ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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5-7 ウダイオス

 37階層の中央の広大なルーム。

 時折現れる雑魚どもをその都度駆逐しつつ、入り口付近で一行はその時を待つ。

 やがて、何度目かの微動が足下を揺らした。

 

「ん、またモンスター?」

「・・・いや、これは・・・」

 

 微動が次第に大きな揺れとなり、円形闘技場のごとき広いルームの中央から、八方にひび割れが走る。揺れが地響きとなり、ルームの中央が割れ砕けて隆起する。

 

「来るぞ!」

 

 フィンのその言葉が引き金だったかのように巨大な影が大地を突き破って現れる。

 イサミの脳内に響く"警報(アラーム)"。

 巨体からこぼれ落ちる土砂が土石流のように周囲に流れ落ち、堆積する。

 小山が動き出した様なその影は上半身しか存在しない、しかしそれだけで20mを越える、巨大な黒い骸骨。

 

『―――オオオオオオオオオオオオッッッ!』

 

 咆哮が白亜の宮殿を揺るがす。

 これこそが階層主。37階層に君臨する『迷宮の孤王』――Lv.6モンスター、ウダイオス。

 

 

 

「みんな、手を出さないで」

 

 アイズが愛剣をすらりと引き抜く。

 

「ちょっと、本当に一人でやるつもり?!」

「戦闘不能になるか、十数える間立ち上がれなければ交代。忘れないようによろしく」

「わかってます」

 

 ティオネの言葉には応えず。

 視線はウダイオスから離さないまま、イサミの言葉に頷く。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 アイズの全身が風をまとう。アイズのブーツが石畳を蹴り、再びウダイオスが咆哮した。

 

 

 

 アイズが翔ぶ。

 なぎ払う左腕を軽やかにくぐり抜け、左脇から肋骨の隙間に飛び込むような斬撃。

 狙いは肋骨の隙間をかいくぐっての、胴中央の巨大な魔石。

 だが素早く肋骨が閉じ、隙間を狙ったアイズの剣を弾く。

 ウダイオスの後方に着地したアイズが素早く身を翻し、再び跳躍した。

 

「うお、いきなり魔石狙いかよ!」

「反応が早い・・・さすがは階層主か」

「でも問題はこの後・・・来たっ!」

「!」

 

 ティオネの言葉の直後、イサミが目を見張った。

 駆け回るアイズの足下から、黒曜石の大剣が突き出す。

 回避するアイズの行き先を狙うように、あるいはその動きを制限するように、次々と石畳を割って黒曜石の逆とげが牙を剥く。

 

「これがウダイオスの逆杭(パイル)か・・・うまいな、くそっ!」

「ああ、奴はゴライアスやアンフィスバエナと比べても――こういう言い方は何だが――戦い慣れている。ただ自分の武器を使いこなすだけじゃない。戦術に熟達してるんだ」

 

 フィンが親指を口元に当て、眉を寄せた。

 

 

 

 戦いは続く。

 右の肩関節を狙って突撃をかけるものの、腕のブロックに阻まれる。

 

「くっ!」

 

 風を操って軌道を変え、直後の豪腕を回避するアイズ。

 だが息をつく暇もなく、足下から次々射出される黒曜石の大剣。回避し、後退し、それが止まったときには彼我の距離は30m以上開いていた。

 

『オオオオオオオオオオッ!』

 

 咆哮と共に、地面が広範囲にわたってひび割れる。現れたのは骸骨剣士スパルトイ。

 骨の剣と盾を構え、そこらの冒険者が及びもつかぬほどの巧みさで剣を操る。

 

「!」

「と、こっちもか! 《最大化》《二重化》《エネルギー上乗せ炎・冷気・酸・雷》"炎の泉(ファイアーブランド)"!」

「もう、どうせなら全部こっちによこせー!」

 

 イサミ達のそばにも二十体ほどのスパルトイが現れる。

 それらはイサミの呪文や前衛の猛者達によって瞬く間に駆逐されるが、それに倍する数を単体で相手取るアイズはそうはいかない。

 

 黒き杭と骸骨の剣士達を片っ端から砕くものの、ウダイオスとの間合いをなかなか詰めることができない。

 ようやく間合いを15mまで詰めたところで、左右の拳が豪速で振り下ろされ、アイズは自身の足と「エアリアル」の推力全てをもって辛うじて回避に成功する。

 

 しかし魔力を帯びた豪腕は着弾と共に衝撃波を放ち、アイズの軽い体を吹き飛ばした。

 衝撃波に弾かれながらも空中で態勢を立て直し、再び突撃の姿勢を取る――だが、間合いは先ほどの30mに戻ってしまっている。

 

 突撃するアイズ。それを阻む黒曜石の剣林。

 アイズの突進がそれを半ばまで砕いたところで再び現れる骸骨剣士。

 周囲のスパルトイを片付けるタイミングで振り下ろされるウダイオスの両拳。

 

 アイズは再び吹き飛ばされる――そしてまた、再び開く間合い。

 そのパターンを、アイズとウダイオスは何度も繰り返し続ける。何度も。何度も。

 

「くそっ! 骸骨剣士なんざ、ハリーハウゼンの映画だけで十分なんだ!」

「あ? なんだって?」

「何でもない!」

 

 アイズがウダイオスに挑む、そのたびに数を増して再出現するスパルトイ達にイサミ達もやや手を取られるようになっている。リヴェリア達も参加するようになったし、前衛組にもかすり傷が目立ってきた。

 

 ウダイオスの隙のない戦闘力と策にも対応する判断力の前に、一矢報いることもできないアイズ。

 右腕を落とすまでは成功した、そんなあり得た未来をイサミやフィンは知るよしもない。

 

 アイズの強さの源泉は、渇望。

 胸に秘めたたった一つの悲願。

 だがそれと同じくらい。あるいはより大きな強さへの思いがアイズにはある。

 

 仲間。

 フィン、リヴェリア、ガレス。

 ティオネ、ティオナ、レフィーヤ。

 彼らが、彼女の強さの源。

 

 本来のあり得た流れでは、目の前でレフィーヤが食人花に瀕死の重傷を負わされ、リヴィラで怪人レヴィスに敗れ、さらには「アリア」の語を耳にして、強さへの渇望は否が応にも高まっていた。

 

 しかし今のアイズにはそれがない。それがわずか、ほんのわずかに彼女から大胆さを、思い切りを、後一歩の踏み込みを奪っている。

 その僅かな差が招いたものこそ、今の結果だった。

 

 振り下ろした豪腕に、アイズが十何度か目に吹き飛ばされた。

 これまでは空中で体を翻して足から着地していたが、今度はそれもかなわず、地面に叩き付けられてごろごろと転がる。

 

「!」

「アイズ!」

「来ないで!」

 

 思わず飛び出そうとしたティオナをアイズの鋭い声が制止する。

 

「こいつは・・・私が倒すの・・・強く・・・強くならなきゃ・・・」

「アイズッ!」

 

 なおも言いつのろうとするティオナだが、その前にウダイオスが新たなスパルトイを召喚する。

 その数たるや、シャーナを加えたロキ・ファミリアの前衛陣でさえたやすくは殲滅できないほどだ。

 

「ああん、もうっ!」

 

 怒りながら、ティオナが風車のごとく大双刃を振り回す。

 アイズが再び風を纏い、突貫する。

 それを見てイサミは詠唱しようとしていた呪文を取りやめ、一歩後ろに下がった。

 

「どうした?」

「しばらく外れます。手を出すなって言うなら、手を出さずに応援してやろうじゃないですか」

「それはどういう・・・」

 

 リヴェリアの問いは直後の、イサミの行為に途切れて消えた。

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