ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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6-3 アーケイン・フレイム

「・・・ベル君。ベル君!」

「・・・あ、神様?」

 

 ベルは買い物袋を下げたヘスティアに起こされた。

 帰り道でイサミと出会って、一緒に帰って来たらしい。

 

「眠いならベッドで寝ろよ・・・って、本?」

「ははあん、慣れないことをしてまんまと眠気に負けたってところか。可愛いね、ベル君。おかげで仕事疲れも吹っ飛んだよ」

「うう・・・」

 

 上機嫌のヘスティアと顔を赤くしてうつむくベルに和みつつ、イサミが本を手に取った。

 

「しかしおまえが本か。迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)か何か・・・」

 

 本を手に取ったイサミがぴしり、と固まった。

 ただならぬ空気にヘスティアが冷や汗を浮かべる。

 

「ど、どうしたんだい、イサミ君・・・?」

「神様・・・これ、魔導書(グリモア)です。しかも使用済み・・・」

「ファーッ!?」

 

 ムンクの「叫び」そっくりの表情とポーズでヘスティアが絶叫した。

 

「ぐ、ぐりもあって・・・?」

「・・・要するに、読めば魔法が発現する魔法の本だ。神秘アビリティと魔導アビリティを獲得した魔道具製作者にしか作れない。

 値段は安くて数千万から億ってところかな・・・ちなみに使い捨てだ」

「のぉぉぉぉっ!?」

 

 ヘスティアに続いて、ベルもムンクになった。

 

「大体ベル君、どう言ういきさつでこんなものを手に入れたんだい!?」

「じ、実はカクカクシカジカで・・・」

 

 誰かが酒場に置き忘れた魔導書をシルが渡してくれたことを話すベル。

 イサミの眉がぴくり、と動いた。

 

「ああ、僕はなんて事を・・・!」

「そうだぞこの馬鹿! 何で読む前に俺に見せない!」

「そっちかよ!?」

「そっちですよ!」

 

 思わず突っ込んだヘスティアに、100%素でイサミが返す。

 

「ああくそ、これを解析すれば・・・!」

「え、まさか作るつもりだったのかい?」

「・・・ぼ、僕、返して来る! 返して、謝ってこなくちゃ・・・!」

 

 本を抱えて飛び出そうとするベルの手を、ヘスティアがつかんだ。

 

「ベル君、よせ! 下界ではきれい事じゃまかり通らないことがたくさんあるんだ! 世界は神より気まぐれなんだぞ?!」

「こんな時に名言作らないでください! 隠したってバレますよ!」

 

 ベルはヘスティアの制止を振り切り、夜の町へ飛び出していった。

 

 

 

 二十分後、とぼとぼとベルが戻ってきた、小脇にはガラクタと化した魔導書。

 居間でヘスティアが出迎えた。イサミは台所で調理中。

 

「・・・おかえり。どうだった?」

「こんなものを店においていった方が悪いから気にするな、財布を拾ったと思って忘れちまえ。男だったらぐずぐず言うな・・・って」

 

 あのおかみさんらしいな、と料理をしながらイサミは苦笑する。

 

「まあ、魔導書を持ち帰ってくれたのはよしだ。後でよこせ、研究材料にする」

「・・・兄さんも気にしないんだね」

 

 ベルの声には、どこか責めるような響きがある。

 

「正直、どこかうさんくさくてな・・・」

 

 イサミの脳裏にはシルの顔が浮かんでいる。

 誰かがたまたま貴重な魔導書を酒場に置き忘れ、たまたまウェイトレスが個人的に貸し与え、たまたまそれを知らないで読んでしまった?

 

 それだけなら恋する乙女の暴走で済ませられないこともないが、怪物祭の一件がある。

 "完全位置同定"を回避して姿をくらまして何事も無かったように戻ってきた時点で、少なくとも見かけ通りの人間ではないだろうとイサミは踏んでいた。

 

「それに、シルバーパックやキャリオンクロウラーがわざわざベルたちを追いかけて来たのも・・・」

「え、なに?」

「何でもない。それよりもう少しでできるから、そろそろ準備してくれ」

「うん、わかった」

 

 

 

「うふふ・・・」

「気持ち悪くにやついてるなよ。さっさと食っちまえ」

「はーい・・・んふふふ・・・」

 

 ニヤニヤが止まらないベルと、それに呆れる他の面々。

 食事を始めてからずっとこのような感じである。

 

「まぁ魔法が発現するわけだから、嬉しいのもわかるけどな」

「本当に可愛い奴だなあ、おまえ・・・」

 

 呆れたように言うシャーナに、ヘスティアがわずかに威嚇の混じった視線を向ける。

 

「だよね。でも君にはあげないからね」

「いりませんよ」

「い、いいじゃないですか別に・・・」

 

 周囲から口々に言われて、すねたように口をとがらせるベル。

 人の魔導書がどうのと言ってたくせに結局喜んでんじゃねーか、と突っ込まないのが兄の優しさであった。

 

 

 

 そして食後。

 皿洗いが終わったとたん、ベルがステイタス更新をせがむ。

 

「お願いします神様!」

「はいはい、元気だねえ、君は」

 

 目をきらきらさせる眷属に苦笑しつつ、ヘスティアは自分の部屋のドアを開けた。

 イサミとシャーナも、興味津々で後に続く。

 ベルもプレゼントをもらう直前の子供のような表情で上着を脱ぎ、ベッドに寝そべった。

 

「さてと・・・うわぁ・・・」

「どうしたんすか、神さま?」

 

 ベルの背中にまたがり、手早くステイタスを更新したヘスティアが顔をしかめる。

 表情は驚愕と悔しさが半々と言ったところか。

 ヘスティアの頭越しに覗き込んだイサミが、こちらは呆れたようにシャーナの疑問に答えた。

 

「・・・敏捷が、SSにアップしてやがる」

「はぁーーっ?!」

 

 顎を目一杯開いたシャーナの驚きの声が、ヘスティアの私室に響き渡った。

 

「いやいやいや! ありえねえだろ! ステイタスってのはSまでしかねぇんだぞ?!

 大体Sにするのだってとんでもなく苦労するのに! 俺だって、一個Aにするのが精一杯だったんだぜ?!」

「と、言ってもね。実際そうなんだからしかたないだろ」

「神様! それより魔法! 魔法はどうなりましたか!」

 

 むっつりと答えるヘスティアをベルがせっついた。

 オラリオ千年の歴史の中で、おそらく初めて到達したアビリティSSを意にも介してない様子に、三者が三様の呆れの表情を浮かべる。

 

「はいはい、今書き写すから待ってておくれ・・・っと」

 

 さらさらと紙にステイタスを書き写し、それをベルに渡す。

 目を通した瞬間、ぱぁっ、と顔がほころんだ。

 

「うわぁ・・・」

「"アーケイン・フレイム"。それが君の魔法の名前さ。おめでとう、ベル君」

「"秘術の炎"か? おめでとう、ベル。攻撃魔法かね?」

 

 ヘスティアとイサミが祝う中、シャーナがベルの手元をのぞき込む。

 

「あれ? スキルは発現してないのか? さっき見た感じ、スキルの所に何かあった気がするんだが・・・」

「え? でも僕はスキル発現してませんよ?」

「そうそう、そうだよ! 魔法の欄と見間違えたんじゃないかい?」

 

 ヘスティアがやや大げさに否定し、イサミは目配せをする。

 シャーナもそれで飲み込んだか、それ以上追求はしなかった。

 

「しかし、詠唱がないですね・・・噂に聞く速攻魔法って奴でしょうか?」

「じゃないかなあ。この"アーケイン・フレイム"って魔法名だけで発動するんじゃないか?」

 

 これ以上は無理と言うほどわくわくしている様子のベルを見て、ヘスティアが嬉しそうに微笑む。

 

「ま、それは明日の探索で試してみるといいさ。それではっきりするはずだ」

「そ、そうですね・・・」

 

 ベルはぎこちなく頷いた。

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