ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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5-8 英雄の(うた)

 風を纏ったアイズの突貫は、高さ5mになんなんとする剣林によって阻まれた。

 そこに左右後方からスパルトイ達が殺到する。

 アイズは振り向いてそれらに対応せざるを得ない。

 

 この戦いの中、今まで十何度も繰り返されて来たパターン。

 しかし。

 ぴくり、とアイズの表情が動いた。

 

 

 

 朗々たる声が響いていた。

 普段の若々しい声ではなく、深みのある、大人の男性のテノール。

 両手を広げ、宙を仰ぎ、古代の英雄譚を吟じる。

 

『悲しみの時 暗き日々 神々無き世の 英雄譚

 恩恵はなく 魔法なく されど勇気を 胸に立つ

 白銀の鎧 輝く剣 傍らに立つは 風の乙女

 されば聞けよや 英雄と 精霊アリアの物語』

 

(っ!)

(「アリア」だと!? 偶然・・・か?)

 

 フィンとリヴェリアは詩に含まれた名前に驚愕の表情を浮かべ。

 

「え? 何よ、いきなり!」

「これ、大英雄アルバートの英雄譚?」

「こんな時にあなたは何を・・・え?」

 

 戦う者達はいきなり始まった朗誦に戸惑いつつも、おのれの内にわき起こる熱さにさらなる戸惑いを覚える。

 

『白銀の剣士 そのもとに 導かれし者 集いたり

 深き森より はせ参ず 尊き血筋の 妖精姫

 岩のほらより 現れし ドワーフの猛者 剛毅たり

 小身大勇 機知縦横 小人の勇士は 野を馳せる』

 

 朗々と詠じられる英雄譚。

 その声が耳に、心にしみこむたびに、体の奥底からわき上がる活力。熱気。立ち向かう力。

 

 "勇気鼓舞の呪歌"。

 "バードの知識"と並ぶバードの固有能力"バードの呪歌(バルディック・ソング)"のひとつ。

 あるいは音楽を奏で、あるいは詩を吟じ、人の心にほんの僅かな勇気を与える。

 わき起こる勇気に、踏み込みは深く、太刀筋は鋭く、意志は強く。

 

 《特技》と呪文により強化されたその(うた)は、僅かなりといえど確実に力を与える。

 シャーナに、ティオナ達に、そして、アイズに。

 

『密林の民に 冠たるは 凜に艶たり 蛮女帝

 平野に猛る 獅子の子は 王者の風格 備えたり

 そして剣士を 支えしは 傍らに立つ 大精霊

 八面玲瓏 天衣無縫 祝福されし 神の愛子』

 

 広大なルームに詩が響く中、戦いは続く。

 やがて、僅かにアイズが押し始めた。

 突貫が剣林を今までより1m深く穿った。

 現れた骸骨剣士を倒す内に豪腕に吹き飛ばされるが、吹き飛ばされた距離がこれまでより50cm浅い。

 

 30mの間合いが29mになり、27mになり、26mに、25に、24mになる。

 突貫するたびに、はじき飛ばされるたびに、じりじりと間合いが詰まっていく。

 アイズの刃が、ウダイオスに迫っていく。

 

『森の小鬼は 剣に伏し 谷の大蛇は 矢に斃る

 牛頭白猿 紫蛾犬鬼 人食い蟻に 大蛙

 向かうところに 敵はなく 白銀の剣に 敗けは無し

 褒めよ讃えよ かの勇者 呼べ大英雄 アルバート』

 

 気がつけば、現れ出るスパルトイを機械的に倒しつつ、ティオナ達も声の限りに声援を送っている。

 

「がんばれアイズーっ! もう少し! もう少しだよ!」

「アイズーッ!」

「がんばってください、アイズさん!」

「アイズさん!」

 

 アイズが剣を握り直す。

 酷使し続けてきたはずの体が軽い。

 それどころか、いつもより鋭く、深く、踏み込める。

 

 思えばこれまで、声援など受けたことはなかった。

 仲間はそこにいてくれるものであり、背中を預けるものだった。

 だが今はよりはっきりと、仲間の存在を感じる。

 

 自分を見てくれている。自分を支えてくれている。

 それだけ、それだけで自分は――

 

(どこまででも――戦える!)

 

 何十度目かの突撃が、ついに黒曜石の剣林を残らず突き破った。

 目の前にそびえ立つ巨体。

 遮るものは、もはや何もない。

 

『―――オオオオオオオオオオオオッッッ!』

 

 ウダイオスが咆哮する。

 怒りか、あるいは屈辱か。

 不遜にもおのれの玉座に近づいた羽虫に、魔力を込めた右拳を振り下ろす。

 

『オオオオオオオオオオオオッッッ!』

「あああああああああっ!」

 

 衝撃。

 

 100m以上離れたティオナ達の腹にも、ずんと響くほどの重い爆発。

 "エアリアル"の全てを込めた全力の斬撃がウダイオスの右手首から先を、込められた魔力ごと粉砕していた。

 

 だが全力を使い尽くした"エアリアル"もまた消失している。

 そして魔力を込めた拳はもう一つ。

 間髪入れずウダイオスが打ち下ろす。

 

『オオオオオオオオオオオオッッッ!』

「【目覚めよ(テンペスト)】ォッ!」

 

 再度の衝撃。

 弾かれ、爆砕する左拳。

 後方に飛び、距離を取るアイズ。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 三度、風がアイズの全身を覆う。渾身の魔力を込めたそれは、もはや竜巻のようで。

 

「アイズー!」

「やれえぇ!」

「やっちゃえー!」

「アイズさんっ!」

「がんばってください!」

「よっしゃおらぁ!」

「アイズ!」

「あと一息だ! 気を抜くな馬鹿娘っ!」

 

 アイズは思う。

 自身の風だけではない。

 私はこんなにもたくさんの風を受けている。

 自分を後ろから支えてくれる、こんなにも暖かく、強い風がある――!

 

「リル・ラファーガッ!」

 

 掛け値無し全魔力を込めた突貫が、ウダイオスの胸の魔石を十字に組んだ腕ごと貫いた。

 

 

 

 アイズは目を覚ました。

 目の前にレフィーヤの顔がある。

 精神疲弊で気絶した自分に膝枕をしてマジック・ポーションを飲ませてくれていたらしい。

 

「あ、アイズさん! 大丈夫ですか? 痛いところはありますか? だったら今すぐハイポーションを・・・」

 

 傷自体はほとんど受けていないが、酷使した体は古びた水車のようにぎしぎしと軋む。

 だがそんな事も気にならないかのようにアイズは上体を起こす。

 

「あ、もう少し横になってたほうが・・・えっ!?」

 

 ぎゅっ、と。

 正座したレフィーヤを抱きしめる。

 

「ありがとう、レフィーヤ。あなたの声があったから勝てた。・・・ううん、レフィーヤだけじゃない。フィンも、リヴェリアも、ティオナも、ティオネも、ラクタも、クラネルさんも、シャーナちゃんも・・・」

 

 ありがとう、と礼を言うアイズ。

 微笑むもの、照れるもの、純粋に喜ぶもの。

 冷たい迷宮の空気の中で、そこだけは今、確かな暖かさがあった。

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