ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「まあ、とある神様によれば信用はできるらしいけどね。で、何の用だい」
「・・・君たちに"
これを調査、あるいは鎮圧して欲しい。もちろん報酬は出そう。
事の原因の目星は付いている。おそらく"
イサミとシャーナがうさんくさげに怪人を見る。
「・・・で? おまえさんが依頼する以上、よっぽど危険なことなんだろうな?」
その視線にいささかも動じることなく、怪人は言葉を続けた。
「実は以前、彼女を向かわせた30階層でも同じようなことが起こっていた」
僅かに目を見張り、横のシャーナに視線を向けるイサミ。
真剣な顔でエルフの少女が頷く。
「事態は深刻だ。イサミ・クラネル。シャーナ・ダーサ。そしてアイズ・ヴァレンシュタイン・・・どうか君たちの力を貸して欲しい」
深々と頭を下げる黒ローブの怪人。
イサミとシャーナは再度視線を交わし、頷き合った。
「いいだろう。俺とシャーナはこのクエストを受諾する・・・アイズはどうする?」
アイズの直感が目の前の人物に自分を騙す意図はないこと、そして何か重大なことが迷宮の中で起きていることを伝えている。
しばし考えて彼女も頷いた。
「受けてもいいです。でも、話せる限りで事情を話して貰えませんか? それと・・・」
アイズのもう一つの頼みは、地上のロキ・ファミリアにこのことを言伝してほしいと言うことであった。
「わかった、それくらいは頼まれよう。事情はそちらの二人から聞いてくれ」
アイズが手短に記した羊皮紙を手にして黒ローブの怪人は闇に消えた。
目立つ幻馬を消し、三人は頷き合って歩き始める。
「それじゃまず、リヴィラであったことから話そうか・・・」
早足で歩きながら、赤毛の女にシャーナが殺されかけたこと、宝玉のこと、ルルネのことなどをざっと話す。
シャーナがハシャーナであること、リヴィラの殺人事件(?)の当事者であることは伏せた。
「とりあえずはこんな所かな。質問はある?」
「はい、大丈夫です・・・あ、でもひとつ」
「何?」
「その、弟さんは・・・」
言いよどむ。
「弟さんは、なぜあんなに早く強くなったんですか?」
考えたあげく、正面から質問する。
というより、対人経験に乏しいアイズに、他の選択肢はない。
来たか、とイサミは思った。もちろんそれを気取られるようなことはしない。
「それについちゃ俺たちも悩んでてね。俺は経験者だからともかく、あいつは正真正銘の初心者だったからなあ」
「はい・・・ミノタウロスに襲われた時の彼と、さっきの彼・・・まるで別人でした」
「俺も最近ファミリアに加わった口だが、一月前のあいつとはまるで別人で驚いたぜ。
何をどうすりゃあんな短期間であそこまで強くなれるのか・・・あのままだと一年したら"
イサミの韜晦にシャーナが合わせる。
さしものアイズも魔法と魔道具でブーストしたイサミの言葉の裏を読めるほどに鋭くはなく、シャーナは経験の差でアイズの直感を煙に巻く。
結局、アイズは二人の言葉を疑問に思うこともなく丸め込まれた。
三人が18階層に向かっている頃、ロキ・ファミリアホームの前庭。
40日ほど前の、ディオニュソスの眷属殺害に始まる一連の事件――深層の芋虫、怪物祭りの食人花、同じく食人花の潜んでいた地下水道――そして24階層のモンスター大量発生。
それらについて無乳の女神ロキと、貴公子然とした男神ディオニュソスが会談していた。
「今回と同じような大量発生が以前30階層でも発生していた。三週間ほど前の話だ」
「ふむ・・・関連はあるんかいな?」
「それはわからないが、無関係と断じることもできない。余り噂になっていないのも不自然だし、正直ギルドが絡んでいる疑いは捨てきれない」
「うーむ。きな臭いのは否定せぇへんけどなあ」
彼らは30階層からシャーナが持ち帰った宝玉のことを知らないため、話はそれ以上広がりようがない。
「・・・で、ウチに何をさせたいんや?」
「ははは、何かわかったら知らせると言ったろう? 他意はないさ」
ロキのジト目をきらめく笑顔でシャットアウトするディオニュソス。
狐と狸の化かし合いが始まった。
「うちの子は今出払っとるから、24階層の調査なんて無理やー」
「例の地下水道の調査かい?」
「自分、勘ええな・・・せや、そういうわけやから、今残ってる面子じゃ無理やでー」
「何も全員とは言わないよ。【剣姫】と、後2,3人いればどうにかなるんじゃないか?」
ロキが何か言い返そうとした時、頭上から小さな羊皮紙の巻物が落ちてきた。
上を向くと、小柄なフクロウが飛び去るのが見える。
「手紙かい?」
「みたいやな・・・」
巻物を開くロキ。
ディオニュソスは優雅に紅茶に口をつける。
「何が書いてあった、ロキ?」
「アイズが・・・24階層に行きおった」
ディオニュソスが紅茶を吹き出した。
咳き込む男神をよそに、ロキが天を仰ぐ。
「心配しないで下さいって、このタイミングで言われたら心配するわ、おばかアイズたんっ!」
ホームに残っていた高レベル冒険者、レベル5の獣人ベートとレベル3のエルフの魔導士レフィーヤを呼ぶように命ずるロキ。
ハンカチで口をぬぐったディオニュソスが話しかける。
「どうするつもりだい?」
「ベートとレフィーヤを向かわせる。この騒動・・・一気にきな臭くなってきおった。
よりにもよって、あのガキも一緒とは・・・」
ロキの脳裏に浮かぶのはイサミの顔。
魔導士でありながらベートを打ち合いで敗北寸前に追い込み、ソロで43階層に到達し、未知のマジックアイテムを操り、魔導と神秘アビリティを兼ね備えた正体不明の怪人。
しかもリヴィラでの殺人事件に関わった可能性もあり、さらには「アリア」の名前を口にしたともいう。
(ったくあのドチビ、あんな
それともあの超が五つ六つ付く単細胞のことや、何らかの手で丸め込まれたか?
むしろ逆にそれを計算に入れて、できたばかりの、単細胞の神のファミリアに潜り込んだ・・・?)
うぬぬ、と唸るロキに、いぶかしげに眉をひそめるディオニュソス。
「どうしたんだい、ロキ? 何か気になる事でも?」
「・・・せやな。自分には伝えておいた方がええやろ」
イサミに関する情報を聞かされたディオニュソスの顔には、先ほど以上の驚愕がありありと表れていた。
「・・・それは本当かい? 正直にわかには信じがたいんだが・・・」
「せやからウチも今まで黙っとったんや。けどこうなると、ンなこと言っとる場合やない。
最悪の場合、あのガキと一戦交えるつもりでいかんとあかんな」
ロキの言葉に、ディオニュソスも改めて真剣な表情になる。
「【凶狼】がレベル5とは言え、二人で大丈夫なのか? 持ちかけておいて何だが、この件はきな臭いぞ。その冒険者の話が本当なら尚更だ」
「今動けて、アイズの助けになるのがマジでその二人しかおらんのや。最悪アイズたん回収して逃げた方がええかもしらんな」
総勢で調査に行かせたのは失敗やったかー、と頭の後ろで手を組むロキ。
ディオニュソスが肩越しに後ろを振り返った。
そこに控えているのは、護衛として付いてきた黒髪の女エルフ。
ディオニュソス・ファミリア団長、魔法戦士フィルヴィス。
「フィルヴィス。ロキの子達と共に、24階層に向かってくれ」
「ディオニュソス様?!」
目を大きく見開くエルフ。
「フィルヴィス。私はロキの信用が欲しい。そのためにはどうすればいいか・・・わかるだろう?」
「それは・・・」
しばし抵抗していたフィルヴィスも、己の主神の真剣なまなざしに折れる。
「気持ちはありがたいけどな、実際付いてこれるん?」
「問題ない。この子は私の派閥では唯一のレベル3だ。くだんの冒険者はともかく、24階層のモンスター相手には足手まといにはならない」
「ふむ。まあええわ。二人には言っとく」
「ありがとうございます、神ロキ」
しばらくして、ロキ・ファミリアホームの門前で三人は合流した。
十日ほど前の因縁があるベートとフィルヴィスがにらみ合い、レフィーヤが板挟みになる。
「足を引っ張るようなら蹴り飛ばすからな。くたばる前に失せろよ」
「抜かせ、狼人」
「ううっ・・・」
レフィーヤの胃壁にダメージを与えつつ、三人はホームを発って迷宮へ向かった。
【韜晦】(トウカイ・名自スル)
1 自分の本心や才能・地位などをつつみ隠すこと。
2 身を隠すこと。姿をくらますこと。