしてもいいんだぞ、ティオナくん?」

 

 にやにやしながらイサミがティオナをからかう。

 

「むきー! 何かムカツクー! 美丈夫のくせに生意気ー!」

「あんた、それ悪口になってないわよ」

 

 大げさに悔しがるティオナと、そんな妹に呆れるティオネ。

 フィンとリヴェリアも顔を合わせて苦笑し、周囲に弛緩した雰囲気が流れた。

 

「・・・」

 

 そんな中で、ほっとしてはいるものの、アイズは硬い表情を崩さない。

 余人は知らず、イサミにはそこから並々ならぬ必死さが見て取れた。

 

(・・・ま、しょうがないか)

 

 心の中でため息をつく。

 結局の所、イサミはやはり年下には甘いようであった。

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