ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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5-6 "英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"

「さて、食事はいつにします?」

「そうだね・・・クッキーもごちそうになったし、休憩明けにお願いしようかな。お礼でもないけど、見張りは僕たちが請け負おう」

「それじゃ、ありがたく」

 

 言いつつ、合い言葉を唱えて「旅人の外套」を一人用テントに変化させる。

 

「シャーナはこっちで寝てくれ。俺は寝袋で寝る」

「いいのか? お前のだろうに」

「女の子を外に寝かせて自分がテントだと、あっちのエルフさんが怖いので」

「・・・そりゃそうか」

 

 苦笑するシャーナが、一転してニヤニヤする。

 

「どうだ、何なら二人でテントを使うか? 俺たちなら無理矢理入れないこともないぞ?」

「さっさと寝ろタコスケ」

 

 

 

 数時間後。

 

「それじゃ、用意しますね」

 

 言いつつ、イサミは3m四方ほどの絨毯を床に広げた。

 

「絨毯?」

「ふむ・・・魔道具か?」

 

 興味深げにのぞき込むリヴェリアに頷き、イサミが右手を絨毯に当てる。

 袖と手甲(ブレイサー)に隠れて見えないが、右肘から下腕に掛けて光り輝く精緻な模様が浮かび上がった。

 

「魔法の絨毯よ、その力を示せ」

 

 絨毯の上に光がわだかまる。

 一瞬の後に光は形を成して、湯気を立てる料理の大皿や焼きたてのパン、金色の瓶や杯などに姿を変えた。

 

 タレに漬け込んで焼いた牛肉を山のように盛った銀の大皿、バターたっぷりのマッシュポテト、ゆで卵にソーセージ。

 竜田揚げやジャガ丸くんと言った揚げ物、ドレッシングを掛けた生野菜のサラダ。

 ヨーグルトと生バター、クルミ入りのパンと麦の粥、生クリームと果物を使ったデザート。

 牛乳と紅茶、加えて疲労を消してくれる魔法の酒(ネクタル)

 

「おお・・・」

「すっごい! 何これ!?」

 

 まさか迷宮の中でこんな食事が取れるとは思っていなかった一同から歓声が上がる。

 

「こんな魔道具もあるのか・・・君が作ったのか?」

「ええ。ちょっと使いづらいんですが、便利でしょう?」

 

 例によって嘘である。

 絨毯は「空飛ぶ絨毯(カーペット・オブ・フライング)」というマジックアイテム。

 食事は体に刻んだ歓待のドラゴンマークの"英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"(通称英雄定食)の力だ。

 

 くぅ、とかすかな腹の音がした。

 レベル3のレフィーヤとラクタ以外、全員の視線が一斉にそちらを向く。

 顔を真っ赤にしたアイズがうつむいて縮こまっていた。

 くすりと笑ってイサミがぱんぱんと手を打つ。

 

「はいはい、ともあれ冷めないうちにどうぞ」

「はーい!」

 

 真っ先に絨毯に座り込んだティオナが、山盛りの焼き肉を皿に取ってかぶりつく。

 

「美味しい?! 何これ、めっちゃ美味しい!」

「大事な事なので二回言ったんですね、わかります」

「え?」

「いや、なんでも」

 

 イサミの普段の料理は当然、この世界の材料を使って作られている。

 だがこれはイサミの前世の記憶を元に魔法で生み出された料理だ。

 

 現代日本で品種改良された肉や野菜、高い技術で精製された、しかも酸化していない油やバター。保存状態のよい小麦粉から作られたパンや衣。エ●ラ焼き肉のタレ。

 冷凍技術の発達していないこの世界の、しかも原種に近い食材と比べて、美味くないわけがない。

 しばらくの間、一同は無言で料理をむさぼり続けた。

 

 

 

「ぷはー、食った食ったー! 美味しかったー!」

「お粗末様でした」

「もうちょっと量があれば良かったねー!」

「マジかよ」

 

 9人に対して15人分出したのにと唸りながらも、イサミは「旅人の外套」から鉄瓶を取り出し、今日の分の紅茶をカップに注いで回った。

 

「ティオナじゃないけど凄く美味しかったわね。何か、体から元気が沸いてくる感じ?」

「まぁ、そういう効果もあるよ。疲れを取って、毒や病気を癒してくれる。何せ魔法の食事だ」

「凄いですね・・・まるで伝説に出てくる妖精王の宴のようです」

「あそこまですごいもんじゃないけどね」

 

 ぱたぱたと手を振るイサミ。

 実のところ、士気を高めたり打たれ強くなったりする効果もあるにはあるが、ティオネ達のレベルだと誤差程度の物である。

 

「それで、そろそろ出ますか?」

「そうしようか。もう少し余裕はあると思うけどね」

 

 懐中時計の蓋を閉じながら、フィンが頷いた。

 シャーナが口をゆすいでいた紅茶を飲み込み、呆れたようにイサミを見る。

 

「しかし【剣姫】はともかくおまえは迷宮に来てまだ一月だっつのに階層主、それもウダイオスか・・・生き急いでんなあ」

「予言がありましてね。冒険者になって最低レベル7か、それ以上にならないと何者かに殺されるそうです」

「ほう、それはきついな。あの【猛者(おうじゃ)】以上か?」

 

 肩をすくめるイサミにくすくす笑うリヴェリア。

 腑に落ちたようにティオナがうんうんと頷いた。

 

「そりゃ確かにウダイオス程度、軽く倒せないとだよねー。オッタルのおっちゃん以上となったら、49階層の階層主(バロール)を一騎打ちで倒せるくらいじゃないとさー」

「全くだよ――まあ、どこまで本当かわからないけどね」

「予言のたぐいが全て嘘とは言い切れないからね。ご愁傷様と言ったところか」

 

 言いつつ、フィンが立ち上がる。

 他のものも続いて立ち上がり、移動準備を始めた。

 

 

 

「ヒャッハー!」

 

 シャーナの歓声(ウォークライ)が"白き宮殿"の廊下に響く。モンスターのただ中に飛び込み、体に不釣り合いな大剣を振るうその姿はエルフと言うよりアマゾネスのようだ。

 

「今回出番がなかったからなあ・・・」

 

 逆に時折"炎の泉"を打ち込む以外は手持ちぶさたなイサミがしみじみと言った。

 100m先の敵に一発、《高速化》したものをもう一発、近づいてくるまでにとどめを一発。

 今回の探索では大体そんな感じで片付いていたので、前衛のやることがなくてストレスがたまっていたらしい。

 

 そんなシャーナに触発されたわけではなかろうが、フィンやアイズをはじめとしたロキ・ファミリアの前衛達も縦横無尽に武器を振るう。

 モンスターは出てくる端から駆逐されて、サポーターのラクタを含めた後衛の四人はほとんど仕事がない有様であった。

 

「ふむ。しかし超短文詠唱でこの威力、範囲は大した物だ。ソロにはうってつけの魔法だな」

「その分最大威力に劣るんですけどね。俺としてはリヴェリアさんの魔法を見てみたかったところですが、この分だと無理そうかな」

「まあ、短文詠唱をしているあいだに片付いてしまうのではな」

「それはそうですよ。超短文詠唱の魔法なんて、誰もが持ってる訳じゃありませんし」

 

 この世界の常識では授かった魔法それぞれには固有の詠唱があり、その詠唱の長さによって数秒で発動できるのが超短文詠唱、その2~3倍の時間がかかるのが短文詠唱、一分ほどかかるのが長文詠唱、それ以上が超長文詠唱と、大雑把に区分けされている。

 詠唱の存在しない速攻魔法も存在すると言われているが、真偽は定かではない。

 

 もちろん詠唱が短い方が使いやすいが、詠唱が長い魔法ほど威力・貫通力が高くなるので一概に詠唱が短い方が有利とは言えない。

 D&Dの魔法はほとんどが超短文詠唱に分類されるので発動速度では比較にならないが、最大威力では逆にチートガン積みのイサミですらオラリオのトップクラスには遠く及ばない。

 イサミが言ったのはそういう事である。

 

「全力のリヴェリアさんの魔法は凄いんでしょう?」

「もちろんですよ! 最大出力なら、もう1階層全部焼き尽くしちゃうのかってくらい!

 100近いフォモールを一発で全滅させちゃうんですから! それにですね・・・」

 

 我が事のように自慢するレフィーヤ。

 

「レフィーヤ、一応彼は別ファミリアの人間だ。余りペラペラ話すものじゃない」

「す、すいません・・・」

 

 リヴェリアがやんわり注意すると、彼女は顔を赤くして黙り込んでしまった。

 笑いながらイサミが正面に向き直る。ウダイオスの出現地点はもうすぐだった。

 

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