ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第六話「ミスリルではありませんミスラルです」
6-1 椿・コルブランド


 

 

 

『夜空の星が輝く影で ワルの笑いがこだまする

 星から星に泣く人の 涙背負って宇宙の始末

 銀河旋風ブライガー お呼びとあらば即参上!』

 

   ――『銀河旋風ブライガー』 ――

 

 

 

 アイズがウダイオスを倒した日の夕方、オラリオ。

 職人街である東北東の第二区画には未だに鎚音が響いている。

 ヘファイストス・ファミリアの大工房。

 金槌と金床で板金鎧のパーツの形を整えていた一人の鍛冶師がふと、顔を上げた。

 

 しばらくすると、工房の入り口のドアが再びノックされる。

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 周囲を見渡し、手が離せそうなのが自分しかいないとわかると、鍛冶師はため息をついて道具と作業中のパーツを下に置いた。

 

「はいはい、開いてるよ! 勝手に入ってきてくんな!」

 

 正直面倒くさいのだが客だったら放っておく訳にもいくまいと、立ち上がって出迎えにいく。

 失礼します、と言う声と共にドアが開いた。

 入って来た人影を見て、鍛冶師の男がほうと感心する。

 

 顔立ちにどこか幼さを残した極東系の巨漢。黒髪に混じる幾本もの白い筋が虎のように見えて異彩を放っている。

 オラリオで筋骨隆々の巨漢はさほど珍しくはないが、辺りを払う雰囲気があった。

 

「初めまして、ヘスティア・ファミリアのイサミ・クラネルと申します。

 本日はこちらのヘファイストス様に御奉献をば・・・」

「ああ、堅苦しい挨拶はいらねぇよ。うちはそう言う所じゃねえから。

 しかし捧げ物とはいい心がけだ。物はなんだい?」

「ええ、外に置いてありますが、超硬金属(アダマンタイト)の原石を」

「ほう、ほう、ほう、ほう。それじゃあちょっくら見せてもらうかね」

 

 男が指し示す扉の外に一歩出た鍛冶師は、今度こそ呼吸を忘れた。

 職人をやってそれなりに長い男ですら見た事も無い、1mを超す巨大な原石。

 

「こりゃすげえ・・・」

 

 これに比べれば、どんな絶世の美女であろうとそこらへんの芋娘も同然だ。

 そっと触れると、純度の高い超硬金属独特の手触りが確かに感じられる。

 

「職人だなあ・・・」

 

 今にもよだれをたらしそうな顔で見とれる男に、イサミはたまらず苦笑を漏らした。

 

 

 

 ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

 第六話「ミスリルではありませんミスラルです」

 

 

 

 その後、我に返った男は急に丁重な態度になった。

 

「し、失礼しました。すぐに上のものを呼んできやすんで、ちょっとあちらでお待ちくだせぇ」

「あ、いえ。受け取っていただければそれで・・・」

「そうはいきやせんよ! おい、ケジナン! こちら様にお茶をお出ししろ!」

 

 やれやれと思いつつも無下にするわけにもいかず、イサミは案内された部屋のテーブルの端の席に着いた。

 テーブルと椅子があると言っても応接間のたぐいではなく、職人達が休憩する部屋である。

 

 出された茶をすすって待っていると、しばらくしてドアが開く。

 立ち上がって迎えると、それは身の丈170cmほどの褐色黒髪の女性だった。

 緋の袴に上半身はさらしだけというざっくりした格好で、端整な顔立ちながら、いかにも職人らしき雰囲気を漂わせている。

 

 特筆すべきは左目を覆う黒い眼帯。

 それではこれがヘファイストスファミリアの首領、椿・コルブランドかとイサミは得心して立ち上がる。

 

「初めまして【単眼の巨師(キュクロプス)】。私はヘスティア・ファミリアの・・・」

「ああ、よいよい。そんなかしこまらないでくれ。しょうがなく首領なんぞやっておるが手前はただの職人にすぎんし、それにその二つ名は好かんのだ。椿でよい」

 

 それでは、と腰を下ろし、改めて挨拶する。

 

「どうも、ヘスティア・ファミリアのイサミ・クラネルです。どうもご足労願っちゃいましてすいませんね」

「いやなに。手前どもの神に奉納をという奇特な御仁はたまにおるが、さすがにあれだけ見事なものをどかっと出してくるのは珍しい。多少なりとも応対をせねばいかんだろうよ。

 まあ、すすだらけの応接間に安物の茶ッ葉ではあるがな」

 

 わはは、と笑う椿。

 

「それであれか、ヘスティア・ファミリアということは、例の二億のナイフの支払いに充当してくれと言うことか?」

「二億・・・そこまでの業物だったんですか、あのナイフ・・・」

 

 頭痛をこらえるように、こめかみを指でもみほぐすイサミ。

 椿はまたしても、からからと快活に笑う。

 

「応とも。聞いて驚いたぞ。神が恩恵を刻み、使い手と共に成長する武器。

 いや、その発想はなかったわ!

 しかも鍛冶神たるヘファイストスが手ずから打った業物ぞ。二億でも安い安い!」

 

 二億という額を笑い飛ばす椿に、イサミもおっしゃるとおりで、と苦笑するしかない。

 

「それより恩恵を刻んだって武器にですか? 値段よりむしろそっちの方が気になるんですが」

「うむ。手前も主神様よりちょっと聞いただけだからな。詳しく知りたければお手前の主神様に聞くが良かろう」

 

 なるほどと頷き、イサミは話を戻す。

 

「まあその件については神様同士で話がついてるので眷属の出る幕でもないというか、俺が返そうとしたら神様が嫌がるでしょうしねえ。うちの神様がお世話になりました、これからもよろしくお願いします、くらいのところでご理解ください」

「なんじゃ、薄情者め。山のような借金を負ったおのれの主神を助けようとは思わんのか?」

 

 にやにやしながら問い詰める椿に、イサミは肩をすくめる。

 

「ウチの神様は意地っ張りでしてね。それにあのナイフをもらったのは弟ですし、手助けをするなら弟がするのが筋でしょう」

「まあ、道理だの。ところで先ほどから気になっておったのだが、お手前もなかなかの物を下げておるな。ちと拝見させてもらってよいか?」

 

 椅子に立てかけてある、イサミの剣のことである。

 部屋に入ってくるなり椿が目を止めたのをイサミも気づいていた。

 どうぞと差し出すと、受け取った椿が一言断ってすらりとすっぱ抜く。

 

「ふむ・・・! アダマンタイトの打刀(うちがたな)か? なかなかの・・・いや、大した業物ではないか! しかし、まるっきり実戦で使った様子がないではないか。宝の持ち腐れとはこのことだぞ?」

 

 元は魔術の焦点具や触媒などと一緒に"願い(ウィッシュ)"の疑似呪文能力で生み出した刀である。

 イサミはこれを魔法の武器に加工していたが、椿の言うとおり実戦で使ったことはない。

 実のところ剣には守りの魔力が付与されており、イサミにとっては武器ではなくむしろ防具である。

 

「そりゃ俺は魔導士ですからね。心得がない訳じゃありませんが、魔法使った方が強いに決まってるでしょう」

「まぁそうだが・・・もったいない。もったいないぞ。これほどの業物を。使わずとも備えておくのは冒険者の心得でもあろうが、いや、惜しい。全く惜しい」

 

 大げさに嘆きながらも刀身から目を離さない椿に、職人だなあとイサミは苦笑する。

 もっとも、イサミもマジックアイテムのことになると似たようなものなので人の事は言えない。

 

「しかし、ウチのものでもゴブニュのものでもないな。これはどこで作ってもらったのだ?」

「作ってもらったものじゃないですよ。これは祖父がしまい込んでいたもので・・・」

「違うな」

 

 きっぱりと断言され、思わず言葉が止まる。

 こちらを見据える椿を静かに見返し、再び口を開く。

 

「なぜ、そう思うんです?」

「これが、おぬしのために作られたものだからだ。他の誰のためでもなく、おぬしのためにだ。

 鞘に収まったままであっても、おぬしとその剣は見事に一体であった。

 よほどに使い込んだ武器か、その者のために作られたものでなければ、使い手と剣があそこまで相和することはない。

 違うと言うのならば、この目をくれてやってもよいぞ」

 

 職人の真摯な瞳で見つめられ、今度こそイサミは答えに窮した。

 椅子の背もたれにもたれかかり、長いため息をつく。

 

「おっしゃるとおりですよ。でも、表向きにはそういう事にしておいてください」

「ふむ、まあ何か理由があるのだろうとは思うが・・・どうだ、良ければ教えてはくれんか?」

 

 一転して好奇心と期待に溢れた目つきになる椿。それをうさんくさげに見るイサミ。

 

「なんだ、いかがわしいものを見るような目つきをしおって。秘密は守るぞ?」

「女の『秘密を守る』ほど信用できないものはありませんよ」

 

 それを聞いて椿はわっはっは、とまたも豪快に笑う。

 

「いかにもその通りだな。だが神ヘスティアは我らが主神様のご神友。その眷属との約束をないがしろにはせぬよ」

「まぁそこまでおっしゃるなら・・・でも、秘密ですよ?」

「わかっておるわかっておる。しかし、よほどのことのようだの?」

 

 更に好奇の度合いを増して、目をきらきらさせる椿。

 再びそれをうさんくさそうに見ながらも、イサミは言葉を続ける。

 

「俺は神秘アビリティを持ってるんですよ。そいつは鍛冶師の技じゃなくて、魔道具作りの技を使って俺が作ったんです」

「・・・なんと!?」

 

 今度は椿が、右目を驚愕に見開く。

 

「神秘アビリティの持ち主というのもそうだが、これを鍛冶ではなく神秘アビリティで作ったと?!」

「ええ。魔道具を作るのと同じ技法で魔力を込めています。もちろん剣を打つこと自体は鍛冶師の技を用いましたが」

 

 無論イサミは神秘アビリティなど持ってはいないが、本当の事を言ったら話が果てしなくややこしくなるのでしょうがない。魔道具を作る技法なのは間違ってないし、剣の生成もイサミ自身が持つ鍛冶師の技を魔法で再現したもの。うん大丈夫、嘘は余り言ってない。

 

 それはともかく、ぬぬぬ、と唸って再び刀身に目をやる椿。

 ややあって、しかめつらしい顔でイサミに向き直る。

 

「なあ、ものは相談だが」

「だめです」

「まだ何も言っておらぬのだが」

「絶対ろくでもないことなのでだめです」

 

 話くらい聞いてくれてもよいではないかー、と椿が子供のように口をとがらせる。

 

「構うまいが。試し切りさせてくれと頼もうとしただけだぞ!」

「やっぱり駄目じゃないですか! そうしたら誰が作ったという話になって、椿さんみたいに俺の為に作ったものだという事を見抜かれるかも知れないでしょ!」

「むむむ」

「何がむむむだ!」

 

 その後もああだこうだと椿がごねるが、イサミがそれを全て却下すると言う事が続いた。

 

「あれもだめこれもだめと、まったくけちんぼうめ」

「はいはい、けちん坊で結構。泥棒とけちん坊は悪く言われ慣れてるってね」

 

 ぷーっと頬をふくらませる椿のぼやきを、イサミがさらっと流す。

 

「なんじゃそれは。まあよいわ。あの超硬金属の塊といい、この打刀といい、眼福をさせてもらったからの。主神様にもよろしく伝えておこう」

「よろしくおねがいします・・・って、もうこんな時間?! やばい、店が閉まってる!」

 

 刀を受け取って懐中時計を取り出したイサミが、文字盤を見て驚愕する。

 五時丁度頃に来たはずが、もう時計の針は七時を回っていた。

 酒場や飯屋はともかく、八百屋や肉屋などはおおかた店じまいしている頃合いである。

 

「それでは失礼! 急げばメインストリート沿いの店はまだ開いてるかも!」

「お、おう。引き留めてすまなかったの」

 

 主夫の剣幕に押され、椿がたじろぐ。

 そちらをろくに見ることもせず、イサミは暗くなった町筋に飛び出していった。

 なお、この日のヘスティア・ファミリアの夕食は"英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"だったことのみ書き添えておく。

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