ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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6-10 意地

「・・・は、ははっ。すげえ。すげえよお前! 生き残っちまったぜ!」

 

 ゲドが笑い出した。

 ベルの顔にも笑みが浮かび――それが凍り付いた。

 振り向いたリリとゲドもまた。

 

 ベルの左前方、リリとゲドからは右やや後方に位置するルーム入り口からのっそりと姿を現したのは体高3m、通常の二倍に達しようかという巨大なキラーアント。

 がちがちと鳴らす大あごの音も、普通のキラーアントとは段違いの迫力。

 

「なん・・・だ、こいつは・・・」

「リリ、こんな奴って・・・」

 

 ベルがリリに問おうとした時、巨大キラーアントが食らいついた。

 ベル達に、ではない。

 床に転がっていた同族の死体にである。

 

「・・・あっ」

 

 同族の胸の部分をちぎり取り、咀嚼して飲み込む巨大蟻。

 それを見て、リリは理解してしまった。

 

「あれは・・・おそらく『強化種』です。共食いで他のモンスターの魔石を食らい、どんどん強くなっていくんです!」

 

 ゲドの顔が再び血の気を失う。

 

「じょ、冗談じゃねえぞ! 強化種ったらあれだろ、『血まみれのトロール』とかだろ?!

 さすがに無理だ! 逃げようぜ!」

 

 ゲドがそう言ったとたん、巨大キラーアントがぎょろり、とベル達の方を向いた。

 同族の死体をむさぼるのをやめ、明確な敵意を放射する。

 

「ひっ・・・!」

「ちょっと遅かったようですね。まあお逃げになるなら止めはしません。逃げられると思うなら――ですが」

 

 言葉に詰まるゲド。

 あの巨大キラーアントの体格はキラーアントの二倍。

 単純に速度も二倍としても、ベルはともかくリリや自分は逃げ切れないだろうと、彼にもわかった。

 

 

 

 戦いは自然と始まった。

 飛び込もうとするベルに振るわれる、甲殻に包まれた二本の前足。

 

 鋭い。

 ベルの敏捷度をもってしても、かわすのが精一杯。

 それも間合いを空けての話だ。

 無理に接近すれば、高い確率で迎撃され、吹き飛ばされる。

 

 巨体故のリーチ、そして巨体にもかかわらず動きは鈍いどころか恐ろしく早い。

 ベルとゲド、二人で挟もうとしても素早く動き回ってそれをさせない。

 四本の足があるからか、方向転換も恐ろしく早かった。

 

 しかも甲殻が異常に固い。

 リリのクロスボウも、ゲドの剣もろくに打撃を与えられていない。

 まともに傷をつけられたのは、ベルの神のナイフのみ。

 このままではらちがあかないと、ベルが左のバゼラードを鞘に収める。

 

「"スコーチング・レイ"!」

 

 左手から火線が伸びる。

 頭部を狙った炎の槍は狙いあやまたず真っ直ぐに伸び・・・そして頭部の直前でかき消えた。

 

「!?」

 

 "呪文抵抗(スペルレジスタンス)"。

 この世界では知られていない、主に悪魔や天使、竜、そしてそれらの眷属などが持つ能力。

 

 この巨大キラーアントはただの強化種ではない。

 正確な表現をするならば、フィーンディッシュ・キラーアントクイーン。

 

 "悪魔的な(フィーンディッシュ)"の名の通りの魔の眷属。

 "悪魔(デヴィル)"や"魔神(デーモン)"が使役する、地獄の魔獣達と同じ属性の存在。

 

 その力の一端が異常なほどに固い表皮であり、たった今見せた呪文抵抗であった。

 

「くっ!」

 

 再びバゼラードを抜き、二刀流で構える。

 巨大キラーアントの胴体越しに、ゲドの姿が見える。頷き合った。

 

「てぇりゃあっ!」

 

 ゲドが振りかぶり、突進する。

 素早く向きを変えてそれに対応しようとする巨大キラーアントに、一瞬だけ遅れてベルが飛びかかった。

 レベル1どうしの、それも即席の連携にしてはかなりのものだったが・・・

 

「うぉっ!?」

 

 左の前足を大きく振って、ゲドを牽制。

 そして素早く体をひねり、本命の右で鋭い一撃。

 

「がっ!」

 

 とっさに左腕のアームガードでかばう。

 みしり、と腕がきしんだ。

 体勢を崩しそうになったが辛うじて耐え、後方に大きく飛ぶ。

 

「キシィッ!」

「てぇりゃあ!」

 

 追撃しようとする巨大キラーアントだったが、ゲドがすかさず斬りかかった。

 うるさげに払った左腕を、ゲドが剣で受ける。

 剣を持って行かれそうになる衝撃に必死で耐え、ごろごろと後ろに転がった。

 

 精一杯の素早さでゲドが立ち上がる。

 その時にはベルももう、態勢を立て直していた。

 

 強い。

 ルームの隅に避難していたリリが意を決したように右袖をまくり、ハンド・クロスボウの弦を巻き上げる。

 

「ベル様! ゲド様! 今度はリリも援護します! 三人で行きましょう!」

「リリ・・・うん、わかった!」

「お、おう!」

 

 太矢を装填し、リリが右腕のクロスボウを構える。

 

「おおりゃああ!」

 

 ゲドが大上段に斬りかかり、巨大キラーアントの左腕に弾かれる。

 その隙にベルが突進する。それを迎撃しようと振り払われるキラーアントの右腕。

 ここまでは先ほどと同じ。

 

 巨大キラーアントが腕を振り抜こうとしたその瞬間、リリの右腕のクロスボウがうなりを上げた。

 狙いは正確。

 太矢が一直線にキラーアントの頭部目がけて飛ぶ。

 

 ベルも、リリも、ゲドも。

 矢がキラーアントの目を貫く事を確信した。

 

 だが。

 

「え?」

「あっ」

「はあっ!?」

 

 ぎちりっ、と音を立てて、金属製の太矢が噛みちぎられる。

 巨大キラーアントは僅かに首を動かし、太矢を口でくわえ取ったのだ。

 

 次の瞬間、ベルが吹き飛ばされた。

 今度はまともに食らい、体勢を崩してダンジョンの床に転がる。

 そこにとどめを刺そうとする前足。

 

「ベル様!」

 

 とっさにリリが魔剣を振った。

 胴体に炎が炸裂し、ダメージはさしてなかったものの一瞬巨大キラーアントがひるむ。

 その隙にベルは距離を取って立ち上がった。

 

「あ・・・」

「効いた!?」

 

 呪文抵抗(スペル・レジスタンス)は、決して呪文に対して無敵になる能力ではない。

 術やアイテムの術力がそれを貫くこともある。

 魔法の術力と呪文抵抗の力が互角なら、貫通する確率も五分五分。

 

 そして上級鍛冶師が打った魔剣は、威力はともかくレベル1であるベルのそれより術力は高いので貫通する確率も高い。

 そんな事を理解したわけでもないが、こちらも吹き飛ばされて立ち上がったゲドが叫んだ。

 

「おい、クソ小人! こっちにその魔剣を放れ!」

「え?! 何をする気ですか!」

「うるせえ! いいからよこせ! 一発カマしてやる!」

 

 その剣幕に押されるように、リリが魔剣を放った。

 それをキャッチしたゲドは自分の剣を捨て、魔剣を両手で握る。

 

「ガキィ! もう一度だ! 今度はお前が先に行け! クソ小人、てめぇもだ!」

「は、はいっ!」

 

 巨大キラーアントの攻撃をかわしていたベルが辛うじて頷き、飛び下がる。

 蟻はナイフを警戒したか、深追いはしない。

 リリは無言のまま、右腕のクロスボウに再び太矢を装填し、ゲドは魔剣を逆手に構え直した。

 

「行くぞ!」

 

 三回目のコンビネーション。

 今度もゲドが最初に突撃する・・・と見せかけて、最初の数歩を踏んだ時点で足を止める。

 

「ギッ!?」

 

 なまじコンビネーションに慣れた巨大キラーアントが戸惑い、ベルへの対応が僅かに遅れる。

 巨大キラーアントがベルの方を向き、リリのクロスボウが発射された瞬間、今度こそゲドが突っ込んだ。

 

「おおおおおお!」

「ゲド様っ!?」

「ゲドさん!?」

 

 ベルをはじき飛ばし、素早くこちらに振り向こうとしている巨大キラーアントが、リリの矢を甲殻で弾く。

 

(あんなガキにばっかり・・・あんなガキにばっかり、いいところさらわれてたまるかよぉっ!)

 

 魔剣を両手で握り、薙ぎ払われる左腕の下に飛び込む。

 巨大な左腕と、ゲドの体が交錯した。

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