ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
気を取り直して、アスフィが後衛と中衛に魔石の回収を命じる。
「申し訳ありませんが、あなた方も手伝っていただけますか」
「わかりました・・・"
呪文を発動すると、腰の後ろに差していた"
ダガーは四方に散り、転がるモンスターの胸をえぐって魔石を取り出しては、それをイサミのバックパックに放り込んでいく。
またしても唖然とするヘルメス・ファミリアの冒険者達の前で、魔石をえぐり出されたモンスター達の死体が次々と灰になっていった。
「・・・これも魔道具ですか」
「ええまあ」
その中でアスフィだけは、興味深げに眼鏡を押し上げて空飛ぶ短剣を観察しているが、もちろん実際は違う。
不可視の念動力の塊である"
とにかく効率よくモンスターを倒してレベルアップするための、イサミの工夫の一つであった。
回収があらかた終わった辺りで、後を任せてイサミはアスフィの所に戻った。
ルルネが隣で地図を開いている。
「あの黒ローブの言う事が正しいなら、
北東西と三つあるけどどこに行く?」
「そうですね・・・イサミ・クラネル。どう思いますか?」
「北でしょう」
「ですね」
イサミの言葉にアスフィが頷く。
話を脇で聞いていたシャーナとアイズ、それにルルネが首をかしげた。
「どういうこと?」
「一番怪しいのはモンスターが大量発生する源だろ?」
「つまり、モンスターの足跡をたどれば、自然と原因にたどり着くと言う事です」
「あー・・・・なるほどなあ」
感心して頷く三人。
ややあって、サブリーダーである虎人の戦士ファルガーが魔石の回収が終わった事を報告し、一行は歩みを再開した。
「退屈だなあ。そろそろ動きたいぜ」
「どのみち食料庫に着いたら嫌でも動く事になりますよ。今は力を蓄えておきましょう」
アイズの剣がモンスターたちを切り裂く後ろで、そんな会話を交わすイサミとシャーナ。
アイズは出てくるモンスターを全て瞬殺し、疲労回復のためにポーションをちびちび舐める以外は消耗も負傷もない。
その後にただついて行っているだけのヘルメス・ファミリアとイサミ達には、最早弛緩した空気すら漂っている。
「あ! ホワイトリーフ! 何枚か摘んでこうよ!」
「やめなさい。今は寄り道をしている余力はありません」
「ちぇーっ。今品薄だからどこでも高く売れるんだけどなあ・・・」
ルルネをたしなめて先に進むアスフィだったが、さすがに時価数千万の天然芸術品"宝石樹"を見つけた時にはパーティの仲間共々息を呑んだ。
が、はやる心を理性で押さえ込み、泣く泣く通り過ぎる。
もっともアイズなどは宝石樹の番人である
樹皮のような迷宮の壁面が、洞窟のような石に変わる。
"食料庫"に近づいた証拠である。
一行もゆるんでいた気持ちを引き締め直し、改めて前進する。
やがて「それ」が目の前に現れた。
食料庫への通路があるはずの空間は、高さ10mを超す真っ赤な壁でふさがれていた。
生物の内蔵のようにも見える濁った赤色の壁はどくんどくんと脈打ち、時折毒々しい色の煙を吹き出す。
その異様さと本能的に感じる嫌悪感に、その場の全員がしばし息を呑んだ。
「・・・ルルネ。この道で間違いないのですね?」
「ま、間違いないよ! 真っ直ぐ一本道だもの、間違うわけがない!」
「【剣姫】。深層でこのようなものは・・・?」
「いえ、私もこんなのは初めて・・・」
こわばった表情でしばし壁を見上げていたアスフィが、パーティを二つに分けて周囲の調査を指示する。
自身とルルネ、サポーター一人、イサミ達三人はその場に残し、待つ間に壁を調べる。
「・・・」
アイズが顔をしかめた。
赤い壁にそっと触れた手に、ニチャリと粘液が付着して糸を引く。
サポーターが布を差し出し、礼を言って手をぬぐう。
「・・・つまり、モンスターの大量発生は大量移動だったというわけですね。
食料庫に入れないモンスターが、東と西の食料庫に移動した。
そのルートにたまたま、下層へのメインルートがあったと」
アスフィの推測にイサミが頷く。
程なくして偵察に出ていたメンバーも戻り、北の食料庫に続く他のルートも封鎖されていることを確認した。
「やはりそうですか・・・とにかく、前に進みましょう」
「斬りますか?」
「発想が脳筋だよな、
呆れたように言うルルネに内心こっそり頷きつつ、イサミが自分が破ろうかと提案するがアスフィは首を振った。
「こちらの術者で破れるかどうか試してみます。メリル、長文魔法を」
「わかりました」
サポーターに肩車されていた小人族の魔導士が頷く。
詠唱と共にうごめく壁を炎が貫き、4mほどの穴を空けた。
次々とその穴を通る一行だが、穴はみるみる間にふさがり、最後の一人が通って程なく完全に閉じた。
不安に思いながらも、アスフィの号令で先に進む。
広い通路の中は壁面も床も、入り口と同じ赤い肉壁に覆われている。
壁が吐き出したのであろう煙でうっすらともやがかかり、天井が見えない。
壁面の花のような物体から発せられる明かりが煙をすかし、毒々しい色彩に周囲を染めている。
ぐにゃぐにゃした床をブーツで踏みしめながら一行は進んでいく。
「なあ・・・怖い想像してもいいか? これ全部生き物の体だとしたら、私たち、化け物の腹の中を・・・」
「おいよせ」
「やめろバカっ!?」
ルルネがぼそっと漏らした言葉に、ヘルメス・ファミリアの面々が一斉に反応する。
シャーナがくっくっと笑いながら、隣のイサミを見上げた。
「やれやれ、のんきな話してやがんぜ。なあ?」
返事はなかった。
シャーナは、見上げたイサミの表情に違和感を感じる。
「・・・おい、イサミ?」
「え? はい、なんですか?」
「いや、大した事じゃねえが・・・迷宮の中でぼさっとしてんなよ」
「すいません」
殊勝に謝るイサミに、シャーナもそれ以上は言葉を重ねない。
だがシャーナの脳裏には、今イサミが見せた、こわばった表情がべったりと張り付いていた。
それにしてもヘルメス・ファミリアNo.2の彼。
虎だからファルガーなんだろうか・・・トラファルガー。