ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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7-4 もう【剣姫】一人でいいんじゃないかな

「フェルズ」

 

 祭壇に重々しい声が響いた。

 ギルド地下、ウラノスの籠もる神殿の間。

 戻ってきた黒ローブを見下ろし、巨神が問う。

 

「何故、アイズ・ヴァレンシュタインやイサミ・クラネルを巻き込んだ?」

「純粋に戦力が足りない。万が一、あの女やあの男が出てきたら、【剣姫】を加えても心許ない」

 

 ウラノスは無言で先を促す。

 

「30階層はこちらの手勢だけでどうにかなったが、"同志(リド)"たちにも被害が出た。

 これ以上彼らに負担をかけるわけにもいかないだろう――前回は番人がいなかったが、今回はそれは期待できない。

 ハシャーナ・ドルリアを抵抗も許さずに殺した赤毛の女の事もある」

「イサミ・クラネルは?」

「彼はまず大丈夫だよ――私の勘だがね」

 

 無言で瞑目するウラノス。

 しばしあって目を開く。

 

「ヘルメスには私から言い含めておこう」

「彼らには申し訳ないが、これ以上、好きにやらせるわけにはいかない・・・それでは私は出てくる」

「気をつけろ」

「そう簡単に死ぬ気は無いさ。特にこの体ではな」

 

 黒ローブの姿がふっと消える。

 巨神が再び瞑目した。

 

 

 

 ダンジョンの奥深くにその大空洞はあった。

 岩肌であったろうその床も壁も天井も、今はすべて濁った赤色の「何か」で覆われている。

 壁面からは時折毒々しい色の煙が噴き出し、床からは柔らかい感触と脈動が伝わってくる。

 

 赤い微光。奇妙な腐臭。ゴボゴボと何かが泡立つ音。

 正気の人間ならば、居続けるだけで精神を削られそうな場所に「それ」はいた。

 赤い短髪。緑色の瞳。豊満な肢体を冒険者の戦闘衣に包み、右手に持った果実をかじる。

 

 シャーナが見れば、髪は短くなっているものの、かつての自分を殺した犯人だとわかっただろう。

 壁面に身を預けて座る彼女のもとへ、足音が近づいて来た。

 ローブと頬当てで素性を隠した大柄な男。

 

「おいっ! モンスターがダンジョンに溢れて、冒険者の間で騒ぎになっているぞ! 大丈夫なのか?!」

「うるさい。騒ぐな」

 

 食べかすを吐き出し、果実を握りつぶす。

 

「"食人花(ヴィオラス)"を貸してやる。有象無象はお前達でどうにかしろ」

「・・・ちっ」

 

 ローブの男は舌打ちしてきびすを返す。

 入れ替わりに、赤髪の女の所にやってくる者があった。

 

 白い肌。白い髪。白い戦闘衣。モンスターの頭蓋骨を加工したとおぼしき、白い仮面。

 異様な姿であったが、それ以上に異様な気配を発している。

 

「・・・闇派閥の連中に押しつける気か、レヴィス?」

「冒険者に気づかれようが知ったことではない。私はここを動かん」

「間違いなく我々の動きは察知されているぞ。30階層のように『彼女』を狙う連中が来たらどうする?」

「決まっている。潰すだけだ」

 

 それがごく当たり前であるかのように、何の気負いもなく女は言い放つ。

 沈黙した男の仮面の下で、何かがもぞり、と動いた。

 

 

 

「ん~、剣姫の行き先かぁ。オレ様の大好きな金の音を聞けば思い出すかもしれねぇな~?」

「さっさと話せクソ野郎。殺すぞ」

「アッハイ。すいません言います許して」

 

 遅れて出たベート達がリヴィラの町のボス、ボールスの首根っこを締め上げていたころ。

 

「アスフィ! 前方から敵多数、大型だ!」

「左の通路からも羽音3! 接敵あと20!」

「総員戦闘態勢!」

 

 ヘルメス・ファミリアとイサミ達は22階層を進んでいた。

 集団での攻略には馴染みのないイサミが見ても無駄のない、かつ高度な連携で出てくる敵をたやすく退けていく。

 前衛の戦闘力、後衛の魔術やアイテム、それらを的確につなぐ中衛の役割分担。

 ずっとソロだったイサミにとっては全く未知の領域であった。

 

「凄いですね・・・前の所と比べてどうです?」

「俺の古巣でも、ここまで綺麗に連携取れるのはそうはいねえな。ロキ・ファミリアと比べたらどうだい?」

「アスフィさんはすごい・・・と思います。まるでフィンみたい。

 パーティ全体としても、私たちの所の、同レベルの人たちと比べて遜色ないんじゃないかと・・・」

 

 アイズの言葉にシャーナが大きく頷く。

 

「だろうな。よく見とけよ、イサミ。いずれ役に立つかも知れないぞ」

「はい。勉強させて貰います」

 

 現在中衛でお客様状態の三人である。観察する時間は十分にあった。

 もっとも、下手に手を出そうとしたところで、これだけ息の合っている中に飛び込んだら、余計なお荷物になりかねない。

 ほどなく戦闘は終息した。

 

「凄かったですね、今の。最初から最後までアスフィさんのもくろみ通りの、詰めチェス(チェス・プロブレム)みたいだ」

「【万能者(ペルセウス)】の指揮もそうだが、僅かな指示だけで全員的確に動くだろ?

 ありゃ、迷宮外でも普段から連携の訓練を積んでるんだぜ」

「あー・・・そうか、そういう事やってるのか・・・」

 

 シャーナの解説付きで熱心に観察するイサミを見て、ふとアイズは気づく。

 

(・・・そうか。こう言うのも強さなんだ)

 

 オラリオ最高クラスの指揮官であるフィンの下で戦ってきただけに、今まで気づかなかったこと。

 的確な指揮や高度な連携があって当然のものではなかったことに、今さらながらに気づく。

 

(フィンって本当にすごかったんだ・・・それに、イサミさんやシャーナもすごい・・・)

 

 私もがんばろう、と決意を固めてアイズもヘルメス・ファミリアの連携を観察することに集中する。

 

 

 

「どうした、アイズ? 気分悪いのか?」

「だ、大丈夫です・・・」

 

 そして三十分後、アイズは既にグロッキー気味であった。

 連携の一つ一つはアイズも大半経験したものであり、十分に理解出来る。

 ただ、戦場全体をいっぺんに見渡そうとすると、とたんに目が回ってしまうのだ。

 

(フィンって・・・本当に凄かったんだ・・・)

 

 人間向き不向きがあるのである。

 

 

 

 途中休憩を挟み、イサミが"英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"で食事を出してアスフィが目を輝かせたり、ヘルメスの調理担当が対抗意識を燃やしたりして一行は再度出発した。

 

 そして24階層。

 階段から僅かに進んだ十字路で、一行はさっそく噂の大量発生に出くわしていた。

 通路の奥の暗がりに見える百を超す赤い瞳。

 イサミの聴覚は、間違いなく数百のモンスターが闇の中にいると察知している。

 

「どうします? 俺が焼きましょうか」

「そうですね・・・」

 

 イサミの提案を受けて考えるアスフィに別の方向から声がかかった。

 

「私に行かせて」

 

 すらり、と剣を抜いたアイズが前に出る。

 

「おい、アイズ?」

 

 返事を返さず、アイズが一気に前に出る。

 戦闘――否、掃討が始まった。

 

「ギアッ!?」

「グォッ!」

 

 モンスターの短い断末魔が次々に上がっては消える。

 刃の旋風が荒れ狂い、怪物が次々と両断されて地に伏せた。

 白銀の暴威を呆然と眺めるアスフィ達に対して、イサミ達はまだ余裕がある。

 

「魔法は使わないのか。なんか無駄な動きも多いけど、剣の練習してるみたいな・・・」

「・・・あれで練習ですか?」

 

 冷や汗を浮かべてアスフィが問う。

 

「ほれ、ランクアップしただろ? 感覚のズレを調整してるんじゃねえかな。

 リハビリの体操みたいなもんだ」

「ああ、なるほど」

「体操・・・・・・」

 

 最早言うべきこともなく、殲滅戦を黙って見やるヘルメス・ファミリアの面々。

 ごくごく一方的な掃討は、きっかり10分で幕を閉じた。

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