ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「・・・は、ははっ。すげえ。すげえよお前! 生き残っちまったぜ!」
ゲドが笑い出した。
ベルの顔にも笑みが浮かび――それが凍り付いた。
振り向いたリリとゲドもまた。
ベルの左前方、リリとゲドからは右やや後方に位置するルーム入り口からのっそりと姿を現したのは体高3m、通常の二倍に達しようかという巨大なキラーアント。
がちがちと鳴らす大あごの音も、普通のキラーアントとは段違いの迫力。
「なん・・・だ、こいつは・・・」
「リリ、こんな奴って・・・」
ベルがリリに問おうとした時、巨大キラーアントが食らいついた。
ベル達に、ではない。
床に転がっていた同族の死体にである。
「・・・あっ」
同族の胸の部分をちぎり取り、咀嚼して飲み込む巨大蟻。
それを見て、リリは理解してしまった。
「あれは・・・おそらく『強化種』です。共食いで他のモンスターの魔石を食らい、どんどん強くなっていくんです!」
ゲドの顔が再び血の気を失う。
「じょ、冗談じゃねえぞ! 強化種ったらあれだろ、『血まみれのトロール』とかだろ?!
さすがに無理だ! 逃げようぜ!」
ゲドがそう言ったとたん、巨大キラーアントがぎょろり、とベル達の方を向いた。
同族の死体をむさぼるのをやめ、明確な敵意を放射する。
「ひっ・・・!」
「ちょっと遅かったようですね。まあお逃げになるなら止めはしません。逃げられると思うなら――ですが」
言葉に詰まるゲド。
あの巨大キラーアントの体格はキラーアントの二倍。
単純に速度も二倍としても、ベルはともかくリリや自分は逃げ切れないだろうと、彼にもわかった。
戦いは自然と始まった。
飛び込もうとするベルに振るわれる、甲殻に包まれた二本の前足。
鋭い。
ベルの敏捷度をもってしても、かわすのが精一杯。
それも間合いを空けての話だ。
無理に接近すれば、高い確率で迎撃され、吹き飛ばされる。
巨体故のリーチ、そして巨体にもかかわらず動きは鈍いどころか恐ろしく早い。
ベルとゲド、二人で挟もうとしても素早く動き回ってそれをさせない。
四本の足があるからか、方向転換も恐ろしく早かった。
しかも甲殻が異常に固い。
リリのクロスボウも、ゲドの剣もろくに打撃を与えられていない。
まともに傷をつけられたのは、ベルの神のナイフのみ。
このままではらちがあかないと、ベルが左のバゼラードを鞘に収める。
「"スコーチング・レイ"!」
左手から火線が伸びる。
頭部を狙った炎の槍は狙いあやまたず真っ直ぐに伸び・・・そして頭部の直前でかき消えた。
「!?」
"
この世界では知られていない、主に悪魔や天使、竜、そしてそれらの眷属などが持つ能力。
この巨大キラーアントはただの強化種ではない。
正確な表現をするならば、フィーンディッシュ・キラーアントクイーン。
"
"
その力の一端が異常なほどに固い表皮であり、たった今見せた呪文抵抗であった。
「くっ!」
再びバゼラードを抜き、二刀流で構える。
巨大キラーアントの胴体越しに、ゲドの姿が見える。頷き合った。
「てぇりゃあっ!」
ゲドが振りかぶり、突進する。
素早く向きを変えてそれに対応しようとする巨大キラーアントに、一瞬だけ遅れてベルが飛びかかった。
レベル1どうしの、それも即席の連携にしてはかなりのものだったが・・・
「うぉっ!?」
左の前足を大きく振って、ゲドを牽制。
そして素早く体をひねり、本命の右で鋭い一撃。
「がっ!」
とっさに左腕のアームガードでかばう。
みしり、と腕がきしんだ。
体勢を崩しそうになったが辛うじて耐え、後方に大きく飛ぶ。
「キシィッ!」
「てぇりゃあ!」
追撃しようとする巨大キラーアントだったが、ゲドがすかさず斬りかかった。
うるさげに払った左腕を、ゲドが剣で受ける。
剣を持って行かれそうになる衝撃に必死で耐え、ごろごろと後ろに転がった。
精一杯の素早さでゲドが立ち上がる。
その時にはベルももう、態勢を立て直していた。
強い。
ルームの隅に避難していたリリが意を決したように右袖をまくり、ハンド・クロスボウの弦を巻き上げる。
「ベル様! ゲド様! 今度はリリも援護します! 三人で行きましょう!」
「リリ・・・うん、わかった!」
「お、おう!」
太矢を装填し、リリが右腕のクロスボウを構える。
「おおりゃああ!」
ゲドが大上段に斬りかかり、巨大キラーアントの左腕に弾かれる。
その隙にベルが突進する。それを迎撃しようと振り払われるキラーアントの右腕。
ここまでは先ほどと同じ。
巨大キラーアントが腕を振り抜こうとしたその瞬間、リリの右腕のクロスボウがうなりを上げた。
狙いは正確。
太矢が一直線にキラーアントの頭部目がけて飛ぶ。
ベルも、リリも、ゲドも。
矢がキラーアントの目を貫く事を確信した。
だが。
「え?」
「あっ」
「はあっ!?」
ぎちりっ、と音を立てて、金属製の太矢が噛みちぎられる。
巨大キラーアントは僅かに首を動かし、太矢を口でくわえ取ったのだ。
次の瞬間、ベルが吹き飛ばされた。
今度はまともに食らい、体勢を崩してダンジョンの床に転がる。
そこにとどめを刺そうとする前足。
「ベル様!」
とっさにリリが魔剣を振った。
胴体に炎が炸裂し、ダメージはさしてなかったものの一瞬巨大キラーアントがひるむ。
その隙にベルは距離を取って立ち上がった。
「あ・・・」
「効いた!?」
術やアイテムの術力がそれを貫くこともある。
魔法の術力と呪文抵抗の力が互角なら、貫通する確率も五分五分。
そして上級鍛冶師が打った魔剣は、威力はともかくレベル1であるベルのそれより術力は高いので貫通する確率も高い。
そんな事を理解したわけでもないが、こちらも吹き飛ばされて立ち上がったゲドが叫んだ。
「おい、クソ小人! こっちにその魔剣を放れ!」
「え?! 何をする気ですか!」
「うるせえ! いいからよこせ! 一発カマしてやる!」
その剣幕に押されるように、リリが魔剣を放った。
それをキャッチしたゲドは自分の剣を捨て、魔剣を両手で握る。
「ガキィ! もう一度だ! 今度はお前が先に行け! クソ小人、てめぇもだ!」
「は、はいっ!」
巨大キラーアントの攻撃をかわしていたベルが辛うじて頷き、飛び下がる。
蟻はナイフを警戒したか、深追いはしない。
リリは無言のまま、右腕のクロスボウに再び太矢を装填し、ゲドは魔剣を逆手に構え直した。
「行くぞ!」
三回目のコンビネーション。
今度もゲドが最初に突撃する・・・と見せかけて、最初の数歩を踏んだ時点で足を止める。
「ギッ!?」
なまじコンビネーションに慣れた巨大キラーアントが戸惑い、ベルへの対応が僅かに遅れる。
巨大キラーアントがベルの方を向き、リリのクロスボウが発射された瞬間、今度こそゲドが突っ込んだ。
「おおおおおお!」
「ゲド様っ!?」
「ゲドさん!?」
ベルをはじき飛ばし、素早くこちらに振り向こうとしている巨大キラーアントが、リリの矢を甲殻で弾く。
(あんなガキにばっかり・・・あんなガキにばっかり、いいところさらわれてたまるかよぉっ!)
魔剣を両手で握り、薙ぎ払われる左腕の下に飛び込む。
巨大な左腕と、ゲドの体が交錯した。