ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
それからは拮抗状態が続いた。
"
"
虹色の爆発、"
敏捷性でも、意志力でも、耐久力においても、圧倒的な「ステイタス」の差がイサミの呪文を弾く。
攻撃を命中させることも、
そして、フードの女はイサミのことなど忘れたかのように、シャーナと一対一で打ち合っている。
正確に言えばフードの女がシャーナを一方的に打ち据えているだけだが、フードの女の
よって互いに無傷。
だがこの拮抗も永遠ではない。いや、むしろ終局は間もなく訪れるはずだ。
あらゆる攻撃に対して無敵などという反則的な魔法が、生半可な精神力消費であるはずがないのだから。
「っ・・・!」
シャーナの足がもつれる。
それまではまがりなりにも回避行動を行っていたのが、鞭の連続攻撃をまともに食らう。
精神力の枯渇が間近である証だった。
(しょうがない、全部いく・・・!)
残りの9レベル魔法を全て"時間停止"からの連続遅延攻撃で使い切るつもりで精神集中を始めた時、シャーナの足がガクリ、と崩れた。
青黒い肌は白磁のような白に戻り、黒髪も輝くばかりの金色を取り戻す。
その瞳には、最早何も映っていない。
(しまった!)
精神力が完全に尽き果て、気絶したのだ。
想定より余りにも早い精神枯渇。
いや、シャーナは限界までこの魔法を使った経験がなく、イサミも本格的なパーティでの戦闘経験はほとんどない。
ある意味では当然の結果。
加速された意識の中、スローモーションで倒れていくシャーナ。
顔は見えないが、攻撃動作に入りつつ笑みの気配を放つ女。
(間に合わ・・・ないっ!)
絶対的な一手の遅れ。
今まさに発動しようとしていた呪文が効果を発揮するより前に、女の鞭がシャーナを蹂躙する。
おそらく、素のシャーナでは耐えられて一撃。
鎧が守ってくれるとしてももう一撃が限度。
一呼吸に5回の攻撃を放つ女の前では何の保証にもなりはしない。
やむを得ず、一手を捨てる。
「"
先ほどの"時間停止"にも似た、時間の流れを操作する魔法。
違うのは、動ける時間が数秒分、約一手であること。そして相手の行動に対応して、割り込んで行動できることだ。
かつてイサミのいた世界のゲームの名人が言ったと伝わる名言がある。
すなわち「小足見てから昇龍余裕でした」と。
これは単なる噂に過ぎなかったが、この呪文はそれを現実にする。
相手の行動開始を認識した瞬間、前もって待ち構えていたかのように行動することができるのだ。
加速された時流の中、数歩動き、鞭からシャーナを守るように、その前に立つ。
だがそれで終わりではない。
「"
更に女とイサミの間を遮るように、縦横3mにもならんとする、巨大な手が出現した。
組み付こうとする巨大な手を、女がするりとすり抜ける。
「ちっ・・・"自由移動の指輪"も使ってやがるか」
「そういうそちらはセレリティね」
鞭を振るおうとしていた女の手が止まり、先ほど"力場の檻"を破壊した時同様、左手の手袋から光線を放ち、"つかみかかる手"を破壊した。
"
(やはり"
内部に魔法のアイテムを一つ封じ、それを手に持っているのと同様に使用できる魔法の手袋である。
空いた手に武器などを持てるし、何より手袋であるから落とす心配がない。
おそらくは呪文を封じた"
「でも、本当に数秒時間を稼いだだけよねぇ?」
とどめを刺せなかったにもかかわらず、女の声には余裕がある。
"
無理矢理時間を作り出した代償に、数秒間の未来を奪ってしまうのだ。
"
回り込んでシャーナにとどめを刺そうとする女を、今のイサミは阻止できない。
「"
「!?」
巨大な手の再びの出現と共に、そんな女の思惑はこっぱみじんに砕かれた。
「なんでよ?! "
まさかウィッシュでも・・・?」
「さて、どうしてだろうな?」
攻撃することも忘れて叫ぶ女に、指の間からイサミが不敵な笑みを返す。
(こいつはエベロンを知らないらしいな)
彼が幻惑状態に陥るのを防いだのは、彼のドラゴンマーク。
魔法科学の発達した世界エベロンにしか存在しない《特技》、《豪胆のドラゴンマーク》が"上級瞬速"のもたらすデメリットを防いでいるのだ。
あの黒ローブと同じくD&D世界の関係者でありながら、エベロンを知らない。
それは女の正体に関する重要なヒントではあったが、今はシャーナである。
「まさか
「顔は関係ないだろうが顔は!?」
イサミが思わずツッコミを入れた。
それはともかく"ビグビーのつかみかかる手"で壁を作ったイサミは、続けて"
とたん八体の、イサミと寸分違わぬ分身が周囲に現れた。
防御を固めておいて懐を探り、橙の液体の入った試験管――精神力を回復させるマインドポーションを取り出す。
我に返った女が"ビグビーのつかみかかる手"ごしに鞭を振るった。
この巨大な手は、魔法で存在しているが故に、女がいくら早く動こうとも、あるいは瞬間転移しようとも、イサミと女の間に立ちはだかる。
それでも完全に防ぐことはできないが、シャーナに対する攻撃を防ぐことはできた。
もとよりイサミも攻撃を受けるのは覚悟の上、その間にシャーナの精神力を回復させるつもりだったが、今度は女の方がイサミのもくろみの上を行った。
振るわれる五筋の連撃が、手の遮蔽はおろか八体の幻像をものともせずに、正確に本物のイサミを五回、打ち据える。
「がっ!?」
血しぶきが舞う。
当たって一、二発と侮っていたイサミが苦悶と驚きの声を上げた。
イサミの手のマインドポーションも、イサミの肉体と共に切り刻まれる。
血と共にオレンジのしぶきがはねて、シャーナの顔と戦闘衣にシミを作った。
「はーい、ここで問題。私はどうやってあなたの本体を見破ったでしょう?」
「"
「むう」
正解を言い当てられたか、女の声につまらなそうな響きが混じった。
というか鏡像分身を一目で見破る方法など、それくらいしかない。
なお擬似視覚とは空間感覚や心眼など視覚に頼らず相手の存在を知覚できる能力の総称であり、"真実の目"はあらゆる幻覚や変身を見破る魔法だ。
そんなやりとりをしつつ、イサミは《高速化》した"
同時に"ビグビーのつかみかかる手"に女を握りこませようとするが、これはせいぜい嫌がらせ程度にしかならない。
倒れたシャーナの体を探り、マインド・ポーションを探す。
「ちぇっ!」
イサミがシャーナのベルトからポーションを抜き取るのとほぼ同時、舌打ちした女が再び光線を放ち、力場の壁を破壊する。
すかさずイサミは《高速化》した"力場の壁"を発動して壁を張り直し、シャーナの口にポーションを注ぎ込む。
「ゲホッ! ゲホッ!」
咳き込みながらシャーナがうっすらと目を開け、再び女が光線を放って壁を破る。
すかさずイサミが張り直す。
膠着状態であった。
女は壁を破っても"ビグビーのつかみかかる手"がある以上、これ以上接近できない。
"物質分解"で"ビグビーのつかみかかる手"を破壊する事はできるが、壁を破壊するまでの間にイサミがもう一つ作り出せば同じ事だ。
イサミの方にしても、シャーナは回復したが、攻め手が無い。
一日二回の"
だが、それではこの女がついてくるだけだ。
とは言え、ここで手をこまねいていても、結局は女の思惑通り。
イサミがほぞをかみ、女がほくそ笑んだ時。
「
その瞬間、銀色の閃光が白いもやを貫いた。