ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
イサミ達はさほど時を置かずに18階層、リヴィラの町に到着していた。
やがてたどり着いたのは町の北部、水晶の谷間にある裏道。
その奥にある洞窟だった。
「黄金の穴蔵亭」という看板が掛かっている。
軋む階段を下りると、「いかにも」な冒険者の酒場だった。
中央から生える珍しい黄水晶が目を引くが、それ以外はさほど変わった所はない。
「げっ!?」
店内には十数人の冒険者がたむろしており、その内の何人かはイサミの巨体を見て、ぎょっとした顔になる。
イサミも、彼らの顔には残らず見覚えがあった。
「こんにちは、アスフィさん。それにルルネ。ヘルメス・ファミリアのトップ戦力が勢揃いでどうしたんです?」
答えをほぼ確信しつつ、イサミは笑顔で挨拶した。
眼鏡の位置を直しながら、水色の髪の麗人、ヘルメス・ファミリア団長アスフィ・アル・アンドロメダが挨拶を返す。
「久しぶり・・・というほどでもありませんね、イサミ・クラネル。まさかとは思いますが・・・」
「そうだぜ、まさかとは思うけど・・・」
こっちはやや複雑そうな顔で小柄な犬人の盗賊、ルルネが言葉を続けた。
それには答えず、イサミはカウンターの隅から二番目の席に座り、合い言葉を口にする。
「ジャガ丸くん抹茶クリーム味」
ルルネがカウンターに突っ伏した。
ルルネが突っ伏すと同時、酒場にいた全員からどよめきが起こる。
イサミが再び立ち上がり、状況について行けないアイズが小声で尋ねた。
「あの・・・どういう事ですか?」
「ここにいるのは全員がヘルメス・ファミリアの精鋭なのさ。下層も問題なく踏破できる連中だ」
小さく目を開いて驚くアイズ。
「しかしそうか・・・またあんたかあ」
複雑そうな表情でルルネが唸る。
「なんだよ、俺が来たら悪かったか?」
「いや、あんたが強いのは知ってるし、助けて貰って感謝もしてるけどさあ。
何かこう、厄介ごとのたびに顔合わせてる気がして・・・」
視線を逸らして頭をポリポリとかくルルネ。
その頬が僅かに赤い。どうやら照れているらしかった。
「ガラにもないな」
「何か言ったか、このロリエルフ!」
しっしっし、と笑うシャーナにルルネが噛みつく。
そう言えばリヴィラに行く途中で会った時に、彼女もいたなとアイズは思い出した。
「アスフィさん、知ってると思うけどこちら【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。後ろのは俺と同じファミリアのシャーナ・ダーサ。Lvは4。
アイズ、シャーナ、こちらアスフィ・アル・アンドロメダ。あの【
イサミの紹介を受けて、挨拶を交わす三人。
「【剣姫】にそちらもレベル4ですか! それは心強い。お二人ともよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「よろしくな・・・って、そういうあんたもレベル2にゃ見えないな?」
いぶかしげなシャーナの視線。
アスフィがイサミに視線を向ける。
イサミはかすかに首を振り、無言のまま肩をすくめた。
アスフィがため息をつく。
「・・・私たちのファミリアは、ヘルメス様の命令でレベルを偽っているんです。私はレベル4。
ここにいるのもほとんどはレベル3です」
「そういうことか。危ない橋渡ってんなぁ・・・」
呆れたように言うエルフの少女に、アスフィが不満そうなまなざしを向ける。
「あなた方に言われたくはありません。
イサミ・クラネルもそうですが、あなただってすねに傷持つ身なのでしょう?」
イサミが紹介のさいに二つ名を告げなかったことで、アスフィも何となくその辺を察している。
エルフの少女は肩をすくめた。
「で、アスフィさんたちも24階層の調査と鎮圧を依頼されたと言う事でいいんですね?」
「ええ、この金に目が無い駄犬のおかげで、ファミリア全体が迷惑を被っています」
「アスフィ~~」
容赦ない言葉と視線に、ルルネが涙目になった。
じとっとした視線を彼女に投げるイサミ。
「まさか、金に目がくらんでまた依頼を受けたのか?」
「やらないよ! 命の方が大事に決まってるだろ!」
憤然と反論するルルネ。
しかしその怒りも、アスフィの氷の視線の前に瞬く間に鎮火する。
「その黒ローブとやらに、ファミリアがレベルを偽っているのをばらす、と脅されたそうです」
「うわぁ・・・」
ファミリアの格付けは構成員のレベルと数に比例し、格付けは払わなくてはならない税金の額に直結する。
これだけ大がかりなレベル詐称だ、ばれたら追徴課税どころではすむまい。
探索も姿隠しの兜まで使って進めるほど情報隠蔽に厳しいこのファミリアの情報をどうやって手に入れたのだろう、と呆れ半分驚き半分で考えるが、"
「この馬鹿っ! 愚か者! 脅されようが最後まで白を切れば良かったのです! それでも盗賊ですか!」
「うう~、ごめんよぉ」
床に座り込み、耳と尻尾をしおれさせるルルネ。
周囲の団員たちの視線も、あからさまに冷たい。
「うう、ヘルメス様のわがままだけでも面倒ごとは十分だというのに・・・どうしてこんな・・・」
「苦労してますねえ・・・」
疲れのにじんだ顔で愚痴るアスフィに、イサミ達は心底同情した。
「まぁ、今度新作の魔道具見せて上げますから・・・それよりこれからのことですけど」
「・・・そうですね。見苦しいところをお見せしました。で、依頼内容ですが・・・」
魔道具のこと、約束ですよ? と念押ししてから依頼内容、互いの装備、能力その他を突き合わせる。
ここにいる面々であれば鼻歌まじりに踏破できる階層ではあるが、最低限の準備もできない冒険者には不慮の死が待つのみだ。
「こうなっては仕方ありません。各員全力で当たりなさい。特にあなたは死ぬ気で働くんですよ、駄犬」
「ウッス!」
「はい!」
「わかったよぉ・・・」
各員それぞれの返事を聞いて、アスフィはイサミ達の方に向き直る。
「短いパーティになると思いますが、よろしくお願いします。あなた方が加わってくれるのは非常に心強い」
「俺も、アスフィさんとご一緒できるのは嬉しいですよ」
「それはどうも」
笑顔のイサミと、まんざらでもなさそうな顔で握手を交わすアスフィ。
次にシャーナの手を握り、最後に握手したアイズの耳元にささやく。
「よろしくお願いします。ですが、くれぐれも私たちのことは内密に」
「あ、はい」
冷や汗を一筋浮かべ、アイズはこくこくと頷いた。