ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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6-9 キラーアント

 カヌゥがぞっとするような笑みを浮かべた。

 リリのよく知る笑み。神の酒(ソーマ)に取り付かれ、そのために金を求める中毒者の笑みだ。

 

「俺たちとやり合っているあいだにそいつらに殺されたかぁないでしょう?

 命が惜しかったら、今すぐ逃げることをお勧めしやすぜ」

「ひっ・・・!」

 

 このルームの入り口は四つ。

 三つの入り口にはそれぞれカヌゥ達が。

 そしてベルの入って来た最後の入り口からは、既に五匹のキラーアントが入ってこようとしている。

 

「く、くそったれ・・・」

「スコーチング・レイ!」

「!?」

 

 ゲドが駆け出そうとした刹那ベルが火線を放ち、上半身だけのキラーアントを一匹屠った。

 続けて二発を放ち、半死半生だった残りの二匹にもとどめを刺す。

 

「魔法だとっ?!」

「い、今詠唱したか?!」

 

 カヌゥ達が色めき立つ。

 ゲドは駆け出そうとした姿勢のまま、呆然とベルに目をやった。

 

「おまえ・・・」

「よくわかりませんけど一人じゃ危ないです! 包囲されたら危険ですよ! ここは一緒に戦いましょう!」

「お、おう・・・!」

 

 目を白黒させながらそれでも冒険者の性か、生き延びるためにゲドは剣を抜いて構えた。

 

「スコーチング・レイ!」

 

 一方ベルは身を翻して、後ろから来ていたキラーアントを撃つ。

 一匹のキラーアントに命中した火線はその体を焼き、続けて後続の三匹に飛び跳ねてその命を奪う。

 最後に残った一匹に素早く接近し、小剣でその首を刈り取る。

 

「すげぇ・・・」

 

 思わずゲドの口から感嘆の声が漏れる。

 普段から同じモンスターを相手にしているだけに、ベルの力量がはっきりとわかるのだ。

 そしてそれはカヌゥ達も同じ事。

 

「お、おい、どうするよ・・・?」

「こっちから何かすげえ足音がする! マジでやべぇぞ!」

「・・・ちっ!」

 

 舌打ちをしてカヌゥは懐から小さな試験管を取り出した。

 ポーションのようにも見えるが、濁った紫の奇妙な色をしている。

 

「ずらかるぞ! 金のありかは後で死体から聞き出してやる!」

「わ、わかった!」

 

 カヌゥはそう言いながら栓を抜き、その中身を自分の体にまんべんなく振りかけた。

 他の二人も慌てて同色の試験管を取り出して中身を自分に振りかける。

 

「リリ、あれって・・・?!」

「多分キラーアント避けのフェロモンです。

 効き目は高いですが他のモンスターには効かないので、余りメジャーな物ではありませんが・・・最初からそのつもりだったんでしょうね」

「くそったれが!」

 

 ゲドが歯ぎしりをするが、どうしようもない。

 三人はカヌゥの所に集まると、ルームを出て通路を走り出した。

 

 通路の奥、闇の中に浮かぶ無数のキラーアントの赤い目が、カヌゥ達が走り抜けるのに合わせて左右に割れる。

 確かにリリの言うとおり、効果は高いようだった。

 

 やがて、四つの入り口からキラーアントが続々と現れる。

 その数は40や50ではきかない。

 半死半生のキラーアントにはとどめを刺したが、一度放出されたフェロモンはそうすぐには消えるものではない。

 

「おいっ、ガキ! リリルカ! ルームの角に下がるぞ! 壁を背にして戦うんだ!」

「ベル様、これを!」

 

 リリが思わず差し出した「神のナイフ」を、ベルは笑顔で受け取る。

 

「ありがとう、リリ。それじゃ、リリをお願いしますね」

「え?」

「あの、ベル様?」

「下がっててっ! "スコーチング・レイ"!」

 

 火線が走り、近づいてこようとしていたキラーアント四匹を黒こげにする。

 ベルの"スコーチング・レイ"は、イサミの"灼熱の光線(スコーチング・レイ)"に比べて、威力で劣る。

 使用回数で、射程距離で、《連鎖》する数で、貫通力で、命中率すら圧倒的に劣る。

 

 だがたった一つ、速射性においては本家のそれを遙かに凌駕していた。

 イサミが放てる呪文は六秒に一回、《高速化》した呪文を併用しても二回。

 しかしベルは、同じ時間の中で、実に十回の"スコーチング・レイ"を放つ事ができる。

 

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

 

 迸る火線。

 感電するように《連鎖》する炎の槍に貫かれ、次々とキラーアント達が倒れていく。

 その数、六秒で四十匹。

 ルームの隅に退いていたリリとゲドは、ただただ呆然とそれを見守るしかない。

 

 だが、キラーアントはまだ残っている。六本の足を素早く動かし、たった今ベルが倒したよりも遙かに多くの数が通路からあふれ出してくる。

 それでもベルはひるまない。

 腰のベルトから10000ヴァリスの切り札、マジックポーションを取り出して一息に飲み干す。

 

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

「"スコーチング・レイ"!」

 

 再びの十連射。

 またしても同数のキラーアントが焼け焦げた屍をさらす。

 だが、それでもなおキラーアントの群れは途切れない。

 続々と、四方の通路からルームに入り込んでくる。

 

「はぁ・・・はぁっ・・・」

 

 さすがにベルの息も荒い。精神力の消耗が激しいのだ。

 ベルが息を整えている間に、ようやっと通路からの蟻の群れは途切れた。

 だがそれでも五十匹近い蟻が残っている。

 

「ベル様!」

「小僧!」

 

 隅で戦うゲドとリリが叫ぶが、到底援護できる状況ではない。

 彼らも十匹を超えるキラーアントにたかられ、リリは魔剣まで使って必死に応戦している。

 

「大丈夫! これくらいなら・・・!」

 

「神のナイフ」とバゼラードを両手に構え、ベルが突っ込む。

 先頭のキラーアント二匹の首が、何が起こったかもわからないうちに宙に舞った。

 続く三匹目の首も。僅かに遅れて四匹目の首が飛ぶ。

 

「っ・・・!」

 

 剣を振るいながらゲドが息を呑んだ。そしてリリも。

 常に動き続け、狙いを定めさせない立ち回り。

 正確に首をはね飛ばし、中途半端に深手を負わせない攻撃。

 しくじった場合でも深追いはしない。

 

 確実に仕留められるタイミングを待ち、位置を入れ替える。

 相手の攻撃範囲を見切り、その範囲に自分の体を入れない。

 そして、攻撃範囲の死角から疾風の一撃。

 

 涼風がもやを吹き払うように、白い旋風が黒い群れを吹き払う。

 神のナイフが発する紫の微光が光の軌跡を宙に描く。

 その曲線の一つ一つごとに、蟻の首が宙を舞う。

 

 未熟ながらシャーナが絶賛した立ち回りのセンスと、SSに達した敏捷アビリティ。

 そして、リリの叱咤による油断と慢心の排除――程なく、キラーアントの群れは全滅していた。

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