ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第七話「古参D&Dプレイヤーはだいたいタコが怖い」
7-1 ベルくんの逃走(何から?)


 

 

 

『ホレイショ、天と地の間にはお前の哲学では思いも寄らない出来事がまだまだあるのだ』

 

                          ――『ハムレット』 ――

 

 

 

「"シンバルの癒しの魔力(シンバルズ・シノストドウェオマー)"」

 

 イサミの呪文詠唱がルームに響く。

 魔術師(ウィザード)の呪文でほぼ唯一、他者のヒットポイントを回復できる呪文だ。

 正確には準備した呪文の力を回復の魔力に変える呪文である。

 二つの呪文を消費する上に回復量も多くはないが、Lv.1の冒険者を癒すには十分だった。

 

「おう、すまねえな・・・ひょっとしてお前、怪物祭で空を飛んで逃げた怪物を倒したっつう・・・」

「自分で飛んだわけじゃないけど、まあ多分ね」

「そ、そうか・・・」

 

 下手をすれば上級冒険者(と、思っている)相手に喧嘩を売る羽目になっていたと気づき、冷や汗を浮かべるゲド。

 

「それよりも兄さん・・・他にはいないかな?」

 

 自分と戦わせるためにあのフードの女が用意したモンスターが、と言外に告げる。

 

「多分な。あの口ぶりからして、自分でもう一度襲うなんて真似はしないだろう」

「よかったぁ~・・・あんなのと、もう戦いたくないよ」

 

 膝に手をおいて、大きく息をつくベル。

 その頭をイサミが乱暴にガシガシと撫でた。

 

「まあよくやったよ、お前は。正直勝てるとは思わなかったわ」

「へへ・・・」

 

 満面の笑みを浮かべるイサミ。照れくさそうにしながらも、為されるがままのベル。

 アイズがほほえましそうにそれを見つめ、それに気づいたベルの顔が真っ赤になった。

 

「あ、そ、そうだ! 指輪の呪文使っちゃったんだ! 後で入れてよ!」

「おう、わかった。・・・あいつとはまだパーティを組むのか?」

「うん、そうだよ?」

 

 ぴくりと反応したリリが何かを言う前に、ベルが答えた。

 当たり前だというように、あっけらかんと。

 

「・・・!」

「オーケー、それじゃ今度は"透明球(インビジビリティ・スフィア)"を入れといてやるよ。3m以内にいれば一緒に透明になれる」

「ありがとう、にいさん!」

 

 無邪気に喜ぶベル。

 それを見ていたリリの体から力が抜けた。

 

「今、安心したろ?」

 

 ぎょっとして振り向くと、いつの間にか後ろにシャーナがいた。

 

「心配するこたぁねえよ。あの坊やのお人好しっぷりは筋金入りだ。お前にだってわかるだろう?」

「それは・・・そうですが」

 

 うつむくリリに、エルフの少女がにやりと笑う。

 

「ま、諦めるんだな。惚れちまったら負けさ」

「シャーナ様に何がわかるんですか」

 

 むっとしてリリがシャーナを睨む。

 

「なに、岡目八目って言葉もあってな? ――だから、あいつの前から消えるような真似はすんなよ?」

「・・・リリは、シャーナ様が嫌いです」

「だろうな」

 

 すねたように言う少女の肩を、笑いながらシャーナが叩いた。

 

 

 

 ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

 第七話「古参D&Dプレイヤーはだいたいタコが怖い」

 

 

 

 ふと、イサミが振り返った。

 僅かに遅れてアイズもたった今走ってきた後ろの通路を振り向く。

 

「兄さん?」

「ああ、何でもない。とりあえず今日はもう帰っておけ。俺はちょっとこなさなきゃならない依頼があるから」

「う、うん」

 

 その視線が向かうのはアイズ・ヴァレンシュタイン。

 視線に気づいたアイズが振り向き、真っ赤になって慌てて視線をそらす。

 「?」とアイズが小首をかしげた。

 

 真っ赤な顔のまま後ろを向き、イサミに小声で話しかける。

 

「にいさん・・・ひょっとしてアイズさんと一緒に行くの?!」

「どうだろうな? なりゆきで一緒に来ちまったが・・・」

「・・・」

 

 恨みがましげな目でイサミを睨むベル。

 弟が今まで見せたことがない表情にイサミがたじろいだ。

 

「ちょ、ちょっと待て。そういう事じゃなくてだな・・・」

「・・・だってにいさん、昔から村中の女の子に人気だったじゃないか・・・それに、そもそもどうして、アイズさんが来たのさ。まさか、兄さんと冒険する約束を・・・」

 

 何か闇落ちしそうな弟の目つきに、やばい本格的にいじけてる、とイサミが戦慄したのもつかの間、澄んだ声がそれを遮る。

 

「ギルドの人に、君を助けるように頼まれたの・・・チュールさんってひと」

 

 ベルの背中がびくっと震えた。

 まさか聞かれていたとは思わず、冷や汗がだらだらと流れる。

 

「ああ、そういう事か。本当に世話になりっぱなしで・・・その内何かお礼でもしなきゃなあ。

 アイズもありがとうな? 助けて貰ったのは俺だったけど」

「いえ・・・あれで良かったと思います」

「まぁ、結果を見ればね」

 

 肩をすくめるイサミ。

 

「・・・・・・」

 

 その後ろで再起動したベルがそろりそろりと歩き始め・・・

 

「うわああああああああああああああああああああ!」

 

 絶叫しながら全力で逃走した。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・ま、待って下さい、ベルさまぁ!」

 

 我に返ったリリが、バックパックをしょって後を追いかける。

 

「・・・あー、それじゃ俺もこれで失礼します。弟さんには俺が礼を言ってたって伝えておいて下さい」

「あ、うん。気をつけて」

 

 いつの間にか敬語になっていたゲドも剣を拾い、こちらは歩いてルームから去っていった。

 それからしばし。

 ゆらり、と黒いローブ姿が、イサミ達が入って来た通路に現れた。

 

「うおっ?!」

 

 驚いたのはシャーナのみ。

 イサミとアイズは平然とそれに相対する。

 

「さて、用事も済んだようだし、私の話を聞いて貰えるかな?」

「まぁな。助けて貰ったわけだし、大概の事は聞くぞ」

「結構」

 

 黒ローブの怪人が頷く。

 その姿をじっと見てから、アイズが隣に立つイサミにささやいた。

 

「この人は何なんですか?」

「怪しい人」

「・・・」

 

 端的すぎるイサミの言葉に、微妙に不満そうな雰囲気を漂わせる怪人。

 シャーナがにやっと笑った。

 

 




ベルくんの逃走アビリティって、アイズから逃げてた分も多少入ってると思うw
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