ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
二人がそんな軽口を叩くうちに、"加速"の効果を受けたベルの姿はあっという間にもやの中に消える。
足音も遠くなったあたりでイサミが口を開いた。
「・・・で? どんな怪物を用意してくれたんだ、お姉さんは」
「あら、私に襲いかかってくれると思ったんだけど、弟さんの方が気になるの? 妬けちゃうわぁ」
「いいから話せ」
軽口に応じる様子もないイサミに、再びくすくす笑いを漏らすフードの女。
「大した事はないわ。ただのキラーアントよ。でも他のキラーアントをたくさん食べさせたから・・・強化種って言うんだっけ? キラーアント・クイーンって感じかしら。
他にももう少し手は加えてあるけど・・・あら、でもあの調子だと万が一、弟君が勝っちゃうかしら?」
「《高速化》"
「あら」
完全に不意を打ったと思えた火線攻撃は、のんびりとしたつぶやきと共にたやすく回避される。
足下につるつるの脂を塗布してフットワークを封じた上で、"
「飛びやがった・・・!」
そう、フードの女は飛んでいた。
アイススケートのトリプルアクセルのように、しかしふわりと浮いて、致命的な火線を軽やかにかわした。
「いいわ、いいわ、そうでなくちゃ」
その言葉を言い終わったときには、10m近い間合いをゼロにして、イサミの目前に達している。
「!?」
反応する暇もなく、次の瞬間、無数の金属製のとげがイサミの体を引き裂いた。
「がっ・・・」
イサミの体と、女の右手にいつの間にか握られていた武器からぽたぽたと血が垂れる。
女の右腕に握られていたのは根元から九つに分かれた鞭。だがその根元から先端に至るまでびっしりと、金属製の
文字通り目にも止まらぬ早さでこれを五回振るい、女はイサミの体をずたずたに引き裂いたのだ。
「ちぃっ!」
舌打ちし、シャーナが詠唱を始める。
「梵天よ、聞き届けたまえ。我が体、木、鉄、石、乾いた物、湿った物のいずれにも傷つかず、昼にも夜にも攻められる事なし!」
短文詠唱を行いながら、イサミをかばうように大剣を構えて前に出る。
詠唱が完成すると共に白い肌が青黒く染まり、金色の髪は黒くなる。額には第三の目めいた黒点。
「下がってろ。前に立つのは前衛の役目だ」
「すいません」
一歩下がり、イサミは切り札を一枚切る。
「《高速化》《最大化》"
時間が止まる。
正確に言えば体感時間で数十秒間、イサミの時間だけが超高速で流れる。
もっとも、この超高速時流の中で何か魔法を唱えても、それが他の人間やモンスター、物体に影響を与えることは出来ない。
イサミとそれらとは異なる時の流れの中に存在しているからだ。
だがそんな事はイサミも承知の上。
時の流れが元に戻ると共に、11の輝く光球がフードの女の背後に現れる。
「?!」
「そして時は動き出す・・・ってな」
次の瞬間光球が一斉に爆発を起こし、女を飲み込んだ。
イサミが時が止まった30秒の間唱えていたのは、"
この呪文は発動してから30秒までの間なら、好きなタイミングで爆発させることが出来る。
時が止まっている間にタイミングを揃えて遅延させた火球を10個。
そして動いた瞬間にもう一つ。
計11個の火球が炸裂したのだった。
「やったか?!」
「いえ・・・くそ、ひょっとしてとは思ったが・・・」
「なぬ?」
お約束通りのセリフどうも、とつぶやきつつ、イサミは宙を見上げる。
ふわりと宙に浮いたフードの女はほぼ無傷。
優雅に地上に再び降り立つそのフードの影から、またしても笑い声。
「さすがに大したものね・・・でも、『
「・・・ごもっとも」
大概の範囲攻撃呪文は素早く身を翻したり、盾を構えたりすることによってある程度ダメージを軽減できる。
精神支配の呪文に意志力で対抗する場合などを含め、これらを"
上層から中層を数日で突破したイサミが下層からがくりと攻略のスピードが落ちたのも、能力値の差で大概のモンスターに呪文を
そして身かわしとは"
イサミも持つ身かわしの指輪は、使用者にその能力を付与する魔法の指輪であった。
「あなたにご褒美を上げたいところだけど、こちらのおちびちゃんもせっかく私の前に出てきてくれたんだもの、あなたからお相手して上げないと失礼に当たるわよ――ねっ」
とげ鞭がうなりを上げた。
シャーナにも、イサミにも、その軌跡を追うことは出来ない。
鞭がシャーナの全身を打ち、植え込まれたスパイクが鎧をえぐり、肌を深く切り裂く。
そのはずだった。
「!?」
フードから初めて驚愕の気配が漏れた。
シャーナがにやり、と笑みを浮かべる。
打ち据えられたその体にも鎧にも、髪の毛一筋の傷すら付いていない。
"
最高神の恩恵を受け、この世のほとんどあらゆる物に傷つけられることが無くなった伝説の怪物の名を冠したシャーナの魔法。
その効果は一定時間内の無敵化。
いかなる攻撃であろうと、発動中のシャーナを傷つけることは出来ない。
「お返しだぜ!」
こんちくしょうとばかりに振り抜かれたシャーナの大剣は、だがむなしく空気だけを切り裂く。
ふわふわ揺らめく女のローブには、かすり傷一つ付いていない。
レベル4のシャーナと比べてすら圧倒的なのだ、速度の差が。
「くそっ・・・! レベル5どころじゃねえな、6,ひょっとしたら7・・・?」
「さあ、どうかしら。もしかするとレベル10くらいかもしれないわよ?」
「ほざけ!」
叫び、シャーナが大剣を構え直した。
ベルが迷宮の通路を疾走する。
(リリ・・・にいさん・・・シャーナさん・・・!)
後ろ髪を引かれつつ、見据えるのは前。
ベルにだって、あのフードの女がどれだけ危険なのかはわかる。
だがベルがあそこにいたところで足手まといにしかならないのだ。
だからベルは走る。
今、彼が救えるのはあの小人族のサポーター一人だけなのだから。
(・・・?)
ぴくり、とベルの耳が異音を捉える。
前方の暗闇を見透かそうとしたベルの目に、銀色の影が飛び込んできた。
と言うわけでタイトルはダブルミーニングでした。
"
しかしラーヴァナと言いヒラニヤカシプといい、インドってこの手の無敵な悪役多いなw