ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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6-8 救援・援軍・介入(リーンフォースメント)

 ぎぃんっ、と耳障りな金属音がした。

 女が回避するのではなく、初めて自分の武器で攻撃を受け払ったのだ。

 攻撃を払われた闖入者はその勢いに逆らわず、体をひねって着地する。

 それとほぼ同時に不可視の壁が消え、またイサミの"空白の心"がアイズに飛んでいる。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン!? 何でここに?」

 

 ふらふらと立ち上がったシャーナが目を丸くする。

 

「アイズ、ベルは・・・」

「途中ですれ違いました。あなたたちを助けて欲しいって」

「そうか」

 

 余計な事をしやがってと悪態をつきつつも、その口元はゆるんでいる。

 

「【剣姫】? 驚いたわね」

 

 言いつつ、さほど驚きもしていない風情のローブの女。

 それから目を離さず、イサミとシャーナが前進する。

 

「傷だらけ。大丈夫ですか?」

「見た目だけだ。あいつに勝てそうか?」

「・・・難しいです。今のも、余裕を持って受けられました」

「だろうな」

 

 こちらに攻撃を仕掛けるでもなく、悠然と立つローブの女を見据えつつ、イサミが二人に矢継ぎ早に支援呪文を唱える。

 

「《高速化》"加速(ヘイスト)"」「"完璧追求(チェイシング・パーフェクション)"」「《高速化》"石の皮膚(ストーンスキン)"」「"聖なるオーラ(ホーリィ・オーラ)"」「《高速化》"特級抵抗力(スペリアー・レジスタンス)"」「"樹皮の肌(バークスキン)"」「《高速化》"祈り(プレイヤー)"」「"朗唱(リサイテイション)"」

 

「・・・これは?」

「支援だ。気休め程度だけどな」

 

 限界まで重ねがけした支援呪文は、実のところ1レベルくらいのステイタス差なら打ち消すほどの効果がある。

 だが、目の前の相手に対しては、それでさえ蟷螂の斧にしか思えない。

 アイズとシャーナが武器を構え直し、目の前の女がにまり、と笑みを浮かべた気配がした。

 

「ふうん、やる気満々って事ね? いいわ、遊んで・・・?」

 

 声に戸惑いが混じった。僅かに頭を動かして、視線をイサミ達とは別の方向にそらす。

 

「・・・・・・!」

 

 イサミの息が止まる。

 いつ現れたか、そこに黒いローブの怪人がいた。シャーナとアイズの表情からして、二人もこの怪人が潜んでいたことを察知できなかったようだ。

 10日ほど前に見たままの、上から下まで黒ずくめ。両手にはめた銀の籠手だけがおぼろげな光を反射している。

 

「あなた・・・」

 

 女の声から初めて余裕が消える。

 対して怪人の声には全く抑揚がない。不気味なほどに平板な声。

 

「さて、状況はわかるね? できればここは引いて欲しいのだけど」

「私と戦いたくないってこと? いやだ、随分と惚れられたものね」

「解釈はお好きに。それで、引くのかい? それとも戦う?」

 

 肩をすくめる黒ローブの怪人。

 僅かに逡巡した後、フードの女はつつっと後ろに下がった。

 

「あなたのお願いだし、聞き届けて上げる。でも――」

「わかっているよ。その内貸し借りは精算しよう」

「ええ、それでいいわ。それじゃごきげんよう」

 

 その言葉と共に、フードの女は白いもやに消えた。

 ふう、とイサミとシャーナが息をつく。

 アイズが額の汗をぬぐった。

 

「! そうだ、ベル!」

「!」

 

 一瞬イサミが念じると、脳裏に3mほどの巨大なキラーアントと戦っているベルの映像が浮かんだ。

 

「む? 私としては君たちに依頼したいクエストが・・・」

「今 急 い で る か ら 後 で な !」

「あ、おい、待てよ!」

 

 言いつつ、幻馬(ファントム・スティード)を呼び出す。

 慌てるシャーナを引っ張り上げ、手綱を引いて一目散に馬で駆けだした。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 心なしか呆然とした様子の怪人にぺこり、と頭を下げ、アイズも二人を追って走り出す。

 

「やれやれ・・・」

 

 怪人のため息が迷宮に溶けて消える。

 迷い込んだ兎が一匹、ぴょこり、と首をかしげていた。

 

 

 

 ベルが迷宮を疾駆する。

 "加速(ヘイスト)"によって得た爆発的走力で、その速度は常の倍近くに跳ね上がっている。

 九階層をものの数分で走り抜け、八階層に上がるのとほぼ同時に"加速"の効果が切れるが、構わずに走る。

 

 八階層の通路を走る。

 くぐもった悲鳴が聞こえ、それがリリの物だと気付いた時、ベルはルームに飛び込み、転がって呻くリリを蹴ろうとする冒険者の男に力一杯の跳び蹴りを放っていた。

 

 

 

「ぎゃふっ!?」

 

 ゲドの悲鳴が聞こえ、痛みにもがいていたリリは目を開けた。

 

「リリ! 大丈夫!?」

 

 信じられない声がする。

 目の前にいるはずのない人の声がする。

 自分で切り捨てた、でも別れたくなかった人の声がする。

 

「ベル様・・・?」

 

 ゲドが立ち上がる。

 

「てめぇ、ガキが・・・! 何のつもりだ! てめぇだってそいつに騙されたんだろうが!」

 

 ベルの脳裏に去来するのは兄の言葉。

 

(だったらせいぜいやりたいようにやれ。どうなるにしろ、ケツくらいはこっちで持ってやる)

 

 へそに気合いをこめ、小剣を構える。

 

「そんなの・・・そんなの、リリを助けたいからに決まってるじゃないかっ!」

 

 一瞬、沈黙が落ちた。

 リリもゲドもぽかんとしている。

 ややあって、ゲドが爆笑した。

 

「ひゃははははは! ほ、ほんとバカだなお前! それともまだ騙されてるのに気づいてないのかよ?!」

 

 涙をにじませるほど大笑いするゲド。

 ややあって、じゃり、と足音がする。

 三人がそちらを見ると、中年の冒険者がルームの入り口にいた。

 

「カヌゥさん・・・!」

 

 立ち上がったリリがつぶやく。

 ベルにも見覚えがあった。

 昨日リリと揉めていた、ソーマファミリアの冒険者だ。

 彼らが目の前の男と共謀してリリをはめたのだろう。

 

「おう、来たか。ちょいとこの小僧ひねってやるからよ、クソ小人が逃げないように見張っててくれや」

 

 笑いを収めたゲドがカヌゥに話しかけた。

 だが先ほどの笑いの余韻を引きずるゲドは、カヌゥの目によぎった暗い笑みに気づかない。

 

「ええ、大丈夫ですよ。頼りになる援軍を呼んでありますんでね・・・」

 

 ん? とゲドが首をかしげる。

 

「おいおい、何人呼んだんだ? 分け前が・・・」

 

 そこまで言いかけたところで、ゲドはカヌゥが体の後ろに何かを隠し持っているのに気づく。

 ぽいっ、と投げ入れられたそれに、リリがひっと短い悲鳴を上げる。

 きちきちと大あごを鳴らすそれは、上半身だけになったキラーアント。

 

「!?」

 

 気がつけば、ルームの他の入り口にも、中年の冒険者二人が立っていた。

 いずれも、昨日リリと揉めていたソーマ・ファミリアの冒険者。カヌゥの仲間だ。

 彼らもまた、左手にさげていたキラーアントの上半身をルームの中に放り込む。

 

「三対一ならどうにか、とも思ったんでやすがね・・・もしかしたら旦那のほうがお強いかもしんねぇ。

 なので、こういう手段をとらせていただきやすぜ」

「しょ、正気かてめぇらっ!?」

 

 ゲドの顔から血の気が引いた。

 リリとベルの顔も引きつっている。

 脳裏に再生されるエイナの声。

 

(いい、ベル君? キラーアントは重傷を負うと特殊なフェロモンを分泌して、仲間を呼ぶの。それも大量に。

 だから、戦う時は素早くとどめを刺さないと駄目よ。

 一匹一匹ちゃんととどめを刺さないと、山のようなキラーアントに囲まれちゃうからね?)




ちょっと切りが悪いですが、ここしか切れなかったもので。
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