ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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6-11 切り札

「ギィィィッ!?」

「!」

 

 悲鳴を上げたのは巨大キラーアントのほうだった。

 ゲドが逆手に構えた短剣が、左後ろの足の付け根に突き刺さっている。

 キラーアントの左腕のかぎ爪は、ゲドのこめかみを切り裂くにとどまっていた。

 

「炎よ!」

 

 足の付け根に突き刺したまま、ゲドが魔剣を発動させる。

 甲殻の隙間から炎が漏れ、巨大キラーアントが再び悲鳴を上げた。

 

 幸運は二つあった。

 ベルに注意が向いていたとはいえ、Lv.1のゲドが攻撃をかいくぐって、それも甲殻の隙間に魔剣を突き刺したこと。

 そして魔剣の術力と威力が巨大キラーアントの呪文抵抗と火炎耐性を十分貫きうる強度だったこと。

 

「炎よ! 炎よ! 炎よ!」

 

 連続して魔剣を発動させるゲド。巨大キラーアントが痛みに身をよじる。

 幾度目かの発動で、力を使い果たした魔剣が砕け散り、それと同時に巨大キラーアントの足が、付け根からもげて落ちた。

 

「ははっ! ざまあみ・・・」

 

 次の瞬間、横殴りに振るわれた前足がゲドを吹き飛ばす。

 そのまま床と水平に数mも飛ばされたゲドは壁に激突し、バウンドして動かなくなった。

 

「リリ、ゲドさんの治療を!」

「は、はいっ!」

 

 リリが、先ほどゲドに蹴り飛ばされた時に落としたバックパックの方へ走る。

 ベルは己の方へ向き直る巨大キラーアントを見て、明らかにこの敵の機動力が落ちているのを確信した。

 巨大キラーアントの体を支えるのは二対四本の足、今や一本失われて三本。

 

(なら・・・!)

 

 オレンジ色の液体の詰まった試験管を取り出し、素早く飲み干す。

「二本目の」マジック・ポーション。

 ミアハ・ファミリアの薬師ナァーザが、二本10000ヴァリスで売ってくれた本当の切り札。

 

「ギギギギィッ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

 

 僅かに鈍った敵の攻撃をかわしながら魔法を連射する。

 狙うは、一本だけ残った左側の足。

 

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

 

 火線の二本に一本は打ち消される。

 呪文抵抗を貫いても、火炎に強いフィーンディッシュ種はそのダメージを半分以上軽減してしまう。

 

「キシャァァァァァァァァァァッ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

 

 巨大キラーアントの攻撃が激しくなる。

 それを必死でかわし、時には傷を負いながらも、ベルは魔法を唱え続ける。

 

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

 

 目に見えて巨大キラーアントの動きが鈍くなる。

 ダメージの蓄積が足から力を奪っているのだ。

 

「ギィィィッ!」

「スコーチング・レイッ!」

 

 ぎりぎりありったけの精神力を込めた、最後の火線が炸裂する。

 右腕を大きく振り上げて、ベルを袈裟懸けに切り裂こうとしたところで、巨大キラーアントの体勢が大きく崩れ、倒れ込む。

 踏み込みに耐えきれず、残った左の足が関節部からもげていた。

 

「はあっ、はあっ、はあっ・・・!」

「ベル様!」

 

 背嚢からポーションを取り出していたリリが歓声を上げる。

 ベルは一歩下がって前足の攻撃範囲から外れつつ、精神を集中させる。

 

「"透明化(インビジビリティ)"」

「「!?」」

 

 ベルの姿が消失し、リリが目を見張った。

 巨大キラーアントも、敵が消えてしまったことに戸惑うように首を振る。

 

 巨大キラーアントの横の壁面で、たんっ、と音がした。

 振り向く間もあらばこそ、次の瞬間にはその首にベルが組み付いている。

 

 "呪文貯蔵の指輪(リング・オブ・スペルストアリング)"。

 イサミが"ヒューワードの便利な背負い袋(ヒューワーズ・ハンディ・ハヴァサック)"、"自由移動の指輪(リング・オブ・フリーダム・ムーブメント)"とともにベルに与えたアイテム。

 中に入れた呪文を装備者が使えるようにする魔法の指輪。

 

 移動ができなくなっても、あの両腕の攻撃をかいくぐって有効打を与えることは難しいと見たベルは、イサミが込めておいた"透明化(インビジビリティ)"の呪文を発動させ、後ろの壁を蹴って三角飛びの要領で巨大キラーアントの首に飛び付いたのだ。

 

 攻撃的な行動によって透明化の効果が消えたベルが右手でナイフの柄を、左手でナイフの背を掴み、巨大キラーアントの喉をかき切ろうとする。

 巨大蟻はもがくが、体の構造上背中に手が届かない。

 

 首をかききろうとするベル。壁に叩き付けて振り落とそうとする巨大キラーアント。

 しばし、生死をかけた格闘が続く。

 そして。

 

「てぇりゃあああああああああああっ!」

 

 気合い一閃。

 どさり、と。

 今まであれだけ苦戦したのが嘘のように巨大キラーアントの首が転がり落ち、残った胴体も動きを止めた。

 

 勢い余ったベルも巨大キラーアントの背中から転がり落ち、地面にへたり込んで荒い息をつく。

 

「やった・・・やりやがったぜおい!」

「やりました! ベル様がやりましたぁぁぁぁ!」

 

 リリと、回復したばかりのゲドが抱き合って喜ぶ。

 互いの背中を叩き、喜びを分かち合う。

 やがて二人は我に返り、互いにじっと見つめ合った。

 

「・・・おほん」

「・・・ごほん!」

 

 咳払いをして、そそくさと離れる二人。

 やがて口を開いたのはゲドだった。

 

「あー、なんだ、リリ・・・悪かったな、手ひどく扱っちまってよ」

「こ、こちらこそ・・・剣を盗んだりして申し訳ありませんでした・・・」

 

 相手と顔を合わせないまま、照れくさそうに、あるいは恥ずかしそうに謝罪する。

 また、しばし言葉が途切れた。

 照れ隠しのように、ゲドがリリに指を突きつける。

 

「・・・あのな、言っておくが、俺はお前を許したわけじゃないからな。あの小僧に免じて大目に見てやるだけだ。それを忘れるな」

「そっちこそ! リリはあの扱いを決して許しませんよ! ベル様に免じて忘れて上げるだけです!」

 

(えーと)

 

 ちょっと汗をかいているベルをよそに、しばしにらみ合いが続く。

 

「・・・ふふっ」

「ははっ」

 

 やがて、どちらからともなく笑い出す。

 すぐにベルが加わり、三人の笑い声がルームに響いた。

 

「・・・なんだこりゃ」

「さあなぁ」

「?」

 

 ルームの入り口、幻馬にまたがったイサミとシャーナが気が抜けたようにつぶやく。

 途中で追いついたアイズがかわいらしく小首をかしげていた。

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