ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「そういえばイサミくん。階層主はどうだったい?」
「ああ、それがですね・・・」
食後、ヘスティアが尋ねてきた。イサミとシャーナが37階層での出来事をかいつまんで話す。
「・・・アイズさんがたった一人で? 階層主を倒しちゃったの!?」
「ああ。ありゃレベル6に上昇したんじゃないかなあ」
「とんでもないなあ・・・まあ君たちも二人で倒そうとしてた訳だけどさあ」
驚きながらも、どこか安心したような顔で椅子に座り直すヘスティア。
「神様、今ちょっと喜んだでしょう」
「・・・喜んでないよ?」
「喜びましたよね?」
「喜んでないよ」
ジト目のイサミ、不自然に視線をそらして冷や汗を流すヘスティア。
あこがれの人に突き放されたと知って落ち込むベルを、しょうことなしにシャーナが慰めていた。
翌朝、イサミは慌てたベルの声によって叩き起こされた。
昨日も情報収集の後マジックアイテムを作っていて、さて寝ようと魔法の寝袋に潜り込んだ矢先である。
「にいさん! にいさんっ! お願いだよ、助けて!」
「・・・ったく、なんだ、大げさな・・・」
「ふにゅう・・・なんだよベル君、こんなに朝早く・・・」
イサミがドアを開けて居間に出ると、寝ぼけまなこのヘスティアまで起きてきた。
シャーナの部屋のドアは開いているが、彼女の姿はない。
「シャーナは?」
「そ、それが、今朝も特訓に付き合ってもらおうと思って、起きるのが遅いからどうかしたのかと思って、あの・・・」
どうも要を得ないので、開いたドアを軽くノックして、部屋の中をのぞき込む。
「い、イサミぃ・・・」
中にいたのは、涙目で膝を抱えるエルフの少女。
寝間着の下半身とシーツに血がついていた。
「・・・あー。とりあえず落ち着いてください。
大丈夫、女の子なら誰でも通る道ですから。すぐに慣れますよ」
「ほ、ホントか・・・? 大丈夫なのか、これ?」
落ち着かせようとするイサミの服の裾をぎゅっと握り、シャーナが涙目で見上げてくる。
「ええ、大丈夫ですよ。死んだりはしません。神様、シャーナの後のことお願いできます?
男がやるよりいいでしょうし」
「馬鹿言うなよ。ボクがそんなあれこれを知ってるわけないだろ」
これだからものを知らない子供達は、と、ヘスティアが何故か得意げに肩をすくめる。
「出来ないって事はないでしょう。お願いしますよ、神様」
「ボクにはあれもこれもないんだよ! 神なんだから!」
「・・・あ、なるほど」
少し顔を赤くして叫ぶヘスティアに、それは盲点だったと手を打つイサミ。
てきぱきとシャーナの処置をしたイサミを、ヘスティアがちょっとうろんな目で見ていたのはここだけの話である。
その日はヘスティアが上司に怒られたり、リリが魔剣を使ってツンデレたりと、とりあえず何事も無く過ぎた。
そして翌朝。
「あれ? ベル、おまえ今日はダンジョン行かないのか?」
「うん、今日リリが休みだから・・・」
「ふーん。まあ、たまには休みを入れるのもいいがな」
その態度に何となく引っかかるものを感じつつも、丁度いいと頼み込む。
「それじゃ、シャーナのこと見ててくれ。体調は随分良くなったし、交換も自分でやれるからまあどうと言う事はないと思うけど」
「うん、わかったよ。いってらっしゃい」
「いってきます」
その翌日もシャーナの体調は元に戻らず、ベルもまた冒険には出なかった。
あのサポーターの少女がいないせいか、それとも彼女の生い立ちや内心の吐露を聞いてしまったせいか。
だめだだめだと首を振り、気分転換に掃除でもするかと立ち上がった彼の目に映ったのは、棚の上に置かれたバスケット。
「・・・・・・・・あ」
三日前ウェイトレスの少女からもらって、返すのを忘れていた弁当のバスケットだった。
「豊穣の女主人」に走り、ぺこぺこ頭を下げてきたベルは、何故か分厚い書物と共にホームに戻ってきた。
ソファに座り、借りてきた書物を広げる。
「『自伝・鏡よ鏡、世界で一番美しい魔法少女は私ッ ~番外・めざせマジックマスター編~』・・・なんだこりゃ」
タイトルにそこはかとなく戦慄を覚えつつ読み進めていくうちに、ベルの視界から現実が消失する。
浮かび上がったのは顔。顔のない顔。
『じゃあ、はじめよう』
顔がベルの声でしゃべった。
『僕にとって魔法ってなに?』
「凄いもの・・・兄さんが使うような・・・」
ここではないどこかを見ながら、ベルの肉体が無意識にページをめくる。
『僕にとって魔法って?』
「強い力・・・兄さんみたいに、どんな敵でも倒す力・・・」
実のところ、ベルはイサミと一緒に行動した経験は数日ほどしかない。
だから、兄の魔法に対する認識も限定的だ。
『僕にとって魔法ってどんなもの?』
「魔法・・・」
ベルの脳裏によぎるのは、数日間の経験で兄が繰り出していたいくつもの魔法。
青白い魔法の弾丸が敵を貫くマジック・ミサイル。
火線が伸び、連鎖的に次々と敵を屠っていくスコーチング・レイ。
通路にたむろする敵を一直線に伸びる雷が一瞬に屠るライトニングボルト。
直径20mを超す、巨大な爆発を起こすファイアーボール。
そして、両手を広げ、悠然と魔法を唱える兄の姿。
「兄さんみたいな力・・・無数の敵を呪文一つでなぎ払うような・・・」
僅かに間があって、再び顔が問いを投げかける。
『魔法に何を求めるの?』
「あの人のそばに・・・あの人の隣に・・・」
『それだけ?』
「それ以外にできるなら・・・英雄になりたい。おとぎ話の主人公みたいな・・・兄さんみたいな・・・」
思い起こすのはアイズ・ヴァレンシュタインと並ぶ兄の姿。
兄は既にあの人と同じ場所にいる。
自分も、その場所に立ちたい。
兄が、あの人が認めてくれるような英雄になりたい――!
『子供だなあ』
呆れと笑みを含んだ声。
「ごめん・・・」
『でも、それが
最後に笑みを浮かべ、顔は消失した。
そういえば書き忘れていましたがタイトルの件。
「ミスリル」というのはトールキン先生のオリジナルで著作権に触るせいか、最近のD&Dだと「ミスラル」という名称に変更されております。
「ホビット」が「ホブ」や「ハーフリング」になったり、バルログがバロールになったりとかそんな感じ。
どうも90年代あたりから厳しくなったくさい。